閑話#21 二重の意味で大騒動になってる神界

「「「や、やりやがったッ……!」」」


 その日、神界に激震が走った。

 神々がいつも通りに会合を行うべく、一ヵ所に集まったのだが……そこに一通の封筒が置かれていた。

 その封筒を見た瞬間、宇迦之御魂大神ものすごく嫌な予感がしていた。

 なんかこう、とんでもないことをしくさったのではないか、と。


 あと、天照大御神がいない。

 いつもはいの一番に来て、何かと準備やら何やらをするあの主神がいない。

 以前の誰が誰に加護を付けるか問題になった際には、最初は止めていたのに、最後は混ざるどころかはっちゃけて大暴走かました挙句、全員に加護付与とか言う暴挙に出ていたが……それでも、あの主神は真面目なのだ。


 故に、この場にいないことが気になった宇迦之御魂大神は、恐る恐ると言った様子で、封筒を開けて中に入っていた一通の手紙に目を通し……


「あ、あんのっ……アホ主神があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 ブチギレた。


 そこに書かれていたのはこうである。


『拝啓、神々の皆様。突然ですが、私は少々疲れてしまったので、地上でバカンスをしてきます。心配しないでください。人間の寿命分の時間が経ったら神界に戻りますので。あぁ、でも、何か非常事態が起こった際には、私も神界に帰還しますので、安心してお仕事をしてください。というか、私の負担が多すぎるのです! 休みなしぞ!? 私、ほぼ休みなしぞ!? 知ってます!? 海外の神様界では、主神も普通に有休を取るらしいですよ!? なら、私が取っても許されますよね?! あと、日本は神がやたらめったら多いのですから、頑張って分担すればできます! なので、あとはよろしくお願いします! P.S.そう言えば炬燵を切ったかどうかを忘れてしまったので、確認しておいていただけると助かります』


 これを読み上げた周囲の神たちの反応と言えば……


「「「(#^ω^)ピキピキ」」」


 である。

 全員ちょっと怒った顔。

 にっこにこ顔だが、普通にキレている辺り……やはり状況はよろしくない。


「えー、というわけで……マジで神無月をしくさりやがった主神が地上に失踪しわけじゃが……どうするよ」


 とりあえず、宇迦之御魂大神が進行役として急遽、主神失踪しちゃったんだけど事件をどうするか、ということを決めるための緊急会議を開き、周囲にいる神々に意見を求めた。


「あの、宇迦之御魂大神様、天照大御神様は何故地上に……?」

「知らん。バカンスらしいが……というか、日ノ本の神がなんで横文字使っとんのじゃ。そこは普通、長期休暇でいいじゃろうに」

「そこにツッコミます?」

「いやツッコムじゃろ。そもそも、日ノ本神ぞ? 横文字はちょっと……」

「まあ、日ノ本の子供らも普通に海外の言葉を使用しますからね。中には、和製英語なるものもあるとか。海外から色々な物を取り込みまくった子供たちは違いますね」

「節操が無さすぎる面もあるが、結果的に面白い娯楽も生まれておる。そこはいいが……ではなく! あのアホ主神がいなくなったんじゃ。どうする? 何気にあれがしていた仕事と言うのはでかいし、そこらの神程度じゃちっときつい。現状可能なのは一部の神じゃが…………まあ、この辺りはもう、役割分担をするしかあるまい」


 宇迦之御魂大神がそう言うと、他の神々は嫌そうにしながらも仕方ないと頷く。

 まあ、当人たちも普通に、


『あの主神、やたら仕事してたしなぁ……まあ、休みくらいいいか』


 と思っているので。


 なんだかんだ、ちゃんと真面目に仕事はしていたし、基本的には真面目だし、これくらいして許さないのは、それはそれとして自分たちの品性を疑う結果にもなるので、今回の件はギリギリで許容、という形で納得。


 尚、それはそれとしてムカつくので帰って来たら一発ずつ殴るか、みたいなことは考えているが。


「よし、まあ、その辺はこれでいいとして……まったく、あのアホ主神め……ちなみに、誰かアホ主神がどこへ行ったのか見つけた奴おる?」


 現状把握だけはしておきたいという思いからの問いかけだったのだが、誰も見つかっていないようで、首をかしげるばかり。


「神が地上に降りる際は、どのような姿であっても、神力を封じるので、見分けがつかないかと……ましてや、天照大御神様のような大神ともなると、人間の姿にもなれますので……正直、探すことは困難では?」


 と、美月が意見を口にすると、宇迦之御魂大神も含めて、他の神々があー、と苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 そう言えばそうじゃん……と。


「いやでも、ほら、アホ主神、ものすごい美人じゃから、多分見つかるって! なんとかなるって!」

「「「それはたしかに……」」」


 実際の所、天照大御神はかなりの美人。

 いくら人間の身に堕としたとは言っても、それでもとても美人なのだ。

 以前少々地上に降りる用事があったとかで下へ降りたことがあったのだが、その際なんて、神の時の姿と大差なかったので、結構大事になったことがある。

 さすがに今回はそこまでやらかさないだろうと思ってはいるが……とはいえ、美人であることは探すうえで重要なことである。


 あと、神は基本的に、動物の姿になるならともかくとして、人間の体にする場合は、元の容姿から大きく外れた様な姿にはならないのだ。

 女性の神であれば男性になることはできないし、その逆もまた然り。


 唯一の例外があるとすれば、肉体年齢だろうか。

 小さな幼子の姿から老人の姿まで、割と自由自在なのである。

 そのため、神々は地上に降りる際、好きな肉体年齢にすることがあるので……。


「「「や、やはり、無理難題過ぎるっ……!」」」


 というのが、神々の感想である。

 そもそも、天照大御神がどこへ降りて、どの年齢にしているのかわかっていない以上、探すにしても範囲が広すぎる。

 神様とはいえ、人の身に堕とした挙句、神力を完全に隠蔽して、更にはどの肉体年齢にしているのかもわからない以上、どうしようもない。

 つまり、人海戦術ならぬ、神海戦術を使用しなければならないほどに、とても面倒なことになっているのである。


「あのアホ主神、行き先を地上のみしか書かないとか……頭おかしいじゃろ……くそぅ、最近妙に口数少ないし、ぼーっとしてるなー、なんて思ったら、こんなことをするとか……くっ、長期休暇とか羨ましすぎるじゃろ!? 妾も休みたいが!?」

「しかし、天照大御神様が休まれていないというのも事実でしたし……」

「くっ、それがあるから無理矢理連れ戻しに行きにくいんじゃよなァッ!」


 元々、人間大好きな主神であるが故に、それはもう休むことをほとんどしなかった。

 そんな神が、いきなりとはいえ自発的に休暇を取りに行ったことはちょっと嬉しい。

 嬉しいのだが……それはそれとして、事前連絡くらい欲しかったよね! と、この場にいる神々は思った。

 ホウレンソウ、大事。


「……はぁ、嘆いていても仕方あるまい。あのアホ主神が帰って来るまでの間は、今まで通りに回すしかあるまい。あー、穴埋めのために、一年以上前から有休を入れていた神以外は、有休取り消し。後にボーナスを渡すので、全員働くように!」

「「「えぇぇーー」」」

「えぇぇーーじゃないわ! 妾も面倒なんじゃからな! 文句は、あのアホ主神が帰って来てから直接ぶちまけろ! さぁ! 仕事じゃ仕事――」


 と、話し合いをぶった切って、仕事へ行こうとした瞬間である。


「え、あっ、ちょっ! ま、まずいぞ!?」


 突如として、宇迦之御魂大神が慌てだした。


「宇迦之御魂大神様、どうかしたのですか?」

「なんか、またどえらい量の信仰が妾に来てる!? おい、美月、これおぬしにも行っとるよね!?」

「……うわっ、本当ですね!? え、なにこれ!? もしかして我が神子、また何かやらかした!?」

「だ、大至急! 大至急例の神子の情報を集めるのじゃー!」


 何やらただごとではないと察した神々は、急いで情報収集に入った。

 宇迦之御魂大神も現状把握をするべく、再び地上を覗いた。

 その結果……。


「な、なにぃ!? し、新規の容姿じゃとぅ!? し、しかも、すごい信仰が集まっとる!? 原因はあれか!? ってか、僅か一日やそこらで完成させたというのか……?! な、なんという恐ろしい人類がおったのじゃ!?」


 神薙みたまオルタが誕生していたことが原因であることが判明。

 しかも、いつぞやの100万人の規模と大差ない状況がそこにはあった。


「さすが我が神子。どのような姿、性格でも愛されている!」

「いや悠長に言っとる場合じゃないが!? というかこのパターン、最近も見たぞ!? ま、まずいっ、この莫大な信仰……あの時の二の舞になってしまう!?」

「正直ありかと思います」

「美月!?」

「いやほら、子供が一人増えるだけだと思えば……」

「だけってなんじゃだけって! 割と大問題じゃが!? ってか、短期間で神を二柱も生み出すとかしだしたら、いよいよもってあの神子、凄まじい存在じゃぞ!? 可愛いだけで神を生み出せる、規格外のバケモンじゃぞ!? いや、そこが最高なんじゃけど!」


 あまりにもとんでもない状況に、宇迦之御魂大神は大慌て。

 しかし、美月はそれはそれでありじゃね? とか思っている。

 可愛いが供給過多になってもそれは供給過多じゃないから、という矛盾しまくったことを思っているが。


「ぬぐぉぁぁあああぁぁぁ~~~~!? ど、どうする!? どうすればいい!? 正直、手遅れ感はあるぅ! ええい! 神総動員でなんとしてでも新たな神が生まれることを阻止するのじゃ! さすがに、二人目はマジで申し訳ない! 絶対、あの神子の所へ行こうとするからな!? これ以上、こちら側の不手際に巻き込むわけにはいかぬぅ! 故に! 手伝うのじゃあああああああ!」

「「「よっしゃ任せろ!」」」


 そうして、神総動員で新しい神が生まれるのを阻止するという、前代未聞の状況に陥った。

 果たして、新しい神が生まれるのを阻止できるのだろうか……。


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 というわけで、地上にバカンスへ行った主神と、またしても椎菜の娘ができそうになっているので、全力でそれを阻止に行く神の話しです。

 尚、神薙みたまと、神薙みたまオルタは別物として認識されちゃってます。故の今回の騒動となっているわけですが……いやー、これ、どうにかなるんですかねー。

 それから、この話はハロウィン回の後の話しなので、実はちょっとだけ未来。

 それと、失踪した主神ですが……実は、美月市近辺にいる可能性が高いです。どこ行ったんでしょうね!

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