#97 重ね掛け、空飛ぶ椎菜
いつもより短くてすまねえ……。
======================================
「今度は、天使さん……?」
僕は鏡に映る天使さんの姿をした僕を見て、なんとも言えない気持ちになった。
前は神薙みたまだったのに、今度は天使さんって……。
それに、よく見ると色々変わってるみたい。
例えば黒髪だった髪の毛は光を反射してきらきらとした金髪に。
黒かった瞳も金色に変化。よく見ると十字のようなものも見える。
あと、頭の上に輪っかが浮いているし、背中からは綺麗な真っ白な翼が。
……うん、どう見ても天使さん。
というか、なんで……?
「あの、ファンタジーな人たちって、こうして変身できるものを送ることが好きなのかなぁ……?」
……それにしても、うーん、見事に天使さん……。
あ、この翼って動かせるのかな?
ふと気になったので、背中に意識を向けて動かそうとして見ると……ぱたぱた、と翼が動きました。
「わわっ、本当に動いた!?」
「おかーさん、すごい……!」
自分の意思で結構簡単に翼が動かせてびっくり。
今もベッドに座っているみまちゃんはと言えば、動いた翼を見て、目を爛々と輝かせていました。
無邪気で可愛い……。
「……これってもしかして、飛べる?」
ふと、これが本物の翼で、天使さんになっているのなら、今の僕は空を飛べるのでは? と思ってしまいました。
一応、霊術で似たようなことはできるけど、あれはもっと練習をしないといけないし………………あれ? 待って? もしかして、こう、重ねられたり、する……?
あっちは神様からの贈り物で、こっちは天使さんからの贈り物だけど……もしも一緒に使えたら自由に空を飛べるかも……!?
なんだろう、僕の少ない男の子としての心がふつふつと湧き上がって来たよっ!
ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ試してみよう……うん、すぐに帰って来ればいいもんね。
「すぅー……はぁー……」
とはいえ、上手くできるかわからない以上、深呼吸をしてから。
何度か深呼吸をして……うん、大丈夫!
「……転神っ!」
と、神薙みたまになるための言葉を唱えると……いつものようにぽんっ! という音と共に煙が僕の体を包み込んで、神薙みたまの姿へと変化………………あ、うん。なるほど。
「……混ざるんだ、これ」
結果として、天使さんになった状態で、神薙みたまになった場合、基本ベースは神薙みたまになるみたいです。
いつもの巫女服ではあるけど、よく見ると裾が伸びて、背中からは翼が。
頭の上には輪っかがあって、耳と尻尾も健在。
ただ、髪の毛は途中までは銀髪だけど、途中から金色に変化していて、瞳の方も片目は蒼色になっているけど、片方は金色に……。
う、うーん、すごいことになってる……。
ただ、違和感はない、かな?
むしろ体の調子がいいくらいだし……こう、体の奥底から力が湧いてくる、みたいな、そんな感じで……。
それに、霊力以外の何かがある、よね、これ。
「おかーさん、すごいっ……! すっごく、すごい!」
「あ、あはは、僕もすごく不思議な気分……」
みまちゃんはと言えば、神薙みたまの姿に天使さんが混じった今の僕を見て、すっごく目を輝かせていました。
しかも、とてとてと僕の周りを歩いていろんな方向から僕を見ているのが可愛いです……。
さすがみまちゃん。
「さてと……問題は飛べるかだけど……みまちゃん、ちょっとお外に行って来るね」
「みまはいっちゃだめ……?」
「ちょっと危ないからなぁ……少なくとも、確実に安全と言えるまでは……だから、ごめんね? 帰ったら遊んであげるから、ね?」
「……ん、わかった」
「ありがとう」
うん、本当に聞き分けが良くて助かります……。
でも、もっと我儘になった方がいいと思うんだけどなぁ、みまちゃんの場合は。
ともあれ、やることは決まったし試しに……。
僕は窓から屋根の上に飛び移って、ぱたぱたと翼を少しずつ動かす。
少しずつ、少しずつ勢いを強めて行って……ある時を境に、僕の体がふわりと浮き上がり始めた。
「わ、わわっ! 本当に浮いた!?」
しかも、一度宙に浮くと、そこまで翼を動かさなくてもいい……というより、天使さん側の力? か何かが補助をしてくれてるみたいで、ふわふわと浮かんでいられました。
「わぁ、すごいっ! 本当に飛んでるっ!」
霊術で飛んだ時もびっくりしたけど、あれはその場にとどまるか、一直線に飛んで行くかのどっちかだったから、今みたいにふわふわと自分の意思で自由に動けるのがすごく面白い。
試しに上昇したり下降したり、旋回してみたり、後ろに動いてみたり。
そうして空を飛んでいると、だんだんと慣れてくる物で、僕は街の空を飛び始めました。
「わぁ~~っ! これ、すごーいっ!」
自由に空を飛ぶというのがこんなにも気持ちがいいものだったなんて……。
それに、そこそこの速度で飛んでるはずなのに、風が全然気にならない。
まだまだちょっと暑い日が続いているとはいえ、この時間帯になると冷えてくるんだけど、神薙みたまと天使さんの恩恵かな?
うん、気持ちいい!
「あ、柊君のお家だ。えーっと周りに人は……うん、いないね」
僕は辺りを見回して人がいないことを確認すると、柊君のお家に接近。
ふわり、と柊君のお部屋がある場所へ移動して窓を覗くと、柊君はお勉強をしていました。
やっぱり真面目……!
試しにとばかりに僕はコンコンと窓をノック。
それに気づいた柊君が顔を上げると、僕と目が合いました。
すると、柊君の表情が固まったかと思ったら……すぐに呆れ顔に。
そのまま溜息を吐く素振りを見せると、ガラガラと窓を開けました。
「……何があったらそうなる、椎菜」
「あ、やっぱり僕ってわかるんだね?」
「そりゃわかる。というか、こんなファンタジーなことをするのは椎菜くらいだろう」
「あ、あはは、よくおわかりで……」
「というか……今度は天使か?」
「うん。あの天使さんからお礼のお手紙が来てて、このミサンガを貰ったの。それで、その……天使さんになれるようになりまして」
「お前本当なんでもありだな……」
「え、えへへぇ……」
僕もそう思います……。
自分でも、何でもありになって来たなぁ、なんて。
「だが、神薙みたまの要素も混じってるな?」
「あ、うん、重ね掛けできるのかなー、って思って試したら出来ました」
「できましたって……はぁ、本当に驚くだけ無駄だな、これは」
苦笑い交じりに、柊君がそう言いました。
「とはいえ、今度は天使か……それ、愛菜さんには?」
「お姉ちゃんとは今日一日お話しないことになってるんです」
「……あー、例の配信か。なるほどな。で、どうなってる?」
「玄関で倒れてます」
「お、おう、そうか……自業自得過ぎる……」
「うん。自業自得なのです」
まあでも、あの様子なら反省はしてるみたいだし、明日からはいつも通りに接するつもりです。
可哀そうだしね。
でも、反省は大事です。
「それにしても、あの天使、やっぱり本物だったのか……」
「少なくとも、天使さんになれる物を贈ってる時点で本物だと思うし、それにその場で消えてたもんね」
「そうだな……というか、天使単体だとどうなるんだ?」
「んっと、金色の髪の毛になって、金色の目になって、目の中に十字があって……それで、白いワンピースになる? あ、翼が生えるし、輪っかも出て来ます」
「翼はわかる。というか……本当に天使になるんだな……我が幼馴染ながら、数奇な人生を送ってるものだ」
「あ、あははは……」
どこで何を間違えたら、今みたいな人生になるのか、僕が知りたいくらいです。
けど、今の人生はすっごく楽しいので、間違ってるんだとしても、間違ってよかったなんて思うけどね。
「あ、そろそろ帰らないと」
「そうか……って、今気づいたが、椎菜お前、飛んで来たのか?」
「うんっ! 天使さんになるとね、自由に飛べるの! すごいよね!」
「マジか……空を飛べる、っていうのは羨ましいな」
「えへへー」
「……というか、この椎菜の破壊力はすごいな……人死にが出そうだ」
「ふぇ?」
「あぁ、いや、気にしなくていい。とりあえず、朝霧には話しておいた方がいいな」
「うん! あ、クラスのみんなは?」
「……やめとけ、多分収拾がつかなくなるというか……全員、天国送りになる」
「どういうこと!?」
「そういうことだ。ほら、そろそろ帰るんだろ? みまちゃんもいるんだし、早く帰った方がいい」
「あっ、そうだね! それじゃあ、柊君、また明日ね!」
「あぁ、明日な」
最後に小さくを手振ってから僕はお家に飛んで帰りました。
「……俺の幼馴染が遂に天使になった件。というか、なんでもありだな、あのTS幼馴染……ま、楽しいからいいけどな」
======================================
余談ですが、天使姿になるとこう、若干光ってるんですよ。
しかも夜ですからねぇ。これが原因で、美月市内で『この街には可愛い天使がいる』という噂が立ってしまったそうな。尚、椎菜は頭を抱えた。
それに、神様関連の力と天使関連の力の複合なので、すっごい神々しいことになっており、柊はおかしいのであれですが、普通の人が見たら思わず拝んじゃいそうになるそうです。なので、基本は片方使用がベスト。仕方ないね。
あと、天使の力の名称は『天力』って言います。結構万能性のある力ですが……まあ、椎菜なので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます