閑話#11 わたもちママの転機

 どっかの全員コラボ終了後。


「……よし! 引っ越ししよう!」


 配信を楽しみ、最後の『魔法少女だぞ☆』で見事に魂を持ってかれたわたもちこと四月一日小夜は、再起動直後にそう口にする。


 となると準備が早いのが小夜である。

 もう夜であると言うのに、早速とばかりに引っ越し準備を始めてしまう。


 とはいえ、梱包用の段ボール等がないので、現在は持っていく物をすぐに片づけられるようにまとめておくくらいだ。


「よしよし、商売道具たちは明日でいいとして……いやぁ、こういう時コネがあると便利!」


 小夜にはコネがある。

 それは、仕事で手に入れて来た人脈だ。


 小夜のわたもちとしての仕事は幅広く、アニメの公式サイトに載せるイラストであったり、出版社のホームページのアイコンのイラストであったり、特殊な所で言えば、引っ越し業者の仕組みを紹介するための四コマ漫画のようなものを書いたりなど、様々である。


 そして今回、引っ越し業者のイラストの仕事を受けていたこともあり、わたもちにはある種の優待券的な物が存在していた。


「まあ、元々そろそろ引っ越す予定だったし! それに……」


 ちらり、とスマホを覗く。

 そこには、つい先ほど届いたばかりのらいばーほーむからのDMがあり、簡単に言えば……デビューしようぜ! というようなメッセージである。

 本来ならば、この先で行われる四期生のオーディションを受けるかー、と思っていたがまさかの打診である。

 突然の打診に、通常であれば保留にするかと思うのだが……まあ、そこはらいばーほーむに誘われるだけあって、らいばーほーむ適正がある女である。


『よっしゃ任せろ!』


 というメッセージを返した。

 そしてすぐに返信が来る。まるで張り付いているかの如く。


『では、後日事務所でお話をしたいと思いますので、こちらへお越しいただくことは可能でしょうか?』

『引っ越します!』

『わかりました。では、住居に関しては手配しておきましょう。あぁ、仲介手数料等はこちら負担なのでご安心を。ご希望はありますか?』

『とりあえず、ある程度騒いでも問題ねぇ場所で』

『わかりました。ちょうどいい物件がありますので、そちらにしましょう。いつ頃お越しになりますか?』

『明日にはもうカッ飛ぶ予定!』

『では、明日の17時頃はいかがでしょうか? その時間であれば、ちょうど社長も空いております』

『OK! では、その時間に! あ、その住居はいつ頃入れるんで?』

『すぐにでも入居可能です。うちの事務所が関わっているマンションですので。何名かのライバーがそこで暮らしておりますよ。手続等につきましても、入居後でも問題はないので』

『マジですか! じゃあ、明日に荷物を運んでも?』

『問題ないですね。ですが、関西圏だと聞いておりますが、引っ越しの荷物等は?』

『色々うちにもコネがあるので! 明日の朝には出ますね。で、うちは飛行機で先にカッ飛ぶ!』

『なるほど、わかりました。それでしたら、そちらのサポートもしましょう。事務所にいる間、こちらで進められますが、配置等についてのご希望はありますか?』

『いえ、特に。あ、日が入りにくい場所にPCを置いてもらえると助かる感じですね』

『わかりました。ではそのように。それでは以上となりますので、明日、お待ちしております!』

『こちらこそ!』


 連絡終了。


 明日早速面接が入り、さらに小夜の動きが機敏になっていく。

 せっせせっせと準備をしていき、気が付けばあとは梱包のみという状況まで来た。


 となればあとはもう引っ越すのみである。


「ふふふ……まさか、こうも早く話が進むとは……」


 笑いを一つ、独り言を零して苦笑い一つ。

 小夜的には、とりあえず、四期の募集が来たら応募するかーという考えだったし、向こうもみたまの配信中にコメントで、歓迎するような旨のメッセージを送って来ていた。

 だからまぁ、とりあえずは仕事をして、らいばーほーむの事務所がある地域のどこかに引っ越して、ゆる~く過ごそうとか考えていた矢先にこれである。


 まさかのお誘いに、小夜は驚いたが……すぐに、ハッ! リアルみたまちゃんに会える!? と思えばノータイムでOKを出すのは自明の理である。

 尚、リアルみたまちゃんになることをまだ知らないし、知ったら普通に卒倒する。


「さてさて! 明日が楽しみぃ! おやすみ!」


 と、やたらテンションを高くしながら、小夜はベッドにダイブし、そのまま意識を落とした。



 翌日。


 引っ越し作業を終えた小夜は、すぐに飛行機でカッ飛び、らいばーほーむの事務所にやって来ていた。

 来たことがない土地で、尚且つ初めて足を踏み入れる場所に、小夜はかなり緊張していた。

 だがしかし、ここを乗り越えれば今よりも楽しい生活になるであろう! という期待がその緊張を凌駕していた。

 事務所の前で深呼吸をしながら中へ足を踏み入れる。


 受付にて、自身がわたもちであること、それを証明するための物を見せると、すんなりと通された。

 案内されたのは社長室であり、そこには既にらいばーほーむの社長、雲切桔梗が待ち構えていた。


「待っていたよ、わたもちさん。私がらいばーほーむの社長、雲切桔梗だ。よろしく」


 中に入ってすぐ、桔梗は入ってきたわたもちに近づくとにこやかに挨拶を行い、握手を求めて来た。


「わたもちこと、四月一日小夜です。よろしくお願いします」


 なので、小夜もにこやかな笑みと共に手を握り返した。

 それから対面になるようにソファーに向かい合って座ると、桔梗が話を切り出す。


「さて、昨日の今日で来てくれてありがとう。まさか、即断即決をするとは思っていなかったがな」

「いやー、元々四期で応募するつもりだったんで」

「ふふ、そうか。では、そうだね……まず話としては、本当にうちでライバーをするのか、ということと本当にやるとして、いつから配信をするか、ということだ。どうだ?」

「そりゃもう、やるつもりでこっちに来てるってもんですぜ。じゃなかったら昨日の今日で来ねぇですよ」

「ハハ! それはそうだ。無粋だった。それで、配信時期だが……いつがいい?」

「んー……うちとしては急ぎってわけじゃねぇんですよねぇ……」

「ふむ……」


 小夜の回答に、桔梗は何かを考えこむ素振りを見せると、少しして口を開く。


「では、今年のクリスマスに行われるイベントにて、デビューを発表する、というのはどうだろうか?」


 と、どこか不敵な笑みを浮かべて、そう告げた。

 それを聞いた小夜と言えば……。


「いいですね! すっごい面白そう!」

「お、そうかい? ならば、デビューはその時期にしよう。次にVTuberとしてのモデルだが……」

「あ、それなんですが、前にみたまちゃんとの配信で使ったアレにしようかと」

「いいね。その方が手間も減るか。よし、それでは3Dモデルの方もそれで発注をかけるとしよう。なに、神薙みたまのママが使う物だと言えば、イベントまでには間に合う事だろう」

「いやぁ、すごいクリエイターさんたちですねぇ」

「まあ……彼らはなぜかウチの事務所のライバーたちに対して、並々ならぬ情熱を持っているようだからな。命削って作ってるのではないかと思うんだが……こちらとしてはかなり助かるがね。まあ、休んでほしいが」

「あー、三期生の3Dモデル、なぜかもうありますしねぇ……」


 以前から3Dモデルが製作中というのは知っていたのだが、まさか三期生が入って一ヶ月半という短い間にクオリティの高いモデルが出来てるとは思わず、小夜もあの配信は驚いたものである。


 尚、驚くよりも先に、自分の生涯の推しと言っても過言ではない娘に全てを持っていかれたが。

 あと、さらっと隠れ巨乳設定をちゃんと盛り込んでいたことも。

 あまり気付いている視聴者はいなかったようだが……。


「いやはや、私たちも驚いたものだ。とはいえ、そのおかげで昨日の全員コラボで全員3Dを解禁できたわけだが。ちなみに、四月一日さんはどうだった?」

「みたまちゃんの3Dで死にました」

「その言葉が出て来る時点で大層満足したと言う事だろうね。うん、やはりあの子は逸材だね。他のライバーも当然、ね」

「あー、そう言えば100万行ってませんでした? みたまちゃんのチャンネル」

「行ったね。過去最速……というか、まさか姉妹揃って100万を達成するとは思わなかったがな」


 あの配信がきっかけで、桜木姉妹はそれぞれ100万人を達成。

 他のライバーたちも伸びに伸びまくっており、現在も増え続けているそうだ。


 まさかのミリオン到達は、らいばーほーむのスタッフたちも想定外だったそうだが、まあ、あの配信ならなぁと納得し、さらにはみたまの方に至っては、『むしろ遅くない? もっとみたまちゃんをすころうぜぇ?』とか思ったとか。


 人気である。


「記念配信はどんな感じで?」

「さぁね。その辺りは基本、ライバーたちに一任してるし。というより、仮に知っていたとして、聞きたいかい?」

「いえ、楽しみが半減するので訊いただけですが?」

「それでこそファンだよ。……さて、話を戻して。次に配信者としての名前だが……何かあるかい?」

「そうですねぇ……そもそも、あのキャラクターのデザイン自体、みたまちゃんのお母さんという設定なんでねぇ……」

「ふむ、ではいっそのこと――」


 そうして、二人の配信の相談は進み……。


「――よし、こんなところか。これは、今から楽しみになって来たね」

「いやぁ、うちもまさかこんなに早く所属するとは思わなかったですがね」

「だろうね」

「あ、ちなみにうちって何期生に当たるんで?」

「あぁ、そうだな……まあ、3.5期生でいいんじゃないか?」

「おおぅ、聞いたことないのが来たぜー。んまぁ、なんかオンリーワン感あってよし!」


 あまり聞いたことのない分類に、さすがに面食らったがなんか面白い立ち位置だからよし! ということになった。結構単純なのだ。


「そうか。では、そのように。……ふぅ、話も大方話尽くしたし……私の業務自体もほとんど終わっているから……どうだい? 食事でも」

「おっ! いいんですか?」

「もちろんだとも。一つ、相談したいことがあってね。神薙みたま関連で」

「ほほぅ? 話を聞かせてもらいましょうかァ……」


 自身の娘で相談があると言うのなら絶対に聞く。それがわたもちママである。


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 二話連続で閑話は申し訳ねぇ……とりあえず、今のうちにクリスマスイベントの爆弾をセットしておかなければ! と思った結果がこれなんだ……。

 補足ですが、らいばーほーむ入りが早まった経緯は、

 わたもちがみたまとコラボする→四期生に応募しようかなと発言→公式が歓迎する→あれ? もういっそ早めに出した方が面白くね?→全員コラボの時のわたもちのコメントを見て早く引き込むぞォォ!→終了後に打診→よっしゃ任せろ所属するぜ!

 という流れです。ひっでぇなこの事務所……。

 

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