#88 なんてことない食卓、謎に熱弁するわたもちママ
「美味しい!」
それからしばらくして、無事に起きた小夜お姉ちゃんを交えて、六人で夜ご飯に。
今日の献立は、唐揚げとシーザーサラダ、お味噌汁、ご飯だったんだけど……急遽、レバニラ炒めも作りました。
リクエストしたのはお姉ちゃん。
なんでも、
『失った血の回復はこれが一番っ!』
だそうです。
お姉ちゃん、そうだもんね。
と、そんな僕が作った唐揚げを小夜お姉ちゃんが一つ食べると、満面の笑みで美味しいと言ってくれました。
「えへへ、ありがとう」
「いやー、出張みたま家事サービスで先に受けたあの二人が美味しい! って言うし、初期の頃にみたまちゃんお手製のお弁当を食べた他の三期生の三人も美味しいって言ってたから、気になってたんだよね! うん! すっごく美味しいです!」
「そこまで言われると照れちゃうよ」
けど、やっぱりそうやって褒められるのはすごく嬉しい。
「おかーさん、これ、おいしー」
すると、横でレバニラ炒めを食べたみまちゃんが小さく笑いながら美味しいと言ってきました。
「そう? よかったぁ。けど、みまちゃんレバー食べられるんだね?」
「そう言えばそうねぇ。子供ってレバーが苦手な人が多かったと思うけど」
「おいしー、よ?」
「うんうん、みまちゃんは是非とも、好き嫌いが少ない大人に育ってほしいね。まあ、椎菜の娘である以上、苦手な物は遺伝してそうだが……」
「あ、あははは……みまちゃん、甘い物が苦手なんだよね……」
「そう言えば椎菜ちゃんも、配信でそんなこと言ってたね! ほへー、うちの孫のみまちゃんも苦手なんだ」
「ん……にがて……」
「まあ、それは仕方ないよ。でも、甘い物が苦手でも、困ることはあまりないからね」
「そうだね。むしろ、虫歯になりにくいとかありそう。もちろん、歯磨きは必須だけど」
「まぁ、糖分が多い物を好まないってなると、甘いもの好きな人よりはなりにくそうよね~」
なんて、そんな会話をする。
実際の所、虫歯ってこう……甘いものをたくさん食べるとなりやすいイメージがあります。
とはいえ、それも原因の一つではあるとは思うけど、大体はちゃんと磨けていなかったり、間食が多かったり、あとはよく噛まない場合でもなりやすいとか。
虫歯は痛くなると大変だし、みまちゃんにはそうなってほしくないからね。
……でも、神様って虫歯になるの?
「あのー、うちちょっと疑問に思うんですが、神様ってそもそも、病気になるんで? 虫歯とかもそうだし、風邪とかウイルス性のものとか」
そんな僕と同じ疑問を抱いたみたいで、そう言って来ました。
「そういえばそうね……」
「言われてみれば、初孫でテンションが爆上がりしていたが、そもそもみまちゃんは虫歯になるのか……?」
「うーん、体の構造的に、そもそも人間かどうかも怪しいよねぇ。そもそも、神様って超常的な存在! ってイメージがあるしなー」
「そう、だよね……ねぇ、みまちゃん」
「もきゅもきゅ……こくんっ。なぁに?」
「みまちゃんって、病気になるの?」
「びょーき?」
「うん。病気」
こういう時は、本人に直接聞いちゃった方が早いよね?
とはいえ、みまちゃんがその辺りわかっているのかどうかはあるけど……。
「んーとね、宇迦之御魂大神様が、したにおりたら、かみのからだでも、ひととおなじようにびょーきになるから、きをつけてー、っていってた、よ?」
「「「「「なるんだ……」」」」」
そっかー……神様でも病気になるんだ……。
でもその言葉からして、下に降りたら、って言ってるから、神様たちが暮らしている場所では病気がないのかも。
「でも、みまがなるのはやだー、っていってて、なりにくいようにしたー、っていってたよ?」
「神様、メッチャ過保護じゃん」
「それ、やっていいのね」
「なんと言うか、超常的存在のはずなんだが、ただの子供に甘い大人みたいじゃないかい?」
「うち、神様の存在を知ったのついさっきだけど、既にこう、すごい存在に思えねぇんですが……」
「いやまあ、みまちゃんが可愛すぎるし、そもそもみまちゃんが病気になったら……ねぇ?」
「「「それはそう」」」
お姉ちゃんの言葉に、お父さんとお母さん、それから小夜お姉ちゃんが異口同音にそう返しました。
なんと言うか、その……小夜お姉ちゃん、すぐにおばーちゃんになっちゃったんだなぁって……。
受け入れないより全然いいんだけどね。
「あ~~~……それにしても、このレバニラ炒めおいし~……なんだろう、血が生成されていくのがわかるぅ~……」
「おっ! 小夜ちゃんも感じる!?」
「そりゃもう! というか、ナチュラルに美味しい。臭みもねぇですし!」
「うんうん、椎菜ちゃんの手料理はいつも気遣いに溢れているからね! ほらほら、どんどん食べて食べて!」
「もっちろんです!」
二人はすっかり意気投合したみたいで、仲良くお話しながらご飯を食べていきます。
見ていて気持ちがいいくらいの食べっぷりに、僕は笑みを零しながら、ご飯を食べました。
◇
ご飯を食べ終えて、僕のお部屋。
「あのー、うち、泊まっていっていいの?」
ベッドに並んで座りながら、小夜お姉ちゃんはどこか困ったように笑いながら泊まっていいかどうかを尋ねて来ました。
「もちろん。今から帰るのも大変でしょ? それに……」
「おばーちゃん、もっといたい……」
「みまちゃんが、まだ小夜お姉ちゃんと一緒にいたいみたいだし」
ちらりと小夜お姉ちゃんのすぐそばに視線を向ければ、そこには小夜お姉ちゃんにひしっ、と抱き着くみまちゃんの姿が。
初めて会うおばあちゃんにかなり甘えてるようで、まだ一緒にいたいそう。
「……うち、可愛すぎる孫が出来て死ぬよ? また死ぬよ? さっきは、三途の川で橋を渡ってる時に、橋から飛び降りてバタフライで戻って来たけど、次やったら死ぬよ?」
「三途の川!?」
「うん、三途の川。いやぁ、気が付いたら橋を渡ってて、意識がはっきりした瞬間に橋からダイナミック飛び込みして、そのまま全力バタフライで川岸に戻った」
「あの、三途の川って泳げるの……?」
「うちが泳げたから泳げるんじゃねぇですかね?」
「あと、なんで橋を引き返すんじゃなくて、飛び降りたの……?」
「いやなんか、引き返そうとした人が捕まって強制的に橋を歩かされてたんで、うちはそれから逃れるべく、橋を飛び降りたんですね」
「そ、そうなんだ」
……神様がいる以上、三途の川って本当にあるのかも……というより、天国と地獄も実在してるのかもしれないね。
「ちなみにうちはどこで寝れば?」
「たしか、来客用のお布団があったはずだけど……」
「それならうちは、椎菜ちゃんの部屋に布団を敷いて寝てもいい?」
「もちろん。でも、小夜お姉ちゃんはそれでいいの? お姉ちゃんのお部屋もあるけど」
「いやー、愛菜さんと同じ部屋って言うのもいいんだけどねー」
「……おばーちゃんも、いっしょ……!」
「こんな感じで、みまちゃんが全力阻止しそうなんで」
「あー」
みまちゃん、すっかり小夜お姉ちゃんに懐いちゃったみたいだし、これは小夜お姉ちゃんの言う通り、僕のお部屋じゃないとちょっと泣きそうかも。
「問題点があるとすれば、みまちゃんがどっちで寝るか、って言う事じゃねぇですかね」
「どういうこと?」
「んー、この感じだと……みまちゃん、みまちゃんは今日、うちと椎菜ちゃん、どっち一緒に寝てぇですか?」
「んぅ? おかーさんと、おばーちゃん」
「それは……二人と一緒、ということかな?」
「うん」
「だ、そうです、椎菜ちゃん」
「な、なるほどー……」
そっか、みまちゃんは三人で寝たいんだ……。
しかも今、即答してたよね?
本当に小夜お姉ちゃんのこと、好きなんだなぁ……。
「どっちかだけは嫌なの?」
「……いっしょが、いい。ばらばらは、や……」
あ、これは本気ですね……。
「小夜お姉ちゃん。小夜お姉ちゃんが良ければ、一緒に寝る……?」
「え」
「ほ、ほら、みまちゃんが一緒が良いって言ってるし……そ、それに、僕もみまちゃんも、小夜お姉ちゃんも全体的に小さいので……」
僕は138センチで、みまちゃんは100センチちょっと。
小夜お姉ちゃんは多分140センチ半ばくらいだから……本当にみんな小さい……。
それに、僕が使っているベッドって、少し大き目だから、三人寝ても多分大丈夫だと思うし。
「ほ、ほほう……いやでもそれ、うちは一向に構わねぇですけど、椎菜ちゃんはいいんで? こう言っちゃなんだけど、うちと椎菜ちゃんは初対面だよ? 配信では一度だけコラボしてるけど、あれはオンラインだったし」
「そこは大丈夫かなぁ」
「その心は?」
「お姉ちゃんが小夜お姉ちゃんのことを警戒してなかったから、かな」
「え、どゆこと……?」
「お姉ちゃん、直感がすごくて、僕に合わせられない! って思った人はそもそもお家に入れることを拒否するし、大丈夫だと判断しても、お部屋に入れない場合もあるから」
「え、愛菜さんって人間?」
「人間だよ!? ……多分」
「椎菜ちゃん、そこは言い切った方がいいと思うよ、うち」
……だってお姉ちゃん、たまにおかしなところあるもん……。
「まあ、それはそれとして……椎菜ちゃんがそう言うなら、そうさせてもらおっかな!」
「うん。その方がみまちゃんも喜ぶよ」
「んぅ、いっしょ?」
「うん、一緒だよ~」
「今日は一緒に寝ようね!」
「わぁいっ」
「「可愛い……」」
嬉しそうに破願するみまちゃんはやっぱり可愛い……。
出会ってから一週間も経ってないけど、こう、母性がすごくくすぐられると言いますか、世界一可愛い、そう思えてきます。というより、そう思ってます。
みまちゃんは可愛い!
「あ、小夜お姉ちゃんのお着替えだけど……」
「そういえばそうだった。どうすればいいですかね?」
「とりあえず、お母さんのお洋服が多分着られると思うので、それを着てね、ってお母さんが」
「いやでもうち、椎菜ちゃんのお母さんほどおっぱいおっきくないよ?」
「ゆったりめのワンピースだから大丈夫! って」
「あ、そういうのなんだね。じゃあOK! ありがたく、使わせてもらうぜぇ!」
「下着は……えーっと、その、申し訳ないんだけど、下は、その……ぼ、僕ので……」
「はい!? え、あ、いや、それはさすがに申し訳ねぇんですが!? というか、ほぼ初対面のうちに、パンツ貸すってとんでもねぇですよ!?」
「で、でも、サイズが合いそうなの、僕のくらいなので……さ、さすがに、穿かないわけにはいかない、と、思うし……」
お母さんだと、ちょっと合わないし……一番近いの、僕だからね……。
さすがに恥ずかしいけど、穿かない状態はさすがに申し訳ないので……。
「椎菜ちゃん。いいかい?」
「ふぇ? あ、うん」
「うちはね……推しのパンツを借りて穿くくらいだったら、死を選ぶッッッ!!!」
「なんでぇ!?」
「いやだって! うちで推しのパンツを汚したくねぇですよ!? 推しは尊い! 推しは清楚! 推しは綺麗! 推しは純粋無垢! そんな推しのパンツを、うちという汚物で汚すとか……世間は許してくれませんよ! 故に! うちは、推しのパンツを死んでも穿かんッッッ!!!」
「そんなになの!?」
「そんなになんです。推しを持つとは、そういうことなんです」
「僕は小夜お姉ちゃんの言ってることがよくわからないです……」
あと、さりげなく僕のことを推しって言って来てるんだけど……す、すごく照れちゃう。
嬉しいけどね。
「というわけです。なので、できれば椎菜ちゃん以外の方の下着を借りられると……」
「あ、う、うん。じゃあ、お姉ちゃんに訊いてみます……」
「ありがとう!」
小夜お姉ちゃんってその、すごく面白いというか、不思議な所があるんだなぁ……と、僕は今日知りました。
結局、下着については、たまたまお姉ちゃんが小さい頃に使っていたものが綺麗な状態で残っていたので、それを穿くということで決着が付きました。
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現在の神様の方の話。
修学旅行中に発生した『ロリピュア事件』のせいで、熱烈なリリみた推しが現れ、中には椎菜と同じようにリリスの姿になれるアイテムを送ろうとしているバカがおります。バカの名前は美月です。全力で止められておりますが、正直賛同者が多すぎてえらいことになってる。あと、神様方はみまに対して超過保護になっており、仮にみまが何らかの事件やら事故に巻き込まれようものなら、下界に影響が出ない範囲で干渉するつもりです。
ちなみに、誘拐なんてことをしようものなら、神の天罰もそうですが、ブチギレた椎菜がにっこり笑顔で襲い掛かってきます。再起不能になるレベルのことをする可能性大。というかする。
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