#58 お出かけと、まさかの展開

 翌日。


「も、戻れてるっ……!」


 朝起きて最初に確認したことは、元の体に戻れるかどうかでした。

 早速組み紐を外すと、僕の体はいつも通りの桜木椎菜の体に戻りました。

 尻尾も耳もないし、髪色だって黒くて、長さもいつも通りに。


「よ、よかったぁ~~~~~っ……」


 元の姿に戻れるとわかると、心の底から安堵の声が漏れ出てきました。

 今日は栞お姉ちゃんとお出かけする日だったから、戻らなかったらどうしようってずっと思ってたもん……本当に安心です……。


「じゃあ、早速準備しちゃわないとね!」


 元に戻れたとわかるなり、僕はうきうきとしながらお着替えを始めました。


「んーと、今日は……ワンピースで行こうかなぁ。上は……んっと、薄手のカーディガンを着て……うんっ! これで大丈夫!」


 幸いにも今日は秋らしい丁度いい気温らしいしね。


「おはよう、お姉ちゃん!」

「おっはよう! お、元に戻ったんだね?」

「うん! 見ての通りです!」

「そっかそっか! やっぱり、バグは一日だけみたいだねぇ。今後は辛くても絶対に変身しないでね? いやほんとに……」

「僕もあれはちょっと……」


 みんなに迷惑をかけるくらいなら、自分が辛い方を選びます。

 あの状態は記憶も残っちゃうから問題だもん……後で悶えちゃうし……。


「んまぁ、死人が出るしね……」

「あぅ……」


 今までなら冗談で苦笑いをするだけだったけど、実際にお姉ちゃんがすごいことになってたから全然笑えません……本当にならないようにしないと……。


「そ、そう言えばお姉ちゃんは今日はお仕事だよね?」

「そだねー。一応暴走椎菜ちゃんを抑えるために本当は出社仕事だったところを、在宅にしてもらったし、さすがに今日はね……」

「あぅぅ……本当にごめんなさい……」

「だからいいっていいって! 個人的にはレアもんを見れてむしろラッキーだったんだし! と、それよりも、椎菜ちゃん今日の朝ご飯はなにー?」

「あ、うん、えっとね、ご飯とほうれん草のおひたしに、油揚げとお豆腐の味噌汁、あと焼き鮭! あ、卵焼きはいるかな?」

「もちろん! あ、甘いのでお願いします!」

「はーい! じゃあ、すぐに作っちゃうから待っててねー」

「全力待機!」

「あはは」


 そんなやり取りをしてから、僕は朝ご飯を作っていきます。

 お家によってはここまでしないらしい……というより、ここまで作ること自体が相当珍しいって言われるんだけど、桜木家では基本的に朝はしっかりした物を作ります。


 やっぱり、朝ご飯は大事だからね!

 美味しい物をいっぱい食べれば、一日を頑張るための活力になるもん!


 ちなみに、お父さんとお母さんがいる時の家事も、基本は僕がやっています。

 お父さんたちはお仕事で忙しいし、お姉ちゃんも忙しいからね!

 学生の僕が一番動きやすいと言うことで、自分からやり始めました。


 お母さんたちは申し訳なさそうにしてたけど、僕としては僕を養うために頑張ってくれてるんだもん。それくらいはしないと! っていう気持ちで頑張ってます。

 まあ、家事自体が好きだから全然苦じゃないんだけどね。


「「いただきます」」


 完成したところで二人で揃って朝ご飯を食べる。

 お姉ちゃんはいつも美味しそうに食べてくれるので、作り甲斐があります。


「今日は栞ちゃんと出かけるんだよね?」

「うん、遠出してくる予定です!」

「そっかそっか。お姉ちゃんとしては、らいばーほーむのみんなと着実に交流を深めているようで何よりです。それに、栞ちゃんなら変なことにもならないし」

「変なこと?」

「あぁ、ううん、こっちの話ー。けど椎菜ちゃん可愛いし、栞ちゃんも可愛いんだから、気を付けて遊びに行ってね? いい? 知らない人に声をかけられてもホイホイついて行っちゃだめだからね! あと、お菓子で……じゃないね、えんがわで釣られたりしないように!」

「さすがにしないよ!?」

「じゃあ、最高級のえんがわを食べさせます! って言われたら?」

「……んっ、くっ……こ、断り、ますぅっ……!」

「そこまで断腸の思いという言葉がぴったりな表情をした椎菜ちゃんを、私は初めて見たよ」


 だ、だって、えんがわだもん……僕が食べ物の中で一番大好きなえんがわだもん……最高級なら食べたくなっちゃうもん……。


「けどまぁ、栞ちゃんがいるなら大丈夫かなー。多分、一期生じゃ皐月ちゃんの次にまともだし」

「そ、そうなんだ?」

「まあねー。腐っても老舗旅館の娘だし、常識もあるよ?」

「まるで他の人たちに常識がないみたいな言い方じゃないかなぁ……」

「少なくとも、常識人枠以外のみんなって常識がずれてるところあるよね」


 それ、お姉ちゃんも含まれてると思うんだけど……。


「ともあれ、栞ちゃんなら平気でしょ。あ、もし荒事になってもみたまちゃんモードは最終手段にしてね」

「そもそも使いたくないよ……?」


 だって、目立つもん……。


「それはそうなんだけどね? けど、ほら。どうしようもない場面が出ちゃった場合は、ね?」

「う、うーん……うん。じゃあ、どうしようもない時は使います」


 たしかに、お姉ちゃんの言う通りのことが起きた時に、恥ずかしがって何もしなかった結果、大変なことになるよりはいい、よね……?


「それでよし。それに、あれならコスプレって言い張れるし、行き先は東京でしょ?」

「うん」

「なら余計平気。まあ、楽しんでくるといいよー」

「ありがとう、お姉ちゃん」

「いいのいいの。あ、帰って来たら色々お土産話聞かせてねー」

「うん!」


 そんな風に、休日の朝の団欒は過ぎて行き、お姉ちゃんはお仕事に。

 僕は家を出る前に火元の確認や、戸締りをしっかりして、お家を出ました。


 目的地は美月駅の隣の駅である、来咲駅。

 最初は栞お姉ちゃんがこっちに来るって言ってたんだけど、東京の方に行くなら僕が来咲駅に向かった方が早いのでそうなりました。

 待ち合わせ場所は駅のホームです。


 小さなカバンを持って改札を通って、目的の電車に乗って来咲駅へ。

 移動中、視線を感じたんだけど、気のせいかなぁ。

 あと、やっぱり日曜日なのに人が多かったです。

 座席も埋まっていて、座れなかったけど、基本的に立つのもそれはそれで楽しいので、気になりません。


 強いて言えば……背が低いので吊革に手が届かないことでしょうか……いえ、正確に言えば届きはするんですけど、その……結構辛い感じに……なので、比較的低い位置にある優先席前の吊革に掴まっての移動になります。


 うぅ、前の身長なら普通の吊革でも問題なかったのに……。

 今の状態だと、通常の吊革には触ることはできても背伸びしないと掴めないくらいだしね……はぁ、こういうところでもTS病の不便さが出て来ちゃってるよぉ……。


 なんて、不便さを感じている内にあっと今に来咲駅に到着。

 一度電車を降りて、栞お姉ちゃんが来るのを待っていると……。


「お、なんや、もう来てもうたん? もう少しゆっくりでよかったのになぁ」


 栞お姉ちゃんが苦笑いを浮かべてそう言いながら近づいてきました。


「栞お姉ちゃんも早いよ?」

「うちは大人やからなぁ。年下の椎菜さんをリードせななぁ」

「あはは、気にしなくていいんだよ?」

「ええんや。うちの勝手やからなぁ」

「そっか。それじゃあ、行こ! 栞お姉ちゃん! ……っと、その前に……栞お姉ちゃん、その、水曜日はごめんなさいっ!」

「あぁ、あれかぁ。いやいや、気にせんでええわぁ。こっちも悪ない経験になったしなぁ」


 ふふ、と笑ってそう言ってくれる栞お姉ちゃん。

 うぅ、やっぱり優しいです……。


「ありがとう、栞お姉ちゃん」

「ええよぉ。さ、行こか。うち、楽しみにしとったんやわぁ」

「えへへ、僕も!」

「ぬぐっ……ふぅ、やっぱし、あの時のことが耐性になってるみたいやなぁ。まあ、ええか」


 栞お姉ちゃんが何かを言っていた気がするけど、なんだろう?

 ともあれ、今日は楽しもう!



 というわけで、二人で電車に乗って東京へ。

 今日はいろんなところを回る予定で、目的地は新宿と秋葉原の二カ所。


 本当はもっと色々な所を回りたいけど、時間は有限なので……。

 僕と栞お姉ちゃんは二人とも種別は違えど学生だから、明日の学校に響かせるわけにはいかないのです。

 あ、でも、今日は一日一緒という形なので、夜ご飯も一緒です!


 電車内でも小声ではありつつも談笑しながら目的地までの道のりを座って過ごす。

 ……はい、日曜日の午前中で、人もいっぱいいるはずなのに、僕と栞お姉ちゃんは座っていました。


 なんと言いますか、その……譲られたと言いますか、電車内で優先席前の吊革の位置に行こうと思ったらもう既に人がいまして、結局ドアの前辺りに。


 だけど、手すりの所にも人がいたので仕方なく二人して背伸びしながら吊革に掴まっていたんだけど……そうしたら、すぐ傍で座っていた大人のお姉さん二人が優しく笑いかけながら席を譲ってくれました。


 最初は断ろうと思ったんだけど、どうぞどうぞと押されて結局ありがたく座ることに。

 二人で笑顔でお礼を言うと、お姉さん二人がなぜか悶えていたけど……大丈夫なのかな?


 電車の中ではそんなことあったけど、他には問題もなく目的地の新宿に到着。


「んっ~~~~~! はぁ……やっぱし、ずっと座って移動いうのも疲れるなぁ」

「そうだね。普段はあんまり電車に乗らないもんね」

「そうやなぁ。星波大学も隣町やからなぁ。常に原付やなぁ」

「あ、栞お姉ちゃんって原付で通ってるの?」

「そうやぁ。結構便利なんやわぁ」

「へぇ~」


 なんだか意外……。

 けど、栞お姉ちゃんの身長で原付……なんだろう、その、無免許運転って間違われそう……僕が乗っても間違われそうだけど……。


「さて、まずはどこから行こか?」

「んーと、あ、そう言えばお洋服見たいかも……そろそろ涼しくなってくるし、冬服持ってないから」

「おぉ、そらええーなぁ。うちも見たいし、早速行くとしよか」

「うんっ!」

「おっと、お互いに小さいさかい、手でも繋いどこか?」

「ふぇっ!? あ、あの、えと……う、うんっ……!」

「ふふっ、そう緊張しいひんでもええよ。今は女同士。これくらいは普通のスキンシップやわぁ」

「そ、そっか……じゃ、じゃあ、あの、失礼しますっ……!」


 僕は顔を赤くさせながら、えいっ! と意を決したように栞お姉ちゃんの右手を僕の左手で掴みました。

 あっ、温かくて柔らかい。


「ふふ、可愛えぇなぁ。さ、行こか」

「う、うんっ……はぅぅ~~」


 なんだか気恥ずかしいよぉ……。


「うわぁ、あの二人メッチャ尊い……」

「ロリっ娘同士の百合っていいよねぇ……」

「今日はなんかいいことありそう!」



「あ、これちょっといいかも……」

「ほほう、なかなかええなぁ。なんや、椎菜さんもセンスあるなぁ」

「そ、そうかな? えへへ……」


 早速とばかりに適当なお洋服屋さん――んーと、ブティック? に入って楽しくお洋服を見る。


 前は三期のみんなとだったけど、三人は僕よりも身長が高くて基本的に選んでもらう形だったけど、栞お姉ちゃんは僕と同じくらいの身長だから、お互いにこれが似合いそう、こっちもいいかも、そう言う風にお話しながら選べるのがすごくいいです……。


 元々、あまりお洋服にこだわりはなかったんだけど、女の子になってからか、その、こうやっていろんなお洋服を見て、着るのが楽しくなっちゃって……。


 柊君や中学生の時のお友達(男子だよ?)と、お話してる時は、


『女子って買い物長くね?』

『わかる。前荷物持ちさせられたけどさ、マージで大変だったわー……』

『なげぇんだよなぁ。しかも、別に目的地があるわけじゃないのに、あっちへこっちへふらふらふらふら……いやもう、足が棒だよ! ってな』

『まあ、いいんじゃないか? 俺たちだって好きな物が売られている店が乱立している場所だったら、ふらふらするだろ? それと一緒じゃないか? ただ対象が違うだけで』

『『『さすが高宮だ……』』』


 みたいな会話がありました。

 その時の僕は、どうしてお買い物が長いのかなぁなんて思ってたけど、今の体になってからはわかります。

 目的もなく歩くのって結構楽しい!

 あと、お友達のお洋服を選ぶのも結構楽しくて……。


「でも、やっぱり僕たちの身長だと一苦労なんだね……」

「そやなぁ……うちらの歳でこの身長は珍しいさかいなぁ」

「だよね……はぁ。やっぱり、栞お姉ちゃんも苦労したの?」

「当然やなぁ。気に入った物はオーダーメイドするしかあらへんくらいには、苦労したわぁ……」


 そう語る栞お姉ちゃんの表情は、なんとも言い難い物でした。

 本当に苦労してきたんだね……。


「そっか……」

「けどまぁ、そんなうちにも椎菜さんいううちの気持ちをわかってくれる友達が出来たさかいなぁ。えらい気ぃ楽になんでぇ」

「えへへ、そう言ってくれると僕も嬉しいです! その、僕からすると、女の子の先輩としては一番かもしれないので……」

「うちが一番? ふふっ、それは嬉しいなぁ」


 身長も同じくらいで、歳もそんなに離れてなくて、同じ事務所の先輩で、すごく優しい……だからか、かなりありがたい存在なんです。


 もちろん、麗奈ちゃんやお姉ちゃん、三期のみんなも女の子として先輩だけど、その、やっぱり身長差がね……どうしてもそこの違いがあって……。


 そう言う意味では、一番相談しやすい相手でもあるからね。


「お、こっちもええなぁ。椎菜さんはどう思う?」

「すごくいいと思う! あ、でも、こっちもいいと思うなぁ」

「それもええなぁ」


 と、僕たちはきゃっきゃと楽しくお洋服を見て、お互いに選んだ物を買ってお店を出ました。

 お店を出た後も手を繋いで街を歩きます。


 なんというか、すごく微笑ましいような目で見られてる気がするんだけど……なんでだろう。

 やっぱり子供にしか見えないから、かなぁ。


 ちょっぴり複雑なことを思いつつも、仲良くお話しながら歩いていると……


「あのっ! そこの二人、ちょっといいかな!?」


 と、後ろからいきなり声を掛けられました。


 なんだろうと思って後ろを見ると、そこにはスーツ姿の女の人が。

 年齢は……んっと、二十代後半くらい、かなぁ。


「あ、えと、僕たち、ですか……?」

「そうですそうです! 突然なんですが……モデル、やりませんか!?」

「「え……えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」」


 まさかの言葉に、僕と栞お姉ちゃんは往来であるにもかかわらず、大きな声を上げて驚きました。

 なんでぇ!?


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 本当はこの回のネタ、修学旅行後にやろうかなぁって思ったんですが、もういいかなって。

 というか、そろそろ配信回もやりたいし、近頃全然やってない掲示板回もやりたい……他にも、ふゆりとひかりの配信風景が見たい、というような要望もあったので、それも超書きたい……くっ、色々書きたいことがあり過ぎてすんごい大変! あぁっ、分身したいです!

 あと、これはどうでもいいことですが、実はこの作品で一番書くのがめんどくさいのは栞だったりします。リリスだったらまだいいんですけど、栞って京都弁なので……そのため、ネットでいちいち翻訳しなくちゃいけないので結構面倒。

 キャラとしては結構気に入ってるんですけどねぇ……椎菜と同じロリだし。

 というか、しばらく栞って出番が増えるんだよな……まあ、ある程度落ち着いたら次は二期生、特にいくまの出番を増やしてあげたい(いくまだけ出番が本当になさすぎるので……ショタ野郎はハロウィンで確約済みですからね)……三期も出したいし……やっぱこういう作品ってキャラを平等に描写するのが難しいです……。

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