#94 いたずらっ娘椎菜、からの逃げる椎菜

 セル系女子高生。

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「えー、というわけで……今日一日、学内はハロウィンパーティーだ。校舎内外問わず、色々な場所にお菓子やら軽食類なんかがあるので、好きに飲み食いしてくれ、とのことだ。……この学園の学園長、相変わらずなんだよなぁ……」


 普通に説明をする田﨑先生だったけど、最後の方は苦笑い交じりに何かを呟いていました。


「っと、それから、特殊ルールとして、トリックオアトリートが適応されている。お前らは去年やったから知ってると思うが……まあ、あれだな。言われたらお菓子を渡さなきゃいけないあれだ。仮になかった場合はいたずらを受ける。まあ、そのいたずらに関しては倫理的にアウトじゃなければ基本なんでもOKだな。じゃ、今日一日、楽しめよー。以上だ。かいさーん」


 どこか気怠そうにしつつも、楽しそうな笑みを浮かべる先生が教室を出て行きました。

 それと同時に、クラスのみんなが動き出しました。

 さっきの吐血とか鼻血が無かったことになってる上に、すっごくいい顔をしてることに底知れない恐怖を感じます……!


「椎菜、行くか?」

「あ、うん。麗奈ちゃんも行こ?」

「はいはーい!」


 というわけで、三人で学内を回ることに。

 この体になってから、すっかり三人で行動することが普通になったなぁ。

 前までは、麗奈ちゃんとはクラスメートで、女の子の中で仲がいい人、って言う感じだったんだけど、今では柊君の次に仲のいい人に。

 色々と助けてもらえるから本当に助かってます……。


「そう言えば二人も仮装してきたんだね? 麗奈ちゃんは魔女さん?」


 麗奈ちゃんは魔女さんみたいな服装でした。

 白と黒のブラウスに、ケープ、黒っぽいロングスカート、それからブーツ。

 頭にはつば広の三角帽子が。

 うん、可愛い!


「そうだよー。まあ、これくらいしかないなーって。高宮君のそれは何?」

「ん、あぁ、あんまりなかったからな……適当にこう、科学者、的な?」

「なるほど」


 柊君はと言えば、ところどころ赤い物が付着したYシャツと白衣、ゆったりめのズボンを穿いていて、あと眼鏡もかけていました。

 すごく似合う……!


「でもそれ、科学者というよりこう……医者の亡霊的な……」

「……あー、確かにそうかもしれないな」

「たしかに、柊君ってカッコいいし、科学者って言うより、お医者さんに見えるかも?」

「……ならそれでいいか。そう言うことにしておいてくれ」

「それでいいんだ」

「まあ、なんとなく楽しめればいいからな、俺は。……というか俺、城ケ崎さんに『今のうちに日常を楽しんでおくことをおすすめするよ』って深い慈愛に満ちた声音で言われててな……。俺、入るの、早まったか……?」

「「あっ……」」


 さ、皐月お姉ちゃん……誘ったのにそんなことを柊君に言ったんだね……。

 あと柊君、すっごくなんとも言えない顔になってるよ……?


「だ、大丈夫だよ柊君! その、ぼ、僕も手助けするから!」

「そうだよ高宮君! 幸い、愛菜さんもいるんだし! 椎菜ちゃんもいるから! ね!?」

「……どっちも不安だなぁ……」

「ひどい!?」

「あー……まあ、うん……たしかに」

「麗奈ちゃんも!? え、僕ってそんなに頼りにならない!?」

「なるかならないかで言えば……椎菜は何と言うか、家事系はすごく頼りになるんだが……あれ系で頼りになるかと言うと……むしろこう、周りを血の海に変えそうだからな……」

「どういう意味!?」


 周りを血の海って!?

 僕そんなことしてな――…………あ、で、でも、なぜか、周囲の人が血を吐いたりするなぁ……あれってなんでなんだろうね……。

 この体になる前もたまにあったけど……。


「……まあいい。ところで……椎菜、お前、すごいな」

「ふぇ?」

「椎菜ちゃん! トリックオアトリート!」


 柊君に褒められた後、クラスメートの女の子に突然トリックオアトリートと言われました。

 あっ、もう来ちゃった。

 えーっとお菓子お菓子……。


「はいっ、どうぞ!」


 僕は持って来ていた二つの袋の内片方から三枚ほど袋に入れたクッキーを取り出して、それを手渡しました。


「え、本当にもらえた!? ありがとう、椎菜ちゃん!」


 女の子は嬉しそうにお菓子を受け取ってくれました。


「あ、いいなぁ! 椎菜ちゃん、私も私も! トリックオアトリート!」

「じゃあ、これ!」


 それを見ていた別の女の子がお菓子を求めて来たので、今度は一口サイズのグミが入った袋を渡しました。


「え、まさかのグミ!? 椎菜ちゃん、これどうしたの?」

「作りました!」

「「すごっ!」」

「そう言えば去年も同じことをしてたか……」

「だねぇ。あたしも貰ったなー。美味しかった」


 実は、日曜日にお菓子を作っていたんです。

 折角のパーティーだもん、やっぱり積極的に行きたいよね!


「椎菜ちゃん、ありがとね! じゃ!」

「お菓子ありがとう!」

「いえいえ! じゃあ、二人とも、行こっかー」

「だな」

「はいはい!」


 行動再開。

 校内では至る所でトリックオアトリートが行われていて、お菓子を貰った人もいれば、持っていなかったのでいたずらされる人もいたりで、結構賑やか。

 んー、僕もいたずらは考えて来てるし……やってみようかな?

 じゃあ、誰かいい人は……あ、クラスメートの人!


「僕、トリックオアトリートしてくるねっ!」

「そうか。なら、俺は見させてもらうかな」

「あたしも! 椎菜ちゃんのいたずらが見れたら面白そう!」


 先の方で固まっている男子三人を見つけたので、僕は声をかけることに。


「高木君、山崎君、立花君、トリックオアトリートですっ!」


 とたたっ! と早歩き気味に近づくと、僕はいたずらっぽく笑ってクラスメートの三人にトリックオアトリートと言いました。


「「「ぐはっ!」」」

「ふあぁぁ!? どうしたの!?」


 そしたらなぜか、突然口元と胸を抑えだしました。


「わ、わりぃ、まさか、突然言われるとは思わなくてよ……」

「俺ら、今年の運を使い果たしたか……」

「本望ッ……!」

「あ、あの……?」

「っと、すまんっ。悪いんだが、お菓子が無くてな!」

「俺も」

「右に同じく」

「あ、そうなの? じゃあ、いたずらしなきゃだねっ! というわけで……お菓子をくれなかった三人にはいたずらですっ! こちらをどうぞ!」


 そう言いながら、僕はさっきの女の子たちに上げるお菓子を取り出した袋とは別の袋から、クッキーが入った袋とグミが入った袋、チョコレートが入った袋を取り出して、三人それぞれに手渡しました。


「「「え、これがいたずら……? ご褒美じゃん」」」

「ふふふー、それじゃあ、食べてみて!」

「……あ、椎菜の奴まさかっ……!」

「え、なになに? 高宮君、椎菜ちゃんのアレ、わかるの?」

「……椎菜の奴、とんでもないいたずらを引っ提げて来たなぁ……朝霧、絶対食べたいとか言い出すなよ、死ぬぞ。脳が」

「脳が!?」


 後ろで二人が何かをお話しているみたいだけど、気にせず僕はにこにこと三人に食べるように迫りました。

 三人は少し顔を赤くしたけど、まあ折角だしと言ってから一つ取り出してお菓子をぱくりと一口。

 すると……


「「「ごふぁぁぁっ!!」」」


 突然悶えだしました。

 うん! いたずら成功です!


「え、どうしたの高木君たち!?」

「あー、やっぱりか……」

「ごほっ、ごふぁっ……な、なんだこのクッキーッ……げ、激辛すぎッ……い、いてぇ!? メッチャいてぇ!? あぁぁぁっ! 口の中がァァァァァ!?」

「こっちのグミとか、見た目と食感がグミなのに、なぜか味が肉野菜炒めの味がするんだけどぉ!? ぬぐぅぉおぉぉぉぉぉぉ!?」

「ごほっ、げほっ!? いやこれ、食感と見た目がチョコレートのカレーなんだけど!? つーかカレールーみてぇ!? あぁぁぁっ! 脳がバグるゥゥゥゥゥ!?」

「うわぁ……今回もまた、酷いものを作ったな、椎菜……」

「えへへ、折角なので!」

「「「悪魔だァ……だが、そこが可愛いごふっ!」」」


 うん! リアクションがいっぱいだね!

 大成功!


「高宮君、なんか三人がすごいことになってるよ? びったんびったんもんどりうってるよ? 高木君とか、頭でブリッジしてるよ? 山崎君、ヘドバンしてるよ? 立花君、ゴロゴロしてるよ?」

「……あれはまぁ、なんと言うか……椎菜の謎技能だな……ああいう風に、見た目と味が乖離した物を作れるんだよ、なぜか」

「なんで!?」

「知らんが……(ほら、前に配信でも使ってただろ? あれだ)」

「(あぁ、あれかぁ……え、椎菜ちゃん、今回のハロウィンパーティーのために作ったの!? ど、どんだけ本気……!)」

「まあ、椎菜はこういうイベントは割と積極的に参加するからなぁ……しかも、こういう時は結構はっちゃける。結果がこれだが」

「な、なるほどねぇ……というか、すっごい見られてない?」

「そうだな。椎菜は男の時ですら有名だったが、今の姿になってからは校内で一番の有名人だからな。そんな有名人が仕掛けたいたずらが強烈過ぎたんだろう。あと、普通に可愛いしな」

「うんうん。……でもさ、高宮君」

「なんだ?」

「……なんかこう、謎の列、出来てない?」

「…………概ね、椎菜のいたずらを受けられる!? なら乗るしかないだろ、このビッグウェーブに! ってところじゃないか?」

「なるほどねぇ……」

「ふあ!!? なんだかすっごい行列が!?」


 三人がなんとか動き出してすごくいい笑顔でサムズアップをしながら去った後、なぜか目の前に行列が出来ていました。

 なんで!?


「あ、あの、これは……?」

「椎菜ちゃんのいたずらお菓子が食べたいです!」

「先輩のいたずらお菓子欲しい!」

「椎菜ちゃんにいたずらしたいです! ぐへへ!」

「今椎菜ちゃんに邪な感情を向ける奴がいたわ! 者ども、であえ、であえーー!」

「イヤァァァァァァァ! ただちょっと、可愛いセリフを言って欲しかっただけなのぉ~~~~~~っ!」

「いたずらお菓子! いたずらお菓子!」

「……柊君、麗奈ちゃん、あの、これってやらなきゃ、だめ……?」

「あー……まあ、これはさすがに、な?」

「椎菜ちゃん人気だねぇ。せっかく求めてくれてるんだし、答えてあげよう!」

「あ、うん、そうだね……」


 まあでも、こうして求められてるのは嬉しいけど……いたずらお菓子、そんなに欲しい物かな!? 自分で言うのもなんだけど、結構な劇物だよ!? だって、見た目とは全く違う味がするんだよ!?

 普通に食べたいとは思わないと思うんだけど……お姉ちゃん以外!

 お姉ちゃんは僕の作る料理ならなんでも好物! っていつも言ってるからね……普通にすごいと思います。僕は無理です。


「じゃ、じゃあ、あの順番に……ね?」

「「「やったぜ」」」


 この後、列が途切れることは無く、人を捌き切る前に持って来ていたいたずらお菓子が無くなりました――。


 あの、普通のお菓子より先に無くなったんだけど……。

 これでいいの……?



 それからしばらくして僕の持っているお菓子も全て完売。

 無くなっちゃったわけだけど……。


「あ、あの、実はもうお菓子が無くて……」


 遂に、無い状態でトリックオアトリートをされてしまいました。


「えっ! じゃあつまり……いたずらができる……ってこと!?」

「は、はい……なので、あの、お、お手柔らかに……」


 うぅ、もっといっぱい作って来ればよかったかなぁ……。

 ちなみに、今トリックオアトリートをしてきたのは、三年生の先輩さんです。

 ゾンビっぽい仮装をしてます。


「えっ、ど、どうしよう……じゃ、じゃあえと……お、お姉ちゃん大好きって可愛く言って欲しい!」

「そ、それでいい、んですか……?」


 ちょっと恥ずかしいけど、それくらいなら……。


「むしろそれがいい!」

「そ、そう、なんですね……じゃ、じゃあ、えと…………お姉ちゃん、だぁいすき♥」

「ありがとうございますッッッ!!! ぶはぁぁっ!」

「ふぇぇぇ!? 大丈夫ですかぁ!?」

「さすが椎菜……上級性すらノックアウトか……」

「でも、お菓子をもらった人、椎菜ちゃんの笑顔でみんな死んでなかった?」

「それはそうだな」


 あぁっ! すごくいい笑顔で倒れてるぅ!?

 大丈夫なの!? この先輩さん、大丈夫なのかなぁ!?


「……今の、聞いた?」

「聞いた聞いた」

「……今、椎菜ちゃんはお菓子を持っていない……つまり、トリックオアトリートをしかけることで、言って欲しいセリフを言ってもらうことが出来る……!?」

「何その素敵状況!? 桃源郷か!?」

「こ、これは今やらねば損っ!」

「あ、まずい。高宮君、椎菜ちゃん、今度は別の意味で狙われ出してるよ?」

「……我が幼馴染ながら、人気者だなぁ……」

「そういう高宮君も、その……いたずら書き、すごいよ?」

「……言うな。俺も気にしてるんだ。というか、去年より酷い」

「まあ、高宮君っていつも椎菜ちゃんと一緒だからねぇ。嫉妬もありそう」

「ありそう、じゃない。100%嫉妬と私怨だ」

「それはそれでどうなんだろうね」

「さぁなぁ…………まあ、今後は椎菜関連でとんでもない嫉妬が来そうな気もするがな……例のあれで」

「たしかに。高宮君、頑張ってね?」

「気が重い……っと、椎菜、なんか怪しい雰囲気がするから逃げた方がいいぞ! 多分、トリックオアトリートされまくる!」

「ふぇぇぇ!? そうなの!? じゃあ、に、逃げないとっ!」


 柊君に忠告されて、僕はすぐに逃げの体勢に。


「「「チィッッ! あのイケメン君、余計なことをっ……! けど、カッコいいから許す!」」」

「だがしかし! みんな椎菜ちゃんを囲むよ! 是非とも! お姉ちゃんって言って欲しい!」

「いやお姉様でしょ!」

「何を言うか! おねぇたまが最高ぞ!?」

「それはみたまちゃんでいいじゃん!」

「リアルで言って欲しいんだよぉ! 名前付きでぇ!」

「「「それはたしかに……」」」

「よっしゃ囲め囲めーー!」

「ひあぁぁぁ!? 人がいっぱい!?」


 突如としてたくさんの女の人に囲まれてしまってしまいました。

 どういう状況!?

 あっ、ど、どうしよう!? 逃げ場がない!

 あと、おねぇたまはちょっと嫌です! 恥ずかしいもん!

 に、逃げ場、逃げ場は…………そ、そうですっ!


「え、えとえと…………ま、魔法少女だぞ☆」


 ウインクをして、右手で横ピース、それから腰をくいっとして、いつぞやの全員コラボで誤魔化したあの方法を使うことにしました。

 ……しゅ、羞恥心がぁ~~~~~~っ!

 というか、なんで僕こんなことをぉ……絶対効果はな――


「「「ブルァァァァァァァッッッ!」」」

「あれぇ!?」


 突然囲んでいた先輩さんたちが吐血して倒れました。


「すごいな、椎菜。言葉一つとポーズだけで動きを止めたよ」

「おー、さすが無差別級人型殺人兵器魔法少女……」

「おい朝霧、それ結構ギリギリだぞ……?」

「おっと。まあでも、椎菜ちゃんパニックで聞こえてないし大丈夫大丈夫! 椎菜ちゃーん! このまま逃げよー!」

「あ、う、うんっ! え、えと、ご、ごめんなさいっ!」


 僕は麗奈ちゃんに言われて、倒れた先輩さんたちに謝りながら、そのまま逃げました。


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 ケモ耳と尻尾を生やした、ゴスロリ巨乳美幼女が、やたら可愛いポーズで「魔法少女だぞ☆」を言うだけで、セル系女子高生が大量に生み出される模様。

 ……セル系女子高生って何? 深夜テンションって怖いね!

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