5 元カレ疑惑→嫉妬心

  ※※※

   

数日後。



俺は智花に梅田さんのことを聞くに聞けずにいた。

「元彼?」

「付き合ってた?」

・・・・・軽く聞ける内容ではない。

一人でぶつぶつと練習した。


俺が智花を意識したあのクリスマスツリーを見た日。

あの日、凍える程に冷たくなった体を知っているから。

俺は智花の弱ってる時に懐に飛び込んできたから。

幸せにすると約束したけれど・・・。


智花が鼻歌交じりに朝食を作っている姿を見る。

楽しそうに見える。

幸せでいてくれてると思いたい。


「おはよう、智花」

「あ、おはよー」


フライパンを持つ智花の横に行き、キスをする。

「ん・・・」


背後からお腹に手を回して抱き寄せると、

「待って。危ないよ。それに、焦げちゃう」


フライパンには好物のフレンチトーストがふわふわと焼かれている。


「あ、おいしそう」

と言うと、智花は嬉しそうに笑った。

「でしょー?だからちょっと離れてて」


「分かった。カフェオレでいい?」

「うん。ミルク多めで」

「了解」


智花から離れて、コーヒーメーカーの用意をした。


コーヒーをマグカップに注いでいると、両手に皿を持ったまま智花が近づいてきた。


「いい香り」

そう言って、俺の腕にするっと体を擦り付けてテーブルに皿を運んで行った。


まるで猫だな。

その可愛らしさと、マーキングに嬉しくなって、口元が緩む。




「熱いよ、気を付けて」

とカフェオレを渡すと、

「ありがとう」

と受け取られた。


「おいしい」

と嬉しそうに笑って、『晴久の入れてくれるカフェオレが好き』と言うから、俺はご機嫌になるのだった。


 



「今日何する?」


智花が作ってくれた朝食を食べながら尋ねられた。


「ああ、ごめん。今日夜飲みに行くんだったんだ」

「えーそうなんだ。友達?」


もぐもぐと口を動かしながら、智花が俺を見る。

目が合う。


どうしよう。

今日は梅田さんと飲みに行く約束をしてしまったのだ。

智花に名前を伝えるか躊躇する。


「ん?何?コンパにでも行くの?」

「ち、違うよ!」

つい焦ってしまった。


「何で動揺してるのよ?」

むすっとする智花にしどろもどろになりそうなのを必死に抑える。

「仕事の人と飲みに行くことになってたんだ。断り切れなくて」

よし。うまく言えた。


「・・・仕事の人って誰?」

「え?」

「女の人?」

「いや。男」

「・・・・」

「・・・・」


もしかして、やきもち焼いてますか?

ぶー垂れた顔をする智花に嬉しくなってしまう。


「なんで笑ってるのよ?」

「ごめん、やきもち焼かれたなって思って」

「そりゃ、焼くよ。晴久かっこいいし優しいからモテるから・・・」


なんて可愛いことを言うんだ。


智花の頭に手を回し、テーブル越しにキスをする。


「晴久・・・」

「可愛い」

と笑いかける。



「ありがとう」

とにーーーーーっこりとほほ笑む。

あれ?智花の目が笑っていない気がする。


じっと見ていると、智花の目がクワッとかっ開いた。

ええええええ!?


「で、誰と行くの?」

低い声に驚き、反射的に答えた。


「え、あ。梅田さん」

「は!?竜太郎?」


驚く智花に俺は今がチャンスと聞き返す。


「ねえ、智花と梅田さんってどういう関係?」

「え?竜太郎は・・・大学の時にゼミが一緒で仲良かった仲間の一人…だよ」


「それだけ?」

「・・・ではないけど。それ以上の関係でもない」


「言えないような関係?」

「言えない関係ではないけど、言ってもいいかは分からないから言えない」


「・・・・・」

「でも、付き合ったりとか、好きだったとかそういうのは全くないから」


「・・・・・」

「本当に」


「・・・・わかった。ごめん、俺の方が嫉妬してる」

智花はぶんぶんと首を振った。


「心配させてごめんね」

と謝るから、俺も首を振った。


「でもね」

智花が真剣な顔で言葉を続けた。


「二人では行かせない。私も行くから」

「はあ?!」


「大丈夫。私が一緒に行っても竜太郎には文句は言わせないから」


仁王立ちで、しかも右手をグーにして宣言する智花。

いったいこの二人の関係ってなんなんだ?





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