番外編#1-5 とんとん拍子に進む話

「ほう……ほうほうほうっ! これは素晴らしいデザイン群っ! というか、はへぇ~~! このVTuber可愛いね!」

「でしょでしょ! うちの最高傑作!」

「うんうん! 見てるこっちもわかるってもんだぜぇ。いやー、まさか平行世界に来た直後に、こーんなに気の合う人と会うとはねぇ」

「いやー、うちも隣町の散策してたら、まさかこーんなに気の合う並行世界人さんと会うとは思わねぇですよー」


 女委&小夜の両名は、あのあとそれはもう意気投合した。

 で、事情を聴くと、どうやら女委には行く当てがないとのこと。

 だったらうちに来るといいよ! 是非とも創作談議がしてぇです! と提案したことにより、女委はお言葉に甘えて四月朔日宅。

 これでもかっ! と引き延ばされたクソデカポスター(わたもち作:抱き枕カバー用イラスト【自分用】)が壁に貼られており、女委はそれを見てとても楽しそうな声音で褒める。


「んで、帰るあてはあるんで?」

「いやー、わたしの大好きな友達とその師匠さんのどっちかがいれば帰れそうだねー」

「ふむふむ。ちなみに、特徴とかある?」

「大好きな人は、銀髪碧眼の超美少女! あ、ロリ巨乳!」

「ほほう!? なかなかいいビジュアルだねぇ……!」

「でしょでしょ? いやあ、わたしのいる世界じゃ、『白銀の女神』とか言われれてねぇ、それはもう大人気ってもんよー」

「ほほう! 是非とも会ってみたいものだねぇ」

「んで、師匠さんの方は、黒髪ポニテの長身美女! メッチャカッコいい!」

「ふむふむ! 長身美人! いいね! おねろりとか似合いそう!」

「実際メッチャ似合うぜ!」

「ほほう!」


 などなど、特徴だけで色々と盛り上がる二人。

 クリエイターな二人なので、その辺の話題は大好物だ。

 必然、二人の話は盛り上がる。


「あ、そうだ。女委ちゃんに相談があってねー」

「相談とな?」

「いやぁ、何かこう、そっちの世界の本とかない?」

「本? それはどういう本で?」

「同人誌でも何でもいい!」

「んー、なら、このわたしが描いた同人誌でもおk?」

「OKOK! むしろそっちの方が面白そう!」

「ほほう! ではこちらをどうぞ! いやー、布教用で持ってきた甲斐があったってもんだぜー!」


 そう言いながら、女委はカバンの中に入っていたBL本と百合本を小夜に手渡す。


「ほほう! BLに百合……かなり雑食だねぇ!」

「ふふふ、このわたしはなんでも大好物! だからねぇ! ささ、読んでみて!」

「もちろん! いざ!」


 と、小夜は女委作の同人誌を読み始める。

 パラ、パラ……とページをめくる音のみが部屋の中に木霊し、女委は小夜の作品を見る。

 勉強になればとお互いの作品に夢中である。


(お、おぉ……! なんという構図! これは、ふむふむ、なるほどなるほど……ピュアな美少女と積極的な美少女との百合っ……! そして、こっちのBLは……お、おぉ~~~~っ、真面目でイケメンな男子高校生と、変態な男子高校生のか、カップリングッ……ほわぁ~~、み、未知の世界っ、未知世界が広がってるですよぉ~~っ……! つ、続きは……んはぁ! これは、なるほどっ……)


(ふむふむ、これが小夜さんの作品群……! ロリっ子+和装の組み合わせがめちゃくちゃ上手い! ほ、ほっほう! この小物はこうやって使うこともいいと……ふむふむ、お、このデザインいいねぇ! ふんふん、かなり洋風を取り入れてるんだねぇ……それで、かなり素晴らしい和服のデザインに……こういう方向性でわたしのメイド喫茶の衣装を考えてみるのもありかな!?)


 などなど、二人はそれはもう興味津々である。

 そして、二人は自分の糧にしようとひたすら頭の中に叩き込んでいく。


 なにせ、お互い本来は会うはずのない存在なのだ。

 ここでひたすら楽しんでおかなければ後悔する! と思っている。


 そうしてしばらくして、二人は一通り見終わったのか、手を止め……。


「「素晴らしかったッ……!」」


 全く同じタイミングでそう言い合った。


「うち、BLとか読んだことなかったけどあれはすごい! いやもう……すげぇです!」

「わたしもあそこまで和装が上手い人を見たことがない! 素晴らしすぎるッ!」

「となれば……」

「やっちゃう?」

「「やるか! 合同製作!」」


 アホである。

 並行世界から来た人物、もしくはその世界にいた人物なのに、合同で何か作ろうぜ! となる辺りが、アホであり、バカであり、なんとも生粋のクリエイターである。

 ブー、ブー。


「お? 電話だぜー、小夜さん」

「だねぇ。誰かなー……って、おぉ? ひかりさん? なんだろー。はいもしもし?」

『あ、わたもちさん? 今いい?』

「いいですけどー、どうかしたんで? 例のゲームの件?」

『あ、そっちじゃなくて、ちょっと突貫工事なんだけどぉ……VTuber用のロリキャラ二名、作れない?』

「――ほほぅ?」


 ひかりの発言に、わたもちの目がスッ――と細くなる。

 傍から見ていた女委は、何か面白いことが起こるな!? とわくわく顔である。


「ちなみにぃ、それはどうしてです?」

『わたもちさん、並行世界から人が来たー! って言ったら、信じる?』

「信じますねー」


 実際にすぐ傍にいるし、と心の中で呟く。


『あ、マジで? なら話が早い! 実は、今うちにそれはもう可愛い美幼女とロリ巨乳美少女がいてね! 是非とも、ロリ系キャラのVTuberキャラを描いて欲しい!』

「ふむふむ! ちなみに、声は?」

『今聞かせるねー。スピーカーモ―ドオーン! ささ、二人とも喋って喋って!』

『うむ、桜花まひろじゃ! 好きな物は和菓子と緑茶と時代劇じゃな! これでよいか?』

『最高。さ、次はそっちだよ!』

『え、えーっと、お、男女依桜、です。あの、突然すみません――』


 と、電話口の向こうからとても可愛らしいロリボイスが二つほど聞こえて来て……二人目の声に女委が反応する!


「あれ? 依桜君いるの!?」

『ふぇ!? その声は……女委!? え、なんで!? なんで女委が!?』

「おー! やっぱり依桜君じゃーん! いやぁ、よかったよかった! これで何とか帰れそうだぜ!」

『依桜君どうしたの? もしかして、お友達?』

『うん、中学生の頃からの大事な親友! でも、どうしてこの世界に……』

『まあ、儂やおぬしと同じで迷い込んだんじゃろ』

『だ、だよねぇ……え、えーっと、女委は今どこに?』

「ちょっと知り合いになったイラストレーターのお家にねぇ! いやあ、もうすっかり意気投合よ!」

『あ、あははは……さすがというかなんというか、どこに行っても女委は女委はだね……本当に、コミュニケーション能力が高いよ』


 呆れた様な感心したような、そんな笑いを依桜が零す。


『んー、なるほどねー、依桜ちゃんの知り合いかー。まあ、それはあとで二人でゆっくり話してもらうとして……で、わたもちさん、どうよどうよ?』

「……うちのっ、神が降りてきたっ……!」

『ほほう、つまり?』

「任せろってもんですぜ! いやぁ! 爺趣味でのじゃろりとか属性過多! 素晴らしい! 女委ちゃんの友達はなんとも聞き惚れちゃうほどに可愛い声でピュアそう! よっしゃぁぁぁぁぁ! うちの神が降りて来たぞぉぉぉぉぉぉ!」


 琴線に触れたようで、小夜はテンション高く叫ぶ。

 ついでにガッツポーズしてる。


『素晴らしいッ! ちなみにそれはいつごろ完成?』

「ふむ、今のうちの頭は最高潮……! 三日……いや今日完成させるッ!」

『さっすがぁ! んじゃ、あとはVTuber用に加工しなきゃだねー』

「ん? もしや、依桜君VTuberデビュー!?」

『あっ、え、えっと、その、い、色々ありまして……』

「マジか! えーっと、そっちのお姉さん! その加工、わたしに任せてもらえませんかねぇ!」

『ほほう、まさか加工ができるかい?』

「余裕! このわたしはクリエイター系に関することであれば全てが高水準っ! わたもちさんの描く最高のキャラクターを、最高の形でVTuber用に加工してみせますぜ!」

『ほほう! その自信、信じてもよさそう! んじゃ、任せたぜ! えーっと……』

「謎穴やおいと呼んでください!」

『ぶふっ!』


 女委が自分のペンネームを名乗った瞬間、向こうにいたまひろが噴き出した!


『わっ! まひろ君どうしたの!?』

『今噴き出したよ!? 大丈夫!?』


 突然噴き出したまひろに、椎菜と依桜の両名が心配する声が聞こえて来る。


『げほっ、ごほっ……い、依桜よ、お、おぬしの友人、とんでもねぇ名前じゃな……』

『ぺ、ペンネームだから……』

『んっと、謎穴やおいってそんなに変な名前なの?』

『椎菜ちゃんは知らずともOK! っと、んじゃあ、やおいちゃん、頑張れるね!』

「もちのろん! まっかせてぇ! 最高のガワに仕上げるぜ!」

『よーし、最高!』

「んじゃあ、女委ちゃん……いや、やおいちゃん! 早速作成に取り掛かろう!」

「おうともさ! じゃ、依桜君、わたしはわたもちさんと一緒に頑張ってるぜ! あ、ミオさんいる?」

『師匠もいるから、あとで女委のことを伝えておくよ』

「さんきゅぅ! じゃあ、心置きなく合作できる! それじゃあ、わたしたちはこれで!」「期待しててくださいね! ひかりさん!」

『はいはーい! それじゃあ、頼んだよ!』


 通話終了。


「「ふふふ、楽しくなって来たぜぇ……!」」


 クリエイターコンビは初手からエンジンがフルスロットルなようだ。



「はははははっ! いやぁ、これは面白い! 我が神子の願いを叶えるべく、ちぃっと頑張ってみたが……ふふ! これは良い! 良いぞ! とんとん拍子に話が面白い方へ進む!」


 とある場所で、一人の女性……というか、美月が下界の様子を見て馬鹿笑いしていた。


 そう、今回の騒動の犯人はこいつである。


 というか、例の神社で椎菜が祈ったタイミングから、間違いなくこいつが犯人だろうと目星を付けた者の方が多いことだろう。

 その通りである。


「しかし、誰もかれもが相性の良い者たちと合流している……これはもはや運命というほかあるまい! 素晴らしい……それに、我が神子もとても楽しそうだ」


 そう零す美月の表情は、我が子を見るような、穏やかな笑みであった。


 元々、自分の力を取りも出せてくれた椎菜には感謝してもしきれないために、何らかの形で礼をしようとしていたのだ。それが今回、明確な願いと共に叶えるための口実を手に入れたのだ!


 そう、椎菜と同じような境遇の者を連れてこればいいじゃない!


 というわけだ。


 だったら、同じ世界の人物でもいいだろ、とはなるが……そもそも、椎菜のように発症してから速攻で今のような生活になるなどあり得ないことであり、椎菜レベルとなるとこの世界にはいなかったのである。


 そこで、美月は考えた。


 なら、異世界の人でよくない?


 と。


 その結果が今回のひと騒動。


「近くの世界で助かったな。遠い世界だったら不可能であった。最も……あの依桜とかいう者の世界は少々厄介なことにはなっているが、まあ、たまの息抜きも必要ということで!」

「――そうだな。その辺りは感謝しよう」

「そうそう、私は……って、ん!? だ、誰だ!?」

「まったく、神ってのどいつもこいつも……なんでこうも面倒ごとばかり起こしやがる」


 私は悪くないいいことした! と一人で喋っていると、不意に自分以外の声が聞こえて来た。

 美月は慌てて声の主の方を向けば、そこには黒髪ポニテの長身美女こと、ミオがいた!


「な、そ、そなたは例の依桜という者の師匠ではないか!? な、なぜここに!? ここは神界なのだが!?」

「そこは気にするな。あたしの特技みたいなもんだ。神の力を持ってるんでな」

「なに? ……あぁ、本当だ。たしかに神の力を感じる」

「だろ? まあ、いい。今回の一件はお前が原因ってことでいいのか?」

「うむ。我が神子たる、椎菜の願いを叶えたくてな」

「…………なるほど、お前は神にしてはマシらしい。いや、この世界の神がマシ、と言ったところか?」

「ほう? それはつまり、そなたの世界の神はクソと?」

「正直クソ。殺意が湧く」

「お、おおう、そこまでか……」


 純粋な殺意を覗かせるミオの言葉に、美月は何とも言えない気持ちになる。

 他の世界の神、クソなのか……。


「ま、愉快犯みたいな奴らだ。で、お前は……ふん、どうやら一人の人間に傾倒している割には、人が好きらしい」

「まあ、私は人の信仰あってこそ故」

「なるほど、その考え形の違いか……碌な神じゃなかったら殺そうかと考えたが、そもそも異世界の神を殺して面倒が起こったら嫌だしな。だが、お前はどうやらマシらしい。お前が連れてきた二人、どうもこっちの世界に来れて感謝をしているらしいしな。イオはまあ、普段が普段だ。同じ境遇の奴と話せて気が楽なんだろ。もう一人のマヒロもだな。あとは……うちの世界のイオの同級生とマヒロの同級生か。あいつらを連れてきた意味は?」

「ん? いや、そっちは連れてきてないが?」

「は?」


 ミオの指摘に対し、美月は連れてきていないと答え、ミオは気の抜けた声を漏らした。


「いや、本当に。面白いと思って何も考えてないが、本当に知らんぞ? というか……あっちの黒髪の少女はあれだな、追いかけてきた感じだ。あっちのオレンジ髪は知らん。そちらの世界の問題ではないのか?」

「……なるほど、理解した。ったく、エイコ案件じゃねぇか……」


 顔を手で覆いながら、ミオは忌々し気にそう呟く。

 よくわからないが、大変そうだなぁ、なんて美月は他人事である。


「まあいいや、あたしとしてもあいつの息抜きの状況を作ったことには感謝している。正直、仕置きをする意味はねぇな」

「ならばよかった」

「で? 帰り方は?」

「あぁ、それは簡単じゃ。我が神社に連れて来れば帰れる。私が送り返すのでな。……もっとも、最短でも数日はかかるが」

「わかった。それなら、あたしも気楽に過ごさせてもらおう」

「うむ」

「あぁ、そうだ」

「なんだ?」

「……命拾いしたな」

「――っ!」


 ミオはそう吐き捨てた後、その場から消えた。

 思わず心臓を直接つかまれたかのような恐怖心を感じ、美月の呼吸が止まった。する必要はないが。


「……はぁっ……いやぁ、とんでもない存在だった……あれは受け答えをミスれば、本当に私は殺されていたな」


 ははは! 愉快愉快! と美月は笑う。


「ま、ともあれ数日間はこの楽しい祭りのような光景を視させてもらうとしよう!」


 そう呟き、美月は下界覗きを再開した。


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 本日の補足ゥ!

 実は、ミオと瑞姫、女委の三名は別に美月が連れてきたわけじゃありません。ミオは依桜の痕跡から。女委はTS娘の非日常本編を読んでい方はご存じの理由で。瑞姫は……あいつが言っていたように「お嫁さんセンサー」と「お幼女様センサー」で自力で来ました。怖いね。

 それから、並行世界なのに、お金が使える理由は何? と来たので、まあ、軽い説明をば。


 簡単に言ってしまうと、以前どっかで言ったかと思いますが、ロリVの世界とじじのじゃの世界、TS娘の非日常の世界、これら全部の根底は全く同じです。

 なので、こいつらの世界の関係性はかなり近い世界の平行世界となります。

 大きな違いで言えば、異世界や地球間でとんでもねぇことが起こっているのが依桜の世界で、とある理由でTSF症候群が発生してしまったのがまひろの世界で、こちらも何かとんでもないことが起こってTS病が発生してしまったのが椎菜の世界になります。


 ようはあれです。一本の大木があるとして、三つの世界はそれぞれの枝分かれた世界ってことです。

 近いけど遠い、遠いけど近い、そんな感じ。

 ただまぁ、依桜の世界だけは本当に特殊なんですがね。

 ちなみにですが、全ての世界で異世界は存在してますし、天使とか悪魔などといった超常存在も存在します。ただ、まひろと椎菜の世界ではおそらく登場しない……というか、ほぼ登場できません。きっかけがなきゃ無理です。


 で、話を戻して、お金が使える理由に戻ります。

 つまるところ、こいつらの世界は基本的には同じような道を辿っています。偉人もそうだし、お金のデザインも同じ。違いは上記の通り。

 なので、女委が持っていたお金が使えたわけです。

 とはいえ、あまり使わない方がいいのは事実ですよね。全く同じ番号の、本物としか言えない偽札が存在するようなもんだし。とはいえ、偽物でもなんでもなく、本物なんですけどねぇ!


 ……にしても、この番外編、終わらねぇなぁ! 楽しいんだけど、一度切って本編に戻すのも考えた方がいいのか……?

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