閑話#14 犯人を呼び出した結果がこれ

 例の放送事故事件の犯人とたつなの話だよ!

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 最初から最後まで、色々とアレだった私とみたまちゃんのコラボ配信はみたまちゃんの気絶オチという形で終了となった。


 その後、気絶したみたまちゃんをベッドに寝かせ、起きるのを待っていた私。

 無事に目が覚めたみたまちゃん……もとい、椎菜ちゃんは気絶したことは覚えていても、なぜそうなったのかを忘れていた。

 どうやら、処理しきれずに記憶が飛んだらしい。


 まあ、私からすれば自分の黒歴史とも言うべき暴走を思い知らされずに済んでよかったと思うべきだろう。


 その後は、夕食を再開し、食べ終えたあとは夜も遅く、外も暗いとあって椎菜ちゃんを車で家まで送り届けて帰宅。


 そしてその翌日、私は昨日とんでもないことしくさった人物を我が家に呼び出し、リビングに通した後、私の前に正座させ……


「すみませんでしたっ……」


 見事な土下座を披露していた。


「まったく……君のせいでとんでもない所になるところだったじゃないか。ねぇ? ……ミレーネ君?」

「あい……いやもう、本当に……」


 そう、あの時の犯人はミレーネ君だ。

 二期生の常識人であり(今はもう年下でおぎゃる変人だが)、ツッコミ担当(今はもうボケ担当みたいなものだが)が犯人と言うのは、彼女を知る人物からしたら絶対にありえないと思うだろう。

 しかも、置いて行った物がよりにもよって……所謂、大人のオモチャとかいう、健全な配信サイトにおいてとんでもない爆弾であることだ。

 下手をしたらあの配信どころか、椎菜ちゃんのチャンネルがとんでもないことになっていたかもしれない。


「というかだね、普通あんなものを私の家、しかも寝室に置いていくかい? いや、ある意味では寝室は正しいのかもしれないが……」

「本当にすみませんでした……」

「というか、なぜ置いて行った。おかげでみたまちゃんがえらいことになるところだったんだが? というか君、愛菜や千鶴君に殺されても文句は言えないよ?」


 実際、あの二人はみたまちゃんガチ勢筆頭だ。

 いや、わたもち君もか?


 ともかく、この三人は異常なまでにみたまちゃんのことを好いており、時として狂気的なまでの愛を見せる。


 そんな狂人――ごほんっ! ガチ勢だからこそ、今回の一件はそれはもう怒髪天を衝く勢いとなり、本当に殺ってしまいかねないだろう。


「……すみません」

「……まあ、私も存在を忘れていたこともある。100%君が悪いわけじゃ……………………いや100%君が悪いよね? 普通、先輩の家にあんなものを置いていくかい?」

「……し、仕方ないじゃないですかっ……頼れるの、皐月さんだけだったんですから……!」

「仕方ないであんなものを置いていくかい? 普通」

「うっ……」

「そもそも……『まずいんです! お父さんが久しぶりにうちに来るみたいで、隠し場所がないんですよ!? だ、だから、何も聞かず、この箱を置いておいてくれませんかぁ!?』とか言って、私が了承する前に寝室に置いて行った後、しばらくしても取りに来なかったのはどう考えても君の落ち度だ。違うかい?」


 それは、数ヵ月前くらいのこと。


 その日は仕事も配信も、両方ともない休日だったんだが、突然ミレーネ君が私の元に押しかけて来て、何やら慌てた様子で例の物が入った箱を持って私に話しかけるなり、今し方私が口にした言葉をぶん投げつつ、寝室に置いて行ったんだ。


 その時点で、私はミレーネ君がライトノベル作家をしていたことを知っていたし、きっとネタ帳のような類なのだろうと思っていたのだが……後日、箱の中身を偶然見てしまった。


 その中に入っている物を見た私は……十分、たっぷりと思考が停止し、再起動した後、箱をそっ閉じした。

 そして、見なかったことにした私は、記憶を忘却の彼方に全力投球し、今の今まで忘れ、それをベッドの下に置いた。

 あそこなら、そうそう見ることはないだろう、そういう気持ちで、だ。


 そうして時が経ち……昨日の放送事故に繋がるわけだ。


「……はい、200%あたしが悪いです……」

「というより、なぜ君があんなものを……いや、まあ、君も年頃の女性ではあるし、興味はあるんだろうが」

「ご、誤解ですからぁ!? あ、あれらは、その……し、資料として買った物で……」

「資料? 君の書くライトノベルはTHE・健全そのものだったはずだが? 間違っても、ノク○ーン行きになるような話じゃなかったと思うが……」


 ミレーネ君が書く作品と言うのは、ラブコメ系がメインで、たまに異世界物を書く、そんな感じだったはずだが……。

 これでも、同じ事務所の、それも私と同系統(だった)の後輩だからね、私は全部購入して読ませてもらっていたんだが、あれが必要になるようなキャラはいなかったはずなんだが。

 一体どういうことだ?


「……実はあたし、一度だけエロゲの仕事を受けたことがありまして……」

「……あ、あー……なるほど、そういうことか……」


 恥ずかしさを抑え込みながら、小さな声で告げた理由に、私は全てを察した。


「……その、一応学園を舞台にした恋愛物で……その中に、その……そういうのが趣味なキャラクターがいて……それで、その、実際にどういう感じなのか、とか……知るために、ですね……い、色々と――」

「そこから先は言わなくていい! というか、後輩のそういう事情を聴くのは普通に微妙な気分になるから!」

「あ、す、すみません……で、まあ、その……ある日、お父さんが久しぶりに来るってことになって、掃除をしていたら、見つけてしまい……」

「……なるほど、それで私の家に置いて行ったわけか……しかし、本当になぜ私なんだい? 他にもいい人が…………あー、いや、無理だね。絶対に」

「はい……愛菜さんはいじって来そうですし、栞さんはピュアですし、俊道さんはそもそも男性なので無理ですし……杏実は何かしでかしそうだし、恋雪も何かしそうで……当然、冬夜も俊道さんと同じです……」

「……なるほど。それならたしかに、同じ常識人枠で、尚且つ他の面子に比べればマシだと思うね……消去法ではあるが」


 とはいえ、私も逆の立場だったら間違いなく、ミレーネ君に頼んだだろう。


「うぅっ、ほ、本当に申し訳ないって思ってます……私も、ストレス性胃炎とか、蕁麻疹とか……急性胃腸炎とか……色々あって忘れてたって言うのもあります……」


 しゅんとしながらそう話すミレーネ君は、どこか哀愁が漂っていた。


「……そう言えば君、一時期やたら体調を崩していたね。なるほど、それはたしかに忘れるかもしれないね」

「……な、なので、あれは仕方のないことだとッ……!」


 私の一言で、これはチャンスか!? とでも思ったんだろう、ミレーネ君は許してくれますよね!? みたいな表情になるが……


「いやでもそれ、言い訳にはなってないから。そもそも、父親が去った後にすぐ取りに来れば完璧だったんだが?」

「うぐぅっ!」


 私の正論にすぐ項垂れた。


「……まったく。椎菜ちゃんが見つけたのがアレだったからまだよかった物の……他の物だったら間違いなくとんでもないことになっていたよ」

「すみません……」

「まあ……もう過ぎてしまったことをいつまでもぐちぐちいう趣味は私にはない」

「じゃ、じゃあっ……!」

「今回だけだよ。次はない」

「ありがとうございますっ!」


 今回だけは許すと言外に告げると、ミレーネ君目に見えてほっとしていた。

 というか、若干涙が見えるね。


 だが……


「すまない、ミレーネ君」

「……へ? ど、どうして皐月さんが謝るんですか?」

「……私じゃ止められなかった、そう言うことだ」

「そ、それはどういう……」


 ことですか、とミレーネ君の言葉に続く言葉はそれだったんだろう。

 だが、それを言い終える前に、彼女の口は止まった。

 ぎぃ……とリビングの扉がゆっくりと……開かれた。

 それはもう、ホラーゲームで徐々に恐怖心を煽るかのような、そんな開き方で。

 そんな、恐怖心を煽るかのような開き方をする扉の向こうに現れたのは……


「やぁ……ミレーネちゃぁぁぁん……昨日は、とんでもなぁ~~~~いことを……やらかしてくれたそうだねぇぇぇぇぇ……」


 まるで幽鬼の如き登場の仕方の愛菜だった。

 頭は横に傾き、目は限界まで開かれ、瞳孔は開き、口元は三日月を描くような笑みが浮かんでいた。


 ホラーだ。

 控えめに言っても、かなりホラーだ。


 ゆらり、と少し揺れているのもホラー的な恐怖心を煽る一つとなっていることは間違いない。

 ちなみに、右手をゴキゴキと鳴らしているのも怖い。

 椎菜ちゃんが絡まなければ、面倒見が良く、優しい女性ではある愛菜だが、ほんの僅かでも椎菜ちゃんが絡むと、途端に化物に転じる。

 それが今だ。


 ……元々、私はミレーネ君のやらかしを愛菜に言うつもりはなかったんだ……。


 だが、


『情報を吐かないと殺す☆』


 と言われてしまった私にはどうすることもできなかった……というか、愛菜が怖かった。


 あれはもう、人じゃない。


「ひっ……」

「いやぁぁぁ……まさか、常識人枠のミレーネちゃんが……あぁぁぁんなことをやらかすとはねぇぇぇぇぇぇぇぇ……?」

「す、すすすす、すみませんっ! わ、わざとじゃないんですっ! 本当なんです!?」

「わざとじゃなければ許されるとでもぉぉぉぉ?」

「……はい……」

「というかぁぁぁぁ……言い訳はいらないよねぇぇぇぇぇぇ……ミレーネちゃんも、みたまちゃんでおぎゃり、ママと呼んでいるわけだしぃぃぃぃぃぃぃ? ここはさぁぁぁぁ……禊の意味も含めて、私に殺られるべきだよねぇぇぇぇぇぇぇぇ?」


 どうしよう、愛菜の話し方が本当に怖い。

 地獄の底から響くような声、という例えばぴったりなほどに。

 というか、人じゃないだろう、やっぱり。

 私はもう、彼女が未確認生物だとか、実は悪魔の王だとか、宇宙人だとか言われても納得してしまいそうになるよ。


「……た、たしかにっ……あ、あたしはそれほどのことをしてしまったっ……! 愛菜さんっ! お願いします! 禊をしたいですっ……!」

「ミレーネ君!?」


 え、君それでいいの!?

 というか、今の愛菜相手に肯定できるの!?

 あっ、しかも目が本気だこれ!?

 ま、愛菜は? 愛菜はどうなってる!?


「――うん、よく言ったミレーネちゃん! それでこそ、みたまちゃんガチ勢! よし、じゃあ禊、済ませちゃおっか☆」


 いつも通りに話していた。

 さっきまでの幽鬼のような雰囲気はどこへ……。


「はいっ!」

「あ、皐月ちゃん、ちょ~~~~~っと、ベッド借りてもいい?」

「え、あ、あぁ、構わないが……何をする気だい?」

「……禊だよぉ? あぁ、大丈夫……どんなに汚れて、妙な匂いが残っても、完璧に元の状態に戻すから☆」

「全然安心できないが!? 大丈夫じゃなさそうだが!? というか、本当に何をする気なんだ!?」

「……ふふ」


 その意味深な笑みが怖いが!?


「じゃ、逝こっか、ミレーネちゃん」

「はいっ! お願いしますっ!」

「いやそれ絶対お願いしちゃだめな奴だと思うが!? って、あぁっ! 話を聞かない!?」


 私のツッコミをガン無視して、二人は二階に消えていった。

 ガチャ、バタン、という扉が開いて、閉まる音が聞こえた後……


『ひあぁぁぁぁぁ!? ちょっ、ま、愛菜さん!? そ、それはっ、それはだめですからぁ!? え、あ、何に使うの!? ねぇ、それ何に使うんですか!? あっ、まっ……ふあああああああああああああああああああ!!???』


 というようなミレーネ君の悲鳴が聞こえてきたが……なんだか怖くなったので、私はテレビでYouTubeを開き、大音量で動物系の癒し動画を流して、上から聞こえて来る物音とか変な声とか、おかしな音とか、そう言った物が意識に入らないようにするのだった。


 尚、戻って来たミレーネ君の姿は…………彼女の名誉とかその他諸々のために伏せさせてもらう。


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 ということで正解は、年下におぎゃる常識人、四季ミレーネさんでした!

 いやぁ、だーれも当てられませんでしたねぇ!

 ヒントとして、キャラ紹介を見ようね! と書いていましたよね? アレって、デレーナのことだったんですよ。あいつの紹介文に『エロゲの仕事をしたことがある』的な文章があったでしょ? そういうことです。


 それと、こっちは本編で触れなかったのでもう一つ答え合わせ。

『おのれ二期生の獣!』

 と、たつなが叫んだ時がありましたが、あの獣の意味は二つありまして、一つは『志木虎徹』というのがミレーネのペンネームなんです。はい、名前の中に『虎』が入っていますね? そして、もう一つは『デレーナ・ツァンストラ』の最後二文字『トラ』→『虎』ということです。獣、というのはそう言う意味ですね!

 獣、と遠回しに表現したのは、あの状況下でも誰が犯人なのか、ということを視聴者たちに伏せるためだったんです。そういうところでも優しいたつな様です。


 いやぁ、しかし……いくまだと思ってる人が多かったですね! でも考えてみてください? いくまってお嬢様学校に通ってたような奴ですよ? あり得ないじゃないですかー。

 そして、うさぎ。あいつがそんな恥ずかしい物を置いていくようなへまをすると思います? そもそも、外に持っていくことすらしませんよ。なので、正解は必然的にミレーネということになります。

 みなさん、常識人だからと思って考えから削除していたようですね! そもそもですよ? 常識人とはいえ、奴もらいばーほーむの一人。常人じゃなしないことをしでかすのは当然ってもんです! まあ、今回はさすがにヤバかったけどね……。

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