2  梅田竜太郎

  ※※※



「智花?」

「竜太郎?」



会議室。

お茶を運んできてくれた智花が、目を丸くしていた。

『竜太郎』と呼ばれた取引先の梅田さんも、同じように驚いている。


「え?なんで智花がここにいるの?」

「ここの社員だからでしょ」

「そりゃそうだ」



どうやら二人は知り合いだったようだ。

智花が嬉しそうににこにこと笑っている。



「竜太郎はなんでここに?って、あ、確かサンプル見に来たのよね」

「うん。てか、竜太郎はやめてっていつも言ってんじゃん」

「あはは。相変わらずね」


広げられたサンプルを汚さないように離れたところにお茶を置きながらも二人の会話は終わらない。


「元気だった?」

「うん、元気。智花も元気そうだね」

「今もあの人・・・サクと付き合ってるの?」

「ううん。サクとは別れちゃったんだよね」

「そっか」

「智花には悪かったなって思ってるんだよね」

「ううん。まあ、仕方ないよ」


どういうことだ?

俺をほったらかしにしたまま二人の会話が進んでいく。



久しぶりって?

梅田さんがサクって人と付き合ってて、別れたって?

智花に悪かったって?



何これ?

この二人の関係って何?

二人は付き合ってた・・・とか?


「あの」


俺が声を掛けると、二人が俺を見た。

二人の表情からして俺がいることを忘れていたのだろう。


「二人は・・・友達?」


「ううん」

「いいえ」


付き合ってたのか?と尋ねるのが嫌で友達かと尋ねたんだけど。

二人で同時に否定とか、どんだけ仲いいんだよ。ムカつくな。



「は?『いいえ』って何よ?」

「智花だって首振ったよな」


ポンポンと好き勝手を言う二人の間に入って、

「まあまあ、二人とも。落ち着いてください」

とほほ笑んだ。


思いっきり営業スマイルだ。


智花が俺の笑顔を見て顔をひきつらせた。


「商談の邪魔してごめんなさい。私はこれで」

と部屋を出ようとした。


「あ。智花、あとで連絡する。番号同じだろ?」

「うん、わかった」


そう言って手を振って出て行った。




おいおいおいおい。

どういうこと?

俺の、彼氏の俺のいる目の前で他の男と電話の約束?





「とりあえず、お茶でも飲みましょうか」

と、梅田さんがお盆のまま机に置かれたコーヒーを指さした。

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