1 これまでのおはなし

俺、前野晴久と倖智花が付き合いだして半年がたった。


もともと智花と俺は同じ営業部で、智花は営業事務の中心的存在だった。


智花は美人だし、仕事も早くて正確だと営業部員から人気の社員だった。

面倒見のいい明るい性格で、話しかければいつも笑顔で嫌な顔一つせずに対応してくれる。


2年も同じ営業部にいたけれど、智花に書類を頼んだのは片手で足りるほど。

智花がいい人過ぎて裏の顔があるのではないかと疑っていたところもあった。

それに、自分で言うのもなんだが、俺はイケメンに分類されるらしく、ちょっとしたことで惚れられたり誤解されるのが面倒だったというのもある。

だから最初に組んだ事務の他の人にいつも頼んでいて、何の問題もなかったから、「困った時は倖さんへ」の営業事務さんへわざわざ書類作成をしてもらうことはなかった。



そんな俺が智花を一人の女の子として意識したのは昨年の12月になってすぐのころだった。

美しくライトアップされた大きなツリーをじっと見続けていた智花。

仕事で集中しているとき以外、いつも笑顔の彼女の涙を見たのはこの時が初めてだった。

女の子の流す涙を見て、綺麗だと思ったのもこの時が初めてだった。



智花が彼氏と別れたと知って色めき立つ同僚たちに焦った俺は、すぐに智花の恋人になるべく行動に移った。

告白されることは山ほどあったが、自分から動いたことは、これまでの人生で智花が2人目。

まあ、1人目が幼稚園の先生だったけど、それは置いておこう。



少し強引ではあったが智花の彼氏になれた。

俺は世界一の幸せ者といっても過言ではないだろう。




そして何度も言うんだ。


「智花・・・好きだよ」

と。


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