4 元カレ疑惑

「うちの倖とはお知り合いだったんですか?」

「ええ。大学のゼミが同じだったんですよ」

「そうなんですか」


こくりとコーヒーを飲んだ梅田さんは口元を緩めた。

「智花にコーヒーを貰うなんて・・・なんだか感慨深いなあ」

と言った。

その言い方が不思議で、どういうことが問うと、


「智花はジャンケンがめちゃめちゃ弱いんですよ」

「は、はあ」

「ゼミの仲間で飲み物を買うんですけどね、男気ジャンケンして買うんですよ」

「男気ジャンケン・・・ですか?」

「知らないかな?ジャンケンで勝った人が奢るんですよ」

「ああ」

「それで、智花はジャンケンが弱いから絶対に奢らないんです」

「へえ」

「一度、負けた人が買おうって言ったら、クスッ」

「『いいよ』って言ったくせに物凄く悲しそうな顔して・・・くっくっくっ・・・その顔が『絶対負ける』ことを確信してるって感じの顔で・・・くっくっくっ・・・それがめっちゃ可愛くて・・・くっくっくっ・・・やっぱり男気にしようってなったっていう」

「・・・」

「だから智花にコーヒーを貰えるなんて奇跡みたいで」

と笑った。


『めっちゃ可愛い』ですか。

確かに智花は可愛いよ。

想像するだけでも可愛いのが分かるよ。


なんだろう・・・めちゃくちゃ悔しいんだけど。




はあ・・・さっさと商談終わらせてお帰り願おう。





商談を再開してすぐ、ドアがノックされた。

だれだ?と思いつつ、お詫びを言って席を立つ

「はい」

とドアを開けるとそこに立っていたのは智花だった。


「え?どうしたの?」

と驚き、問う。


智花は急いで戻ってきたらしく、肩で息をしている。

「すみません。勉強のために見学させていただいてもいいですか?」

と言うではないか。


は?なんで見学?


こんなことを言う智花は初めてで俺は動揺した。


「私は構いませんよ」

と梅田さんが言うのだから、俺が断るもの変だ。


平静を装って、了承すると智花は俺の横の椅子に座った。




どうしてだ?


俺が梅田さんとどんな話をするのか、気になるのか?

それとも、梅田さんと一緒にいたいとか?




智花の真意が分からない。



・・・・・。



梅田さんが元彼なのだろうか?





物凄ーーーーーく気になるが、今は仕事だ。

(智花にいいところも見せたいし)





俺は「フッ」っと、強く一つ息を吐き、商談に気持ちを切り替えた。




「それでは続きをご説明しますね」

いつもの営業スマイルを浮かべた。

   



智花は何も言わず、じっと会話を聞いていた。 






  ※※※



エントランスで智花と二人、梅田さんを見送った。


「ふう、終わった~」

智花はあからさまに安堵の表情をした。



梅田さんと随分仲がいいんだね?

元カレ?

智花が泣いてた理由は梅田さんなわけ?

今度会う約束してたよね?

どういうつもりなんだ?



言いたいことも聞きたいことも山程ある。


自分がこんなに嫉妬深いなんて思ってもみなかった。

というより、嫉妬とかしたことがなかった。




エレベーターがきて、二人で乗る。

4階を押して、ドアが閉まる。


俺は後ろから智花を抱き締めた。


「え?晴久?」


驚いて振り返ろうとする智花をそのまま抱き締めた。


「精神安定剤が必要です」

「は?どゆこと?」


ポーン。


エレベーターが4階に到着した。

ドアが開く前に、回していた腕を放し、頭にチュッと軽くキスをする。



「早いなあ」


と呟いて歩き出す。


動かない智花に、

「降りるよ」

と、エレベーターのドアを押さえながら声をかけた。



智花は、「あ。はいはい」と慌ててついてくる。




頬を赤くしている智花はやっぱりかわいい。


嫉妬していた俺は少し落ち着きを取り戻した。




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