黒の敵対者
「陽の光を感じる!」
ダンジョンに潜ってから二年。俺はそろそろ外に出てみようと思い出てみた。暗いダンジョンの中にいたので太陽が記憶の中の物より輝いて見える。
「...寒くない」
そう、寒くないのだ。ようやく大寒波の影響が収まったのか、それとも自分が知らない間にずっと昔にもう元に戻っていたのか。分からないが久しぶりの太陽に『感情は捨てろ』と教え込まれていたギルでも感動せざるをえない。
ドン!
そんな感動を遮るように、大きな音があたりに響く。
「闇纏い、探知」
身を隠してから辺りの様子を確認する。
「なるほど、人間が38人、ゴブリン八匹にマーダーゴブリン三匹、ホブゴブリンが一匹、暗がりの大蛇が二匹。全てランクⅭ以下の雑魚だな。」
ピンチになったとこを助けて今の世界を教えてもらうのも手だな。見たところ紋章のある馬車に乗ってるので貴族とかだろう。恩を売って損はない。
「魔物生成:ジャイアントオーク」
目の前に普通のオークの三倍ほどの大きさのオークが生まれた。
「右に走って見つけた人間を襲え」
そう言うとジャイアントオークは人間の方向へと走り出す。スキル、魔物生成は自分に従順な魔物を魔力を使って生み出すというもの。ちなみに弱い。普通の人間のファイヤボール三発で死ぬゴブリン一匹を召喚するのに魔力が約1200(ファイヤボール約48発分)程いる。今のジャイアントオークなんかは魔力を36000くらいだ。
「そろそろジャイアントオークに襲われ始める頃だな。『幻影の衣』」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
王子side
兵士の叫び声が聞こえる。
目の前には6メートル程の背丈の巨大なオークがいる。さっきまでは大半の兵士達がゴブリンの相手をして、俺と隊長と残りの兵士達でホブやマーダーを相手にこちらが優勢になっていた。だが気づけば巨大なオークが現れ五人ほどの兵士が一瞬にして巨大な棍棒で殺された。
「トリプルアイスショット!」
俺もこうして何度も魔法を撃ってるが効いてる様子はない。
―バサッ
黒いマントのような物が見えて刹那、魔物が消えた。
何が起こったかは分からない。
ただ一つ分かるのは目の前にいるこの人物は兵士達を救ってくれたという事だ。
隊長「何者だ!」
クルス「やめろ隊長。命の恩人に対して失礼だぞ」
隊長「し、しかし」
クルス「黙れ」
この目の前の男は化け物だ。ここにいる兵士達全員で戦っても勝てないだろう。ぜひ誰も見てない所で戦ってみたいものだ。
?「失礼、通りすがりの冒険者だ」
冒険者か~、王子の身分じゃなかったら転生したら冒険者になりたかったんだよな。
クルス「我々を魔物から救っていただきありがとうございます。失礼ですが、名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
?「カルム・グラントだ。こちらも名前を聞いても良いか?」
クルス「申し遅れました。私はヒュリグス王国の第一王子、クルス・ウィン・ヴァーロットです。」
?「なッ、王子様だったんですね。これはこれは失礼しました。」
これまでの言葉遣いの事だろうか。それにしてもこの驚いた表情!最初は身分を隠して少し話してから招待を明かした時の相手の反応を見るのが楽しいんだよな~。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
SIDE ギル
クルス「申し遅れました。私はヒュリグス王国の第一王子、クルス・ウィン・ヴァーロットです。」
知っている。紋章を間近で見たらすぐ分かったが反応を楽しみに待ってる感じがするのでリアクションしとこうか。
ギル「なッ、王子様だったんですね。これはこれは失礼しました。」
クルス「大丈夫ですよ。あなたは命の恩人ですから」
よく言う。おそらくこの男は一人でさっきいた魔物を殺せた。そうしなかったのはここにいる兵士達に力を見せたくなかったのだろう。
――面白い
クルス「ギルさんは冒険者の依頼としてこの森に来たのですか?」
来た。最高の質問だぜ。
ギル「実は『運命の歪み』に入ってしまったようで、つい二日程前にこの森に飛ばされたのです。よろしければ地図を見せていただけませんか?」
運命の歪みとは世界各地で発生している特殊な魔力溜まりの事だ。運命の歪みは平行世界に繋がる次元の穴だと言われていて入ると自由落下しているような感覚に陥り気づくと全く別の場所に居て時代も変わっているらしい。一番有名なのが210年前からカマルトゾールという老人が運命の歪みにより現代に飛ばされた事例だ。
世界各地で発生しているといっても特に魔力が溜まりやすい場所などに発生しやすい。例を挙げると北極や強力な魔物のいる閉鎖的空間、聖遺物の周り等だ。
クルス「了解しました。お前達、地図を持ってこい」
兵が世界地図を持ってきた。理想に近い展開だ。地図を見てみると小さい国や村が地図から消えているが昔との大きな違いはあまり無かった。
クルス「命を救ってもらったんだ。何か他に要望はありますか?」
ギル「いえ、地図だけで充分です。ありがとうございました。」
そう言って消えようとしたが唐突に違和感を感じた。生物の物ではない謎の魔力がどこからか俺に向かって伸びている。これは魔跡記録球だ。
魔跡記録球とは、映像と魔力の動きを記録することができる球状の物だ。
さて、どうしたものか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます