第6話 友人キャラ、王城に行く





 王都からお迎えがやってきた。


 これからアレンは王都で勇者としての訓練を施され、魔王を倒す旅に出る。


 これで「寝取られ最高おおおおおっ!!」とか叫び散らしている変態寝取られマゾの相手をしなくて済むのだ。


 そう、思っていたのに。



「アレンという名の少年はいるか!!」


「あ、はい。僕です」



 レイモンドに名前を呼ばれて、アレンがひょいっと手を上げる。

 するとレイモンドはアレンの前に立ち、淡々と話しかけた。



「君は勇者として魔王を倒し、世界を救う使命を女神様より与えられた。支度をしなさい。明日、迎えを寄越す。数年は帰れぬであろう。家族と別れを告げるように」


「え、嫌です」


「「「「「「!?」」」」」」



 その即答にはレイモンド含め、村の大人たちもギョッとした。


 貴族からの命令を断るなんて、子供であっても斬首されようがおかしくはない。

 レイモンドの反応を冷や冷やしながら見守る村人たち。



「くっ、くくく、はははははっ!!!! 子供とはいえ、貴族の命令を拒否するとは豪胆だな!! 気に入ったぞ!! なるほど、君ならば魔王を倒せるかもしれんな」


「えっと?」


「すまぬな、たしかに君にとっては急な話だ。しかし、我らには時間がない。君に拒否権を与えることができぬ。従わぬなら、無理やり連れていくしかない」


「え、えぇ……」



 ゲーム知識でレイモンドの反応を知っているとしても、生で見ると冷や汗が止まらないやり取りだな。


 でもまあ、ゲーム通りの流れで安心した。


 あとはアレンが家族で話し合いをして、旅に出るのを見守るだけだ。


 ティファナはアレンが勇者と聞いて目を輝かせているし、俺への怒りなど忘れて感動に打ち震えている様子。


 俺は時間潰しがてら、クロエとエッチしようと教会に向かおうとして。



「あ、じゃあ親友のルカンも一緒に連れて行っていいですか? それなら普通に行きます」


「……は?」



 俺はアレンのトンデモ発言で一気に窮地に立たされてしまったのだ。










 翌日。


 俺はレイモンドが寄越した迎えの馬車にアレンと一緒に乗り込み、胸ぐらを掴んでブンブンした。



「アレン、どういうつもりだああん?」


「まあまあ、ルカン。ひとまず落ち着いてよ」


「……言い分は聞くだけ聞いてやる」



 アレンの爆弾発言の後。


 彼は家族で丸一日話し合いをしていたため、俺と話す時間がなかった。


 だから今こうして話しているわけだが……。


 アレンが俺を同行者にしたいとか言い始めた理由は案の定というか何というか。


 最低なものだった。



「ルカンがいなかったら、誰が僕から女の子を寝取るんだ!?」


「この寝取られ性癖キチガイ!! お前の頭にはそれしかないのかよ!!」


「ないよ!!」


「あれよ!! 頼むからあってくれよ!!」



 くっ、これも俺の責任なのか……?


 昨日の夜はクロエも忙しかったみたいで話すこともできなかったからなあ。


 嫌なことばかり続いている気がする。



『我も汝と話したいが、昨夜は色々と立て込んでしまった。我も女神としての仕事はせねばならんのでな』


「うおっ、び、びっくりした」



 急に頭の中にクローディアの声が聞こえてきてびっくりしてしまった。


 ……これ、やられる度に不安になるんだよなあ。


 頭を覗かれているみたいで、俺が前世の記憶を持っていることがバレそうで怖い。


 クローディアを好きという気持ちに偽りは一切ないが、彼女に告白した時の言葉はゲームのアレンの台詞を丸々パクったわけだし。



「アレン、どうしたの?」


「あ、ああ、いや。クローディアの声が聞こえたきただけだ。女神としての仕事で忙しくて昨日は会えなかったな、って」


「ふーん? あ、見て見て!! ルカン、あれが王都じゃない!?」



 馬車で移動すること数時間、遠目にアメリ王国の王都が見えてきた。


 驚くべきは馬だろう。



「馬が飛んでらあ」


「馬じゃなくてペガサスだよ?」


「……馬じゃん」


「ペガサスは馬じゃなくて鳥だよ? ティファナがそう言ってた」


「え!?」



 ペガサスって、鳥だったの……?


 どうしよう? 前世の記憶を取り戻した時と同等以上の衝撃を受けている自分がいる。


 そうこう話しているうちに馬車は王都の中心、お城の広い庭の中に降り立った。

 御者のお爺さんが馬車の扉を開けて、俺とアレンは外に出る。



「わあ、凄い!!」


「ば、場違いすぎる……うっぷ」



 馬車の外に出ると、騎士たちが道を作るように両脇にずらりと整列した状態で俺を出迎えた。


 ここは王城。


 少しでもお貴族様に無礼を働いたら確実に首が跳ねられる場所なのだ。


 緊張で吐きそう。



「んはは、ルカンってば緊張してるの?」


「お前は勇者だから呑気でいいよな。俺は下手なことを言ったら秒で処刑だからしばらく黙る」



 そう、仮にアレンが貴族に馴れ馴れしい態度を取っても処刑されることはない。


 注意はされるかもしれないが、勇者であるアレンを処刑してしまえば、魔王によって苦境に立たされているアメリ王国が終わってしまうから。


 でも俺は違う。


 だって俺は所詮友人キャラで、勇者のわがままで連れてきた、いわば従者のようなものだ。

 万が一下手なことを言ったら首と胴体がおさらばである。


 そうこう考えていると、整列した騎士たちの道の先から年端も行かぬ少女がこちらに向かって歩いてきた。


 俺はその少女を見てギョッとしてしまう。


 綺麗な青色のドレスに身を包むその少女は俺やアレンと同じくらいの年齢だろうか。


 淡い水色の髪はストレートヘアーで、ふわっとした甘い匂いがする。

 微かな凹凸のある身体つきは数年後にはボンキュッボンになることを俺は知っている。



「ようこそおいでくださいました、勇者アレン様。私はメルジーヌ・フォン・アメリオン。アメリ王国の第三王女です」



 メルジーヌ。


 アメリ王国の王都、それもお城に行くなら会うかもしれないとは思っていたが、いきなりか!!


 彼女は作中でも人気のヒロインだった。


 しかし、実際に顔を合わせて話すとなると彼女ほど怖いキャラクターはいない。



「勇者様……。私、初めて勇者様とお会いするのに懐かしい感じがします」


「え? そうかな?」


「少なくとも私はそう感じています。これはきっと、運命なのかもしれませんね」



 この一見すると可愛らしい少女の腹の底は、実は真っ黒だったりする。


 『ブレイブクエスト』の本編では、アレンのハーレム願望を知って裏でヒロインたちが主人公に惚れるよう策を練るのだ。


 より多くの勇者の血筋を王国に残すために。


 そして、魔王を倒した後の平和な世界でアメリ王国が覇権を握れるように。


 もし彼女に邪魔者判定された瞬間、俺は首がさよならしてしまう。

 彼女にだけは、メルジーヌにだけは嫌われないようにせねば!!



「さあ、アレン様。これから国王陛下に謁見に参りましょう。ああ、それとご友人様は別室を用意しておりますので、そちらでお待ちくださいませ」


「は、はい」



 アレンはメルジーヌが案内し、俺は騎士に案内されて別室で待たされることになった。


 流石は王城。


 出されたお茶やお菓子は平民では一生味わえないような美味しいものだった。



「紅茶のおかわりはいかがですか?」


「あ、もらいます」



 別室で俺の接待を任された侍女の年齢は十四、五歳くらいだろうか。

 綺麗な赤い髪の少女で、服の上からでも分かるくらいにはおっぱいが大きかった。


 眼福眼福。


 俺は少女から紅茶のおかわりを受け取り、アレンと国王の謁見が終わるのを待つのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ちょっとした小話


作者「やっぱり性格の悪い女の子はドキドキするよね」


ル「あんただけや」



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