#74 負ける椎菜、溢れ出る母性的な

 泣きそうな女の子には勝てなかったよ……(by椎菜)

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「し、しししっ、椎菜ちゃん!? い、いつからは、母親にぃ!?」

「違うよ!? 僕結婚もしてないし、子供はいないはずだよ!?」


 え、ど、どういうこと!?

 な、なんでこの娘、僕のことをおかーさんって呼ぶの!?

 と、とり、とりあえず……じ、事情を! 事情を聴かないと!


「あ、あの、えと、き、君はその、な、なんで僕のこと、を、おかーさんって、よ、呼ぶの、かな……?」

「おかーさん、だから……」

「え、あ、お、おかーさん、なの? 僕……」


 全く答えになっていない答えをもらった僕は、僕がおかーさんなのかどうか尋ねる。

 この時点で色々とおかしいけど……!

 そして、僕の問いかけに、女の子はこくりと小さく頷きました。


「ち、ちなみに、なんで、僕がおかーさん、なの?」

「……? おかーさんは、おかーさん……みんな、そう言ってた……」

「みんな? って、誰……?」

「……宇迦之御魂大神様、とか」

「「「ぶふっ!」」」


 女の子がこてんと可愛らしく首を傾げながら、一柱の神様の名前を出して、それを聞いた柊君、麗奈ちゃん、瑠璃ちゃんの三人が噴き出しました。


「わわっ! 麗奈ちーに瑠璃ちー、高宮君もどしたの!?」

「い、いやっ、松永っ、宇迦之御魂大神って言えば、伏見稲荷大社の主祭神だっ!」

「そ、そうねっ、かなり有名な呼び方をすると、お稲荷さん、ね……」

「日本でもかなり有名で、知名度もある神様、の名前だね……」

「えっ、神様いるの!?」

「さ、さすがにいない、と思う、けど……」


(((多分いる……)))


 瑠璃ちゃんは美咲ちゃんの言葉にいないと思うなんて答えたけど、僕と柊君、麗奈ちゃんの三人は多分いるんだろうなぁ、なんて思いました。


「あ、あの……えと、そ、そう言えばお名前はなんて言うの……?」

「……神薙、みま」

「えっ、か、神薙……? 本当に?」

「うん……」

「神薙って……それって、みたまちゃんと同じ苗字だよね?」

「だねー……ねぇ、椎菜ちーってみたまちゃんと何か関係あるの?」

「ふぇ!? な、ないよっ!?」

「いや、さすがにないだろう。ほら、椎菜の性格的に、な?」

「そ、そうそう! 椎菜ちゃん恥ずかしがり屋さんだし!」


 ありがとう、二人ともっ……!

 やっぱり、こういう時にフォローしてくれるのはありがたいよぉ……。


「……それもそうよね。けど、なんで椎菜さんをおかーさんって呼ぶのかしら……? ねぇ、みまさん。椎菜ちゃんのお名前は、桜木椎菜って言うんだけれど、本当にみまちゃんのお母さんなの? それに、よしんば椎菜さんがおかーさんだったとして、お父さんは?」

「そ、そうだよね! お父さん! お父さんは!? 僕、結婚してないよ!?」

「……おとーさん? んー……いない?」


(((((なんで疑問形……?)))))


 みまちゃんはなぜか可愛らしく頭を左右に振って考え込んだ後、こてんと首を傾げながらいないと疑問形で答えました。

 でも、お父さんがいないってどういうこと……?


「あ、あの、みまちゃん? 改めて聞くけど、僕がおかーさんで間違いない、の?」

「……うん、おかーさんは、みまのおかーさん」

「えぇ……」


 ど、どうしよう、すごく純真無垢な瞳で僕を見つめて来るよぉ……表情は無表情……というより、ちょっと乏しくて、どこか眠たそうな顔なのに、目がキラキラしてるし……。


「み、みまちゃんは、その僕とどうしたい、の……?」

「……? おかーさんは、みまのおかーさんだから……いっしょ」

「一緒……それってつまり、椎菜ちゃんと一緒に暮らす、ってこと?」

「……おやこはいっしょにすむ、って宇迦之御魂大神様が言ってた……」

「で、でも僕、この辺りの人じゃなくて、その、関東圏の人、だよ……? すっごく遠いよ……? そ、それに、僕のお家だって受け入れてもらえるとは――」


 とそこまで言いかけたところで、


『え!? 椎菜ちゃんの娘!? ち、父親は!? 父親は誰ェェェェ!? あっ、で、でも可愛いっ……! 可愛いから許すッ……! むしろ、養育費とかその他諸々、私が出すッッッ!』


 とか言って来そうな未来が……。

 な、なんでだろうね……。


「……多分受け入れられそう」

「椎菜ちゃん!?」

「……ち、ちなみに、一緒に来られない、って言ったら、みまちゃんは、どうする、の?」

「…………ないちゃう」


 僕の質問に、みまちゃんは裾の部分をぎゅっと握りながら、今にも泣きそうな表情に……ってぇ!


「あぁっ、な、泣かないでっ!? ねっ!? え、えーっと、そ、その、い、今の僕たちは修学旅行中でっ、だ、だから、そのっ……!」

「…………じゃあ、みまのこと、きらいじゃない……?」

「そ、そんなことはないからね!? ほ、ほら、と、突然おかーさんって呼ばれてびっくりしちゃっただけだからっ!」

「……じゃあ、いっしょ?」

「そ、それはっ……!」

「…………やっぱり、きらい、なの……」


 あぁっ! 心が! 胸が痛いよぉっ……!

 こ、こんなに小さくて可愛らしい女の子が泣きそうになってる姿を見ると、心が痛いよぉっ……!

 で、でもっ、でもぉ~~~~~っ……!

 うぅっ、こ、こうなったら……!


 僕はカバンからスマホを取り出して、お姉ちゃんに電話をかけました。


『はいはーい、こちらお姉ちゃーん! どしたのー、椎菜ちゃん?』

「あっ、お、お姉ちゃん! え、えっと、じ、事情は今は言えない、んだけど……その、えと、も、もしも、お家に新しく一人住みますっ! なんてことになったら……お姉ちゃん、許してくれる……?」

『椎菜ちゃんのお願いなら100%ですが? え、なに? 一人追加系ですかね?』

「そ、その、も、もしかすると、だけど……」

『オッケー、了解了解! 全然いいよー。どうせ、お金はあるんだしね。一人増えたところでどうってことないさー!』

「ほ、本当? じゃあ、いい、んだよね?」

『そもそも、この私が椎菜ちゃんのお願いを断るわけないよね? そういうことさ!』

「ありがとうっ……!」

『お、おおう、割とガチ目なお礼の言葉……何かあった?』

「お、お家に帰ったら色々説明するので……」

『ん、りょうかーい! じゃあ、修学旅行楽しんでねー』

「う、うん、ありがとう、お姉ちゃん!」

『いえいえ! じゃあ、また明日ねー! あ、美味しい物期待してるね!』

「うん! そこは任せて!」


 通話終了。

 とりあえず、お姉ちゃんがいいよって言ってくれたので……。


「え、えーっと、みまちゃん?」

「……ぐすっ……なぁに……?」


 あぅっ、やっぱり泣いちゃってる……心が痛い……で、でも!


「えっと、ね? その、みまちゃんがいいなら、い、一緒に、暮らせるけど、ど、どうする……?」

「…………いいの? みま、じゃまじゃない……? きらいじゃない……?」

「邪魔じゃないよ。それに、嫌いじゃないから」


 さすがに困惑しちゃっただけだし、それに……悪い娘じゃなさそうといいますか、むしろいい娘な気がして……なんでかなぁ……。

 それに、妙に他人の気がしないと言いますか……うーん……よくわからないけど、


「それに、みまちゃんは行くところがない、んだよね?」


 この感じだと、僕と一緒になるために来たような感じがするし……ね。


「……ない。みま、おかーさんのところがいい、から……」

「そっか……じゃあ、一緒に暮らそっか……?」

「……うんっ!」

「んんっ……!」


 表情が乏しくて、眠たそうな顔のみまちゃんは、僕が一緒に暮らそうと言うと、それはもうすごく可愛らしい笑みを浮かべて、こくりと頷きました。

 その表情が眩しくて、思わずドキッとしちゃったけど……!


「あー、椎菜、いいのか?」

「……僕にはっ、見捨てることなんてっ、できないよっ……!」

「でも、椎菜ちゃん。みまちゃん、耳と尻尾があるよ? さすがにそれはいいのかな……」

「あ、そ、そう言えばっ……え、えーっと、みまちゃん、その耳と尻尾を隠すことってできる……?」

「……? うん、できる……みま、おかーさんのむすめ、だから」


 僕の娘だからできるって何……?

 かなり気になりはしたけど、みまちゃんはんんっ、とぎゅっと握りこぶしを作って、力む様子を見せると、耳と尻尾が光り出して……収まると、そこには耳と尻尾がなくなったみまちゃんが。


「わっ! 耳と尻尾が消えた!? え、なにそれなにそれ!?」

「耳と尻尾がある時点でファンタジーってたとは思うけど、まさか本当にファンタジーを見せつけられるなんて……」


 あ、あはは……まあ、ファンタジーを初めて見た時って、そう言う反応になるよね……。

 けど、耳と尻尾、消せるんだ……。


「ところで、みまちゃんはどうしてここにいたの?」

「……おかーさんがここに来るって、言ってた、から……」

「え、それは誰から……?」

「……? おかーさんが言ってた」

「そ、そっか……」


 会ったことはないはずだけど…………あれ? そう言えば、白い髪に白い狐耳と尻尾……えっ、もしかしてこの娘って……。

 僕はあることが頭の中によぎったので、それを確認するために、こそこそ、とみまちゃんの耳元に口を寄せて、


「……みまちゃんって、もしかして白い狐さん……?」


 と、尋ねると、みまちゃんはこくりと頷いてから口を開きました。


「……うん、そう、だよ?」


 や、やっぱり~~~~~っ!

 じゃ、じゃあ、昨日の夜、僕が温泉に落っこちちゃう原因になったあの白い狐さん!?

 それに、清水寺にもいたし……。

 そう言えば、他の場所でもちらちらと映ってたような……?


「……昨日の夜、僕の裾を引っ張ってたのって……」

「……おかーさんとお話したかった」


 あっ、だ、だからかぁ~~~~~~っ!

 あの行動って、お母さんたちに構ってほしい時にする行動だったんだ……!

 う、うわぁ……逃げなければよかったっ……!


「ごめんね、昨日は逃げちゃって……」

「んーん、だいじょーぶ。おかーさんと会えたし、いっしょになれるから」

「……みまちゃん」


 どうしよう、すごくいい娘じゃないかな……?

 こんなにいい娘なのに、逃げちゃうなんて……あぅぅ、罪悪感が……。


「あー……椎菜、とりあえず、旅館に戻る、か? さすがに、事情説明は必要だし……いやそもそも、ド直球に言っていいのか? これは……」

「ど、どうだろう……? 苦しい言い訳かも知れないけど、『親戚の子供を預かることになってしまって』みたいな風に言うくらいしか思い浮かばない、よね?」

「だねー……椎菜ちー、どうするの?」

「う、うーん……とりあえず、それでごり押しします……」

「まあ、それしかないでしょうね。見た感じ……」


 ちらっと瑠璃ちゃんが、僕の腕にひしっ! と抱き着いているみまちゃんを見てから、


「引き離すとかできなさそうだし……」

「あ、あははは……と、ともあれ、旅館に戻ろっか……」

「「「うん」」」

「あぁ」

「……?」


 なんとも言えない表情で見つめ合う僕たちを見たみまちゃんは、こてんと可愛らしく首をかしげていました。



 それから、僕たちは旅館に戻ったわけだけど……道中、ずっとみまちゃんは僕の腕に抱き着いていました。

 まるで、今までの寂しさを埋めるかのようです。

 ……というより、実際そう、なのかも……?


「あー……すまん、もう一度言ってくれ。桜木……その子は、なんだ?」

「え、えーっと、この辺りにいる僕の親戚の子で、その……じ、実は、色々な不幸が重なりまして……それで、えと、あ、明日一緒に僕のお家に……」

「なるほど……いやどういうことだ!? なんだその子!? というか、やたらくっついてるなお前に!?」


 再度説明を求められた僕は、帰って来る道中に決めた言い訳を口にしたけど、田﨑先生は信じられない物をみた! というような様子で、かなりその、混乱していました。


 みまちゃんは、ぎゅっと僕に抱き着いたままです。


「あ、あははは……その、すごく懐かれてまして……」

「……おかーさん、この人、だぁれ?」

「おかーさん!? お、おまっ! 何て呼ばせ方してるんだ!?」

「ち、違うんです!? この娘、えと、みまちゃんは僕のことをおかーさんって自発的に呼んで来ててっ……!」

「何をどうしたらそうなる……」


 一番それを思ってるのは僕だと思います……。


「……だが、真面目な桜木に、高宮もいるとなると……はぁ、完全に嘘とは言い切れないな…………だが、仮に連れて帰るとして、家の事情はいいのか? 一応、姉と二人暮らしではあるが、両親もいるだろ? 家にいないとはいえ」

「あ、えと、お姉ちゃんがいいよ! って……」

「そりゃ、あいつならなぁ…………まあいい、お前の家族がOKって言ってるのなら、私は何も言わん。それに……」

「……?」

「どう見ても、桜木から離れようとしないしな……これは、無理に引きはがすと泣かれそうだ」

「あ、あははは……本当、すみません……」

「……いや、いい。本来は教育者的には色々言わなきゃならないんだろうが……家庭の事情はな。わかった。お前が面倒を見るって言うなら、いいぞ。まったく、前代未聞だぞ、親戚の子供を連れて来た挙句、そのまま連れ帰るとか……」

「す、すみません……」

「いや、いい。ちゃんと見ておけよ?」

「はい」


 なんとか説得に成功。

 今までの生活態度で何とかなった感じだけど……普段から真面目に過ごしててよかったぁ……。

 とはいえ、いきなり小さい女の子を連れていると、やっぱり周囲の人たちから見られるもので……すごくその、視線が……。


「と、とりあえず、お部屋に戻ろっか……?」

「そうだな……色々疲れたよ」

「あたしもー」

「わたしも……」

「同じく」

「だ、だよね……」


 今日は色々あったから、ね……。

 というわけで、みんなでお部屋に戻りました。



「おかーさん……」

「ど、どうしたの? みまちゃん。そんなにくっついて……」

「おかーさんにやっと会えた、から……うれしいの」

「そ、そっか……」


 ぎゅっと抱き着いたまま、ぐりぐりと頭をこすりつけて来るみまちゃん。

 すごく微笑ましい……。


 でも……うーん、やっぱり他人の気がしない……。

 僕に子供はいるわけないし、みまちゃんみたいな白い髪の可愛らしい女の子の親戚もいないはずなのに……なんでだろう?


「やー……ちっちゃい女の子が美少女に甘える図はいいね……あたし、すごく微笑ましい気分だよ……」

「いいよねぇ……なんかもう、すっごい癒されるぅ……」

「まさか、本当に連れて来た挙句、許されるとはね……」

「ん~~~……おかーさん、いいにおい……おちつく……」

「そ、そうなの?」

「うん……おかーさん、あまくてやさしいにおい」


 僕ってそんな匂いがする、の?

 自分じゃわからないけど……あ、でも、この体になった次の日とか、枕とかお布団からいつも以上に甘い匂いがしたような……?

 あれって、僕の匂いだったのかも……。


「そうなんだ」

「ん……」

「どうしたの?」

「ねむい……」

「あらら……じゃあ、ちょっとだけ寝る?」

「ん~……ねる……」

「じゃあ、いいよ。お膝」


 小さく笑ってから、僕は自分の太ももをぽんぽんと叩きながら、寝てもいいよとみまちゃんに言うと、みまちゃんは嬉しそうに小さく笑みを浮かべて、ぽふっ、と僕の太ももを枕にすやすやと寝息を立て始めました。


「……可愛い」


 すぐに眠りについたみまちゃんの寝顔は、あどけなくてすごく可愛い物でした。

 なんでだろう、見ているとすごく胸が温かくなる……。


「すぅ……すぅ……んんぅ、おかーさん……」

「ふふ」


 寝言でおかーさんと呟くみまちゃんの頭を、僕は笑みを零しながら優しく撫でる。

 あ、髪の毛すごくふわふわ。

 これはいい、かも……。


「え、待って、何あれ尊いっ……尊過ぎるよっ……!」

「わ、わぁ~……椎菜ちーからあふれ出る母性がすごすぎる……」

「同い年のはずなのに、あの母性は何……? さ、さすが、椎菜さん……!」


(((鼻血止まらない……!)))


 僕はみまちゃんが起きるまでの間、優しく頭を撫で続けました。


 それに集中していた僕は、三人が仏様みたいな顔をしながら鼻血を流し続けていることに気付いたのは、みまちゃんが起きた後でした。


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 椎菜に娘が出来ました!

 とはいえ、現状この神薙みまが何かわからないかと思いますが……(というか、名前で察することが出来そうだけど)、この娘がどういう存在なのかヒントをば。

 そうですね、とりあえず、閑話#9と美月の象徴と、宇迦之御魂大神、あとは椎菜が他人の気がしないとか思ってるのがヒントかなぁ。というか、今回の一件は結構なイレギュラーというか……まあ、根本的原因は美月で、こうなったきっかけになってるのはシスコン。とはいえ、遅かれ早かれこうなってました。仮に椎菜がTSしなくても、シスコンはらいばーほーむに引きずり込む予定だったしね。早まった感じです。

 まあ、ここまでヒントを与えれば確実に正解に辿り着けるよね!

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