#96 騒がしい配信が終わり、二通の手紙

 二度あることは三度ある。つまり、一つのファンタジーがあれば別のファンタジーがあるということ……。

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「疲れました……」

「だろうね」


 配信を終えた後、僕はぽつりと呟き、それに対して皐月お姉ちゃんが苦笑いを浮かべながらそう言って来ました。


「やー、面白かったなー。あんなに短いセリフだってのに、爆笑だったぜ!」

「だねー。というか、愛菜先輩の欲望丸出しのお断りのセリフがずるかったねぇ」

「まったく、愛菜には困ったものだよ。……それで、例によって口を利かないのかい?」

「当然だよっ! 僕、すっごく恥ずかしかったんだから」


 なので、今日一日はもうお姉ちゃんとは口を利きません!

 罰です!


「だろうな! じゃ、今日はお開きにすっか。俺も今日は全力しすぎてちょっと喉が痛いしな!」

「ですねー。あ、今日飲みに行きません?」

「お、いいねぇ! バイクを戻したら飲み行くか! たつなはどうする?」

「私は遠慮するよ。明日は撮影でね」

「そうか! 椎菜ちゃんは……」

「あ、僕は帰ったらえと、娘のお世話があるので……」


 俊道お兄ちゃんに一緒に行くか誘われたけど、今日は配信だけのつもりでみまちゃんに伝えてるからね。帰ってお世話してあげないと。


「そっか!」

「高校二年生なのに、娘のお世話がー、って言う理由で断るのも面白いねぇ。ボク、笑っちゃうよ」

「まあ、普通はねぇよな!」

「それはそうだろう……話を聞く限りじゃ、相当特殊な状況なんだろう?」

「あ、あははは……」


 実はみまちゃんのことは、あの放送事故の後に全体LINNでみまちゃんの存在……というか正体を伝えてあります。

 一応、転神のことも知っているからね、なので神様関連の情報も開示してあります。

 あと、写真なんかも。

 その結果、みんな可愛い! と言ってくれました。

 千鶴お姉ちゃんは、なぜか反応が無くなっちゃったけど……。


「っと、そうだった。なぁ、椎菜ちゃん」

「あ、うん、なぁに?」

「さっき、天使がどうの言ってたが、アレって仮装的な意味なのか? それとも、ファンタジー的な?」

「あ、それボクも気になってたんだよねー。どうなの?」

「私も気になるね」

「えーっと、最初は仮装かなぁって思ったんだけど……お話を聞いていると、本当に天使さんっぽかったのと、頭の上の輪っかがどう見ても浮いていたので……それに、目の前で消えましたし」

「「「えぇぇ……」」」

「あ、あはは……困惑するよね」

「そりゃなぁ。ってか、配信中も思ったが、どういう人生を送ったら、ファンタジーまみれになるんだろうな?」

「僕もわからないかなぁ……」


 少なくとも、自分でもどうしてこうなったのかなんてわからないし……。

 神様がいることも知ってるし、今日なんて天使さんとも会ったし……そのうち悪魔さんと会っても僕、驚かない自信があるよ。

 それとも、別の何かがいるかもしれないけど。

 なんだろう、妖精さんとか精霊さんとか?

 いたら面白いかもしれないけど、大変なことになりそう。


「しっかし、見ず知らずの、しかも天使と名乗る人物相手に飯を食わせる、ってのも随分とお人好しだよなぁ。ま、そこが椎菜ちゃんのいい所だと思うがな」

「うんうん。優しいことは大事だよー。たまに、その優しさを利用する人もいるけどねー。睡眠薬混ぜたり」

「あぁそうだ……え、ちょっと待って? 冬夜君、君今、睡眠薬って言った?」

「うん、言ったよー? ボク、前に睡眠薬入りのご飯を食べさせられたことがあってねぇ。やー、あの時は大変だったよー」

「そんなに軽く話していいの!?」

「どう考えても事件だよね!?」

「んー、まあ、いいかなって」

「冬夜、俺はたまにお前が心配になるぜ。まあ、人生を謳歌してんならいいけどな!」

「いやいやー、非日常体験って普通は得難い物なので、楽しんでますよー」

「……君の過去話を聞く度に、どう考えても警察案件だろ、と思わされるよ」

「あははー」

「あの、冬夜お兄ちゃん、いつか殺されちゃわない……?」

「その時は上手く逃げるから大丈夫」


 あはは、と笑いながらそう言う冬夜お兄ちゃん。

 なんだろうね、本当にこう……色々と強い。


「さて……あー、暗くなってきたか。椎菜ちゃん、私が家まで送って行こうか?」

「ふぇ? いいの?」

「あぁ。見ての通り、外は暗いからね。それに、車だから私も特に問題はない。どうだろう?」

「えと、じゃあ、お願いします」

「よし。二人はバイクで来ていたね?」

「おう。やっぱ、バイクってのはいいもんだぜ」

「うんうん、楽しいよねー」

「ならこのまま解散としようか」

「だな! 今日は楽しかったぜ! ありがとな!」

「ボクも、楽しませてもらったよー。それじゃあ、今度は次の焼肉パーティーでかなー?」

「そうだね。その時を楽しみにしてるよ」

「僕も! 今日はありがとうございました!」


 と、そんな風にして、今日の配信は終わりました。



「今日は楽しかったよ。またね、椎菜ちゃん」

「うん! お気をつけて!」

「あぁ。愛菜によろしくね?」

「はい!」


 皐月お姉ちゃんにお家に送ってもらって挨拶をしてから、皐月お姉ちゃんは帰っていきました。


 さてと……。なんとなく、玄関にお姉ちゃんがいる気配を感じ取った僕は、小さく溜息を吐きながら、玄関の扉を開けて……。


「すみませんでしたァァァァァァ!」


 土下座をしながら謝罪してくるお姉ちゃんの姿が視界に飛び込んできました。

 お姉ちゃん……。


「はぁ……僕、一日口を利かないと言ったので、今日はお姉ちゃんとはお話しませんっ!」

「そんなっ! そこをなんとかっ!」

「ダメです! 自分の欲望を優先しちゃだめですっ! なので、今日は反省してください!」

「この世の終わりだッッ……!」


 だんっ! と四つん這いになって床を叩くお姉ちゃんに溜息を吐きながらお家に上がる。

 すると、とてとてと可愛らしい足音を立ててみまちゃんがやってきました。


「おかーさん、おかえりなさい!」

「ただいま、みまちゃん。学校は楽しかった?」

「うんっ! ハロウィンパーティーをちょっとだけやったの!」

「あ、そうなんだね! どんなことをしたの?」

「おかしもらったよ!」

「そっかそっか。楽しそうでよかったよ」

「うんっ」


 そう言えば、あの小学校はハロウィンとかバレンタインはクラスでパーティーをやることがあったっけ。

 そう言う意味では、みまちゃんが通い出したのはタイミングが良かったのかも。


「おかーさん、おねーちゃんはどーしたの?」

「お姉ちゃんはね、悪いことをしたから反省しているの。みまちゃんも、悪いことはしちゃだめだよ?」

「みま、わるいことしないっ」

「ふふ、いい娘だね~。お姉ちゃんは反省してくださいね?」

「ぐふっ……し、椎菜ちゃんの敬語は、心に来る、ぜ……ごふっ」


 まったくもう……。



「ただいまー」

「お、お帰り椎菜」

「おかえりなさい、椎菜」


 リビングへ行くと、お母さんはご飯を作っていて、お父さんはのんびり本を読んでいました。

 うん、お家に帰って来ると、お母さんやお父さんがいる光景ってすごく幸せだなぁ……。


「椎菜、これ、手紙」

「ふぇ? お手紙? 誰から?」

「さぁ? よくわからないけど……とりあえず、二通あったわ」

「二通も? なんだろう……」


 気になった僕はお手紙を受けとると、宛先を確認。

 ……あれ、これ宛先がない……。

 ということはこれって……神様関連?

 え、みまちゃんで一度来たけど……もしかして、みまちゃんのことが関係してるのかな?


「僕、お部屋で読んでくるね」

「わかったわ。まだご飯はできないから、ゆっくりしてていいからね」

「うん、ありがとう、お母さん。みまちゃん、行こっか」

「うんっ」


 お手紙を読むために一度僕のお部屋へ。

 ちなみに、お姉ちゃんはまだ倒れてました。

 いつまでいるんだろう……?

 ともあれ、自室に戻って早速お手紙を開封。

 一通目は……。


「あ、神様からかな?」


 見たことがある書き方の文字が書かれたお手紙。

 内容は……。


『すまぬ、我が神子よ! 今現在、我々でもどうにかしているのだが、どうにもならない可能性があることを考慮し、こうして急ぎの手紙をしたためさせてもらっている! 何もなければ杞憂で済むが、そうならない場合もある! 故に、心しておいてほしい! 本当にすまない、我が神子よ』


 ……これだけ?


「だけど、色々と大変なことになっているからこうなってる、のかも……?」


 だけど、何があったんだろう……?

 神様ってそんなにこっちに干渉してくるのかな?


 それとも、よっぽどのことがあったのか……うーん、なんにせよ、僕は人間だから神様のことはよくわからないしなぁ……。

 それに、神職ってわけでもないもんね。

 どういうわけか、神様との接点(?)があるけど。

 うん、多分大丈夫だよね。


「それで、こっちは……あれ? 知らない書き方の文字だ……神様じゃないのかな?」


 もう一通のお手紙を開けて早速確認。


『本日はとても助かった。おぬしが食事を与えてくれなければ、儂は死んでいたことじゃろう。天使の一人として感謝する。おぬしは儂にとって命の恩人。おかげで、満腹になり、心も満たされた。そこで、お礼を同封させていただく。お守りと思って身に着けてほしい。一応隠しギミックが存在するが、そちらはこの手紙の裏面に記載してある。単語を覚えておくといい。聖女に祝福あれ。天使長』


 ……あっ、倒れてた天使さん!?

 あの後無事に帰れたんだ。

 よかったぁ……。


 ……けど、お守り? そんなもの……あ、何か入ってる。


「これは……ミサンガ……かな?」


 中に入っていたのは、純白のミサンガでした。

 なんだろうこれ……でも、可愛い。

 それに、お守りって書いてあるんだし……うん、着けておこうかな?

 何があるかわからないもんね。


 というわけで、右手首にミサンガを通す。

 うん、変じゃないね。落ちないし……サイズもちょうどいいみたい。

 あ、そうだ。何かギミックがあるって書いてあったっけ。


「おかーさん、それ、なーに?」

「これ? んー、天使さんがくれた物、かな?」

「てんしさん……?」

「そう、天使さん。僕も、よくはわからないけどね」


 だけど、いい人そうだったから大丈夫。


「えーっと……」


 手紙をひっくり返して、そこに書かれている言葉を読む。


「……変成?」


 と、僕がそう呟いた時でした。

 突然ぱぁぁぁっ! と僕の体が光り出した。

 え、なにこれなにこれ!?


「おかーさん!?」


 隣からみまちゃんが僕を呼ぶ声が。

 突然光り出すって何!?

 ……あっ! これってもしかしてぇ!?

 何かに気付いた僕だったけど、その頃には光が消えていて……気が付くと、背中に妙な感覚がありました。


「わぁ……おかーさん、きれー……」


 隣にいたみまちゃんは、どこか目を輝かせながら、僕を綺麗と言って来た。

 ……待って、どういうこと?

 というか、気のせいじゃなければ、髪の色が、その……金色に見えるんだけど……。

 あと、服装違うよね? 純白のワンピースになってるよね? あとやっぱり、背中に妙な感覚があるよ? 具体的には、何かが生えてるような……。


 ……うん、鏡を見よう。

 僕は立ち上がると、鏡の前に立って……。


「うわぁ……」


 そこに映る天使の姿をした僕を見て、なんとも言えない、困惑したような声を漏らすのでした……。


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 はい、ついに文字通りの天使になった椎菜です。

 強化形態が増えましたね! 特撮ヒーローかな?

 それから、こちらは余談。前回話していた、番外編の投稿がこの回の投稿と同時に始まっております。タイトルは結局「TS三人娘が行く! 多世界間交流!」となっております。興味があれば読んでみてください! しっちゃかめっちゃかな話にしていくつもりです!

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