#60 お仕事、順調に
あの後、プロの人にメイクをしてもらって、今日撮影することになるお洋服を着ました。
お化粧については、初めてだったんだけど、なんと言いますか……。
「「「……」」」
「あ、あの、へ、変、ですか……?」
その場にいたメイクアップアーティストさんだけじゃなくて、一緒にいた栞お姉ちゃんや皐月お姉ちゃん、大森さんたちがなぜか顔を赤くしてぼーっと僕を見てきました。
心配になって声をかけると……。
「「「可愛いーーーーーー!」」」
「ふやぁ!?」
突然大きな声で可愛いと口を揃えて言われました。
「え、待って待って!? 私って幸運過ぎない!? こんな逸材を引っ張って来られたとか、すごくない!?」
「大森さん、なんという、なんという逸材を連れて来てくれたのっ……! この娘は素晴らしいわ! それなりに長くこの仕事をしてきたけど、この娘ほどに可愛い娘を見たことがないわ! もちろん、一緒にいるあなたもかなりの逸材!」
「驚いた、化粧をすればもっと化けるとは思っていたが……これほどとは……」
「そうやなぁ。そやけどこれ、愛菜に見せへんかったら殺されるんとちがう?」
「……違いない」
「まあ、言わへんならいける思うけど……」
「あぁ、これは秘密にしよう」
「了解やぁ」
あれ、なぜか二人ががっちりと握手してる……?
どうしてだろう?
「と、とりあえず、あの、似合ってる、んですよね?」
「それはもう、魅力的だよ」
「ふぁっ!?」
「そうやなぁ、えらい可愛えぇなぁ。思わず見惚れてまうなぁ」
「はぅぅ~~~っ、は、恥ずかしいですよぉ~~~っ!」
(((可愛い……)))
うぅ、こうもいっぱい褒めらると恥ずかしくなっちゃうよぉ……。
と、そんなことがありつつも、撮影が始まり、
「いいねいいねぇ! いいよ二人とも! その調子その調子!」
カシャカシャ! とシャッターが切られ、フラッシュが焚かれ、何枚も写真が撮られていきます。
その間、僕と栞お姉ちゃんは指示されたとおりにポーズを取りました。
お互いに初めてのことなので最初は緊張しちゃってたけど、色々なポーズを取っていく内にだんだんと慣れて行き、少しずつリラックスしてできるようになってきました。
ちなみに、今着ているのはシャギーニットという服にプリーツスカート、あとケープコート? という物を着ている状態です。頭にはベレー帽を被っています。
僕と栞お姉ちゃんの違いとしては、僕がピンク系の色合いに対して、栞お姉ちゃんは白系になっています。
デザイン自体は同じなので、なんだかちょっと照れちゃいます。
「うんうん! そしたら次は……あー、栞ちゃんは椎菜ちゃんを後ろから軽く抱きしめるようにして貰って、顔は横に。できるかい?」
「了解やぁ」
「ふぇっ!?」
「ほな、失礼して……」
と、ぎゅっ、と後ろから栞お姉ちゃんが指示通りに抱きしめてきました。
するとそ、ふにゅっ、と柔らかい感触がして、思わず、ぼっ! と顔が真っ赤になってしまいました。
正直、千鶴お姉ちゃんたちに抱きしめられる時もすっごく気恥ずかしいので、その、あまり接点がなかった栞お姉ちゃんに抱きしめられるのは、余計に気恥ずかしいよぉ……。
「んー、椎菜ちゃん、もっと笑顔笑顔! その顔もいいけど、どうせなら笑顔で!」
「は、ひゃいっ! あぅ……」
「「「んぐっ……」」」
あぅぅ、やっぱりちょっと恥ずかしい……。
け、けど、これもお仕事……お仕事はちゃんとやらないと……!
「すぅー……はぁー……(にこっ)」
いつものような笑顔を頭の中に思い浮かべて、それを自然な形で出してみると、カメラマンさんが興奮した様子で更に写真を撮りだす。
「イイッ! その笑顔すごくいいよっ! そうそう! あ、栞ちゃんもうちょっとぎゅっとくっついて大丈夫! で、顎を椎菜ちゃんの肩に乗せる感じで!」
「こうか?」
ぴゃっ!?
「そうそう!」
あうぅ、ち、近いっ、栞お姉ちゃんが近いよぉ~~~~~っ!
ぎゅってされるだけでも気恥ずかしいのに、顎を乗せられたらドキドキしちゃうよぉ~~~っ!
け、けど、これはお仕事、お仕事なんです……!
「うんうん、それじゃあ次は……ちょっとそこの椅子に並んで座ってもらって、そうそう。そしたら……そうだね、椎菜ちゃん、そのまま頭を栞ちゃんの肩に乗せちゃって」
また肩!?
でも、今度は僕なの!?
「いつでもええよぉ~」
と、指示を受けた栞お姉ちゃんはどこか楽しそうに、そして嬉しそうにそう言って来ます。
え、は、恥ずかしさとかない、のかなぁ……?
やっぱり、年上の女の人はすごいですっ……!
僕もいつか動じないような人になりたいなぁ。
で、でも、今はやらないと、だよね。
「え、えっと、こう、ですか?」
こてん、とたまに電車の中でたまに見かけるカップルさんたちみたいに、頭を栞お姉ちゃんの肩に預けてみる。
あ、なんだろう、ちょっと安心感が……。
(んぐっ……つい、見栄でリードしてみたけど、こらなかなかの破壊力っ……!)
「そうそう! ほんっとうにいいねぇ! けど……ふむ、よし! 今度は手を握ってくれるかな!? 椅子に手を置いて、重ねるような感じで!」
ふぇ!? て、手も握るの!?
あ、で、でも、今日は手を繋いで行動していたし……そ、それくらいなら……だ、だけど、自分から繋ぐのはなんだか恥ずかしい……。
と、僕が繋ごうか繋がないかで迷っていると、きゅっ、と栞お姉ちゃんから手を握ってくれました。
ありがたいでしゅ……。
「ふふっ、これくらいええよぉ」
「はぅ~~~っ」
にこっと微笑みかけて来る栞お姉ちゃんがカッコいいです……。
「雅ちゃん、あの二人って別にカップルってわけじゃないんだよね?」
「違いますね。普通に先輩後輩の関係で、友人で、同僚って感じです」
「なるほど、なんだか初々しくて写真映えするんだよねぇ。というか……大森さん、これは世の中のそういうカップルたちが喜びそうと言うか……素晴らしい状況になってるよね?」
「正直鼻血出そうですよ」
「わかる」
「……まあ、あの二人はなぁ……」
◇
それから撮影は進んで、一度休憩時間に。
「はふぅ~~~……」
「ふぅ……」
「お疲れ、二人とも。はいこれ」
椅子に座って一息ついていると、皐月お姉ちゃんがアイスココアを持ってこちらに来ました。
「ありがとう、皐月お姉ちゃん」
「ありがとなぁ~」
受け取ったココアをこくこくと、二人揃って両手でコップを持ちながら飲む。
はふぅ、丁度いい甘さが心地よいです……。
甘いものは好きじゃないけど、ココアは好きです。
「それにしても、二人ともかなりよかったよ。普通にプロとしても通用しそうだ」
「ほ、本当?」
「ほほう、プロの皐月がそう言うならやったら、そうなんやろうな。うん、嬉しいなぁ」
「あぁ。これでもプロだ。身内贔屓はしないよ」
ふっと微笑んでそう言う皐月お姉ちゃん。
たしかに、皐月お姉ちゃんはそう言うことはしなさそう。
「んで? 何かアドバイスはあるん?」
「アドバイスか……そうだね。栞は割と自然体でいいと思うんだけど……もう少し力を抜いた方がいいね。大方、内心はかなり緊張してるんだろう? 別の意味で」
「なんや、バレとったんか」
「椎菜ちゃんは……あー、そうだなぁ……なんて言えばいいか……」
「も、もしかして、悪いところがたくさんとか……?」
「あぁ、いや、そう言う事じゃないんだ。そうだね……椎菜ちゃんは正直、何しても絵になる」
「ふぇ!?」
「さっきまでの撮影でも緊張しながらもいい写真が撮れている。だけど、堂々とすれば、もっと良くなると思う。いきなりで難しいと思うが、つまるところ自信を持つこと、だね。まあ、初めてだし、そこまで求めるの酷だから、とりあえず、頭の中に入れておくくらいでいいと思うよ。それに、今後もモデルをやるかどうかなんてわからないだろう?」
「そ、そう、だね。ちょっと楽しくはある、けど、僕、学校もあるし、配信もあるし、モデルもやるのはちょっと……」
そう考えると、今の僕の状況ってすごいことになってる気が……。
多分、男の時の僕だったら本当に普通の日常を送っていた気がします。
今はちょっと……バタバタしすぎちゃってるような気もするけど……。
「それもそうだ。まあ、うちの事務所は二足の草鞋でやる人もいる。一部はライバーメインでやってるが……」
藍華お姉ちゃんはたしかライバーメインだったよね?
他の人って誰がメインでやってるんだろう?
「ともあれ、このまま行けばすぐに終わるだろう。……あぁ、そういえば、二人はモデルの仕事が終わったらどうするんだい?」
「そうやなぁ……まぁ、予定通りやな」
「そうだね~。元々は新宿をもう少しだけ歩いたら、秋葉原に行く予定だったから」
このことが予定外だったからね。
「ふふ、そうか」
「あ、なんやったら、皐月も一緒に来る?」
「ん、私もかい?」
「あ、すごくいいと思う! 僕も皐月お姉ちゃんが一緒だと嬉しいよ!」
栞お姉ちゃんが皐月お姉ちゃんを誘い、僕自身も折角会ったから一緒に回ることに賛成しました。
もっと仲良くなりたいもん。
「そうかい? しかし、今日は二人で出かけているんだろう? 私がいていいのかい?」
「大丈夫やぁ」
「もちろん!」
「ふふ、そうか。それなら、是非一緒させてもらうよ」
ということで、皐月お姉ちゃんが加わりました。
となると、このお仕事も頑張って終わらせて、一緒に回らないとね!
◇
「うんうん! いいねいいね! さっきよりも笑顔が輝いてるよ!」
と、更にやる気が出て来た僕たちは、休憩前以上にモデルのお仕事を頑張りました。
皐月お姉ちゃんにアドバイスされたことを頭の中に思い浮かべながら、僕と栞お姉ちゃんは指示通りに色々なポーズを取りました。
ただ、やっぱり二人での撮影なので、その、思わず照れちゃうようなポーズもあったりして……。
その中でも、お互いにある程度向き合いながらのポーズがすっごくドキドキでした……。
もちろん、軽く体を斜めにしてはいたけど、それでも、なんだか気恥ずかしいです。
そうして、様々な指示を受けていって……
「うん、いい写真がたくさん撮れたし、ここで終わりにしよう!」
ようやくお仕事が終わりました。
色々なお洋服を着たし、色々なポーズを取ったけど、すごく楽しかったです。
「いやぁ、大森さんからスカウトした人を連れて来たと言われた時はどうなる事かと思ったが、とんでもなに逸材が来てくれてこっちとしても楽しかったよ、ありがとう、二人とも」
「私からも本当にありがとう。二人のおかげで、問題なく……どころか、かなりいい宣伝が見込めそうだから! あ、サンプルは後日二人の所属する事務所を通じて届くから、是非読んでみてね!」
「はい!」
「了解やぁ」
「さて、と……こんなところで……」
「あ、すみません、少しいいですか?」
と解散になるかなと思っていたら、皐月お姉ちゃんが待ったをかけてきました。
どうしたんだろう?
「お、どうしたの? 雅ちゃん」
「あぁ、この二人なんだが、知っているように学生でね。一応本名はまずいと思うんだ」
「おっと、それはたしかにそうだ。二人とも、本名で出るのはまずいかい?」
「あ、そ、そうですね……クラスメートにはすぐにバレちゃうと思いますけど、一応本名は避けたいかなぁって……」
「うちもやなぁ」
「そう言えばそれがありましたっけ……では、芸名を考えていただけると助かります。そちらで通しますので」
「「芸名……」」
芸名となると、僕で言うなら神薙みたまになるけど……当然使えるわけがないので、それ以外で考えないといけないよね。
うーん、芸名、芸名……。
ちらり、と栞お姉ちゃんの方を見れば、栞お姉ちゃんも悩んでいる様子。
何も思い浮かばないなら、いっそのこと神薙みたまのアナグラムみたいな感じにすればいいような……?
それなら………………
うん、悪くない気がします。
「えと、珠上かなぎ、はどうでしょうか?」
「うちは、乃真美弥やなぁ」
「お、いいね! よし、それじゃあ椎菜ちゃんは『珠上かなぎ』で、栞ちゃんは『乃真美弥』ということで記載しておくよ。雑誌を楽しみにしてれくれ!」
カメラマンさんは笑いながらそう言いました。
なんだか、名義が増えちゃったけど……多分使うことはない、よね?
「あ、ねえ、二人とも。もしよかったらなんだけど、今後もモデルとしてお仕事してみない?」
と、そんなことを考えていたら、大森さんが僕と栞お姉ちゃんにそう打診してきました。
「あぁ、すまんなぁ。皐月とは違うて、うちは学生でもあるし、本業もある。そやさかい、モデルはちょい……」
「僕も栞お姉ちゃんと同じです、ね。これ以上はちょっと、パンクしちゃうかもしれないので……」
仮にモデルさんを始めたとして、配信もやって学園にも通って、それでモデルもして……ってなると、さすがにお勉強に遅れちゃうかもしれないし、パンクしちゃうかもしれない。
もしやるとしても、卒業後じゃないとキツイです……。
「ふふ、それはそうですね。じゃあ、代わりに名刺を渡しておくので、もしも興味が出て来たらぜひうちに連絡してね! 歓迎するから!」
「ふふ、強かやなぁ」
「はい、その時は連絡させてもらいますね」
個人的に、モデルさんのお仕事は楽しかったし、今後の進路の一つに据えておこう。
「さてと、これで今日の撮影は終わり! 二人とも、本当にありがとう! お疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
そうして、無事にモデルさんのお仕事は終わりました。
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もうちょっと濃くできなかったのかと思っている今日この頃。
次回ですが、多分閑話になるかなぁ……というか、いい加減本編の日にちを進めんとハロウィンがえらいことに……まあ、そこはもう仕方ないと割り切ろう。
今後もモデルのお仕事をするかはわからないですが、まあ、名義も作ったしどっかで活用したいですね。
余談ですが、この時二人が載った雑誌は、アホほど売れて、SNS上で大騒ぎになったとか。あと、買い占める奴もごく一部の地域に出たとかでないとか……。
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