第6話 美月との協力開始

病院の廊下を歩きながら、夏川 蓮と佐藤 美月は無言のまま内科のオフィスへ向かっていた。淡い蛍光灯の光が廊下を照らし、二人の足音が静かに響いている。廊下の先には美月のオフィスが見えてきた。ドアには「佐藤 美月 プログラマー」と書かれたプレートが光を反射していた。


「こちらです。」美月はドアを開け、夏川をオフィスに招き入れた。部屋の中は整然としており、最新のコンピュータ機器が所狭しと並んでいる。窓からは午後の柔らかな光が差し込み、部屋全体を温かい雰囲気に包んでいた。


「どうぞ、おかけください。」美月はデスクの前の椅子を示し、夏川に座るよう促した。彼女自身も対面に座り、コンピュータの電源を入れた。


「まずは、メディカスのアルゴリズムについて説明します。」美月は手際よくキーボードを叩き、スクリーンにコードを映し出した。「この部分が診断において重要な役割を果たしています。」


夏川はスクリーンに映し出された複雑なコードを見つめ、理解しようと集中した。「これが昨日の誤診に関わる部分ですか?」


「そうです。」美月は頷きながら続けた。「このアルゴリズムには、一部不自然なパターンがあります。特に心筋梗塞の診断において、誤差が生じやすい部分です。」


夏川は眉をひそめた。「具体的にどのような誤差が生じるのですか?」


「データの偏りが原因です。」美月は指で画面の一部を示しながら説明した。「このシステムは主に欧米のデータを基に学習しており、日本人の症例には対応しきれていない可能性があります。特に心筋梗塞の症状が微妙に異なるため、診断結果が誤ることがあります。」


夏川は深く頷いた。「つまり、メディカスは完璧ではなく、そのデータセットに依存する限界があるということですね。」


「その通りです。」美月は冷静な口調で続けた。「私たちはこれを改善するために、システムの再学習を行う必要があります。しかし、そのためには多くのデータと時間が必要です。」


「分かりました。」夏川は真剣な表情で応えた。「まずは、現在のシステムの問題点を徹底的に洗い出し、その上で改善策を講じましょう。」


二人の間には、共通の目的がはっきりと見えていた。彼らは互いに信頼を寄せ、協力して真実を追求することを誓った。


「それともう一つ。」美月は画面を切り替え、別のデータを表示した。「これが昨日の田中さんの診断データです。メディカスの診断結果と実際の症状の差異を確認してみてください。」


夏川はスクリーンに映し出されたデータをじっくりと見つめた。「確かに、ここに明らかな誤診が見受けられます。メディカスの診断では心筋梗塞の兆候がなかったとされていますが、実際には…」


「そうです。明らかにシステムが誤った診断を下しています。」美月は頷きながら言った。「私たちでこの問題を解決しなければ、同じような悲劇が再び起こるでしょう。」


夏川の胸には、強い使命感が湧き上がっていた。「美月さん、一緒にこの問題を解決しましょう。患者の命を守るために。」


美月は静かに微笑み、手を差し出した。「はい、夏川先生。全力を尽くします。」


二人は固く握手を交わし、新たな決意を胸に秘めた。その瞬間、オフィスの窓から差し込む光が一層輝きを増し、彼らの未来を照らし出していた。


この協力の始まりは、彼らが直面する数々の困難と戦い、真実を追求する旅の第一歩となった。夏川と美月の決意が固まる中、彼らは未知の領域へと踏み出したのだった。

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