第8話 友人キャラ、訓練を受ける





 訓練は地獄だった。


 毎朝四時というまだ暗い時間帯に起床、太陽が昇るまで走り込み、午前中は魔法知識の授業で午後は剣の鍛練。


 夕方には食事を済ませ、夜は剣と魔法を用いた模擬戦。


 風呂に入った後、夜十時には眠る。


 休憩時間? んなもんねーよ。

 訓練、飯、訓練、飯、訓練、飯、訓練、睡眠の繰り返しである。



「はあ、はあ、もう、無理……」


「だらしないなあ、ルカンは」


「この野郎……」



 アレンは俺と全く同じ訓練をしているにも関わらず、平然としていた。

 寝取られ性癖に目覚めても、流石は勇者と言ったところか。


 ユリーシアとローリエの教えたことはすぐに学習してしまうし、凡人である俺では到底敵わないだろう。



「いただきまーす!!」


「なんでお前、この量を普通に食えるんだよ……」


「え? だってお城のご飯美味しいじゃん」


「……そうだな」



 訓練の合間に出る食事は、それはもうしっかりした量だった。


 というか多い。多すぎる。


 訓練がハードすぎてロクに食べ物が喉を通らないが、食べないとまともに運動することもできない。


 最初はどうしても胃が受け付けなかったが、ユリーシアに口の中に無理やり詰め込まれてからは食べるようにしている。


 あれはもうパワハラだと思う。



「どうした、ルカン!! その程度ではすぐに死ぬぞ!!」


「は、はい!!」



 夜の訓練は更に酷い。


 おっと、下ネタではないぞ。ただ木剣で滅多打ちにされるだけである。


 ユリーシアは加減を知らないようで、毎日のように痣が増えていく。

 仮にも十二歳の子供を躊躇いなく木剣でぶん殴れるのはヤバイ。



「今日はここまでとする。片付けを済ませたらさっさと風呂に入って寝ろ」


「……うっす」



 ボロ雑巾のようになった俺は、訓練に使った木剣やらの道具を片付ける。



「ルカン、だ、大丈夫?」


「おう、アレン。これが大丈夫に見えるならお前が大丈夫じゃないぞ」


「そ、そっか」



 流石のアレンでも心配するレベルで俺はボコボコらしい。


 アレンは訓練所を出て行ったユリーシアの背中を見つめながら不服そうに言った。



「ユリーシアさん、なんでルカンにばっかり厳しくするんだろ?」


「お前が厳しくしなくてもできるからだよ。逆に俺は厳しくしないと何もできない。だから厳しくしてる。嫌がらせするような人じゃない」


「えー? 本当にー?」


「……まあ、流石に厳しすぎるとは思うがな」



 ユリーシアは騎士団長だが、騎士団員からの評判はお世辞でもよくない。


 本来、ユリーシアの厳しすぎる訓練は将来有望な騎士にのみ彼女自らが課すものだ。

 しかし、多くの騎士が耐えられなくて逃げ出してしまう。


 そのせいで他の騎士からは「有望な新人を訓練で潰して騎士団長の地位を守ろうとしている」とまで言われる始末。


 実際はただの期待と「死なないでほしい」という思いからくる厳しい訓練なのだが……。


 それを理解する騎士は少ない。


 『ブレイブクエスト』で彼女を攻略した俺だから知っていることだ。


 ゲームのアレンはユリーシアの考えていることを薄々理解し、その高い学習能力からメキメキと実力を伸ばして彼女の期待を裏切らなかった。


 次第にユリーシアは自分の期待に応え続けるアレンに女として惹かれていく、って感じ。


 まあ、そのアレンは今……。



「でもあんな美人に厳しくされると、なんていうか、興奮するよね……。好きになりそう」


「お前だけだバカ。……いや、世の中にはお前みたいなのもいるかも知れないが」



 アレンにとってはご褒美らしい。


 まだゲームのアレンの方が女の子にモテたいという理由で努力する分、まだマシだろう。

 今からでもゲームのアレンと目の前のアレンを交換できないものか……。


 いや、それをやったらクロエを取られそうだし、このままでいいか。


 ……いや、よくはないか。



「というかそもそも、お前が俺を連れていくとか言わなかったらこんなことにならなかったんだが?」


「汗掻いたし、お風呂入ろう!!」


「露骨に話を逸らしたな!! お前、自覚あるんだろ!! 俺がこうなってる原因が自分って自覚あるんだろ!?」


「んはは、何の話かな?」


「おいコラ待て!!」



 アレンがそそくさと訓練所を後にする。


 片付けを終えた俺はアレンの背を追って訓練所を出た。

 そのまま王城の敷地内にある団員寮に戻り、一風呂浴びて借りている部屋に向かう。


 と、その途中でちょうどユリーシアが談話室に入っていく姿が見えた。


 おやすみなさい、くらい言うべきだろうか。


 そう思って俺も談話室の方に向かうと、そこには俺とアレンに魔法を教えているローリエの姿もあった。


 俺は思わず隠れてしまう。


 二人で何を話しているのかとても気になってしまったのだ。

 何故かって? そりゃあ君、決まってるじゃあないか。


 ユリーシアが相手のためを思って厳しい訓練を課していることは知っている。


 でもそれはそれ、これはこれ。


 毎日ボコボコにされたらムカつくのだ。

 弱みを見せたらそれをネタに仕返ししてやろうそうしよう。



「わざわざ呼び出してすまないな、ローリエ」


「気にしていない。それよりも話って?」


「……ルカンのことだ」



 え、俺の話?



「ローリエ、ルカンは魔法を習得できそうか?」


「……無理そう。アレンとは違って魔法の才能はない。体内に保有する魔力量が極めて少ないから、精々火種を出せる程度。戦いでは使わない方がいい」



 そうそう、俺は魔法の才能が皆無だった。


 たしかにゲームのルカンが戦闘で魔法を使っているシーンは無かったからな。


 それ自体は特に不思議ではない。

 

 ユリーシアはなぜ俺の魔法の才能を気にしているのだろうか。 



「……そう、か」


「何か気になることでも?」


「いや、気になるというか、そうだな……」



 俺は物音を立てないよう、ユリーシアの話に静かに聞き耳を立てる。



「……ルカンは、よく頑張っている。十二歳であの訓練に文句一つ言わないのは、正直驚いた。大の大人でも投げ出すようなものなのに」


「ん。それで?」


「あー、その、なんだ。魔法の才覚がないなら、魔法の授業や訓練には早々に見切りを付けて剣の訓練をさせてやりたい」


「それは承認できない」


「……理由を教えてくれるか?」



 ユリーシアの申し出を断るローリエ。


 あまりにもハッキリ断ったからか、ユリーシアは目を瞬かせた。



「簡単な話。魔法が使えなくても、魔法の知識があれば魔法を扱う敵に対応できる。弟子の生存率を上げたいなら、今のままでいい」


「それも、そうか……」


「……そこまでルカンを気に入った?」


「む。……まあ、そうだな。さっきも言ったが、訓練は真面目にしているし、投げ出す様子もない。アレンはあっさり教えたことを習得してしまうし、教え甲斐があるという意味では気に入っているが……」


「それだけ? もっとこう、おねショタ展開はない?」


「お前は何を言っているのだ」



 んー、なんだろ?


 ローリエからはどことなくアレンと同じ、変態の匂いがする。


 いやまあ、ゲーム知識で分かっていることだが。



「お、お前の方こそどうなんだ? その、私たちは一応、勇者を誘惑するのも仕事のうちなのだぞ?」



 あー、あったな。その設定。


 勇者の血筋は可能な限り残したいという理由で、騎士も侍女も貴族も積極的に誘惑するよう国王から命令されている。


 あいつ、政治的な思惑が絡んでいるとしてもモテモテなのバグだろ。


 流石は主人公といったところか。


 ま、俺にはクロエがいるし、別に羨ましくはないけどな!!



「私に少年趣味はない。でも、壊れるまでめちゃくちゃにしてくれる、強くて逞しくてカッコイイ人が好き。それが子供でも気にしない」


「……変態め」


「私は自らの性癖を誇りに思っているだけ。むっつりに言われる筋合いはない」


「だ、誰がむっつりだ!!」


「毎日のように熟れた身体を持て余しているユリーシア」


「き、貴様ぁ!!」



 段々話題が猥談になってきたので、俺は静かにフェードアウトした。


 友人キャラはクールに去るぜ。


 ……でもまあ、ユリーシアが俺に期待してくれてきるのは分かったし、明日からも真面目に訓練をしようそうしよう。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ちょっとした小話


作者「ジト目ドMは作者の性癖」


ルカン「その身体は無限の性癖でできている」



「ユリーシアかわいい」「ローリエかわいい」「ジト目ドMが好きなの分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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