#92 ハロウィンの前日、新しい姿とか

 特に大きなことが起こることはなく、一日が終わるとHRに。


「えー、明日はハロウィンだ。お前らも二年生だから知っていると思うが、明日は授業などなく、ただただ学内でハロウィンパーティーが行われる。とはいえ、出席日数という意味では普通にかかわって来るので、面倒な奴は登校後、出席を取ったら帰ってよしだ。ハロウィンパーティーを楽しみたい奴は……まあ、あれだ。全力仮装でもしてこい。どうせ、準備してる奴がほとんどだろうしな」


 ぶっきらぼうに話す先生の言葉に、クラス内は少し騒がしくなります。

 この学園、こういうイベントがあると学園が主導して、一つのイベントをやってくれるからすごく楽しいし嬉しいです。


 明日はハロウィン……まあ、それもあって、夕方ごろに配信するようにしてもらったわけだけど……。

 明日は僕含めて四人ではあるものの、全員コラボの時くらいしか関わってない人が二人もいるからちょっと緊張するなぁ。

 けど、実はすごく楽しみでもあるわけで。


「あー、そうだ。あと仮装して来てもいいが、公序良俗に反するような服装はダメだからな? バカみたいに露出した服はアウトだな」

「先生、アウトのラインってどこっすか?」

「ん? そうだな……まあ、ものすごい丈が短いスカートと一緒に、ほとんど胸しか隠してなくね? みたいな服を着てきたらアウト。反対に、丈の長いスカート、もしくはズボンを身に付けた上でなら、まあさっきの奴はセーフとしよう。まあ、お前らの羞恥心が刺激されないならな。あぁ、だからと言って、上が普通でも、下がものすごい丈が短いスカート立ったら普通にアウトだ。あと、男子はまぁ……とりあえず、上裸じゃなきゃいいとのことだ」

「適当っすね!?」

「まあ、男だしな。なので、狼男がやりたいです! って奴は、普通に上に何か羽織る事。それなら許されるそうだ」

「なるほどー」

「結構適当だなぁ……」

「でもでも、楽しみだよね! 去年美味しいお菓子もあったし」

「むしろお菓子を奪いに行く」


 と、みんなで明日はどうしようかとお話しています。

 僕は……うん、最後までいることはできないから途中で帰っちゃうけど。

 でも、仮装、仮装かぁ……。

 うーん、そう言えば配信とかみまちゃんのこともあって頭から抜け落ちてたなぁ。

 すぐにできるのは『転神』だけど……うーん。


「というわけだ。まあ、明日はそれなりに楽しむように。朝八時半には出席を取るんで、そこから先は自由。終了時間は午後六時まで。以上だ。それじゃあ、気を付けて来いよー。あぁ、それと桜木」

「ふぇ? 僕ですか?」

「お前、誘拐されないようにな」

「どういうことですか!?」

「そのままの意味だ。それじゃあ、気を付けて帰れよー」


 小さく笑ってから田﨑先生は教室を出て行って、それを皮切りにクラスのみんなが帰り支度を済ませて教室を出ていく人や、そのまま教室に残る人もいました。


「椎菜帰ろう」

「あ、うん。麗奈ちゃんは今日は部活は?」

「ないよー。明日のこともあってお休み!」

「じゃあ、帰ろっか!」


 僕たちは三人で帰宅。


「それで、明日はどうするんだ? 椎菜」

「僕? うーん、色々あってコスプレ衣装とかないからね~。多分、変身するかも?」

「でも椎菜ちゃん、あの姿って京都でもやってなかった?」

「そうだけど……まあ、うん。もういいかなって……正直、VTuberであることはバレちゃってるし、クラスのみんなにはバレてもいいかなーって」

「あぁ、そう言えばあの姿で風呂に入ったんだったか……話を聞いた時は何してるんだ? と思ったものだが、まあクラスメートなら明かしてもいいんじゃないか? むしろ、動きやすくなるだろ」

「うん。まあ、ネット上で話題になったことがあるみたいだけど……た、多分大丈夫だよね?」

「コスプレです! って言い張ればいいもんね」

「うん」


 少なくとも、隠し続けるのも結構大変だし……それなら、こっちの方もバラしちゃった方が早いと言いますか、気分的に楽。

 とはいえ、神様関連のことはさすがに言わないつもりです。

 さすがにね……。


「ハロウィンかぁ……椎菜ちゃんがトリックオアトリートって言ったら、ものすごい量のお菓子が集まりそうだよね」

「あはは、さすがにないよ~。たしかに体は小さいからかなり子供っぽいけど」

「椎菜、そう言う事じゃない」

「ふぇ?」

「でも椎菜ちゃんって甘い物が苦手なんだもんねー」

「そうだねぇ……チョコレートとかプリンは平気かな?」

「甘いもの好きそうなのにね?」

「うーん、よく言われます」

「むしろ、甘いものが苦手って言うと驚かれるな、椎菜は」

「そうだねー。なんでだろ?」


 やっぱり見た目かなぁ。

 元々が女の子寄りだったし……今なんて、甘いもの大好きっ! みたいな感じだもんね。

 まあ、苦手なんだけど。


「そう言えば明日は椎菜はどれくらいで帰るんだ?」

「んー、三時くらいには学園を出るつもり。配信あるし」

「あぁ、そう言えば告知してたな。……しかし、コラボ配信なのな」

「うん。結構楽しみ」

「だろうね~。ある意味初だよね、男性ライバー全員集まってるの」

「うん! だからいっぱいお話したいなって!」

「ストッパー役のあの人が可哀そうになるな……」


 苦笑い交じりにそう零す柊君。

 そう言えば、皐月お姉ちゃんも一緒だから……大丈夫だよね?

 最近、すっごく疲れた様子だし……それに、柊君がスカウトされた理由もそうだし……。

 あ、そういえば。


「ねえ柊君」

「ん、なんだ?」

「スカウトの件受けることにしたんだよね? もう返事を出したの?」

「ん、あぁ、もちろんだ。早めの方がいいと思ってな」

「皐月お姉ちゃん何か言ってた?」


 柊君が入るって伝えたらなんて答えたのか気になったので、柊君に尋ねてみると、柊君は何とも言えない微妙な表情を浮かべて、


「あー……なんか、泣いて喜ばれた」


 そう言いました。


「そうなの!?」

「城ケ崎さん、そんなに大変だったんだねー……」

「なんか、というか、ワンコールで出てな。開口一番に『やぁ、柊君だね!? どうだい? 入る気になったかな!? というか入ってくださいお願いします! 本当に私の胃が死にそうでっ……!』って言われてな」

「「うわぁ……」」


 皐月お姉ちゃん、必死過ぎだよぉ……。


「まあ、もとより入るつもりだったからな。入ります、って言ったら『あぁっ! 君は本当に私の運命だッ……! 本当にありがとう! これで私の負担が減る……あぁ、でも、君は初めてなんだ。最初は私がリードするから安心してほしい!』とか泣きながら言われたな……」

「皐月お姉ちゃん、そこまでなんだ……」

「やっぱり、らいばーほーむの常識人って大変なんだねー……」

「あ、あははは……」


 本当にね……。

 けど、四期生は一人決まったようなものだけど……他はどんな人が入ってくるのかなぁ。



 三人で楽しくお話をしている内にそれぞれのお家に続く十字路に到着。

 そこで分かれてそれぞれのお家に帰ると……。


「ただいまー」

「おかえりなさいっ!」

「わわっ、と。ふふ、今日も飛びついて来ちゃったね? 危ないよ?」

「んんぅ~~」


 小さく笑みを浮かべて注意しながら頭を撫でると、みまちゃんはぐりぐりと頭をこすりつけてきました。

 小動物みたいで可愛い。


「みまちゃん、学校はどうだった?」

「ん、たのしかった。いろんなことをおぼえて、おべんきょうして、いっぱいあそんだよっ」

「そっかそっか。楽しいなら何よりです。あ、僕はちょっと着替えてくるから、リビングで待ってて?」

「うん」


 一度みまちゃんを離すと、僕は一度自分のお部屋に戻って部屋着に。

 そのままお部屋を出ると、


「あ、椎菜ちゃん。おかえりー」


 お姉ちゃんがお部屋から出てきました。


「ただいま、お姉ちゃん!」

「ねえ椎菜ちゃん。姫月学園って明日はハロウィンパーティーだよね?」

「あ、うん。そうだね。それがどうかしたの?」

「椎菜ちゃんは仮装するのかなーって思って」

「うん、するつもり。でも、衣装がないから神薙みたまの姿で行こうかなって思ってるよ?」

「それはダメ!」

「ふぇ!?」


 僕が神薙みたまの姿で行くことを言うと、お姉ちゃんが食い気味にダメと言って来ました。

 なんで!?


「みたまちゃんモードは既にSNSで話題になってるんだから、ダメです! というか、可愛すぎて襲われそうだからダメ!」

「どういう意味!?」

「なので、私が用意した服を着てくださいお願いしますっ!」

「え、あるの!?」

「もちのろん! 私はいつかみたまちゃんにコスプレしてほしいと思って、趣味でコスプレ用の衣装を作っている知り合いに頼んで、作ってもらっていたのさ!」

「何してるの!? え、そんな知り合いの人がいるの!?」

「いるよ?」

「えぇぇ……」


 そんな、当たり前だよね? みたいな顔で言われても……。


「実は椎菜ちゃんが椎菜ちゃんになってから早い段階で相談しておりまして、既にいくつかの衣装が完成しております」

「なんで!?」

「現状、魔女っ娘、猫娘、巫女、吸血鬼、ゴスロリなど、色々取り揃えてありますが?」

「そんなにあるの!?」

「私のおすすめは……やはり、巫女以外! だってみたまちゃんモードは巫女だしね! というわけで、どれがいい?」

「どれか着る前提なの?」

「もちろん」

「そ、そっかー……えーっと、んーっと……」


 どれがいいんだろう……?

 興味があるのは……魔女とゴスロリ、かなぁ……他も気になると言えば気になるけど……。


「うーん……じゃあえと、ゴスロリ……?」

「よっしゃっ! じゃあちょっと持ってくるから待っててね!」

「今から!?」


 決まったら即行動がお姉ちゃんなので、すぐにお部屋に戻るとばたばたばた! とすごい物音が聞こえてくる。

 あと、ガシャンッ! とか、ドガンッ! とか、ドゴーンッ! っていう音が聞こえてくるんだけど……!?

 お部屋の中で一体何が!?


「お待たせ! というわけでこちらがゴスロリになります」

「わ、すっごい本格的!? 黒メインでところどころに白色がある感じかな?」

「そうそう。やっぱりシンプルな白黒かなって! あ、そう言えば赤目にするカラコンあるよ? どうせなら付けてみる?」

「こ、コンタクト……でも、怖いよ……?」

「んまあ、それもそっか。じゃあ、あれ。みたまちゃんモードでこの服を着ればいいのでは?」

「あ、たしかに」


 そう言えばあの状態って服が脱げるし……うん、結構いいかも!


「でしょでしょ? それなら、銀髪蒼眼にできるし! いいじゃんいいじゃん!」

「うん! じゃあ、借りるね!」

「はいはい! まあ、サイズ感が椎菜ちゃん専用だし、そのまま上げるよー」

「いいの?」

「もっちろん! そのために作ったんだから!」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「いえいえ! その代わり、着た状態で写真を撮らせてね!」

「うん!」


 それくらいならお安い御用と言う物です!

 それにしても、お姉ちゃんってすごい……。

 もしかすると、他にもいろんな人脈があるのかも?

 海外の人に知り合いがいる! って言われてももう驚かないと思います、僕。


「あ、そう言えば新しいデザイン、来たかな?」


 僕は事務所用のスマホを取り出してメールを覗くと、デザインが完成した旨が記載されたメールと一緒に、新しいデザインの神薙みたまのデータが同封されていました。

 あ、もう来てる!?


「お姉ちゃん、僕ちょっとお部屋にいるね。みまちゃんの相手をお願いしてもいいかな? すぐに戻るつもりだけど」

「いいよー。じゃ、私は下に行ってるね!」

「ありがとう!」


 というわけで、一度みまちゃんをお姉ちゃんに任せて、一度お部屋に。

 パソコンにデータを落として、色々と操作して、早速画面に立ち絵を表示してみる。


「えっ、こ、これを一日で描いて、作ったの……?」


 そこには、神薙みたまに似た別の女の子が映っていました。


 元々は銀髪蒼眼の巫女服を着た女の子だったけど、目の前に映っているのは、赤いメッシュが入った長い黒髪に、紅い瞳。顔立ちそのものは変わらないみたい。

 首から下は、青と白がメインだった巫女服が赤と黒に変更されていて、大きな違いとしては、今まではおへそは出てなかったんだけど、今のデザインはおへそが出てるデザインに。

 これはこれですっごく可愛い……!


 それから、今までの表情はほんわかとした柔らかい笑顔を浮かべていたけど、今はこう、ちょっと強気な感じの笑顔になってます。

 なるほど、これが神薙みたまオルタ……。


 ……一日で出来るクオリティじゃないと思うんだけど……わたもちママとモデルを作った人、すごい……。


「あ、動作確認しないと」


 気を取り直して、軽く動作確認。

 顔を動かしたら表情を変えたり、色々とやってみるけど、特に違和感もないし、普通の神薙みたまと同じような感じで動かせてる。

 うん、これなら大丈夫かな?

 あとは、このデータを持って予定の場所に行けばいいから……うん、問題なし!

 まあでも……


「問題はキャラが一昨日の僕と同じようにって言うリクエストだったし……そっちが大変そう」


 もともと、ああいうこと言うタイプじゃないもん……不慣れなんだよね。

 でも、頑張らないと。


「さてと、確認もしたし、下に戻ろ――……あ、待って? もしかして、転神でこの姿になれる……?」


 そう言えば、転神を使用して変身できる姿は、わたもちママがデザインした物だけだし……これもなれるのでは?

 そう考えた僕は、試しにとばかりに変身してみると……。


「『転神』! ……わわっ!? できた!」


 本当にできちゃいました。

 いつもの姿とは違って、黒い感じの女の子に。


「ふわぁ~……これ、本当にすごいなぁ……」


 神様、すごい物を送って来たよね。

 ありがたい限りです。


「あ、じゃあ、明日はこの髪色と目でこの服を着ればいいかも……!」


 うん、それなら完璧!


「明日のハロウィンパーティーと配信、楽しまないとね!」


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 余談ですが、たつなが柊に入りますと言われた時、全身全霊のガッツポーズをした挙句、通話終了後にクソ高い酒を飲んで一人で宴してました。よっぽど嬉しかったようです。どんだけ追い詰められてたんでしょうね。現在は超うっきうきで柊が入って来るのを地獄の底で待ってます。

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