5.理性 side前野晴久

ヤバかった。

やきもちと酔った勢いで智花をめちゃくちゃにしてしまうところだった。


よくぞ、耐えたと誉めてやりたい。



智花に大好きだと言われて浮かれまくる自分を感じた。


このまま俺の家に連れて帰りたい。 でも、大切な智花との初めての夜は酔っている今ではない。


欲望と理性の狭間で一人もがいていると、



「くしゅん!!」



抱きしめている智花がくしゃみをした。



1月の寒空の下、智花はコートを着ていない。

俺もスーツ姿でコートもマフラーもしていない。





「「あ!」」



二人の声が重なった。


「コート、忘れた」

と言うと、

「ダメじゃん」

と智花が笑った。



勢いよく智花を連れて合コンから抜けてきたのに戻るのはなかなか恥ずかしい。

取りに戻るか?それとも、タクシーで帰って、明日店に取りに行けばいいか?


そんなことを考えていると、

「しかもこの鞄、私のじゃないし」

「え?!」


智花は苦笑して、鞄を上に持ち上げた。


「戻りますか?」

「うん。戻ろう」


笑いながら手を繋いで、来た道を戻った。




歩きながら、

「ごめん。バレちゃったよね」

と智花を見下ろす。

「ふっ。全く悪いと思っていない顔してるわよ」

智花は嬉しそうに笑った。



「晴久、こっち向いて」

「ん?」

と顔を向ける。

智花が手を伸ばし、俺の唇に触れた。


「口紅ついてる?」

ごしっと指先で擦られる。


「とれた?」

「暗くてわかんない」


「あはは。見えないのに擦ったの?」

「んはは。うん。全然見えなかった」


「あはは。じゃ、明るいとこで見てよ」

「分かった!」



もう一度しっかりと手を繋ぎ、くっつくようにして歩く。

「寒いよお」

「うん、めちゃくちゃ寒い」

「あははは」

「はははは」

その足取りは早歩き。

だんだん面白くなってきて、けたけたと笑いながら急いで歩いた。




  **


店内に戻った二人を見たみんなは

「なんで戻ってんの?」

「前野君、フラれたの?」

と次々に野次を飛ばしてくる。



コートを忘れたことと鞄を取り違えたと伝えると、爆笑された。




そして。


「実は、俺たち付き合ってます!」



手を繋いだままみんなに公表することができた。


隣の智花が恥ずかしそうに俺の背中に顔を隠している。



うううううう。可愛いじゃないかああああ!





自分の理性がぶっとんでもいいや!






  **


しかし、この夜。

八重樫さんに捕まった俺はガンガンに飲まされたのだった。




記憶をなくし、目を覚ましたそこは、、、、まさかの八重樫さんの家だった。




【第2章 おわり】

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