第5話 蓮の疑念

翌日の朝、星陽総合病院の院内会議室には重苦しい空気が漂っていた。壁に掛けられた時計の針が8時を指し示し、朝日が窓から差し込むも、その光はどこか冷たく感じられた。会議室のテーブルには、昨日の誤診事件に関わる医師や看護師たちが集まっていた。


「昨日の患者、田中 正夫さんが亡くなった件について話し合いたいと思います。」病院の院長、山本 大和は、いつもの自信に満ちた態度を保ちながらも、どこか焦りを感じさせる表情で口を開いた。


「メディカスの診断結果に問題があったのではないかと感じています。」夏川 蓮は、冷静な声で話し始めた。彼の目は山本を真っ直ぐに見つめている。「システムは心筋梗塞の兆候を見逃しましたが、実際には患者は急性の心筋梗塞を発症していました。」


「夏川先生、それは大きな誤解です。」山本は穏やかな声で応えたが、その言葉にはどこか焦りが滲んでいた。「メディカスは厳格な臨床試験を経て導入されたシステムです。その精度は非常に高く、昨日のような事態は想定外でした。しかし、システムの問題ではなく、他の要因が影響した可能性もあります。」


夏川は一瞬、言葉を失った。しかし、彼の心には疑念が渦巻いていた。「では、具体的にどのような他の要因が考えられるのでしょうか?」


会議室に一瞬の静寂が訪れた。誰もが山本の返答を待ち望んでいたが、彼は言葉を選ぶように一呼吸置いた。


「それについては、さらに詳しい調査が必要です。」山本は冷静さを装いながらも、明らかに困惑している様子だった。「私たちは今後の対策を講じるために、全力で調査を進めるつもりです。」


夏川は納得できない表情を浮かべたが、これ以上の追及は無意味だと悟った。「分かりました。私も独自に調査を進めさせていただきます。」


会議が終了し、医師たちが会議室を後にする中で、夏川は同僚の看護師、佐藤 美月の姿を見つけた。美月は冷静な表情を保ちながらも、その目には強い決意が宿っていた。


「美月さん、少し話せますか?」夏川は彼女に声をかけた。


「もちろんです、夏川先生。」美月は頷き、二人は会議室を出て、静かな廊下へと足を運んだ。廊下には朝の光が淡く差し込み、二人の影が長く伸びていた。


「昨日の件について、何か思うところはありますか?」夏川は問いかけた。


美月は一瞬ためらった後、静かに口を開いた。「正直に言えば、メディカスには問題があるかもしれないと感じています。システムの解析を進める中で、いくつか気になる点が見つかりました。」


「気になる点?」夏川の眉が僅かに上がった。「具体的には?」


「システムのアルゴリズムに、一部不自然なパターンが見受けられます。」美月は続けた。「その部分が誤診の原因となった可能性があります。もっと詳しく調べてみる必要があります。」


夏川は深く頷いた。「分かりました。私たちで一緒に調査を進めましょう。真実を明らかにするために。」


二人の間には、静かな決意が漂っていた。医療の現場における真実を追い求めるために、彼らは新たな一歩を踏み出した。その背後には、確かに朝の光が彼らを照らしていたが、その先には未知の闇が待ち受けていた。


廊下の先には、まだ誰も知らない真実が隠されている。その真実を明らかにするために、夏川と美月は共に戦う覚悟を決めたのだった。

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