4.初めてのキス

早歩きで店を出てた。

そのまま二人で駅に向かう道を歩く。


晴久はぎゅっと握った後、ゆっくりと指をひろげ、指と指を絡める様に握りなおした。


ゆっくりとしたその動きにドキドキする。



ちらり私の顔を見つめた後、歩く人の邪魔にならないようなビルの陰に手を繋いだまま連れていかれる。


立ち止まった晴久は鞄を下に置いた。

そして繋いでいない方の手を私の頬に伸ばす。

親指の先でくいっと唇の端をなぞられる。

さっき八重樫さんに触られたところだった。


「お世話になった先輩かもしんないけど、油断しすぎ」

「あ。ごめん」


晴久は私の瞳の奥に入り込む様に見つめた。

薄暗いビルの隅で、街頭の灯りが晴久の瞳に映る。

きらりと光る瞳がかっこよくて、その瞳を見つめ返す。


「反省してる?」

「してるしてる」

と頷く。


よしよしと頭を撫でられ、後頭部に手を置かれたと思うと、晴久は顔を傾けた。


キスされると思った私は目を閉じた。


ぺろり。



キスではなく、唇の端をぺろりと舐められた。



びっくりして繋いだ手がびくりと動く。





晴久は私の目を見たまま、その手を持ち上げ、チュッと手の甲にキスした。



晴久は少し目を細めたがそのまま私を見つめ続けている。

私の手の甲は彼の唇が付いたままだ。



い、色気が駄々洩れなんですけどぉ?


心臓がバクバクと音を立てて騒ぎ出す。




晴久の唇が開く感覚がする。

ゆっくりと食まれる。

生温かい舌が這う。



はぁ・・・気持ちいい・・・。



手の甲だけでなく、手首の内側にまで唇が這う。

ちゅ・・くちゅ・・・ちゅ・・・



皮膚にあたる唇と舌・・・甘噛みされる感覚・・・。



指先は触れるか触れないか程の強さで掌や手首をなぞりながら移動する。




「んっ・・・」



私の口から声が漏れる。



ゆっくりと顔を上げた晴久は


「感じた?」


と色気駄々洩れで尋ねた。



「もうっ」

と怒っては見せたが、顔は真っ赤になってるだろう。




ぎゅっと抱きしめられて、


「そんな色っぽい顔をするのは反則」

と囁かれる。


「こんな顔にさせたのは晴久でしょ・・・ん・・・」



唇が触れ合う。


何度も。

何度も。


「はぁっ・・・」


息苦しくなって口を開くと、舌が入ってきた。


次第に深くなっていくキスに頭が付いていかない。





「やば・・・」


晴久が呟いた。



晴久は、唇を離し、ぎゅうううっと抱きしめながら、呼吸を整えている。


「初めてのキスなのに、酔ってしちゃった。

ごめん・・・俺、止まんなかった」


抱きしめたまま呟かれた。


私は晴久の肩に手を回していた。




「やばい・・・好き過ぎる・・・」

耳元で囁かれて、ドキドキが止まらない。


私は肩から背中に手を下ろし、晴久に負けないくらいぎゅうっと抱きしめた。



「晴久・・・」


「んん?」


「あのね」


「うん」


「・・・好き」




晴久が一瞬息を呑んだ。


そして、深ーく深呼吸をした。


「ふうー----」


もう一度深く深呼吸をする。


「晴久?聞こえた?」


もう一度息を吸い込んで、


「はっ」


と短く息を吐いた。


「聞こえた。嬉しすぎて理性が飛びそうだった」


「ふっ。なにそれ?」


「智花?」


「ん?」


「もう一回言って」


「ふふっ。・・・晴久・・・大好き」



「はあああああ。めっっっっっっちゃ、幸せぇぇぇぇぇ」


ぎゅうううううっと強く抱きしめられた。


「はははは」


晴久の上半身が少しだけ離れた。


私の顔をじっと見下ろす。

私は晴久の顔を見上げている。





付き合う時に

「ゆっくり好きになってくれたらいい」

と言われていた。


この1か月。


晴久とたくさん話すようになった。

仕事での様子も気にしてみる様になった。

ご飯を食べに行ったり、デートもした。


少しずつ、でも確実に晴久のことを好きになっていく自分に気が付いていた。




今日みたいな合コンで、私より年下のきれいなお姉さまたちに囲まれたら、晴久はそっちに目を向けてしまうんじゃないかってもやもやした。

近付いてくる美女たちにいらっとした。



でも、大丈夫。






「好きだよ、智花」





晴久はその表情全てで私への好意を伝えてくれてるから。




「大好き」


愛情の籠った優しい目を向けられ、私は嬉しくて胸がいっぱいになる。




「智花・・・大好きだよ」







そして、ゆっくりと優しいキスをした。






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