#68 のんびり雑談、こうなってもおかしくない

「わぁ、すごくいいお部屋だね!」


 お部屋に入ると、そこにあったのすごくシンプルな和室でした。

 畳にテーブル、座布団、あとあの謎の空間。

 外からは紅葉した山が見えて、すごく眺めがいいです!


「おー! これは絶景! やっぱり紅葉した山っていいよね」

「わっかるー! メッチャ綺麗だよね!」

「そうね、見てて思わずため息が出そう」


 と、同室の麗奈ちゃんや麗奈ちゃんのお友達の、松永さんと鳥羽さんの二人も窓から見える景色に表情をほころばせていました。

 ……それにしても、二日間一緒に寝泊まりすると考えると、すごく申し訳なく……。

 うぅ、大丈夫、だよね? そもそも、みんな大丈夫って言ってくれたし……。

 う、うん、大丈夫! 絶対!


「あ、そうだ、どうせ帰り以外は服装は自由で良いって言われてるし、着替えない?」

「お、いいねー。じゃ、着替えよーっと」

「なら私も」

「ふぇ!?」


 外を見てはしゃいでいた三人だったけど、麗奈ちゃんがお着替えを提案して来て、松永さんと鳥羽さんの二人はそれに賛成。

 すると、なんの躊躇もなく服を脱ぎ始めて……ってぇ!


「あわわわっ! ご、ごめんなさいっ!」


 肌色が見えた瞬間、僕は大慌てで謝りながら体ごと後ろを向きました。

 あぅぅ~~~、や、やっぱり無理だよぉ~~~っ……。


「あれれ、椎菜ちゃんどしたんどしたん? 急に謝って?」

「何かあった?」

「ふぇ!!? あっ、あああっ、あの、ふ、服っ、服を着てくだしゃい~~~~っ!」


 僕の行動が気になった松永さんと鳥羽さんは、まだお着替えの途中なのに後ろを向く僕の顔を覗き込んできて、僕はまた視界に肌色が入って来ちゃって噛みながら服を着てほしいって言いました。


「「……あぁ!」」

「あ、ごめんごめん、椎菜ちゃん。椎菜ちゃん、まだその辺りは慣れてないもんね。二人とも、一応椎菜ちゃんの心は男の子なんだからね?」

「麗奈ちーも普通に着替えてたじゃーん」

「そうよ。けどまあ、今の失念だったわ。ごめんね、椎菜さん」

「あ、い、いえっ、あ、あの、その……あぅぅ~~っ」


(((何この可愛い生き物……)))


 うぅ、すごく恥ずかしいし申し訳ないよぉ……。

 いくら女の子になったとは言っても、心はまだ男だもん……すぐには慣れないし、罪悪感は簡単に消えないよぉ……うぅ……。

 でも、男子の方には行けないし……僕大丈夫かな? 色んな意味で疲れちゃわないかな? 大丈夫……?


「でも椎菜ちゃん、椎菜ちゃんは今後も女の子として生活していくんだから慣れないとだよ?」

「あぅっ、で、でも、まだ二ヵ月しか経ってないもん……」

「まー、それはそうなんだけどー。ってか、椎菜ちーの場合、荒療治でも早めに慣れておかないと、将来苦労しそう」

「たしかに。たしか、椎菜さんは今でも女性が好きだし、将来好きな人が出来て恋人に! ってなったら、困りそうよね」

「ふぇ!? さ、ささ、さすがに僕と付き合う人はいない、と、思う……けど……」

「「「んぐっ……!」」」


 胸は大きいかもしれないけど、体はちっちゃいし、女の子だし……。


「……これで落ちない人っているの?」

「……やー、わたしは知らないなー」

「……私も。というか、可愛すぎて襲う人とか出てきそう」

「「……たしかに」」

「あ、あの、どうした、の……?」

「あっと、ごめんね。ちょっと。でも、椎菜ちゃん。とりあえず、今回の旅行を機に慣れておこ? ね?」

「うぅ……が、頑張ってみる、けど……み、みんな嫌な顔、しない……?」

「椎菜ちーでそれする人は絶対ないと思うなー」

「元々害はない性格だし、それ以前に……最初から可愛い男の娘だったし」

「はぅあ!」


 やっぱり可愛いって思われてたんだっ……!

 うぅ、やっぱり複雑だよぉ……。


「瑠璃ちゃん、それは椎菜ちゃんに禁句みたいなものだよ?」

「あ、ご、ごめんなさい。私のねt――じゃなかった、ちょっとした理想だったものだから、つい」

「ふぇ? 理想……?」

「こっちの話しよ」

「そ、そっか。……うぅ、でも、慣れる、かぁ……う、うん、今回で何とか頑張ってみるっ……!」

「うんうんその意気! 最初はあたしたちで慣れよう!」

「う、うん、えと、あの、よ、よろしきゅおねがいひまひゅっ! あぅ……」

「「「ごふっ!」」」

「ふあぁぁ!? ど、どど、どうしたの!?」


 三人が突然口元を抑えて血を吐き出しました。

 な、なんで!?


「いや、ごめんっ、まさか、め、目の前で噛みながらお願いされる、とはっ……くっ、普段一緒にいるあたしでも、た、耐性がッ……!」

「れ、麗奈ちー、いつもこれをくらってる、んだね……さ、さすがっ……!」

「これ、私たちが死ぬ、んじゃない、かしら……!」

「あ、あの、本当になんで満身創痍なの……?」

「だ、大丈夫、満身創痍に見えて、体は元気だから……!」

「そ、そう、なの?」

「「そうなんです」」

「そ、そっか、それならいいけど、あの……無理、しないでね?」

「「「ごはぁっ!」」」

「ふぇぇぇ!? 本当に大丈夫なの~~~~~~!?」


 なんだか先行き不安だよぉっ……!



 なんとか三人も無事(?)に治って、お部屋の中でのんびり。


「いやぁ、初日はこうやってのんびりってのはいいよねぇ」

「もったいない! って思う人も多いかもしれないけど、正直初日はこうしてのんびりする方がありがたい!」

「そうね。長距離移動の疲れもあるし、そこを考えてるのかも。二日目は一日中観光できるし」

「そうだね~」


 お話にあった通り、初日は自由に旅館内で過ごしていいと言うことになってます。

 修学旅行としてどうなの? って言われることもあるかもしれないけど、今瑠璃ちゃんが言ったように、一日目は旅館内で自由に過ごして、二日目に一日観光、という形になっています。

 三日目も午前中だけ見て回る時間があるけど、大体はお土産を買う人の方が多いみたいです。


 ちなみに、旅館内にはちょっとした喫茶店とかゲームコーナーがあるみたいで、そっちの立ち入りも許可されています。

 なので、ゲームコーナーに遊びに行く人もいるとか。

 さっき柊君から連絡があって、今はそこで遊んでるそうです。


 あ、それから、美咲ちゃんと瑠璃ちゃんのことは名前で呼んでほしい、ということから苗字から名前呼びになりました。

 行動班も同じからね、その方がいいよね。


「あ、そう言えばさー、わたしたちのことを案内してくれたあの従業員さん、メッチャ可愛くなかったー?」

「たしかにそうね。ちっちゃいけど、どこか大人な雰囲気があってギャップが良かったわ」

「その人、椎菜ちゃんの知り合いみたいだよ?」

「え、そうなの? 椎菜ちー」

「うん。星波大学に通ってるお姉さんで、今はお手伝いで帰って来てるんだって」

「え、そうなのー!? ってか、地元の人!?」

「でも、なんで私たちの地元の方に?」

「うーん、その理由は知らないから」

「へぇ~、そうなんだー。でも椎菜ちー、よくそんな人と知り合いだったね? きっかけとかあるの?」

「き、きっかけっ?」

「うん、きっかけー」

「あ、え、えっと、そう、だね……」


 ど、どうしよう、なんて言おうかな……?

 きっかけ自体はらいばーほーむの先輩後輩で、って感じだけど、それをは当然言えないし、仮に言った場合はボクのことがバレちゃうし……ど、どうしようっ!?


 ……あっ! こ、こういう時こそ、麗奈ちゃんに助けを求めなきゃ!


 ちら、ちら、と僕は麗奈ちゃんに視線を向けて、それに気づいた麗奈ちゃんは小さく首を傾げたけど、すぐにあぁ! と納得してくれたみたいです。


「そう言えばちょっと前に椎菜ちゃんが、星波学園のオープンキャンパスに行ったことがあるらしくて、その時に知り合ったんじゃないかな?」


 麗奈ちゃん! ありがとうっ!


「へぇ~、もうオープンキャンパスとか行ったんだ?」

「そ、卒業後のことは決めてない、けど、ほら、大学は行った方がいいのかなぁ、って。だから、近くの星波大学に行ってて……その時に知り合ったのがさっきのお姉さんなの」

「なるほど。たしかに、二年生で行くのもありよね。私も行ってみようかしら」

「あれ、瑠璃ちーは進学希望?」

「まあ、そうね。とりあえず、大学は出ておきたいし。美咲と麗奈は?」

「わたしは就職かなー」

「あたしは……んー、正直ちょっと迷ってるかな。まあでも、大学に行きそうだけど」

「みんな、漠然と何がやりたいかってあるんだね」

「わたしはとりあえず、お金稼いで普通の生活が出来ればよーし! あとは、プライベートが充実してればいいしねー」

「私は……そうね、何をやりたいかを探すために大学にって感じね」

「あたしも瑠璃ちゃんと同じかな」

「なるほど~」


 たしかに、そう言う考え方もありだよね。


 僕は……うーん、何がしたいんだろうね。

 今は配信活動もしてるけど、それ一本で、っていうのはちょっと問題だと思うし……うん、やっぱり僕も進学を考えようかなぁ。


 なんて考えていると、スマホが鳴りました。

 なんだろうと思って見ると、栞お姉ちゃんからのメッセージでした。


 開いてみるとそこには、


『こっちは暇になったんやけど、椎菜さんはどうや?』


 と書かれていました。


 あ、暇になったんだ。

 うん、折角だしちょっとお話してこようかな。


『今行きます!』


 と返信してからお部屋を出る。


「僕、ちょっと外に行ってくるね」

「はーい、いってらっしゃい」

「気を付けてねー」

「怪しい人について行っちゃだめよ」

「僕同い年だよ!?」


 瑠璃ちゃんにツッコミを入れつつ、ふふっと笑ってから僕はお部屋を出てエントランスの方へ。


「お、来た来た」


 エントランスへに到着してから、きょろきょろと辺りを見回していると、栞お姉ちゃんを発見。


「こんにちは!」

「ふふ、こんにちはぁ」


 挨拶しながら近くまで行くと、栞お姉ちゃんは嬉しそうに笑いながら挨拶を返してくれました。

 ちなみに、和服のままです。


「栞お姉ちゃん、お仕事はいいの?」

「あぁ、ええんよ。うちは元々手伝いやから……ちゅうのもあるんやけど、お母さんに配信の後輩がおったって言うたら、話してきてええよ、って言われてなぁ」

「そうなんだ! お母さんって優しい人なの?」

「そうやなぁ。厳しいとこもあるんやけど、優しいお母さんやな」

「そうなんだ。ねぇ、栞お姉ちゃん」

「ん、なんや?」

「栞お姉ちゃんって旅館を継ぐの?」


 さっきお部屋で話していた延長で、栞お姉ちゃんに旅館を継ぐのか訊いてみることに。

 栞お姉ちゃん、


「んー、そうやなぁ……まあ最終的には継ごうとは思てるけど、しばらくは自由に生きようって思てるなぁ」

「なるほど。やりたいことがあるの?」

「ふふ、やりたいことならもうやっとるよ」

「あ、やっぱり配信?」

「それもあるんやけど、それ以外にもちょっとな」


 なんてどこか曖昧な笑みを浮かべながらそう言う栞お姉ちゃん。

 他に何かあるのかな?


「ま、それはええとして……椎菜さん、突然やけど……配信やらん? ゲリラで」

「ふぇ!?」


 いきなりお話が変わったと思ったら、栞お姉ちゃんが急に配信に誘って来て、びっくりしてしまいました。

 え、なんで!?


「ほら、デレーナさんといっぺんゲリラコラボやっとったやん? せやからうちもやってみたいなぁ思てなぁ」

「な、なる、ほど?」

「ま、椎菜さんは修学旅行中やし、無理にとは言わんよ。校則違反! ってなるかもしれんしなぁ」

「あ、多分それはないと思うよ?」

「そうなん?」

「うん。えっと、消灯時間までにお部屋にいればいいから、その間は自由行動なの。旅館内であれば、許可なく立ち入っちゃいけない場所以外はいいよー、って言われてるし」

「ほー、珍しい学校やなぁ。普通はダメ言うと思うんやけど」

「うーん、結構自由なんだよね、姫月学園」

「ははっ、まぁ、うちにいる他のメンバーを思えば、納得やな」

「あははは……」


 お姉ちゃんとか皐月お姉ちゃんとか、冬夜お兄ちゃんとや恋雪お姉ちゃんに寧々お姉ちゃんも卒業生だって言うし……確かに納得、かも?


「ま、無理にとは言わんよ。けど、面白そうやん、旅先で配信いうのも」

「たしかに……うん、いいよ! あ、でも、データは……」

「そこは愛菜に送って貰えばええやろ」

「それもそっか。じゃあ、えと……何時から?」

「そうやなぁ……消灯時間は何時や?」

「10時、だったかな?」

「了解や。たしか、夕食が18時。入浴が19時半と仮定して……20時半くらいからでどうや?」

「うん! いいよ! えっと、どこに行けばいいかな?」

「とりあえず、ここに来てくれればええよ」

「うん! ちなみに、何するの?」

「ふふふ、それはやな……」


 と、二人で小声で色々お話。

 周囲に人がいないわけじゃないけど、割とざわざわしてるのでほとんど聞こえてません。

 それで、その内容はと言えば……。


「ふぇっ、ほ、本当にやる、の……?」


 ちょっとだけ……ううん、かなり恥ずかしくなるようなことでした。


「ふふふ、このタイミングが一番やろ? うちはこれで癒しを届けるんや」

「……う、うん、ちょっと恥ずかしいけど……が、頑張ってみるっ!」


 そ、そうだね。

 僕の配信でも癒しになるって言われてるもんね。

 頑張ってみようっ……!


「その意気や。……さて、うちはそろそろ仕事に戻んで」

「あ、うん! じゃあ、夜ね!」

「あぁ、夜な~」


 最後にそう言い合って、僕たちは一度別れました。


 それにしても、修学旅行中に配信……なんだかイケナイことをしてる気分になって、ドキドキしちゃうなぁ。


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 まあ、配信者が二人いるんなら、みたまの配信特徴上こうなるのはおかしくない!

 というか、みたま×リリスの配信はやりたかったからね!

 さて、二人は一体何をするんでしょうねぇ!

 次回は多分お風呂回! 多分ね!

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