#67 殺人的バス移動、旅館で遭遇

「んっ、ふあぁぁぁ~~~~……ん、よく寝た!」

「椎菜お前、熟睡だったな」

「うん、すごく気持ちよさそうに寝てたねぇ」

「えへへ、なぜかすごく寝やすくてつい……って、麗奈ちゃん、なんだかその、仏様みたいな顔になってるけど何かあったの?」

「あぁ、気にしないで、全ての情報をシャットアウトした結果だから。あ、もうすぐ戻るので安心してね!」

「そ、そうなの?」


 僕が寝てる間に何かあったのかな?

 って、あれ? よく見たら、周囲にいる人たちも同じような表情な気が……。


「ねえ柊君。僕が寝てる間に何かあったの?」

「あー、あったかないかで言えばないんだが……。いや、ある意味あった、か?」

「何があったの?」

「そう、だな……とりあえず、可愛い物を見たら鼻血が出そうになって我慢しまくった結果ああなった、といったところか」

「????」


 何を言っているのかよくわからないけど……。

 大丈夫、ということでいい、のかな? 別に辛そうって言うわけじゃないし。


『……実際は椎菜ちゃんの寝顔が可愛すぎてああなったんだけどね』

『……寝てても無差別殺人兵器なのがなぁ……我が幼馴染ながら、恐ろしい存在だ』

『……寝言で、『んんぅ~……えへへぇ、もうおなかいっぱいれす~……』って言ってたもんね。リアルでいるんだ、あの寝言ってくらいあざとかった……あたし、よく耐えたよね、これ』

『……本当にな。まあ、周囲は耐えきれなくて、ティッシュを大量消費する羽目になっていたが』

「二人とも、スマホでチャットしてるけど、どうしたの?」

「あぁ、いや、ちょっとな。……っと、そろそろ降りるみたいだぞ」

「降りてもバス移動だけどねー」

「あはは、そうだね」


 駅に着いたらバスでの移動になるから、結局のところ座りっぱなしであることに変わりはないわけで。

 でも、こういうのも修学旅行の醍醐味だよね!



 それからほどなくして京都駅に到着。

 この辺りはどこで見かけるような普通の街並みではあるけど、やっぱり普段見慣れた町じゃないから新鮮だよね。

 旅行と言えばこういう感覚だと思います。


 それから、バスに乗り込んで目的の場所へ移動を開始。

 隣は麗奈ちゃんです。

 柊君は反対側に座っているのでいつでもお話しできます。


「よーし、お前たちー、これからバスでの移動になるわけだが、正直そこまでの距離じゃない。だがまぁ、それでも二十分くらいは乗ることになるわけだ。なので……適当な奴に盛り上げてもらうべく、強制カラオケ大会するぞ」

「「「なんでだよ!?」」」


 バスに乗り込んだ直後、田崎先生がにやりと笑いながら強制カラオケ大会を開くと言って来て、ほとんどの人たちがツッコミを入れていました。

 か、カラオケ……。


「いやなんでって……少しでも盛り上がりたいだろ? アオハルと言えばバス移動中のカラオケじゃないか?」

「先生のアオハルの基準偏ってません!?」

「普通に恥ずかしいんすけど!」

「絶対に嫌っす!」


 と、ほとんどの人たちは嫌がっていました。

 まあ、そうだよね……。

 学園でしか会わない人たちの前で歌うのって、すっごく勇気がいると言うか、恥ずかしいもんね……。


「まあ、お前たちがそう言うことは目に見えていた。なので……ここにお前たち全員の名前が書かれた紙が入った箱がある。これを引いて、当たった奴が歌う。それでいいだろ?」

「「「よくねぇっ……!」」」

「ハハハ! お前たちに拒否権などない! というわけで一枚目ェ! お、高木じゃないか。よし歌え」

「俺っすか!?」

「うちのクラスに高木はお前しかいないだろー。じゃ、ほいマイク」

「畜生ッ!」


 最初に歌わされる羽目になったのは高木君。

 たしか、サッカー部所属で今年の大会ではレギュラーだったかな?

 ちなみに、柊君ほどじゃないけどモテてる、っていう噂を聞いたことがあります。

 そんな高木君はまさかのアニソンを熱唱していました。

 あと、上手でした。


「おー、よかったぞ、高木ぃ。まさかお前がアニソンとはな! 予想外だ」

「くっ! だから歌いたくなかったんだッ……!」

「いいじゃねぇかよ、面白かったぜアニソン高木」

「高木良かったぞアニソン高木」

「お前らそろいもそろって俺をいじるなよ!?」

「「「HAHAHA! いやまさかそんな」」」

「お前らぁ!」


 と、仲のいい人たちとじゃれあっていました。

 うん、微笑ましい。


「よし、じゃあ次な次。次は……ほほう、高宮って出たな。『高』続きだな」

「俺かよ……」

「柊君頑張って!」

「あたし、高宮君の歌気になるなー!」

「ノリノリかよ……あー、下手でも文句は言うなよ……」

「ふふふ、高宮のカッコ悪い所を見てやるぜぇ……」

「是非とも下手であるところを見せて、俺たちに高笑いさせてくれや」

「お前ら……」


 なんて、すごく嫌そうな柊君だったけど、いざ歌い出すとさっきまでの様子は嘘のようになくなって、途中からノリノリになっていました。

 あと、やっぱり上手。

 たまに柊君とカラオケに行ってたけど、普通に柊君って歌が上手なんです。

 歌うのは割と雑食で、J―ポップメインにたまにアニソンとか、ゲームの曲とか、色々歌います。

 基本的に気に入ったら歌う、って言うのが近い、かな?


「――あー、こんな感じだ……って、なんでお前ら歯ぎしりしてるんだよ」

「くっ、高宮が下手な所を目撃し、是非とも笑いに変えてやろうと思ったのにッ……!」

「なんで上手いんだよッ……何でもできるってかこの野郎!」

「なぜだ! なぜ天は二物も三物も与えたんだ!? 不公平だぁぁぁ!」


 と、クラスの男子のほとんどがなぜか悔しそうにしていました。

 でも、柊君ってカッコいいし、基本的になんでもそつなくこなすから、たしかにちょっと羨ましくなる、かも?

 さすが、柊君!


「やっぱり高宮君ってカッコいいよね……」

「わかるぅ……話してる時とか胸を見ないからいいよね」

「あと、椎菜ちゃんに対する接し方が一切変わってないのもカッコいい」

「やはりイケメン……!」

「この嫉妬で人が殺せたらどんなにいいことかッ……!」

「奇遇だな。やっぱ殺意湧くよな……」

「……しかもあいつ、行動班は男一人だぞ?」

「……死ねばいいのに」

「お前ら!? というか、椎菜も中身は男だからな!? 見ろ、椎菜の表情が曇ってるぞ!?」

「……ふふ、そうだよね……僕は女の子、だもんね……あははは……」


 うぅ、これでもまだ心は男のつもりなのにぃ……。

 なんだか釈然としません……。

 体は女の子になっても心は男なのに……。


「「「男子サイテー」」」

「「「ぐはぁっ!」」」

「はっはっは! いやぁ、うちのクラスは面白いな! 見てて飽きる気がしない。さて、この調子で三枚目だなーっと。……お、喜べ桜木、お前の名前が書かれた紙が出て来たぞ」

「ふぇぇ!? む、むむ、無理ですよぉ!?」


 落ち込んでるのも束の間、僕の名前が書かれた紙が出てきてしまったみたいです。


「大丈夫だ。前の二人もどうにかしたんだ。なんとかなる!」

「あぅぅ~~……」

「まあ、こればかりはな……ほら、椎菜、マイク」

「柊君、実は楽しんでない……?」

「ははは、まさか」


 うぅ、これはさっきの仕返しのつもりだね……?

 いいもんっ! やってやるもん!

 というわけで、今の自分でも歌えそうな曲を選んで流して……。


「~~~♪ ~~♪」


 歌い始めました。

 最初は恥ずかしいけど、やっぱり歌っていく内にちょっとだけ楽しくなってきました。


 ……そもそも僕、画面越しとはいえ、配信活動もしているから、そういうのもあって前よりもそう言う度胸が付いたのかも……?


「――はふぅ……え、えっと、お、終わりました……って、あれ? みんなどうしたの……?」


 と、歌い終わったところで、周囲を見回してみると、そこにはなぜかすごくいい顔で眠ってるクラスのみんなが……って、


「本当にどうしたの!?」

「まあ、そりゃこうなるわなぁ……」

「しゅ、柊君、あの、みんな死んじゃったんだけど!?」

「いや死んではいないぞ。ただまあ、あれだ。多分、椎菜の歌が上手すぎて寝ちゃったんだろう」

「ふぇ!? そ、そんなことあるの!?」

「あるんだ。というか、男の時より上手くなってないか?」

「そ、そうかな?」

「あぁ。正直俺も驚いた。多分、声帯もかなり変わってるんだろう」

「な、なるほど……たしかに、女の子の体になってる時点で色々違うもんね……それに、喉仏だってなくなっちゃったし……」

「……俺、椎菜に喉仏があるところとか見たことがないんだが」

「ふぇ!? ちゃ、ちゃんとあったよ!? ……わ、わかりにくかっただけで……」

「実際上を向いてもわからなかったんだがな」

「あぅぅ……」


 僕だってあの時はちょっとだけ気にしてたのに……。

 というより、男らしい人と言うのがある意味の僕の憧れでもあったからね……。

 こう、背が高くて筋肉があって、それで声も男らしくて、そんな感じの。


「あれ? そう言えば麗奈ちゃんが会話に参加してない……って、麗奈ちゃん!?」


 柊君とお話していても麗奈ちゃんから反応がないなぁと思って右を見てみると、そこには安らかな顔で眠っている麗奈ちゃんの姿がありました。

 なんで!?


「やはり、朝霧もやられたか……むしろ、すぐ傍にいた時点でこうなることは必然だったわけ、か」

「柊君、冷静に考えてる場合じゃないと思うよ!?」

「そうは言ってもな……」

「こういう光景を見てると、桜木を高宮と同じ班にしておいてよかったと思うぞまったく」

「あ、先生は無事だったんですね!」

「まあな。というか、お前は本当にこう、規格外だな」

「どういう意味ですか!?」

「文字通りだが? まあ、こうなったら仕方ないし、とりあえず、着くまではこのままでいるか」


 本当にこれ、大丈夫なのかな……?



 それからほどなくして目的地の旅館に到着!

 それと同時に田崎先生がクラスのみんなを起こして、みんなはどこかすっきりとしたような表情で下車。

 旅館の前で一度整列して、軽く注意事項を言われてから早速お部屋へ。


「いらっしゃいませ、姫月学園の皆様、お待ちしておりました」


 と、僕たちの前に現れたのは、和服を着たすごく綺麗な人でした。

 ただ……身長が僕とほとんど変わらなかったけど……。

 多分、僕よりちょっと大きいくらい、かな?


「当旅館の女将をしております、東雲月奈と申します。何かありましたら、従業員に遠慮なくお申し付けください」


 ……東雲?

 今、東雲って言ってた、よね……?


 ……そう言えば、栞お姉ちゃんの苗字って東雲で、たしか実家が京都の老舗旅館って……た、多分気のせい、だよね?

 うん、きっと気のせい……!


「各クラスに案内人を付けますので、その方の指示に従ってお部屋までどうぞ」


 と、そう言って各クラスの先頭にそれぞれ案内役の従業員さんが来て……。


「皆様初めまして。こちらのクラスの案内人となりました、東雲栞と申します」


 僕よりちょっと背の高い女の人……というか、栞お姉ちゃんがそこにいました。

 それも、普段会う時のような笑顔ではなく、すごく綺麗な笑顔で。

 あと、着物がすごく似合ってる……!

 とりあえず、僕は小さいし、多分栞お姉ちゃんも僕がいることには気付いてない、よね?


「それではこちらでございます」


 丁寧な言葉遣いで先導されながら、僕たちは宿泊するお部屋があるフロアへ。


「男子学生の皆様はこちらのフロアでございます。各お部屋のすぐ横にお名前が記載された紙が貼られておりますので、そちらをご確認ください。もし、何か備品が足りないようなことがあれば、近くの従業員にお申し付けください」

「じゃあ柊君、またね」

「あぁ」


 ここで柊君とは一旦分かれて、僕は女の子に混ざって移動。

 もう、体は女の子だから混ざるも何もないとは思うけど……。


「女子学生の皆様はこちらのフロアでございます。各お部屋のすぐ横にお名前が記載された紙が貼られておりますので、ご確認ください。何か足りないものがあれば近くの従業員にお申し付けください。それでは、ごゆっくりどうぞ」


 にっこりと微笑んでぺこり、と綺麗なお辞儀をしてから栞お姉ちゃんが横にずれると、みんな楽しそうにお話しながらそれぞれのお部屋へ。

 僕も栞お姉ちゃんのすぐそばを通り過ぎようとしたら……。


「――ふふ、えらい偶然やなぁ」


 と栞お姉ちゃんに声をかけられました。

 いつもの口調で。


「あ、あはは、僕もまさか栞お姉ちゃんと会うとは思わなかったよ。もしかして、栞お姉ちゃんの実家ってここなの?」

「そうやぁ。本来やったら今日も大学やったんやけど、なんでも団体が来る言うことで、急遽手伝いで来たんや」

「そうなんだ。でも、なんだかちょっと嬉しいかな。栞お姉ちゃんと会えて」

「――っ、そ、そうかぁ。あ、うちは手伝いやから、暇な時にでも話さへん?」

「うん! もちろん!」

「ふふ、せやったら、入り口のすぐ傍に雑談できるような場所があるし、そこで話そうか」

「うん! それじゃあ、また後でね! お仕事頑張ってねっ!」

「ふふ、あぁ、ありがとなぁ。――こほんっ、それではごゆっくりどうぞ」


 最後にお仕事モードに切り替わった栞お姉ちゃんがそう言って、栞お姉ちゃんは去っていきました。


「椎菜ちゃん、あの従業員さんと知り合い?」

「あ、うん。ちょっとね」

「そっかー、椎菜ちゃんも結構人脈があるのかな?」

「ど、どうなんだろう?」

「まあいっか! それよりも、お部屋行こお部屋!」

「あ、うん!」


 楽しそうな様子の麗奈ちゃんに引っ張られるような形で、僕はこれから過ごすことになるお部屋へ移動しました。


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 まあ、キャラ紹介で書いてあったからね! そりゃ出て来るよね!

 というわけで、栞が登場しました。というか、栞はたまに大学を休んで手伝いに行くことがあります。交通費はちゃんと親から支給されてます。そりゃあね。高いからね、新幹線。

 まあ、栞自身はかなり稼いでますし、別になくても問題はないんですが。

 ちなみに、椎菜が歌った曲は可愛い系のアイドル曲です。

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