#73 千本鳥居、まさかの……
犯人はヤス(美月)。
======================================
「た、ただいま~」
変身を解いて、今帰ってきました、みたいな風を装ってみんなの所へ。
「あ、椎菜ちー! どこ行ってたの?」
「どこかへ行っちゃって心配してたわよ? あと、さっきひったくり犯が謝りに来たし、おばあさんに盗られてたものを神薙みたまちゃんみたいな娘が返しに来たわよ?」
「あ、そ、そうなんだっ。え、えと、僕もその、たまたま現場にいたので、そうしてほしい、ってお願いしたから、かな……?」
「え、椎菜ちー、あのリアルみたまちゃんに会ったの!?」
「す、少しだけね」
本当は僕だけど、さすがに言えないよぉ……。
嘘を吐くのは心苦しいけど、こればかりは……。
「そ、それよりも、次の所に行こっ! ほ、ほら、時間も有限だし!」
「それもそだね! じゃあ、しゅっぱーつ!」
「ふぅ……」
なんとか誤魔化せた、かな……?
うん、よかったぁ……。
「……で? 何をしたんだ?」
「うんうん、飛び出してっちゃってびっくりしたよ?」
「あ、あはは……その、麗奈ちゃんが突き飛ばされたことと、人の物を盗ったことが許せなくてつい……」
「そ、そうなの?」
「うん……ほら、大事なお友達……親友だもんね。僕、大事な人がそういうことされると、カッとなっちゃうから……」
「へ、へぇ~、そうなんだ~……えへへ、嬉しい、かな」
「そ、そう? それならよかったぁ……でも、怪我はないの?」
「うん、大丈夫! ちょっと転んじゃっただけだし、捻挫とかもないし!」
「そっか。それならいいかな」
麗奈ちゃんが無事ならよしです。
「……なんか、この先のどこかで色々と面倒ごとになりそうな予感がするぞ、まったく……」
「柊君?」
「いや、何でもない。ほら、早く行かないと置いてかれるぞ」
「あ、そうだった! 二人とも、行こ!」
「うん!」
「あぁ」
僕は先へ進む美咲ちゃんと瑠璃ちゃんの二人を追いかけました。
◇
そんなこんなで、これと言った問題が起こることはなくこの後の行動は平穏そのもの。
金閣寺を見た後は、植物園とか、京都御所とか、他にも色々な所へ行って、今日最後の目的地である伏見稲荷大社へ。
「やっと着いたぁ。いやー、乗り物を経由したとはいえ、かなり大変だよねぇ……」
「だねー……」
「ちょっと足が痛いわ」
「椎菜ちゃんは大丈夫?」
「うん、大丈夫」
この体になってからは前よりも体力はあるしね。
とはいえ、それでも疲れがないわけじゃないし、ちょっとだけ足が痛いけど……うん、大丈夫。
「にしても、結構学生が多いな」
「そうだね。まあ、今って修学旅行シーズンだから、僕たちの学園みたいに来てる学校が多いんだと思うよ? ほら、中学校でもよく旅行先になってるしね」
「たしかに。というか、関東圏の学校の修学旅行のイメージって、大体京都とか奈良じゃない?」
「あーわかるー」
「あれってなんでなのかしら? 別に関西だったら他にあると思うんだけど」
「まあ、わかりやすいからじゃないか? 逆に関東圏以外の場所とか、割と東京に来るみたいだしな。浅草とか、前に見かけたぞ」
「へぇ~~~、やっぱり地域で違うんだね。逆に、修学旅行で来なさそうな場所ってどこなんだろうね?」
「んー……そもそも、修学旅行の場所自体が、京都と奈良、大阪、あとは東京とか沖縄、北海道が多そうなイメージなんだよね、あたし」
「たしかに、それ以外のイメージってあんまりないねー」
「探せば普通にあるとは思うけど、確かに麗奈の言うような地域が多そうなイメージね」
言われてみればそうかも。
やっぱり、観光地とかが多いからかな?
まあ、普通はそうだよね。
「さて、そろそろ進むか……って、なんか、人が多くないか?」
「それはそうでしょ。今は修学旅行中なんだし、他校の生徒がいても……」
「あ、いや、そう言う意味じゃなくてだな。やたらスマホを見てる人が多くないか? 学生大人関係なく」
「言われてみれば……? 何かあったのかな?」
ながらスマホは良くないけど……なんであんなにスマホを見てる人が多いのかな?
写真を撮るためならわかるんだけど……うーん?
「んー、ちょっと調べて見よっか。えーっと、京都………………あ」
「え、なに今の『あ』は? 麗奈ちーどうしたの?」
「原因がわかったの?」
「あ、あー、なんと言いますかこれは…………えーっと、あたしたち、神薙みたまちゃんにそっくりな女の子に会った、よね?」
…………あれ、嫌な予感が。
僕と同じことを思ったのか、柊君は苦虫を嚙み潰したような、なんとも言えない表情に。
「会ったと言うより、一方的にこっちが見ていたような感じだったけど」
「うんうん、それでそれで?」
「どうも、SNSで話題になってるみたいで……『リアルみたまちゃん』がトレンド入りするくらいに……」
「なんでぇ!?」
「うわ!? 椎菜ちーどしたの!?」
「突然大きい声を出すなんて珍しいわね?」
「あっ、い、いや、えとっ……な、なんで、なのかなぁっ!? って!」
そ、そう言えば男の人を捕まえた場所って、何気に周囲に人がいっぱいいた様な……?
しかも、神薙みたまって登録者数が100万人を超えてるチャンネルでもあるし……うぅっ、本物そっくりな存在が出て来ちゃったら、話題になるよね……。
「まあ、みたまちゃんって人気だしね」
「わたしも好きー!」
「私も気に入っていつも見てるわ。あの滲み出る癒し系な感じがいいのよね」
「~~~っ!」
「椎菜、大丈夫か?」
「……死にたいっ……!」
「まあ、自業自得……と言うのも変か。あればかりは仕方ないだろう。ま、元の姿で騒ぎになるよりかはマシだろう」
「そ、そうだよね……」
そこは僕も考えて動いてたし、心配はしてないけど……やっぱり恥ずかしいことは恥ずかしいし……うぅ。
「なるほどねー。つまり、リアルみたまちゃんを見られるかもー! って感じで、いろんな人がいるわけかー。やー、みたまちゃんってやっぱ人気なんだねぇ」
「そうね。少なくとも、二ヶ月程度で100万人って考えると、割と化け物よね?」
「ば、化け物……」
……なんでだろう、すごく、胸に刺さる……。
僕って、化け物、なんだ……そっか……。
「いや椎菜、今のはそう言う意味じゃないからな? すごいって意味だからな?」
「……本当?」
「あぁ。だから気にしなくていいと思うぞ。むしろ誉め言葉に近いだろうな、この場合は」
「そ、そっか……ちょっと複雑だけど……うん」
それなら気にしなくてもいい、よね……?
「でも、本当にすごかったよね、リアルみたまちゃん……って、そう言えばあのリアルみたまちゃんって、昨日お風呂に落っこちて来たみたまちゃんじゃない?」
「……言われてみれば」
「じゃあやっぱりこの辺りにいるのかな!? わたし、話してみたーい!」
「やめときなさい。私も会って話してみたくはあるけど、色々と問題も起こりそうだし」
「そうだね。瑠璃ちゃんの言う通り、止めておいた方がいいと思うよ? 美咲ちゃん」
「むー、それもそっかー。まあ、それがだめでも、もう一度会ってみたいなー」
なんて言葉を零す美咲ちゃんに、瑠璃ちゃんもそれは私も、と相槌を打ちました。
((まあ、当人がここにいるんだけどね(な)))
その二人を見た柊君と麗奈ちゃんの二人は、なんとも言えないような、曖昧な笑みと共に二人を見ていました。
……僕、なんだけどね……。
だけど、さすがに変身できるよっ! なんて言えないし、この場で知られたら、大変なことになると思うので、バレないようにしないと、ね……。
「ともあれ、さっさと進むか。時間に余裕はあるが、あまり遅く戻り過ぎても問題だしな」
「あ、うん、そうだね。僕も早く見たいし!」
騒ぎになっちゃったものは仕方ないので、今は忘れて、観光を楽しまないとね!
◇
というわけで、早速千本鳥居へ。
ずーっと鳥居が先へ続いているのは、見ていてすごく面白いと思います。
なんだかこう、別の世界に迷い込んじゃったような、そんな不思議な感覚があるよね。
すごく好きです。
あと、やっぱり神社は落ち着きます……。
「椎菜ちゃん、ちょっと嬉しそうだけど、そんなに来たかったの?」
「ふぇ? あ、ううん? たしかに来たかった場所ではあるんだけど、元々神社が好きで……こう、落ち着く感じがあるんだぁ。地元の山にある神社にもよくお掃除しに行ってるしね」
「え、椎菜ちーってあそこの神社良く行くの? というか、掃除!?」
「うん! 昔助けられたような気がしてから、定期的に! ほら、あそこの神社ってよくゴミが落ちてるし、僕も好きな場所を汚されるのは嫌だったから」
「なるほどね。なんと言うか、椎菜さんって心が綺麗よね」
「ふぇ? あはは、綺麗って言うことはないと思うけどなぁ」
((((椎菜|(ちゃん)(ちー)(さん)以上に綺麗な人(奴)を見たことがないんだけど(だが)……))))
そもそも、綺麗な心の人ってやっぱり子供だと思うしね。
僕は子供じゃないし、汚いことも知ってるからね!
「それにしても……進んでも進んでも鳥居。なんでこんなに鳥居を建てようと思ったんだろうね?」
「色々あるみたいだけど、昔神様のいる幽界って言う場所へ行くための門として多くの鳥居を建てた、って言う話があるわね。ちなみに、実は稲荷山の鳥居自体は一万以上あるらしいわね。今も増えてるとか」
「え、そんなにあったんだ!? というか、瑠璃ちゃんよく知ってるね?」
「ちょっと調べたの。と言っても、本当に初歩的だけどね」
「へぇ~~、ねぇ、瑠璃ちゃん。ここの神様って、どんなご利益があるの?」
瑠璃ちゃんの説明を聞いて、僕は感心したような声を零した後、この神社の神様にはどんなご利益があるのか気になって尋ねてました。
そう言えば知らないなぁ、なんて。
「たしか、五穀豊穣、商売繫盛、家内安全、諸願成就、だったかしら? 他にも色々あるみたいだけど、この辺りが有名みたいね」
「なるほど~」
僕としては……うーん、商売繫盛と家内安全、かなぁ……。
VTuberだし、できればいろんな人を楽しませたり癒したりしたいなぁ、なんて思うし、お姉ちゃんは普段からいっぱい頑張ってるし、お父さんとお母さんももうすぐ帰って来るかも知れないし、やっぱりみんな健康で、楽しく過ごしたいもん。
「諸願成就……って、なに?」
「諸願成就っていうのは、神仏が人々の願いを叶えること、って言う意味だな。つまり、神様にお願いしたことが叶いますよ、って言うことだ」
「はぇ~、高宮君も良く知ってるねぇ」
「……昔ちょっとな」
「高宮君、何かあったの?」
「……簡単に言えば、椎菜の姉関連」
「あっ(察し)」
「柊君、お姉ちゃんがごめんね……?」
「いや、いい。気にしないでくれ」
「椎菜ちーのお姉さんって言うと……学園祭の時に、椎菜ちーに接客された瞬間に倒れたあの人?」
「うん。いいお姉ちゃんなんだけど、たまにああなっちゃって」
「かなり面白いお姉さんだったと記憶してるけど……高宮君のそのなんとも言えない表情を見ていると、すごい人なのね」
「……いい意味でも、悪い意味でも、な」
そう零す柊君の表情は、本当になんとも言えないものでした。
なんて、そんなことをお話していると……おもかる石のある、奥社奉拝所に到着。
観光客の人たちはいるけど、さっきのあの場所みたいに人は多くないみたい。
というより……。
「なんか、人が少ない?」
「そうだな……おもかる石は結構有名なんだが……何かあったのか?」
と、観光スポットとしては有名な場所なはずなのに人が少なくて、頭の上に疑問符が浮かぶ。
何かあったわけじゃない、よね? だって、こういう場所だし……。
うーん、だけど……と、うんうんと考え込んでいると……ふと。
「あれ? ねえ、あそこにいる女の子……なんだろう?」
麗奈ちゃんがある場所を指さしながらそう言いました。
なんだろう? と思って僕たちみんな、麗奈ちゃんが指し示した先を見ると、そこには肩口ほどの長さの白い髪に蒼い瞳、それから白と青の巫女服を着た幼稚園と小学一年生の間くらいの女の子がそこにいました。
この時点で、かなり不思議なんだけど、その女の子は……なぜか耳と尻尾が生えていました。
しかも、狐の耳と尻尾。
だけど、その女の子はすごく可愛らしい。
でも……なんだろう、あの女の子……どこかで見た様な、そんな気がするんだけど……。
と、僕がなぜか女の子に既視感を感じていると、女の子がじーっと僕を見つめてきました。
「……椎菜、知り合いか?」
「う、ううん? 会ったことはない、はずなんだけど……」
「でも、椎菜ちーのこと、すっごく見てない?」
「見てる、わね。ガン見よね?」
「……あ、女の子が動いた」
しばらく僕を見つめていた女の子は、何か意を決したように、とことこ、と少しずつ僕たちの……というより、僕のすぐ傍に近づいて来て……。
「おかーさん……」
と、そう言いながらぎゅっ、と僕に抱き着いて来ました。
「………………ふぇぇ……?」
突然、『おかーさん』と呼ばれて、思わず思考が停止。
気の抜けた声が出て、それからその言葉を頭の中で反芻して行くと、それがどういう意味なのかわかってきて……そして、
「「「「「――うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」」」」」
僕たちみんなの驚愕に染まった声が、響き渡りました。
ど、どういうことぉ……!?
======================================
はい、まさかの椎菜以上のお狐ロリが登場した挙句、椎菜をおかーさんと呼ぶ謎の幼女です。
いやー、誰なんでしょうねぇ! 美月とは関係はないけどねぇ! まあ、あいつが原因と言えば原因だけどね。
いやぁ……正直、この先の展開で脱落者とか絶対出るな、なんて思ってます。まあ、私はやりたいように書いてるだけなのでね! 後先考えてないし! そう言う人が出てもおかしくないからね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます