#87 テンションが上がるおばーちゃん(19歳)、再び死亡(ギリ生きてます)

 小夜お姉ちゃんを何とか起こして、リビングへ案内後、向かい合って座ると、


「えー、はい……その、いきなり玄関先で吐血+鼻血をしてしまい、すみませんでしたッッッ!!!」


 深々と僕に頭を下げて謝罪の言葉を言って来ました。


「あ、き、気にしなくていいから! すぐにお掃除したし! それに、その、僕もまとめて言い過ぎちゃったから……」


 今回のことは、僕も悪いと言うか、全面的に僕が悪いと言いますか……まさか、その、あんなことになっちゃうとは思わなかったから……。

 あ、ちなみになんだけど、今リビングには僕とお姉ちゃん、みまちゃん、小夜お姉ちゃんだけで、お父さんとお母さんはお買い物に行ってます。


「おばーちゃん、だいじょーぶ……?」

「んぐふっ……だ、だいじょうぶ、だぜぇ……み、みま、ちゃん……!」

「ほんと……?」

「ほ、ほんと」

「ん、よかった……」


 と、小夜お姉ちゃんが倒れる原因の一つとなったみまちゃんは僕の所じゃなくて、小夜お姉ちゃんのお膝の上に座っていました。

 初めて対面したおばあちゃんに甘えたいみたいで、今は小夜お姉ちゃんのお膝の上で嬉しそうにしています。

 可愛い……。


「いやー、まさかこうなるとはねぇ。予想通りと言えば予想通り?」

「お姉ちゃん、予想してたの?」

「まあね。というか、わたもちさんの配信時の反応からして、みまちゃんの存在と、椎菜ちゃんがみたまちゃんになれることを知ったら、そりゃあ死ぬかなぁって」

「さ、さすがひかりさん……! なんと言う慧眼! うちじゃ絶対に勝てねぇですよ……!」

「あ、今はリアルなので、愛菜、でいいよー。私は小夜ちゃん、って呼ばせてもらうから」

「どうぞどうぞ! じゃあ、愛菜さんで!」


 二人はお互いに呼び方を決めると、にこやかに笑い合いました。


「ふぅ……ようやく落ち着いたぁ……んで、事情説明プリーズ! うち、もうわけがわからないから!」

「あ、うん。えーっとね――」


 落ち着いたところで、事情説明を求められたので、僕は事の経緯を説明。

 小夜お姉ちゃんは、知らず知らずのうちにこっちに巻き込まれていたような形になるので、濁すことも一切せずに、今回の一件のことを全部説明しました。


「――というわけです」

「ふむふむ、なるほどなるほど……うん、わからねぇです!」

「「デスヨネー」」


 満面の笑みでわからないといわれて、僕とお姉ちゃんも笑顔でそう返した。


 僕も反対の立場だったら信じられなかったよね、これ……。


「いやもう、神様の話しだけでもぶっ飛んでんですが。うち、一般人ぞ? ファンタジー世界の住人じゃねぇですよ!? 100歩譲って、みまちゃんの存在は認めるとして」

「そこは認めるんだ」

「そりゃそうですよ!? こんっっっっなに! 可愛い孫ですよ!? 認知しないとかありえねぇですよ!? しかも! こんなにうちに懐いてくれているとか、無理! 認知しないとか無理ぃ! うちはこの娘のおばーちゃん!」

「おおう、吹っ切れたねー」

「さ、小夜お姉ちゃん、すごいね……」


 力強く言い放つ小夜お姉ちゃんは、すごく、強かったです。

 僕のお母さんとお父さんたちがみまちゃんと初邂逅した時の状況にそっくりだよね……。

 すっごくデジャヴ。


「でも、神様……神様かぁ……みまちゃんは信じるけど、神様はなぁ……」

「みまちゃんも神様だけど?」

「……そこは聞いたけども」

「というか、今の椎菜ちゃんの姿を見て、信じられないと?」

「ちょ、超速い早着替え、的な?」

「ふむふむ……椎菜ちゃん! 霊術! 霊術を使っておしまい!」

「あの、なんでその、一昔前のコミカルな悪役キャラみたいな言い方なの……?」

「気分」

「き、気分ですかー……まあでも、うん。じゃあ、ちょっとだけ……」

「れ、霊術……? 椎菜ちゃん、厨二病?」


 うぐっ、と小夜お姉ちゃんの言葉にダメージを受けつつも、僕は霊術を使用。

 とりあえず、室内だし……水かなぁ。流しの方に落とせば濡れないからね。

 風はちょっとわかりにくいので。

 というわけで、早速霊術を使って野球ボール程の水の球を作り出しました。。


「( ゚д゚)」

「これが霊術です。あ、種も仕掛けもないからね? こうやって……」


 と、浮いている球を動かす。

 右へ、左へ、上へ、下へ、僕の周りを一周させたり、お姉ちゃんの頭の上に移動させたり、小夜お姉ちゃんの目の前に動かしたりと、色々動かしてみて、最後は丁度近くに置かれてい三つのコップの中に水を入れました。


「こんな感じです」

「…………いはい」

「私、リアルで頬を引っ張る人、初めて見たよ。いやー、いるんだねぇ」

「……し、椎菜ちゃん、その、えと、本物?」

「本物、です」

「……そ、そっかー……本物かー……って、いやいやいやいやいや!? うちの娘、すごくねぇですか!? 霊術!? 霊術使えるの!? ファンタジー!? ファンタジーですか!? すっげぇです!? まさか、うちの推しがファンタジーを身に付けているとか、誰得ですかうち得ですねハイ!? イヤッタァァァァァァァァァァァァァァァ! ヒャッハァァァァァァァ!」

「小夜お姉ちゃん!?」

「おー、見事なコロンビア」


 突然両手を挙げて叫ぶ小夜お姉ちゃんに、僕は驚いて、お姉ちゃんは冷静に何か言ってました。


「おばーちゃん、どーしたの?」

「大丈夫だよ……ただちょっと、うちの理想が創造の斜め上どころか真上をカッ飛んで行くくらいに素晴らしい状況に出会い、うちに可愛すぎる娘と孫が出来ちゃったからね! あぁっ! 生きててよかったっ! イラストレーターしてきてよかったっ! うち、もう死んでもいいっ……!」

「死んじゃだめですよ!?」

「しんじゃ、だめ……!」

「あぁっ! ごめんっ! じゃあじゃあ……うち、200歳くらいまで生きるから!」

「無理だよね!?」

「ふっ、よく言ったよ、小夜ちゃん! それでこそ、世界一可愛い娘と孫を持つイラストレーターの心構えだよッ!」

「ありがとうございますッッ!」

「えぇ……」


 なんだろう、よくわからないけど、お姉ちゃんと小夜ちゃんの二人がすっごく意気投合しちゃってると言いますか、ガシィッ! と固い握手をしてるんだけど……すっごくいい表情で。


「っと、話が脱線したね! とりあえず……椎菜ちゃんがみたまちゃんの姿になれるようになって、みたまちゃんが神様という形で生まれた娘がいて、その娘がうちの孫にあたる、と。これでいい?」

「あ、う、うん。そうだよ」

「いやー……TS病の存在があるってだけでもびっくりなのに、追い打ちをかけるかのように、ファンタジー……いっそ、これを基にした漫画でも描いたろか!? とか思っちゃうよね」

「何それ面白そう。あ、じゃあ来年のコミケ、合同でやらない?」

「いいんで?」

「もっちろん! 小夜ちゃんの描く物と、私の描く物は近しいからね! ならばいっそ、合同で出そうじゃないか!」

「乗ったァ!」

「よし決まり! 冬コミが終わったら話を詰めよう!」


 あの、やっぱりすっごく仲良くなってない……?

 相性、いいんだねー……。


「ふぅ、いやぁ、今日は驚きの連続だったけど、最高の日になったよー」

「それはよかったです」

「あとは、椎菜ちゃんの手料理を食べるっ! ちなみに! 今日の献立はなんでしょーか!?」

「んーっと、唐揚げです」

「やった! 唐揚げは好物!」

「えへへ、じゃあ腕によりをかけて作らないとね! あらかじめ、お買い物はお母さんたちに頼んであるし、もうすぐ帰って来ると思うけど……」


 と、僕がそう言ったところで、玄関の方からドアが開く音が。


「ただいま~」

「ただいま。お客さんがいるのかい?」

「あ、おかえりなさい、二人とも」

「お邪魔してます!」

「あらあら~、可愛らしい娘ね~。椎菜のお友達?」

「あー、えっと、お友達というか……ママかな?」

「「……へ!?」」

「椎菜ちゃん、それは誤解を招くよ?」

「ふぇ? ……あっ!」


 お姉ちゃんに苦笑い交じりに指摘されて、一瞬よくわからなかったけど、すぐにその言葉の意味に気付くと、僕はしまった、という顔をしました。


「あっ! ま、ママって言ってもアレだよ!? この人は、僕のその、神薙みたまのデザインをしてくれた人だから!」

「あ、あぁ~~! そういうことね! ということは、わたもちさん?」

「え、うちをご存じで!?」

「ははは、まあ俺も母さんも、神薙みたまの配信は見ていたからね。ファンさ」

「椎菜ちゃん、親バレしてたの!?」

「……説明に必要だったので」

「あ、あー……」


 未だに恥ずかしいと思ってるけどね……。

 だって、おにぃたま、とか、おねぇたま、とか言ってる姿を見られてるんだよ? 顔から火が出そうだよぉ……。


「そ、そうなんだ。……あ、えーっと、とりあえず自己紹介ですね。初めまして、四月一日小夜です! 神薙みたまちゃんのデザインをした、ママです! よろしくお願いします!」

「ご丁寧にどうも。椎菜の母、桜木雪子と言います」

「俺は桜木聡一郎だ。椎菜とは血の繋がりはないがね」

「あ、お父さんの方が繋りがないんですね」

「あぁ。椎菜が12歳の時に家族になってね。まあ、最初から大事な息子……もとい、娘さ」

「お父さん、そこは訂正しなくてもいいと思うんだけど……」

「れっきとした可愛らしい女の子になった以上、訂正は意味がないと思うぞ?」

「……だよねぇ……」


 娘扱いは、その、すごくむずむずするんだけどね……。

 やっぱり、男として生きてきた時間の方が圧倒的に長いから、未だにお父さんやお母さんに娘って言われるのもあまりしっくり来てないけど……早く慣れないとなぁ。


「椎菜から聞いているけど、今日は我が家でご飯を食べていくんでしょう?」

「あ、はい、お邪魔じゃなければ!」

「ふふ、全然。むしろ大歓迎。というより……」


 ちらり、と小夜お姉ちゃんのお膝の上でこっくりこっくりと舟を漕いでいるみまちゃんを見て、小さく笑うと、


「みまちゃんがすっかり懐いてるみたいだしね?」

「いやー、うちもびっくりです。どうやら、うちがおばーちゃんみたいで……」

「あー、椎菜の……というより、神薙みたまのママだから?」

「そうですそうです。初手で抱き着かれて微笑まれて死にました」

「わかるっ、わかるわぁ! 可愛すぎよね! みまちゃん!」

「はいっ! これは死寝る!」


 あ、お母さんとも仲良くなってる。


「ところで椎菜、なんでその姿なんだい?」

「えっと、小夜お姉ちゃんに事情を説明するためにちょっと……」

「なるほど、そう言う理由か。いやはや、我が家は不思議な状況になったものだ。神様な孫に、変身する娘。うんうん、実に素晴らしい」


 その二つを並べて素晴らしいと言えるお父さんを見ていると、お姉ちゃんのお父さんだなぁ、って思います。

 本当にこう、似てるんだよね……色々と。


「ん、んん~……おばーちゃん……」

「ごふっ……」

「小夜お姉ちゃんっ?」


 突然、小夜お姉ちゃんが血を吐きました。


「へ、へへ……なんかもう、おばーちゃんって呼ばれても、ダメージはねぇです……むしろ、凄まじい多幸感がぶはぁっ!」

「ひゃぁ!? 小夜お姉ちゃん!? 本当に大丈夫なの!? 口の端から血が出てるよ!?」

「だ、だい、大丈夫……み、みまちゃんにはっ、絶対に血は、かけんっ……!」

「それはそうだけど、色々とすごいことになってるよ!? 口の周りが赤いよ!?」

「ふ、ふへへ、な、なんの、これしきぃ……」


 と、満身創痍なのに不敵に笑う小夜お姉ちゃんでしたが……。


「ん、んんぅ……おひざぁ……」


 みまちゃんがもぞもぞと動いて、一度小夜お姉ちゃんの横に移動すると、ぽふっ、と小夜お姉ちゃんのお膝に頭を乗せて、


「……おち、つくぅ…………すぅ……すぅ……」


 あどけない笑みを浮かべて、そのまま規則正しく、可愛らしい寝息を立てて眠っちゃいました。


「( ˘ω˘)スヤァ」

「小夜お姉ちゃん!? あの、すっごく安らかな顔になっちゃってるよ!? あと、ちょっと白くなっちゃってるよ!? あれ? 小夜お姉ちゃん? 小夜お姉ちゃん!?」


 気が付くと、小夜お姉ちゃんはとても安らかな笑みで、気絶してしまっていました。

 ……鼻血を流して、口の端からも血を流しながら。


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 今回のサブタイ、絶対VTuber系の日常物に付けるものじゃないと思います。

 というか、わたもちママずっと死んでる……。この人、もう手遅れじゃないですかね。

 まあ、らいばーほーむメンバーは、割と手遅れな人ばかりですが……。

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