5話 300日ぶりの外(内)

前世の幼馴染が僕に抱きついて泣いているのだがとてもかわいい。泣いた顔もかわいいとか天使かよ。結婚したい。結婚しよう。


「さびじがったよぉー」

撫でたい。撫でよう。


「ほーら、よーしよーし」

そのまま頭を撫でつづける。しばらくすると落ち着いたのかくらりは泣き止んだ。


くらりの髪は前世もつやつやだったのだが、今はもっとつやつやだ。今世はもっと撫でよう。そう心に決めた。


僕が幸せを噛み締めなでなでしていると、くらりが話しだした。


「ねえ...今までどこにいってたの?」

なんか頬が少しふくらんでいる。可愛い。


「どういうこと?」

「前...会おうとしたら行方不明になってた...」


あれ?


「...僕がそこの家に生まれた事知ってたの?」

「知ってたも何も...女神様が「あなたの幼馴染と向かいの家に生まれさせてあげるから異世界に来ない?」って...」


えっ!?

...女神様ありがとう。あなたの宗教作ります。


まあ異世界送りのノルマを達成したかっただけだろうが恩は恩だ。このご恩は絶対に忘れないでござる。


「だからこっち来たのに...オト...いないし...」

泣きそうになっているくらりの背中をさすってあげた。あったかい。

「ごめんよ...くらり、色々あったんだ色々..」


「...あれ?でもオトは私がこの家にいることなんで知ってたの?」


「あぁ、それは...」


「お義兄ちゃーん!何してるのー!早くー!」


おっと、そういえばお菓子を一緒に食べるために呼びに来たんだった。

「はーい、今行くー」


「行くよ、くらり」

「...?どこに?」

「奥様...くらりのお母様がお菓子を用意してソファのとこで待って下さってるの」

「うん...分かった...行こう」


僕は撫でるのをやめて立ち上がると、彼女に手を伸ばした。


「そういえばだけど、奥様は僕らが前世の記憶を持ってるとは知らないはずだからバレないようにね」


「...当たり前。私を...誰だと思っている」

くらりが僕の手を取る。

「誰なの?」


「わたしは...スタンドフォート?家の次女バ...ばるぅ...?」

名前がバールのような物になってしまっている。あと家の名前も間違っている。こ、れ、は、ひ、ど...危ない危ない。あやうく僕の心の中のニャン◯ゅうが出て来てしまうところだった。僕はニャン◯ちゅうを心の奥にそっとしまった。


まあ外に出ていないし仕方ない。うん。仕方ないんだ。


「グランフォート家のパール様ですね。行きましょう」

「あ...うん」

こうして僕らは奥様の元へと向かった。



________________________________


「あらま!本当にパールを連れてきてくれたの!あなた凄いわね!?」

「はい。勿論でございます」

茶の間に行くと奥様が褒めてくださった。


「パール!久しぶりね!」

奥様が抱きしめた。


「...つい昨日私の部屋で会った...」

「あなた、最後に部屋の外で私と会ったのいつか覚えてる?」

「...いつ?」


「ちょうど300日前よ...。でもやっっっと!出てきてくれたわね、お母さん嬉しいわ!」

抱き締める力が強くなった。


「や...めて...苦しい...」

まずい。くらりの顔が真っ青になってしまっている。助けなければ。


「奥様...その辺りで...パール様が苦しそうです」

「あ...パールちゃんごめんなさいね。お母さん年相応もなく喜んじゃって...」

急に塩らしくなった。


「う...ううん、お母さん...良いの...ありが...と...」

そのままくらりは倒れた。


_____________________________


「今日はごめんなさいね」

「いえ、全然良いんです。奥様やパール様にご挨拶出来ましたし」


あのあと、気絶したくらりは僕が抱っこして部屋のベッドの上まで運んだ。

なお、その間義妹は一人でお菓子を食っていた。おい。


「今日はありがとうこざいました」

「は〜い。そういえばだけど、パールちゃんのお世話本当にしたいの?」

「はい。もちろん!」


「じゃあ、あなたの両親と色々相談するからそしたらお願いするわね」


「ありがとうございま...」


あれ?何か忘れてるような...


妹を見てみる。真っ暗な目でこちらを見ていた。僕はすぐ目を逸らした。怖いって。


「?どうかしたの?」

「いえ、何でもないです」

「そう?じゃあ今日はこれでばいばいね。寄り道せずに帰ってね〜」

「はい。さようならー」


こうして僕らはグランフォート家にさよならをして自分の家へと帰ってきた。


明かりの付いた、自分の家へと。

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