#90 柊の悩み、すぐに解決

 ちょっとした質問があるので、答えていただけるとありがたい!

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 朝起きると、なぜかすっごく安らかな顔で死んだように眠っている小夜お姉ちゃんを起こして、朝食を食べた後、小夜お姉ちゃんはどこかふらふらとした足取りでお家に帰りました。


 ただ、


「おばーちゃん、いっちゃうの……?」

「ぐふっ……ご、ごめんね、みまちゃんっ……うちは、ここの家の住人じゃねぇんですっ……! で、でも、定期的に会いに行くから! それで許して!」

「……うぅ、わかった……やくそく、だよ?」

「当然! 命に代えてもその約束は守るよ!」


 という感じで、みまちゃんがすっごく寂しそうにしていたといいますか……けど、定期的に会いに来る、ということで決着が付きました。


 やっぱり、みまちゃん的には本当のおばあちゃん、みたいなんだろうなぁ。

 と、そんなことがありつつも、準備を済ませて学園に登校。


「おはよー」

「おっすー、椎菜ちゃん」

「はよーっす、桜木」

「おはよ! 椎菜ちゃん!」

「おはよう」


 クラスメートのみんなに挨拶を返してもらいつつ、僕は自分の席に移動して、一日の準備をする。

 それからちょっとして柊君と麗奈ちゃんの二人が登校してきた……んだけど……。


「……おはよう」

「おっはよー!」


 麗奈ちゃんはいつも通り元気に入って来たけど、柊君の方はどこか暗い……というより、何やら疲れた様な、じゃないね、寝不足っぽく見えるけど……。


「柊君、どうしたの? すごい顔だよ?」

「……いや、ちょっとな……」

「あたしも訊いたんだけど、この調子でねー」

「……詳しいことは昼休みに話すよ。ちょっと、相談しておきたい……」

「あ、うん。わかったよ」


 柊君が相談したいって言うなんて、よっぽどなんだなぁ……。



 それから特に大きなことが起こることはなく、お昼休みになって……。


「実は……なんか知らない内に、スカウトされてたんだ」

「「スカウト?」」


 いつものように、屋上でお昼ご飯を食べるために、適当な所にレジャーシートを敷いてお昼を食べ始めた直後、柊君が迷いが強く現れた表情でそう切り出しました。


「あぁ」

「スカウトってどこどこ? モデル? 俳優?」

「いや、そう言うのじゃないんだ……」

「そうなの? 柊君、どこからスカウトを?」


 柊君カッコいいし、てっきり麗奈ちゃんが言うように、モデルさんとか、俳優さんだと思ってたんだけど……。


「……スカウトされたってのは、まあ、なんだ……らいばーほーむ、なんだ」

「「……えぇぇぇぇ!?」」


 突然出て来た名前に、僕と麗奈ちゃんは一拍空けてから素っ頓狂な声を上げました。

 え、柊君がらいばーほーむにスカウト!? なんで!?


「どういうことなの、柊君!?」

「実は昨日、城ケ崎さんから電話があってな……」

「なんで!? あれ、皐月お姉ちゃんって柊君のスマホ電話番号知ってたっけ?」

「いや知らない」

「じゃあ誰が……?」

「愛菜さん」

「あー、うん。そっか……」

「椎菜ちゃん、すっごいアレな顔してるよ?」


 お姉ちゃんがそうほいほいと個人情報を教えるような人じゃないことは理解してるけど……だからこそ、柊君の電話番号を皐月お姉ちゃんに教えたことが気になる。

 というより、むしろ逆なような気が……。


「でも、どうして城ケ崎さんが高宮君に?」

「……話を聞いていた判明したんだが、ほら、前々から言われたが、四期生の募集があるかもしれないだろ?」

「あ、うん。そうだね」

「そう言えば前に、椎菜ちゃんの配信で公式が言ってたね?」

「あぁ。それで、一期生~三期生には、確実に一人は常識人と呼ばれるタイプがいる」

「うんうん」

「一期ではたつなさん、二期ではツンデレちゃん、三期はみたまちゃんだね」


 正直な所、僕って常識人枠なの? って思っちゃうんだけど……。


「それで、ほら、二期生は何と言うか……あの悲惨な有様だろう?」

「あー、そうだねぇ」

「悲惨って……」


 ミレーネお姉ちゃんは頑張ってると思うんだけど……。

 何気に二人とも酷いと思う。


「それで城ケ崎さんは思ったらしいんだが……みたまちゃん耐性を持っている奴じゃないと認めねぇ! ってなったらしく」

「僕の耐性って何!?」

「あー、なるほどね!」

「え、理解したの!?」


 みたまちゃん耐性って本当に何!? 知らないんだけど!?


「で、まあ……以前ぽろっと、椎菜が俺の話題を出したろ?」

「あ、うん、そうだね」

「さらには、つい最近の配信で、俺が普通にコメントをしていたところを見られたようでな。それで、まあ……らいばーほーむの社長に連絡が行って、俺が城ケ崎さんからスカウトをされた」

「な、なる、ほど?」

「へぇ! すっごーーい!」


 でも、たしかにすごい……!

 らいばーほーむはなんだかんだで、VTuber事務所でも、上の方ってよく聞くし、そんなところからスカウトされるなんて、さすが柊君!


「今、椎菜は俺のことがすごいとか思ったのかもしれないが、正直スカウトじゃなく、オーディションで入った椎菜が言えることじゃないからな?」

「あれ!? なんでわかったの!?」

「付き合いが長いからな」

「高宮君、それよく言ってるけど、それを言えば済むと思っている辺りはすごいよね」

「あえてボケるなら、付き合いが長いからな、私の好きな言葉です、みたいなところだな」

「高宮君、それ何か元ネタがあるの?」

「……いや、気にしないでくれ。恥ずかしくなってきた」


 麗奈ちゃんの純粋な問いかけに、柊君は手を顔に当てると、恥ずかしそうに顔を赤くしていました。

 言わなきゃよかったのに……。


「ともあれ、だ。色々あって今誘われててなぁ……どうしたもんかと」

「そっかー。高宮君としてはやりたいの? やりたくないの?」

「あー、そうだなぁ……」


 麗奈ちゃんの質問に、柊君は考える素振りを見せてからなぜか僕を見ました。


「……? 柊君、なんで僕を見るの?」

「……本音で言えば、興味はあるんだよ」

「あ、そうなんだ」

「あぁ。それに……椎菜の配信の光景を見ていると心配でな……」

「あー」

「え、どういうこと?」


 麗奈ちゃんは納得してるけど、どういうこと!?

 僕の配信が心配って何!?


「何度か身バレしかけて、しかもクラスメートには完全にバレてる。そんな配信をデビューから二ヶ月程度でしてると思うと……正直心配過ぎてな……いつかとんでもないことになるんじゃないか、と俺は配信を見ていて冷や冷やしているわけだ」

「それはあたしも思う」

「麗奈ちゃん!?」

「正直、愛菜さんも椎菜が絡んだ瞬間に頭がおかしくなるからな……だから、いっそのことらいばーほーむに入って、近くで椎菜のフォローをした方がいいのではないか、と思うわけでな?」

「あー、高宮君の言う事わかるかも」

「そうなの!?」

「うん。だって椎菜ちゃん、結構プライベートなことを言っちゃってるし……最初の頃とか結構危なかったよ? 今はマシにはなったけど、たまに危ないし……」

「え、そ、そうなの……?」

「あぁ。正直心配になる。とはいえ、最近の身バレの経緯は仕方ないが……」

「みまちゃんは仕方ないよねー」

「う、うぅ……」


 でも、言われてみれば結構危なかったのかも……。

 最初の頃とか、本当にバレそうだったこともあるし……。


「そういうことを考慮すると、入るのもありかな、と。あとはまぁ、面白そうだしな」

「そうだねぇ。普通はなろうと思ってもなかなかなれるものじゃないと思うし、個人勢としてやるにしても、イラストを描く技術がないときついし……そう考えると、最初から事務所所属で出来るならいいことだよね」

「まあな。というか……なんか、城ケ崎さんがやたら必死でな……。なんかこう、絶対に逃がさないという強い意志を感じたというか、圧迫感を感じたというか……な?」

「配信中、すごいことになってるもんね、たつなさんって」

「あぁ……正直、俺も見ていて不憫だと思うことも多々あったし、なんかこう……大の大人が必死に高校生を勧誘している姿があまりにも……可哀そうでな……」

「「それはそう……」」


 あの皐月お姉ちゃんが、年下の、それも高校生の柊君にそこまで必死になって勧誘してることを考えると、相当だよね……。

 それを考えると、可哀そうと思うのもおかしくないよね……。


「椎菜のこともあるが、同時にあの人の必死さがあまりにも不憫なんで、今は入る方に気持ちが傾いてる」

「じゃあ、柊君が入ったら僕の後輩さんになるね?」

「……なんか、椎菜が先輩って言うのは違和感だな」

「酷くないかな!?」

「あー、椎菜ちゃんってこう、庇護欲がすごいから、先輩って言うより後輩とか妹とか、そう言う感じにしか見えないよね」

「麗奈ちゃんも!? もぅ! 僕だって先輩っぽいところはあるよっ!」

「具体的には?」

「えっ? あ、あー、えーっと…………ご、ご飯を作ってあげること、とか?」

「椎菜、それは先輩っぽい所じゃない。おかんっぽいところだ」

「おかん!?」

「うん。椎菜ちゃん、今のはちょっと、先輩って言うよりお母さんだよね……こう、ちゃんと食べてる? 育ち盛りなんだからいっぱい食べないと! みたいな、そう言ってくるタイプの」

「僕のことを何だと思ってるの!?」

「「母性クソ強系妹キャラ」」

「なにそれぇ!?」


 僕、二人にそんな風に思われてたの!? 初めて知ったよぉっ!

 なんだかショックというか、変な思われ方をしていたことが複雑です……。


「あと、僕はそこまで母性強くないよ?」

「……じゃあ聞くんだが、椎菜。膝枕は好きか? あぁ、する方な」

「え? うん。好きだよ~。あと、ついつい頭を撫でたくなっちゃうね」

「みまちゃんに対しては?」

「みまちゃんは……僕の娘だし……美味しい物を食べさせてあげたいし、好きなだけ甘えてほしいかな?」

「「お母さんじゃん」」

「ふぇぇ!? そ、そんなわけっ!?」


 で、でもでも! 膝枕が好きなのってそんなに変じゃないよね!? だって、してるとすっごく心がぽかぽかするんだよ!? すごくいいと思うんです!


「無自覚か……まあ、ある意味そこがいいんだがな」

「うん。むしろ、自覚した椎菜ちゃんは椎菜ちゃんじゃない」

「えぇぇ……」

「……ともかく、だ。俺としては入りる方に気持ちが傾いてはいるものの、本当にいいのか、と思うわけでな」

「話をぶった切ったね、高宮君。まあでも……うーん、そうだねぇ、VTuberだもんねー。普通の配信者でもそうだけど、やっぱり特殊だからねぇ。誹謗中傷もあるし……底と向き合わなきゃいけないじゃん? らいばーほーむはそう言うの少ないし、事務所もかなりしっかりしてるけど。でも、高宮君は男子だから、何か言われそう」

「あー、まあ、そこはもう仕方ないからいいんだが……」

「いいんだ」


 柊君強い……!

 僕は……もしもそういうコメントとか見つけちゃったら、傷つくかなぁ……まあ、それ以上にお姉ちゃんが怖くなりそうだけど……。

 お姉ちゃん、知らない間に色々してるみたいだし……見たことはないんだけど。


「ただなぁ……俺も胃痛に悩まされそうでなぁ……あと、クラスメートに絶対バレる」

「「あ」」

「椎菜がバレている以上、間違いなく俺は速攻で身バレするだろう……まあ、そこはもう割り切るしかないんだが」

「い、いいの?」

「まあな。むしろ……同情されそうというか……」

「高宮君、間違いなく常識人枠だもんね……あと、四期生の男性ライバー枠にもなるのかな?」

「そうだな。だからこそ、余計な心労も増えそうというか……あとは、あれだ。絶対俺、一期と二期の男性ライバーの二人に巻き込まれるだろ、配信」

「たしかにそうかもねー。というか椎菜ちゃん、あの二人とは配信しないの?」

「僕? あ、うん、一応予定はあるよ?」


 なんとなしに麗奈ちゃんに訊かれたので、僕はそう答えました。

 すると、柊君がなんとも言えない表情で口を開くと、


「椎菜、それ言っていいのか?」


 そう言って来ました。

 ……あ。


「ご、ごめんね!? 今のは忘れて!?」


 い、いくら仲がいいとは言っても、こういうのは漏らしちゃだめだよぉっ! 僕ぅ!

 慌てて忘れてと言ったら、二人はすごく苦笑い。


「……こういう姿を見ると、本当にこう……入った方がいいんじゃないか、と思わされるよ」

「うん、高宮君、これは入った方がいいと思う。あたし、応援するよ」

「そうか…………まぁ、こんなチャンス、早々ないだろうし……入るとでも言っておくか。さすがに面接とかはあるだろうが……」

「あ、柊君入るの!?」

「あぁ。なんかもう、椎菜がどんなタイミングでドジを発揮するかわからない以上、入った方がいい気がしてな……あと、日常的なサポートも今まで以上にできそうだし……」

「うぅ、ご迷惑をおかけします……」

「いや、気にするな。好きでやってることだ。じゃなきゃ、ここまではやらないさ」

「柊君……! 本当にありがとうっ!」


 持つべきものは、幼馴染で親友の、頼りになる男の子だよね……!

 昔から助けてもらってばかりだし……いつか、柊君に何かしてあげたいなぁ……。

 でも柊君、何をされたら喜ぶんだろう?


「まあ、本当に入れるかはわからないがな。俺自身。そこまでの強い個性があるわけじゃないしな」

「高宮君。そもそも、椎菜ちゃんの可愛すぎるあれこれを見て、鼻血も吐血もしない時点でクソ強個性だよ?」

「それは個性でいいのか……?」

「麗奈ちゃん、地味に酷くないかな……?」


 僕の扱いって……。



 それから何事もなく一日も無事に終わり、お家に帰宅。

 いつものようにみまちゃんが抱き着いてきて、甘えさせてあげながら、僕はお部屋へ戻ると、寧々お姉ちゃんから電話が。


「もしもし、寧々お姉ちゃん?」

『もしもーし! 椎菜ちゃん、明日の配信の約束、憶えてる?』

「あ、うん! もちろん! 14時に寧々お姉ちゃんの住んでるお家でいいんだよね?」

『イグザクトリー! あたし、明日本当に楽しみにしてたからね! 何気に、初めてのタイマンコラボだから!』

「あ、そう言えば千鶴お姉ちゃんだけだったっけ、三期生は」


 なんだかんだ、一期と二期の人との配信が多かった気がするし……うん、三期のみんなともいっぱい配信しないと!


『そうそう! 苦節二ヶ月! 待ちに待ったぞ! 明日はめいっぱい楽しもうね!』

「うん! でも、明日って何やるの?」

『ふふふー、それは明日のお楽しみだぞ! まあ、ヒントをあげると……ゲーム配信!』

「ゲーム配信かぁ。僕、最初の頃に一階ホラーゲームをやったきり、やってなかったなぁ……」


 本当はもっとやった方がいいのかもしれないけど、雑談配信が好きなんです。

 楽しいもん。


『そういえばそだね。あ、近々デスクラのらいばーほーむサーバーが開設されるみたいだし、これを機にやってみれば?』

「デスクラ……えーっとたしか、デストロイクラフト、だっけ?」


 ブロックの世界で建築とか冒険が出来る作品だったっけ。


『そうそう。椎菜ちゃんはやったことある?』

「んーと、携帯ゲーム機で昔ちょっとだけ」

『そうなの? その時何してた?』

「えーっと……空に土地を作って、落ちると回転してるように見えるタワー? みたいなものを作ってたかなぁ」

『お、おう、それでちょっとなんだ……まあいいや! 基本出入り自由らしいから、今度実況してみたら?』

「うん、確かに楽しそう!」


 ゲームは軽く触れる程度しか今までやって来なかったけど、これを機にやってみるのもいいかも!

 それに、らいばーほーむのサーバーなら、いろんなことが出来そうだし……うん、寧々お姉ちゃんの言う通り、いっぱいやってみよ!


『というわけなので、明日は14時ね! LINNの方に地図を送っておくね!』

「うん! 明日はよろしくお願いします!」

『こちらこそ! じゃあ、また明日だぞ! おやすみ!』

「おやすみなさい!」


 と、通話が終了。

 明日は寧々お姉ちゃんとの配信があるし、早く寝よう。


 あ、どうせならお菓子でも作って行こうかな。クッキーなら簡単に作れるし……うん、朝作って持って行こう!


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 実は投稿時間を変えようかと思ってます。

 現在は12時ですが、別にもう少し早めてもいいかも? と思っており、この時間がいい! みたいなものがあれば、言っていただけると幸いです! 現状では、前みたいに10時に戻す可能性が高い。あ、もっと早い方がいい、ってのでもいいので、遠慮なく言っていただければ!

 あと、次回は配信回です。移動の部分はカット! そろそろ、ハロウィンの話やりたい! 男二人と絡ませたい!

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