#71 配信後と、翌朝の天獄

「それじゃあ、僕は戻るね!」

「あぁ、おやすみなぁ」

「うん! おやすみなさい!」


 配信を終えて、僕は栞お姉ちゃんにおやすみを言ってから栞お姉ちゃんのお部屋を出て、そのまま麗奈ちゃんたちがいるお部屋へ。

 とことこ、と静かな館内を歩いていると、ふと、あまりにも人通りがないことに気付きました。


「あれ? 人がいない……?」


 時間が時間なのもわかるけど、姫月学園の生徒ならまだいそうなのに、何かあったのかな?

 そう言えば、先生たちもいない気が……。


 初日だし、みんな疲れちゃって寝ちゃってるのかも。

 うん……大丈夫、だよね?

 きっと大丈夫!


「麗奈ちゃんはともかく、美咲ちゃんと瑠璃ちゃんにはなんて言おう……?」


 お風呂が嫌で逃げて、でも結局は神薙みたまの姿でお風呂に入ってたわけだけど……あの姿が僕だって知ってるのは麗奈ちゃんと柊君だけで、女の子側は麗奈ちゃんだけ。

 だから、こんな時間までいなかったことをどう言い訳しようかなぁ……うーん……。


「で、でも、麗奈ちゃんも誤魔化すのを手伝ってくれる……よね? うん、大丈夫……!」


 そう言う約束はしてあるし、多分大丈夫……。

 内心ドキドキしながらお部屋へ戻って、中に入ると……。


「「「( ˘ω˘)スヤァ」」」


 三人とも、なぜか血溜まりに沈んでいました。

 ……ってぇ!


「さ、三人とも何があったの!?」

「へ、へへ、へへへへ……み、みたまちゃんは、か、かわ、いい……ガクッ」

「美咲ちゃん!?」

「ろ、ロリで、ピュア、は死、寝る……ごふっ」

「瑠璃ちゃん!?」

「……み、みたまちゃん、あ、あれは、へ、い……き…………( ˘ω˘)スヤァ」

「麗奈ちゃーーーーーーん!?」


 三人ともとても安らかな笑み且つ、まるで銃弾を受けて今にも死にそうな感じで言葉を残すと、そのまま落ちてしまいました。

 え、これって死んじゃったわけじゃないよね? 寝ちゃっただけだよね!?

 ……あ、脈はある……じゃあ、大丈夫……だよね?


「と、とりあえず……まずは綺麗にして、それでお布団に……」


 さすがにそのままで寝かせるわけにはいかなかったので、僕は綺麗にお掃除をして(幸いお布団には付いてなかったです)、なんとか綺麗な状態に。

 元々、お姉ちゃんもよくこうなっちゃうから、こういう時のお掃除の仕方は熟知しています。

 まさかこんなところで生きるとは思わなかったけど……。


「うん、それじゃあ、三人を寝かせて、と……」


 僕はお布団を並べて、三人の顔を綺麗にしてからお布団に寝かせました。

 パジャマも割と血が付いてたけど、こっちは……その……僕じゃどうしようもないので、変身してからなんとか霊術で血を乾かして、どうにかしました。


 それぞれ三人をお布団に寝かせると、僕もぽふっ、とお布団に横になりました。

 お布団に入ったところで、柊君から電話が。


「もしもし、柊君?」

『今大丈夫か? というか、そっちの部屋は大丈夫だったか? 血まみれになってないか?』

「え、柊君なんでわかったの!?」

『やっぱりか……というか、あんな配信を流されたらそうなるわ……ってか、俺の所もなってるからな』

「ふぇ!? そうなの!?」

『あぁ。というか……多分だが、生徒全員が死んでるぞ』

「なんで!?」


 どうしたらそうなるの!?


『なんでって……いいか? らいばーほーむは今じゃかなり勢いがあるわけだ。いや、元々あったが……三期生が出て来たことで、こうなったんだ。特に、神薙みたまだな』

「ぼ、僕……?」

『あぁ。というかだな、椎菜が原因で二期生の常識人はらいばーほーむになり、春風たつなも若干壊れた。これはもう、元凶は椎菜としか言えないしな……』

「えぇぇ……」

『あと、俺は突然配信にお前が出て来て驚いたわ! 何してるんだよ、今修学旅行中だぞ? おかげで、緑茶噴き出したぞ……』

「え、えと、ご、ごめんね? その、リリスお姉ちゃんと偶然会って、それで色々と……」

『まあ、そうだろうとは思ったが……まったく、びっくりだよ、こっちは』

「す、すみません……」


 呆れた声で言ってくる柊君に、僕はしゅんとしながら謝りました。


『……これに関しちゃ謝る必要はないが……椎菜はもう少し、自分の魅力を自覚した方がいい。何をしたって可愛い椎菜だぞ? 俺は元の椎菜を知っているから問題はないが、そうじゃない奴らの方が圧倒的だ。だから、椎菜は今後は気を付けてくれ』

「あぅ……で、でも僕ってそんなに魅力がある、かなぁ……?」


 魅力があるって言われても、僕はよくわからないし……そもそも、元男で女の子になっちゃってるんだよ……? 魅力って言われてもよくわからないよ……。


『だろうなぁ……で、朝霧は起きてるのか?』

「すごく安らかな顔で寝てるよ?」

『やっぱりか……なんというか、色々と大変なことになっちまったな……まあ、さすがに全員明日の朝には回復してるだろうし、なんだったら調子が良くなってるかもな』

「そうだといいけど……」


 少なくとも、あんなに血を出しちゃった状態だったし、かなり危ないと思うよ……?

 僕が、その……あ、アレになっちゃって、暴走しちゃった時なんて、お姉ちゃんが死にかけちゃってたし……。


『とはいえ、こっちも何も言いようがないし、やりようがない。ま、夜更かしして明日の一日行動に支障が出ないだけマシだろ』

「それでいいの……?」

『いいんだよ。ある意味では、お手柄かもな。まあ俺としては、心臓が止まると思ったがな……まさか、修学旅行中に配信をするとは思わないぞ……』

「あ、あははは……」


 柊君の言葉には、苦笑いしか出てこなかったです……。

 うぅ、やっぱり大変、だよね……。


『さて、俺ももう寝るよ。椎菜は?』

「もうちょっとした寝ようかなぁ。配信でちょっと眠気が飛んじゃってるし」

『了解だ。明日は回るんだし、早く寝ろよ』

「うん。おやすみ、柊君」

『あぁ、おやすみ』


 と、そこで通話が終了。


「んっ、んん~~~~~っ! はぁ……んー、ああ言ったけど……なんだか眠くなってきちゃったし、僕も寝よーっと……おやすみなさ~い………………すぅ、すぅ……」


 と、すぐに眠くなった僕は、誰かに言っているわけでもなく、おやすみなさいと言ってから、意識を手放しました。



「ん、んん……はれぇ……?」


 朝起きると、そこは知らない天井だった……って、あぁ、そう言えば修学旅行中だったっけ。


「あー、なんか頭がくらくらする……昨日何があったんだっけ……」


 どこかふらつく頭に手を当てて何があったのかを思い出し……。


「……あ、そうだ。みたまちゃんとリリスちゃんのゲリラコラボを見て、それで……そうそう、あまりの可愛さで死んじゃった感じだっけ」


 思い出した思いだした。

 昨日の夜、突然リリスちゃんがゲリラコラボ配信を始めたと思ったら、みたまちゃんが出て来て、それでロリピュアで殺しに来て……うん、あれはすごかった。

 すごくすごかった……。

 やっぱりロリ×ロリは強いよね!

 っと、それはいっか。


「……んん? そう言えば、なんだか体が重くて起き上がれない……なんだろ…………へ!?」


 ふと、起き上がろうとすると、何やら体が重くて妙に温かくて、柔らかないなぁ……なんて思いながら布団をめくると……。


「すぅ……すぅ……んんぅ……えへぇ……」


 そこには、私の上で眠る椎菜ちゃんの姿が……って、なんでぇ!?


「ファ!? な、なんで椎菜ちゃん!? 椎菜ちゃんナンデェェェ!?」


 どう見てもこれ、ヒロインが主人公の体の上で寝てる時の図だよね!?

 え、可愛いっ! 寝顔可愛い!?

 すごい! 本当に天使みたい! というか天使……? やっぱり椎菜ちゃんは天使なの!?


 こ、これが天使の如き寝顔の語源……! ※違います

 つまり、天使は椎菜ちゃんが起源ということに……! ※絶対違います

 ということは、椎菜ちゃんが天使であることは事実であり、当然のことで、椎菜ちゃんは可愛い……! ※突然の出来事で錯乱しております。


「んにゅ……えへへぇ……れなちゃん……しゅきぃ~……」

「はぅあ!?」


 や、やばいっ! またっ、また血が出そう……!

 というか、椎菜ちゃんその寝顔は反則だよぉ!?

 あと、あたしの胸でいまいち見えにくかったけど、椎菜ちゃん……ノーブラ!? ノーブラだよねこれ!?

 すごい! 椎菜ちゃんのエベレストが見えちゃってるよ!?

 白くて真っ白でシミ一つないまっさらなお胸が見えちゃってるよ!?


 や、柔らかそう……というか実際に柔らかい!

 あたしのお腹に当たる椎菜ちゃんの胸の感触がそれはもう素晴らしいんですけど!?

 ノーブラだから余計にぃ!


 ま、まずいっ……あたしのっ、あたしの理性がっ……こんなの、男の子だったら一瞬で理性が消し飛んでケダモノっちゃうよ!? 高宮君くらいだよ!? 耐えられそうなの!


 女の子でもこれは……消える! 理性が蒸発して、野獣になっちゃう! 美女が野獣と笑顔でハイタッチしながら選手交代しちゃうからぁ!?

 で、でもっ、起こすのはすごくこう、申し訳ないしぃ……!


「ん、んん~~~~……ふあぁぁぁ……ん~? 麗奈ちー……どしたのー、そんなに100面相して……って、何その状況!?」

「うるさいわねぇ……美咲、何をそんなに騒いで……って、は!? 麗奈、それどういう状況!?」

「あっ、ふ、二人ともぉ! な、なんか朝起きたら椎菜ちゃんがあたしの上で眠ってて!? あの、り、理性がっ! 理性が飛びそう!?」


 起きて来た二人にあたしは説明をしているのか、助けを求めているのかよくわからないままに、叫んでいました。


「え、えー、何その羨ましい状況……麗奈ちーずるいっ!」

「え、これそうも言ってらんな――」

「ん、んんぅ……はれぇ……? れなちゃんらぁ~……」


 あたしが美咲ちゃんに何かを言おうとした瞬間、もぞもぞ、と椎菜ちゃんがうっすらと目を開けて、きょとんとした後、すぐににへら、と相好を崩してどこか舌ったらずな感じに。


「し、椎菜、ちゃん……?」

「にへへぇ……れなちゃん、しゅきぃ……ぎゅぅ~~~~っ……!」

「アッ――」


 とろ~んとした無邪気な笑顔を浮かべた椎菜ちゃんが、突然好きと言いながらぎゅっと抱き着いてきた瞬間……あたしの意識がそこで途切れた。


「麗奈ちー!? 麗奈ちーーーーー!?」

「あっ、ちょっ! こ、呼吸止まってる!? って、心臓も!?」

「あぁ! すっごい安らかな表情に!? 麗奈ちーしっかりして!?」

「麗奈!? しっかりして! 麗奈――――――――――!?」


 某世界一ダンボールが似合いそうな蛇の漢がゲームオーバーになった時のような叫びが聞こえたような気がするけど、あたしの心の中はたったひとつの真理のみが浮かんでいました。

 それは、


 ――寝ぼけ椎菜ちゃんは至高にして至高――


 と。


 ……とりあえず、寝ぼけ椎菜ちゃんは破壊力が凄まじすぎて、あたしの語彙力と理性が消し飛びかけました! まる!


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 寝ぼけたクッソ可愛い女の子が、とろ~んとした顔で舌ったらずに好きと言いながら抱き着く……うん、素晴らしいよね! あと、普段から恥ずかしがって積極的じゃない女の子ほどそう言うのが可愛いと思います! ギャップ萌え!

 ちなみにですが、死ななかったのは、柊と田崎先生、あとは菫さんくらいです。強いなぁ……。

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