閑話#20 主神様の暴走

「えー、なので私は彼女にこれを送ろうと思うのですが、いかがですか?」

「いかがですか、じゃありませんよ!? いけませんっ!」


 神たちが住まう場所、神界にて。

 そこには数多くの神たちが集まっており、その中で一柱の神……というか、美月が手元にアメジストのように綺麗な紫紺色の宝石らしきものが付けられた、ミサンガのようなものを見せながら、目の前にいる神の一柱にいかがですかと尋ねると、神……というか、天照大御神が怒った。


 天照大御神は、黒髪ロングの、大和撫子と評すべきとても美しい女性であった。慈愛に満ち溢れた顔をしており、日ノ本子供たちのことを愛する神である。あと、現状では日ノ本の神のトップだ。そんな天照大御神は、巫女服に近い形状のどこか神々しさを感じさせる衣服に身を包んでいる。

 あと、スタイルはいい。


「なぜじゃ!? 別いいじゃろ!? 幼女百合じゃぞ!? なぜだめなのじゃ!? 天照よ!?」


 そんな天照大御神の却下に、宇迦之御魂大神が食い下がる。


「いやどう考えてもダメだと思いますよ!? そもそも、あのとても愛らしい美月の神子さんがきっかけで、我々にとってそれはもう愛する以外の選択肢が存在しない新たな神が生まれた挙句、その新神を下界に降ろしてあの神子さんの元へ行かせて仲睦まじい母娘関係を築かせるなど……よくやりました!」

「天照大御神様、あの、本音が漏れてます」


 途中までは険しい顔をしていたのに、最後の方はにっこり笑顔で褒めた天照大御神に、側使の神が苦い顔をしながらツッコミを入れた。


「あ、ごめんなさい。つい……。こほんっ! と、ともあれ、です! あの神子さんは我々の加護があるため、あの神具をお送りすることを許可しましたが……相方とも言うべき、あの少女には加護を付与してはおりません。そもそも、神が下界に干渉しすぎるなど、もってのほかなのです」

「では、神薙みまに何らかの災いが起こった時は?」

「全力で守護ります」

「天照大御神様! せめて! 自分の意見は一貫させてくれませんかねぇ!?」

「無理です。あの娘は全力で守護らなければならないとても可愛らしい少女ですから」

「では、我が神子は?」

「守護ります。絶対に死守します。命に代えても守護ります」

「「「えぇぇ……」」」


 真顔で断言する自分たちのトップに、他の神々がマジかよこいつ、みたいな反応を零す。

 思いっきり私情挟まってるじゃん、というのが大体の感想である。


「天照大御神様。あの少女は我が神子故、命を賭けるのならば私なのですが」

「そのようなことは百も承知です。ですが、私もあの少女は目をかけていました。あぁ、いえ。元は少年でしたか。あの子は今時珍しいほどにとても純粋な子供でしたし、とても優しい子供でした。私自身も、美月が気に掛ける少し前から見ていました。正直に言えば、私が加護を、と思いましたが……」

「「「絶対にやめてください!?」」」

「はい、そのように言われると思ったので、やめました」


 加護を与えるつもりだったと告げると、その場にいた神々に全力で止められた。

 天照大御神の方もそうなることは予想していたので、にっこり微笑んでやめたと返すと、他の神々は目に見えてほっとしていた。


「しかし、私としては是非とも、あの素晴らしい光景を現実でも見たく思っているのです。故に、許可を! 許可をいただきたくっ!」

「妾からも頼む! 絶対に可愛いって! 見たら鼻血もんじゃって! 吐血するって!」

「神が鼻血とか吐血とか言いませんっ!」

「でも天照大御神様、あなたもあの配信を見て鼻血を流していましたよね?」

「いえ、あれはあの神子さんとあの少女が可愛すぎるのがいけません」

「責任転嫁じゃ! 責任転嫁しとる!? おぬし、それでも神々のトップか!?」

「いいじゃないですか! 私だって鼻血くらい流しても!」

「そう言う問題ではないと思うんですが!」

「というか、あの配信を見ている時の天照大御神様、相当だらしない顔になっていましたよ?」

「そんなまさか!?」

「いえ、本当になっていました。宇迦之御魂大神様、どうでした?」

「すっごいにやにやしてたのう。あれはないじゃろ」

「私も見ましたが、あれが主神の姿とか認めたくないです」


 宇迦之御魂大神と美月の両名にないわと言われ、その他の神々も見ていた者はうんうんと頷き、見ていなかった者はドン引き。

 これは酷いという有様であり、天照大御神はぷるぷると顔を赤くしながら震えだし、


「い、いいじゃないですかぁ! わ、私だって、普段の仕事が忙し過ぎて大変なのですよぉっ! 私だって、私だってっ…………可愛い女の子の尊い姿を見て、癒されたっていいじゃないですかぁ~~~~~~~~~~~~っ!」


 魂の叫びとも言うべき、慟哭が放たれた。

 これに対し、神々は若干引いた。


「いや、あの、それが主神じゃないですか」

「主神だから!? 私! 相当頑張っていますよね!? 日ノ本以外の国々の神と話し合いをしたり、異なる世界の問題がこちらに波及しないように頑張ったり、妖魔やら精霊やらが間違って下界に降りてきて問題を起こさないようにしたり! 私、相当頑張っていますよね!? ね!?」

「「「まあ、それはそう」」」

「でしょ!? だから、私が配信を見て癒されてもいいと思うのです!」

「あ、ハイ」

「すんませんした」

「天照大御神様はいつも頑張っております!」

「本気で尊敬するっす!」

「そうでしょう!? ですので、美月の提案は却下としま――」

「「「それは許さん」」」

「あれぇぇ!? 今絶対、諦める流れでしたよ!? なぜ許されないのですか!?」


 この流れなら納得される、そう思った天照大御神だったが、却下することを告げると他の神たちがなぜか許さんと異口同音に言って来た。


「そもそも、あの少女には加護がないじゃないですか!」

「じゃあ加護あげればよくない?」

「たしかに。問題になってる理由がそれならそう」

「よし、じゃあ誰かが加護を上げる方向で行こう」

「ちょっと待ってください!? そうホイホイと加護は上げるものじゃありませんよ!? 第一、他の方々が不公平になってしまいます!」

「「「たしかに」」」

「そうでしょう? だから――」


 天照大御神の言い分に、納得したという表情と言葉を返した他の神々たちを見て、説得完了……と思ったのも束の間。


「ならばいっそ、あそこで配信をしている者たち全員に加護を授ければよいのでは?」

「「「それだ!」」」

「それだじゃないですよ!? いやどう考えても問題! 問題でしかありませんって!」

「となると、誰が誰の加護を担当するか、か」

「まあ、最悪兼任でもいいんじゃないか?」

「そうじゃな……とはいえ、このリリスという少女とたつなという女性は、芸能系を司る神がいいじゃろうな。配信以外の事柄も含めて」

「うぅむ、私には我が神子がいる以上、辞退としよう」

「そりゃそうだ。美月には既に最高の神子がいるんだし、これ以上はずるい」

「となると――」


 などと、主神である天照大御神を放置して、誰が誰に加護を与えるかで話し合いが進む。

 神たちの間では、らいばーほーむのライバーたちに加護を与える前提で進んでおり、この子供にはこれが合いそう、こっちにはこれ系が、じゃあこっちは、と話が盛り上がる。


「あ、あのー、みなさん? 聞いてます? おーい、私主神ですよ? おーい! おーーーーい! ……ぐすん、私って、必要ないのですね……」


 自分の言うことを聞くどころか、主神である自分をそっちのけで和気藹々と誰が誰に加護を授けるかで話し合う姿を見て、神々に声をかけるもそのこと如くが無視されてしまい、天照大御神はちょっと泣き始めた。


「……うぅ、誰も心配してくれません…………こ、こうなったらぁっ……私も参加しますっ! あなたたちが楽しそうに話をしている姿が癪です! もう決めました! あの子供たちには、私の全力加護をぶん投げますからねっ!」


 そして、色々と不満が爆発した天照大御神は、他の神々のことをガン無視して、自分があの子供たちに加護を付けてやると宣言。


「「「それはやめて!?」」」


 そうすると、和気藹々と話し合っていた神々は全力でそれを阻止するべく立ちふさがった。


「何を言いますかッ! 私の加護以上に加護っているものはありません!」

「だからアウトなんじゃ!」

「天照大御神様の加護とか、とんでもないことになりますのでおやめください!」

「美月の加護ですら、大きな効果が出てるんです! 主神の加護など、もってのほか! それこそ、世界的な何かになる恐れが高くなりますし、下手をすれば、宝くじの一等を連続して当てに行くような珍事になりかねません!」

「別にいいじゃないですか! 幸運になるだけです!」

「幸運になるだけどころか、下手したら、バランスが崩れるじゃろ!? ただでさえ、てぃーえす病などという、異界が原因の現象が発生しているのじゃ! これ以上超常的な物を付与すれば、バランスが崩れる! それこそ、くっつくぞ!?」

「私如きの加護で崩れるわけがありません! 異界間結界のバランスは盤石! 私の加護が十二名程度に付与されたところで、崩れはしません!」

「そう言う慢心が一番怖いんじゃけど! それから、日ノ本以外の神々もその辺りは自重しておる! おぬしは主神なんじゃ! もうちっと自重しろ!」

「いーやーでーすーっ! もともと、あなたたちが私の言うことをちっとも聞かないのが悪いんですぅ~~~~~~~! 私は社長! あなたたちは管理職! 私はっ、私の言うことを聞かずっ、楽しそうに和気藹々と話し合う姿が許せないとかじゃなくて、ただ! ただそうっ! あの事務所がもっと上手く行ってほしいからで!」

「「「絶対私情じゃんッ!」」」

「そ、そんなわけありませんがぁ!?」


 などなど、主神とその他大勢の神、という謎の言い争いが勃発してしまった。


「なので! 私は全力で加護を付与しますっ!」

「あほかおぬし!? くっ、皆の者! 全力で天照大御神の蛮行を止めるのじゃ! 一つ間違えれば、間違いなくえらいことになるのは明白! それこそ、天変地異の可能性もある! なんとしても阻止じゃーーーー!」

「「「おーーーっ!」」」

「やってやりますっ! やってやりますからねーーーーーーーーーー!」


 そうして、暴走を始めた主神と、その主神に対抗するべく全力で止めに行くことを決めたその他大勢の神による、クッソしょうもないのに、世界の危機になる可能性がある戦いが始まった。



 この争いの結果は、ギリギリで天照大御神が勝利。

 しかし、大規模戦闘で頭が冷えたのか、全力加護はやめて、比較的軽めの加護(それでも相当ヤバ目な加護だが)を全員に付与することで決着。

 そして、加護を付与してしまったので、リリスへの贈り物も確定してしまうのだった……。


 あと、この戦いが原因で、実は下界にちょっとだけ影響があり、季節外れの超大型台風が発生してしまったが、それに気付いた神が慌てて消したことで事なきを得た。


======================================

 結果、らいばーほーむがとんでもないことになりました。以上!

 尚、リリスのもとに、後日、ミサンガが本当に届きました。地味にデザインが気に入ったようで、受け取り後は付けているそうです。尚、変身できることはまだ知りません。

 ちなみに、椎菜に至っては加護が二つになってしまったので、とんでもない存在になってしまっていますが、椎菜なので問題なし! 多分ね!

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