第7話 ソースコード解析

夜の帳が降り、星陽総合病院のオフィス街は静寂に包まれていた。窓の外には黒々とした夜空が広がり、遠くに見える街の灯りがわずかに輝いていた。病院の内側では、夏川 蓮と佐藤 美月がメディカスのソースコードを解析するために、熱心に作業を続けていた。


「これが問題のコード部分です。」美月はディスプレイを指し示しながら説明した。画面には、膨大な量のプログラムコードが表示されていた。その中の一部が特に複雑で、目を凝らして見なければ理解できないほどだった。


「この部分に何か不自然な点があるのですか?」夏川は眉をひそめながら尋ねた。


「ええ。」美月は頷き、特定のコード行をハイライトした。「ここを見てください。このアルゴリズムの部分が、心筋梗塞の診断に関する処理を行っています。しかし、このロジックにはいくつかの欠陥があります。」


「具体的にはどのような欠陥ですか?」夏川はさらに深く掘り下げるように質問した。


「まず、この部分のデータセットが不完全です。」美月は説明を続けた。「メディカスは主に欧米の患者データを基に学習していますが、日本人やアジア系の患者のデータが不足しています。そのため、診断の精度に偏りが生じるのです。」


夏川は画面を見つめ、思案に暮れていた。「確かに、欧米のデータに偏ったシステムでは、日本の患者の症例を正確に診断できない可能性があります。」


「さらに、ここにもう一つの問題があります。」美月は別のコード行をハイライトした。「このアルゴリズムの一部が、特定の条件下で誤った結果を導き出す可能性があります。これは、学習データの偏りとアルゴリズム自体の設計ミスによるものです。」


夏川の顔には険しい表情が浮かんだ。「つまり、メディカスは設計段階から問題を抱えていたということですね。」


「その通りです。」美月は真剣な表情で頷いた。「私たちはこの問題を解決するために、システムの再設計とデータの再学習を行わなければなりません。しかし、そのためには膨大な時間とリソースが必要です。」


夏川は深呼吸をし、冷静さを取り戻すように努めた。「まずは、今あるデータを基にできる限りの改善を行いましょう。そして、新たなデータを収集し、システムを再学習させる準備を進めます。」


「了解しました。」美月は即座に応えた。「私も全力で協力します。」


二人は黙々と作業を続けた。夜が更けるにつれ、病院の静寂は一層深まり、オフィスには彼らのタイピング音だけが響いていた。ディスプレイの光が二人の顔を照らし、真剣な表情を浮かび上がらせていた。


「ここに何か見つけました。」美月がふいに口を開いた。「この部分のコードが不自然です。誰かが意図的に改ざんした可能性があります。」


「改ざん?」夏川は驚いた表情を見せた。「誰が、何のために?」


「それはまだわかりません。」美月は冷静な口調で応えた。「しかし、この部分の改ざんが、誤診の原因となった可能性があります。」


夏川の心には新たな疑念が芽生えた。「つまり、これは単なる技術的な問題ではなく、意図的なものかもしれないということですね。」


「その可能性は否定できません。」美月は画面を見つめながら言った。「私たちはこの改ざんの背後にある真相を突き止めなければなりません。」


二人の間には緊張が走った。彼らはただ技術的な問題を解決するだけでなく、その背後に潜む陰謀と戦わなければならないのだ。


夜はますます深まり、外の世界は静まり返っていた。しかし、夏川と美月の戦いはまだ始まったばかりだった。彼らは決意を新たにし、真実を追求するための旅を続けた。どんな困難が待ち受けていようとも、二人は共に立ち向かう覚悟を固めていた。

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