閑話#19-3 みまの小学校体験:下

 体育が終わって教室に戻ると、子供たちは体操着から私服に着替えて、すぐに給食の準備に。

 給食を作ってくれている人が、その日の給食を載せたワゴンを四時間目の途中に持って来ているため、今回は既に教室内にある形だ。


 それから陽翠の指示で、配膳台を出したり、そこに料理を載せたり、給食当番の子供は給食着を来て、準備万端である。

 ちなみに、衛生面から食べる前はみんなマスクをしている。

 とはいえ、みまはそんなことを知らなかったので、陽翠から貰ったマスクを着けている。


「は~い、静かになりましたね~。今日は四班の人から取りに行ってくださいね~」


 と、陽翠は子供たちが静かになったところを見計らって、四班から取りに行くように指示すると、子供たちは嬉しそうに給食を取りに行く。


 呼ばれる順番等はその時に担当する教師によりけりだが、陽翠は基本的に順番に班を一周させるタイプである。

 ただ、公平を期すために、一班からではなく、四班であったり、六班からだったりする時もあるが。

 みまは八班だが、周りを見てなんとなく四人ずつ呼ばれていたので、じっと待っていると、八班が呼ばれる。


「みまちゃん、いこー」


 みまを除いた子供が席を立つと、座ったままのみまに、ゆなが一緒に行こうと誘う。


「みま、も?」

「うん! みまちゃんも八ぱんだから!」

「ん、わかった」


 一瞬首を傾げたみまだったが、自分も行くんだ、と思いながら席を立つとゆなと一緒に給食を貰いに。

 ちなみに、今日の給食はカレーとフルーツポンチである。


「んー……」

「みまちゃん、どーしたの?」

「どうすれば、いい、の?」

「え、わからないの?」

「ん、わから、ない」

「そっか。えっとね、おぼんをもって、そのうえにおさらとおわんをのせて、もらいにいくんだよー」

「なる、ほど」


 ゆなに教えてもらいつつ、それを真似するようにみまもお盆に皿を一枚とお椀を一つ取ると先へ進む。

 すると、給食当番の男の子(米担当)がみまの皿に米をよそって、隣にいるルー担当の女の子に渡してルーをかけて、みまに返す。


「どーぞ!」

「あり、がとう」


 小さく笑みを浮かべてお礼を言うとみまに、女の子と男の子はちょっとだけ頬を赤くさせた。

 それからフルーツポンチも受け取り、自分の席に戻る。

 それからみんな食べていないところを見て、みまはまだ食べちゃいけないと察すると、じっと待つ。


「じゃあ、日直さんの人は前に出てきてくださいね~」


 全員に給食が行き渡ると、陽翠がそう言って日直に前に出るように促し、前に出て来た。


「「しせーをただしくしてください。てをあわせてください。いただきます」」

「「「いただきますっ!」」」

「いただき、ます」


 当番の言葉に続いて、クラスの子供たちが後追いでいただきますを言ったのを見て、さらに遅れてみまもいただきますと口にする。


「カレーおいしー!」

「はむはむっ!」

「たべるのはやー」

「あらあら~、あんまり早く食べ過ぎてはだめですよ~。ちゃんと、よく噛んで食べてくださいね~?」

「でも、はやくたべないと、おかわりがなくなっちゃうよー!」

「それでも、ですよ~」


 と、早く食べている子供に優しく注意する陽翠。

 周りでは、同じ班の子供同士で仲良く会話をしながら、美味しそうに給食を食べている。

 みまとしては、目の前にある食べ物は食べたことがない物だ。

 みまの知能レベルは小学一年生ほどではあるのだが、知らないことも多いし、見たことがない物も多い。

 ちなみに、カレーも知らない。


「はむ……もむもむ……んっ、おいしー」


 そして、ぱくりと一口食べて、美味しいと言いながら表情を綻ばせる。


「……ゆなちゃん、こっちはなーに?」

「それはフルーツポンチで、デザートだよー」

「ん、ありがとう」


 ふと、隣に甘い匂いのする液体に入った果物や四角いものが気になってゆなに訊くと、それがフルーツポンチであることと、デザートであることを教えてもらう。


「みまちゃんはしらないの?」

「たべたこと、ない」

「え、そーなの!? まえのがっこうではたべなかったの?」

「がっこう、いってなかった、から」

「「「え!?」」」


 ゆなの質問に対して、みまは学校に行ってなかったから食べてないと答えると、同じ班の三人が驚く。


「みま、おかしいこと、いった、の?」

「みまちゃん、どーしてがっこういってなかったの?」

「んと、なんで、だろう?」

「あはは、さくらぎさんおもしろーい」

「でも、がっこうにいってなかったんだ、ふしぎー」

「???」


 なぜか楽しそうに笑うほかの三人がよくわからず、みまはこてんと可愛らしく首を傾げた。

 まあ、そもそも学校に行くという概念自体、みまにはなかったので。


「はむ、はむ……」


 そんなみまだが、ご飯を食べる姿はとてもほっこりする。

 小さな口にカレーを入れていきつつ、食べる度にみまの表情は小さな笑みを浮かべる。

 あと、一生懸命食べているようにも見えるのも可愛らしい。

 それからカレーを食べ終えたみまは、フルーツポンチを食べる。


「……んっ、あ、あまい……」

「みまちゃん、どーしたの?」

「……これ、あまい……」

「フルーツポンチだもん、あまいよー。みまちゃん、にがて?」

「……これくらいなら、たべられる」

「そーなんだ。あまいのがすきじゃないの?」

「……うん、たべられるものもある、けど、にがて……」


 この辺りも椎菜似である。

 ちなみにだが、椎菜にも食べられる甘いもの存在しており、その基準は基本的に酸味があるかどうかで変わって来る。一部の物は酸味が無くても食べられるが……。

 そのため、みまも同じような感じである。


「へー、めずらしーね?」

「ん、そーなの? おかーさんも、にがて、だから」

「じゃー、おかーさんににたんだね」

「……うん、それなら、うれしー」

「さくらぎさんって、おかーさんだいすきなんだね?」

「やさしーの?」

「うん。やさしくて、あったかくて、すごくあんしん、する」

「そーなんだ! あってみたいなー」

「さくらぎさん、こんどあそびにいってもいーい?」

「あ、わたしもいきたーい!」

「ぼくも!」

「うん、おかーさんも、よろこぶ」


 遊びに行きたいと言う二人に、みまは快諾すると、三人は嬉しそうに笑う。

 と、そうして楽しく会話をしながら、給食の時間は過ぎて行った。



 その後は、清掃時間で、せっかくだからとみまは参加したものの、特に問題が起こることはなく清掃も終了。

 全員ランドセルをロッカーから出して、下校の準備をしてから、帰りの回に。


「は~い、みなさんいいですね~? 桜木さんは、来週からみんなと一緒にお勉強をすることになりますからね~。なので、来週からも仲良くしてあげてくださいね~」

「「「はーい!」」」

「桜木さん、今日はどうでしたか~?」

「すごく、たのしかった、です。らいしゅーから、よろしく、おねがいします……!」


 楽しかったと言ってから、みまは笑みを浮かべるとぺこりと頭を下げた。

 そうすると、クラス内は拍手が起こる。


「うふふ~、先生も、桜木さんと一緒に過ごせるのを楽しみにしていますね~。それじゃあ、桜木さんは先に帰りましょうか~。お家の方も廊下にいらっしゃいますからね~」

「うん、ありがとう、ございました」

「みまちゃん、バイバイ!」

「またらいしゅー!」

「またね!」

「うん、ばいばい」


 クラスの子供たちがみまに思い思いに言葉をかけると、みまは小さく笑みを浮かべてから、控えめに手を振って教室を出た。


「みまちゃん、どうだった?」

「たのしかった」

「そうかそうか。それならよかった」

「じゃあ帰ろうか。っと、帰り買い物もしないとだね」

「そうね。みまちゃん、何か食べたいものはある?」

「んー……おいなりさん?」

「ふふっ、おいなりさんね~。わかったわ。それじゃあ、おばあちゃん、美味しい物を作ってあげるわね」

「うんっ! おばーちゃん、ありがとう」

「くっ、こういう時おじいちゃんはできることが少ないなぁ……」


 そんな会話がクラス内にも聞こえた。

 尚、この二人は実年齢よりも若く見られるタイプ。

 しかし、おばあちゃんとかおじいちゃんとかいう会話が聞こえて来て、クラスの子供たちは首を傾げたし、担任の陽翠もえ? みたいなそれはもう驚いた表情を浮かべていた。

 あれで、祖父母なの!?

 みたいな。そんな反応である。

 とはいえ、何かの間違いかも知れないと思うことにして、陽翠は帰りの回を進めるのだった。



 それから買い物を済ませて家に帰宅。

 まだ椎菜が帰って来ていなかったことに、しゅんとするみまだったが、ほどなくして椎菜が家に帰って来た。


「ただいまー」

「おかーさん、おかえりなさいっ!」

「わわっ、と。ふふ、ただいま、みまちゃん」


 椎菜が家に入ってくるなり、とてとてとみまが走って来てそのまま椎菜に抱き着く。

 椎菜は華奢だし、背も低いため、普通なら受け止めきれないのだが、そこはTS病を発症させた椎菜である。

 しっかりみまを抱きとめた。


「今日はどうだった?」

「たのしかったっ」

「ふふ、そっか。それならよかったね~」

「みま、おともだち、できたよっ」

「本当? よかったね~。じゃあ、そのお友達は大事にね? きっと、みまちゃんが困っている時に助けてくれるから」

「うんっ」


 体験とはいえ、みまに友達が出来たことに喜ぶ。


「あと、おなじはん? のひととあそぶやくそくもしたのっ」

「本当? よかったね~」

「うんっ。あと、おうちにきたいって」

「あ、このお家に?」

「うん、だめ……?」

「ううん、もちろんいいよ~。いくらでもいいからね」

「うんっ」


 椎菜の言葉にみまはすごく嬉しそうな笑みを浮かべる。

 友達が出来て嬉しいし、何よりそれを楽しそうに報告するみまを見て、椎菜はとても暖かな気持ちになった。


「ところで、何人くらいで来るの?」

「3にん?」

「そっか。うん、ありがとう」

「おとこのことふたりとおんなのこがひとりくるの」

「あ、そうなんだね~。でも、おとこのこ…………うん、だいじょうぶかな。お母さんたちは?」

「ごはんつくってる。おねーちゃんは、おでんわ?」

「そうなの? 誰と電話してるんだろう?」

「ふぃー、やーおわったおわったー、っと。あ、椎菜ちゃんおかえりー」

「あ、お姉ちゃん。ただいま。誰と電話してたの?」

「皐月ちゃん」

「皐月お姉ちゃん? あ、配信のお話?」

「んー、そうとも言えるし、そうとも言えない。ま、気にしなくても大丈夫だよー。あ、もうすぐご飯が出来るらしいから、食べよ食べよ!」

「あ、うん。じゃあ、着替えてから行くね。みまちゃんも、先にリビングに行ってて?」

「うん」


 椎菜は先にリビングへ行くように言うと、自室に戻って着替えを行った。

 そして、さっきの愛菜の言っていたことが気になったものの、みまちゃんが待ってると思っていそいそと着替えをするのだった。


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 うーん、今回の閑話はやはり薄味……。

 えー、喉風邪だけ引きました。熱は……わからん。私、平熱クソ高くて、正直37.4とか普通に平熱の範囲の人間なんですよね。なので、37.5とか普通に熱じゃねぇんだよなぁ、という体してます。尚、今は37.4と37.5を行ったり来たり。

 どうも、昔40度の高熱を出して以降、平熱がバカ高くなったんですよね。昔は、37.1とかでも普通に体調悪かったんだけどなぁ……面白体質になってしまった。

 つーか、風邪引いた時に一番嫌なのって鼻づまりだけど、その次くらいに喉が嫌いです。

 あれ、嫌じゃない? 咳するたびに痛いし、何かを飲み込むたびに痛いし。まだ頭痛の方がマシ。まあ、あれも酷いとクッソ痛くなりますが。

 まあ、なのでもしかすると、明日は投稿できねぇかもしれないので、ご了承ください! さっさと治すぜぇ!

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