#86 体育祭の種目決め、わたもちママ(19歳)に事情説明
皐月お姉ちゃんが柊君に迫った(?)日から翌日。
その日は五時間しか授業が無くて、早く帰れる日。
なので、今日は放課後に予定があるんです。
『というわけで、その、事情説明のために一度お会いしたくて……あ、もしよかったらお家でご飯でもどうですか?』
『え、い、いいの!? うち、行っていいの!? みたまちゃんの家!?』
その予定とは、あの放送事故の日に起こった、みまちゃん関連の出来事です。
あの時、みまちゃんがわたもちママのことをおばーちゃんと呼んだことで、かなりショックを受けていたからね……その事情説明のために、一度わたもちママと会って、事情説明をすることにしたんです。
それに、わたもちママはイラストレーター一本で生活しているみたいで、最近は少しずつではあるけど、お仕事も片付いて来たと言うことで、このタイミングに一度説明を、ということで今連絡しました。
『もちろんです。というより、事情説明をするには、僕のお家の方が何かと都合がいいので……その、大丈夫ですか?』
『全然いいよ! というか、行かないと言う選択肢はうちにはねぇです! あ、何かおみやげを持って行った方がいい!?』
『気にしなくていいですよ。お詫びでもありますし……その、あの子が……』
『そ、そう? でも悪いから何か見繕ってそっちに行くよ! というか、みたまちゃんの家とか、素顔とか知ることになるけど、いいの?』
『はい、大丈夫です。どのみち、焼肉パーティーとかで会うんですから、先にしておいた方がいいですし、あと、本当に事情説明をしないと、その、申し訳ないと言いますか……』
『そ、そっか。じゃあ、お邪魔させてもらうね! 待ち合わせ場所は?』
『えーっと……美月駅前に、15時半でどうですか?』
『OK! その時間に行くね! 楽しみにしてる!』
『僕もです。それじゃあ、美月駅で!』
『はーい!』
というわけで、連絡終了。
「連絡は終わったのか? 椎菜」
連絡が終わったところを見計らって、柊君がコロッケパンを一口齧ってから、そう尋ねてきました。
今はお昼休み中で、僕たち三人は屋上でご飯を食べていました。
「うん」
「誰と連絡してたの?」
「えーっと、わたもちママ」
「へ? わたもちさん? どうして?」
「……あー、もしかしてあれか? あの放送事故の時の……」
「あ、あー! わたもちおばーちゃんって言った奴だっけ?」
「うん。ほら、あの時すっごくその、ショックを受けてたから……」
「……19歳でおばあちゃんはね……乙女心的にもちょっと……というか、かなりダメージは大きいよね……」
「だろうな……というか、叔父や叔母になったとしても複雑なんだ。おばあちゃんはさすがに……」
「あ、あはは……だから、その、僕のお家に来てもらって事情説明をね……あと、ご飯も食べて行ってもらうつもり」
「そうなんだ。ということは、みたまちゃんの姿になれることも言うの?」
「うん。どのみち、わたもちママには教えておいた方がいいもん。みまちゃんのこともあるし」
「そうだな。事情説明は大事だ」
「うんうん」
と、僕の考えに二人も頷いて賛同を示す。
いくららいばーほーむのメンバーじゃないとは言っても、僕からすれば外部で一番関わりのある人はわたもちママだし、それに今後は色々絡むことにもなるから、教えておきたいしね。
……そう言えば、流れで話してたけど、わたもちママってこの近くに住んでたんだ。
知らなかった……。
(……まあ、正直な所、あの人がみまちゃんとか、椎菜が神薙みたまになった姿を見たら死にそうなんだが……)
(だね……大丈夫なのかな、わたもちさん)
(さあなぁ……)
「二人とも、どうしたの?」
「いや、何でもない。……そう言えば、この後は体育祭の種目決めだったか」
「そうだね。来月だっけ」
「そうそう。いやー、今年も楽しみだねぇ」
「そうだな。なんだかんだ、あのイベントはかなり盛り上がるからな。椎菜は……まあ、うん、頑張れ」
「どういう意味!?」
柊君の憐憫が混じった笑みと応援に、僕はそう言い返しました。
◇
それからお昼休みも終わって……
「体育祭の種目を決めるぞーーーーー!」
『『『Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhッッッ!』』』
クラスの中がみんなの声でいっぱいになった。
体育祭の出場種目を決めるので、みんなすごくテンションが高いです。
「よーし、早速種目を全部書いていくからな! 自分の出場したい物を決めてくれ! あ、一人最低でも二つは出場するように!」
そう言って、体育委員の高木君が黒板に体育祭の種目を書き出していきました。
・100メートル走 男女各二人
・200メートル走 男女各二人
・300メートル走 男女各二人
・スウェーデンリレー 男女混合四人
・クラス対抗リレー 十人
・仮装リレー 四人
・障害物競争 四人
・借り物・借り人競争 二人
・綱引き 二十人
・パン食い競争 二人
・二人三脚 六人
こんな感じです。
リレーとか、面白枠と言われる種目などはかなり盛り上がってすごく人気が出ます。
去年は……たしか、仮装リレーに出たっけ…………女装だったけどね……。
「ねぇ、何に出る?」
「迷うー!」
「やっぱリレーだよな!」
「お前陸上部だもんなー。勝てる自信でも?」
「ない!」
「うーん、どれも面白そうだよねぇ……」
「わかるわかる。去年とかすっごい楽しかったし」
と、クラス内では仲良くお話しする人たちが多数。
僕も何にしようかなぁ、なんて頭を悩ませる。
仮装リレーは……楽しいけど、今の僕がやると、その、とんでもないことになっちゃいそうなのでパス、かなぁ……。
個人的に、借り物・借り人競争も気になる……。
パン食い競争は……そもそも背が小さい……まあ、ジャンプすれば取れるけど……。
それはそれとしても、あんまりよくない。
「あ、そうだ。桜木ー」
「高木君? なぁに?」
「そう言えば桜木には事前に通達があってな、桜木は短距離走は禁止、だそうだ」
「なんで!?」
「いやなんでって……今の桜木が本気出したら、ぶっちぎりだろ」
「はぅっ!」
た、たしかにそうだけどっ!
TS病の影響で、僕の身体能力はかなり高くなっちゃってるからね……それに、その身体能力は、学園祭の時に見せちゃってるから、禁止になるのも納得……。
「あ、でもあれだ、リレー系はセーフ」
「それはいいんだ……」
「リレー系は、集団競技だからなー。勝てる可能性もあるしな」
「なるほどー……」
となると、僕は短距離走以外の種目……とはいっても、元々出るつもりはなかったけど。
でも、そうなると何に出ようかなぁ……。
借り物・借り人競争とか面白そうだよね。
どんなものが出るかわからないけど、すごいお題が出て来て面白くなりそうだし……。
あ、でも、障害物競走も面白そうだし……。
仮装リレーは……うん、去年ことがあったけど……あれはあれで面白かったし、何よりコスプレに興味があるし。
冬コミ、参加しようかな、やっぱり。
お姉ちゃんに頼めば連れて行ってもらえそうだもん。
うん、練習の意味も込めて、仮装リレーにしよう。
あとは、障害物競争か、借り物・借り人競争か……うーん、どっちがいいかなぁ……。
うーん………………障害物競争にしようかな。
「よーし、決まったか? じゃあ、聞いていくぞー」
と、高木君が出場種目を聞いて行くと、みんな出たい種目に手を上げていました。
もしも被った場合はジャンケンです。
「はいじゃあ次、仮装リレー」
と言われて、スッと僕は手を挙げました。
「お、桜木な。他は……なんだ、いないのか?」
「え、いないの?」
あ、ほんとだ、僕以外誰も手を上げてない……!
(正直、椎菜ちゃんと一緒に仮装リレーとか、ご褒美という名の罰ゲーム過ぎない……?)
(というか、椎菜ちゃん可愛すぎて、他の人、霞むよ?)
(むしろ、誰が桜木にバトンを渡して、桜木のバトンを受けとるかで揉めそうだよな……)
(間近で椎菜ちゃんのコスプレが見れるのは大きいけど、だとしてもハードルがッ!)
「あー、いないのか? ならくじ引きなー。ちょうどここに、くじが入った箱があるんで、桜木以外は引いてくれよな!」
「「「用意周到だなおい!?」」」
「こんなこともあろうかとな!」
高木君、地味にすごい……。
というわけで、僕以外のみんながくじ引きをして……その結果、
「俺か……」
「あたしもだー」
「クソッ、高宮と一緒とか、何のいじめだよッ……!」
柊君、麗奈ちゃん、高木君の三人に決まりました。
柊君は苦い顔で、麗奈ちゃんは苦笑い、高木君はこの世の終わりみたいな表情を浮かべて四つん這いになっていました。
あの、そんなに嫌かな……?
「……はぁ、んじゃ、俺、高宮、朝霧、桜木が仮装リレーなー」
「メッチャテンション下がんな、高木ぃ」
「楽しみにしてるぜ、コスプレ高木!」
「お前らなぁ!?」
あはは、とクラス内で笑いが起こる。
うん、やっぱりこういう雰囲気はいいよね……。
あと、みんな僕が神薙みたまだと知っても、いつも通りに振舞ってくれるし、何より変なことも言ってこないからすごく嬉しいです。
「じゃ、次は障害物競争」
出ようと思っていた種目が連続で来たので、こっちにも手を上げると、僕以外にもう一人いて、すぐに決まりました。
「よし、桜木と栗谷な。じゃー、借り物・借り人競争」
「あ、あたし出たーい」
「俺も出たいな」
「高宮と朝霧以外にいるかー? いないなー? んじゃ、この二人で決定、と」
二人とも、借り物・借り人競争に出るんだ。
珍しいような、そうじゃないような……。
と、そうして、種目決めは順調に進んで、五時間目が終わる頃には無事に決まりました。
それから、僕たちが出ることになる種目は、僕が仮装リレーと障害物競争。柊君が、スウェーデンリレーと仮装リレー、それから借り物・借り人競争。麗奈ちゃんが100メートル走と仮装リレー、借り物・借り人競争になりました。
うん、今から楽しみ!
◇
五時間目が終わったら、そのままHRをして帰宅。
途中まで柊君と麗奈ちゃんと途中まで一緒に行って、途中からは僕一人で駅前に。
とりあえず、制服姿で、黒髪の背の低い女の子、とメッセージを送って待機。
ぼーっと空を眺めている、
「えーっと、みたまちゃん……じゃないや、椎菜ちゃん、でいいのかな?」
と、目の前から声が聞こえて来て、そちらに視線を向けると、そこには140センチ半ばくらいの、無造作に伸ばされた黒髪と、どこか眠たげな表情の女の子がいました。
すごく可愛い人だけど……あれ?
「あ、はい、椎菜です! えっと、もしかして、わたもちママ……?」
「やっぱり! やぁ、初めまして……じゃないかな? わたもちこと、四月一日小夜です。多分、前に一度マンションで会ってるよね?」
「あ、あの時の! え、あそこに住んでたんですか!?」
「そうそう! いやー、色々あってこっちに引っ越してきてね! あの時、気付いてはいたんだけどね」
「そうだったんですね」
「うんうん!」
「えーっと、わたもちママじゃなくて……小夜お姉ちゃん、でいいですか?」
「んぐふぁっ!?」
「ふぇ!? ど、どうしたんですか!?」
「い、いや、すごく可愛い女の子に、お姉ちゃん呼びされたから、吐血を……」
「だ、大丈夫なんですか……?」
「だ、大丈夫、致命傷……」
「大丈夫じゃないですよね!?」
本当に大丈夫なの!?
あと、びたびたっ! って血がいっぱい出てるよ!?
口元を抑えた手の隙間からも、血が落ちてるんだけど!
「こ、これが、生みたまちゃん……さすがの破壊力っ……!」
「あ、あの……」
「おっと、ごめんねー。つい。あ、それから年もそんなに離れてないし、ためでいいですぜ!」
「あ、いいんですか?」
「もちのろん!」
「じゃ、じゃあ、うん、いつも通りにお話しするね!」
「んぐっ……ふぅ、耐えた……」
「ふぇ?」
「あ、こっちの話!」
「そ、そっか。じゃあ、えっと。歩きながらお話しよっか?」
「お、そうだね! うちも、色々とあのことを聞きたくて……!」
「あ、あはは……」
すごく知りたがっている小夜お姉ちゃんに、僕は乾いた笑いで答えました。
◇
それから、僕はお家まで一緒に小夜お姉ちゃんと歩きました。
「にしても、あの時は驚いたってもんだよー。うちがおばーちゃん呼びされるんだもんさー」
「いや、あの、本当にごめんなさい……」
「いやいいよいいよ! 気にしねぇですよぉ。……あ、ごめん、やっぱり気にする……うち、まだ19歳なのに……」
そう言いながら、小夜お姉ちゃんはがっくりと項垂れました。
や、やっぱりダメージが大きいみたい……。
「それにしても、わざわざうちを呼ぶレベルのことなの? あの時の事情説明って」
「う、うん。その、洒落にならないと言いますか、そもそも他言があまりできないと言うか……今日お話しすることの二つの内一つはらいばーほーむのみんなは知ってるけど、もう一つのことは、今はたつなお姉ちゃんしか知らなくて……」
「え、それうちが知っていいの!? というか、アウトじゃない!? うち、今は外部だよ!?」
「そうなんだけど……これは、小夜お姉ちゃんにお話ししないといけないことでもあって……そもそも、おばあちゃん呼びのことをお話しするのなら、切っても切れないというか……」
「……うち、一体どんな爆弾をぶん投げられるの?」
「え、えーっと、すっごく大きいの……?」
「おっきいのかぁ……」
僕の言葉に、小夜お姉ちゃんは戦々恐々とした様子。
だよね……。
と、そうこうしている間に、僕のお家に。
「えっと、ここが僕のお家です」
「ほへぇ~、結構いいお家! 椎菜ちゃんって、お金持ち?」
「そうじゃないとは思うけど……でも、どうなんだろう?」
「おっと、そういうのは野暮だった! さ、うちもお話が訊きたいし!」
「あ、うん。じゃあ、入ろっか」
「おーう!」
というわけで、僕は玄関の扉を開けて小夜お姉ちゃんを連れて中に。
すると、とたとた、と小さな足音が聞こえて来て、
「おかーさんっ!」
と、みまちゃんが嬉しそうに僕に飛びついて来ました。
僕が帰って来るとみまちゃんは必ず抱き着いて来ます。
可愛いからいいけどね!
「ただいま、みまちゃん」
「えへぇ~……」
抱き着いて来たみまちゃんの頭を撫でると、すごく気持ちよさそうな声を漏らしました。
うん、こういうところも可愛いです。
「……」
抱き着いてきたみまちゃんの頭を撫でながら後ろを見ると、そこにはみまちゃんを見て、わなわなと震える小夜お姉ちゃんの姿が。
「し、ししし、椎菜、ちゃん? そ、その、み、みたまちゃんにそっくりな、と、とても……とっっっっっっっても! 可愛い、幼女は……!?」
「あ、えーっと、この子があの時の配信に入って来ちゃった女の子で、神薙みまっていいます」
「へっ!?」
「んぅ……?」
桜木みま、じゃなくて、神薙みまとして紹介すると、小夜お姉ちゃんが驚いた声を上げました。
その声に、僕以外の人がいることに気付いたみまちゃんは、僕越しに背後を覗き込むと、そこにいた小夜お姉ちゃんを見てこてんと首をかしげて、嬉しそうに小さく笑うと、
「おばーちゃん……!」
と言いました。
「?????」
面と面向かって小さな笑顔と一緒におばーちゃん呼びされた小夜お姉ちゃんは、宇宙ネコみたいな表情に。
あ、固まっちゃった。
「あ、あの……」
と、僕が声をかけようとしたら、みまちゃんが僕から離れると、とことこと小夜お姉ちゃんに近づいて、きゅっ、と抱き着きました。
「!?!?!?!?」
「やっぱり、おばーちゃん……ん、おちつく……」
「し、しししし、しいししいしいな、ちゃん……!? こ、こここ、このこは、な、なんなんなななんなんですかぁ……!?」
「あ、え、えーっと、その……ちょっと待ってくださいね。――『転神』」
色々と説明をするために、僕はいつもの合言葉を唱えると、ぽんっ! といつもの煙が出て、僕の姿が神薙みたまのものになりました。
「( ゚д゚)」
「じ、実は、僕神薙みたまの姿になれまして……それで、今小夜お姉ちゃんに抱き着いて、嬉しそうにしているのは、神薙みまちゃん。僕の娘で、神様で、えっと……小夜お姉ちゃんがおばあちゃん、ということになります……つまり、えと、ま、孫、ですね」
「…………」
「あ、あの、小夜お姉ちゃん……?」
「おばーちゃん……だいじょーぶ……?」
「……か」
「か?」
「可愛すぎてうちの人生がしゅうりょごぶはぁぁぁぁぁぁ!?」
「さ、小夜お姉ちゃーーーーーーーーーーーーん!?」
何かが振り切れちゃったのか、小夜お姉ちゃんは突然叫び出したかと思うと、思いっきり血を吐いて鼻血を流しながら、そのまま後ろ向きに倒れました。
あぁっ! 小夜お姉ちゃんが気絶しちゃってるーーーーーーーーー!?
======================================
わもちもちママ(19歳)、自分の理想とするVTuber(リアル)と、突然できた孫娘の登場により、鼻血+吐血をしながら気絶ッ!
あと、前回の補足をば。
前回の閑話#19の最後で愛菜が皐月と電話していたくだりがありますが、あれは閑話#18の内容です。#85、閑話#18、閑話#19は全部同じ日の出来事です。
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