#44 お高いお家、頼りがいのあるロリコン

「えーっと……あの、お疲れ様でした」


 配信終了後、通話が繋がったままの二人に僕はそう声をかけていました。


『お、お疲れ、様です……!』

「わ、わたもちママは大丈夫……?」


 うさぎお姉ちゃんは大丈夫そうなんだけど、わたもちママが大丈夫な気がしない……。


『今、床にぶちまけた血反吐拭いてるよー』

「それは冗談でいいんですよね!?」

『多分?』

『お、お大事、に?』


 VTuberになってから、血反吐という言葉をよく聞くようになった気がします……。

 普段の生活で絶対に使わないような物な気がするのにね……。


「そ、それにしても、あの、うさぎお姉ちゃん、急なのに参加してくれて、ありがとうございました!」

『き、気にしないで、い、いい、ですっ! た、楽しかったです、からっ!』

「そう言ってくれると嬉しいです! あ、次はオフコラボしましょうね!」

『は、はいっ! ぜ、ぜひっ!』

『うんうん、やはりこういう絡みが見れて本望! いやぁ、可愛いはいいよねぇ……! あ、やばい、また血反吐が……』

「咳が出るみたいなノリで血反吐はやめてくださいね!?」


 本当に心配になるんですけど!?

 大丈夫なのかなぁ!?


『げふっ! ……よし、大丈夫!』

「『絶対大丈夫じゃないですよ!?』」


 びしゃぁっ! って音が聴こえたよ!?

 絶対に聴こえちゃいけない音が聴こえて来ちゃったよ!?

 こ、怖いんだけど!


『いやぁ、いいものが見れたし、いい経験もできた! あ、みたまちゃん、もし衣装が欲しくなったら言ってね! うちがらいばーほーむに圧をかけてどうにかするから!』

「それはやめてくださいね!? 穏便にお願いしますっ!」


 この後、三人で少しだけ雑談をして、今日の配信は終わりました。



 それから、学園祭が終わった後の学園内は、どこか燃え尽きてしまったと言いますか、ちょっとだら~~~っとした雰囲気となっていました。


 僕は……元々配信をやってる関係上、あんまりそう言うのは無くて、むしろ頑張らなきゃ! みたいな気持ちの方が強いです。


 そんな風に、緩い雰囲気の授業を二日終えると、土曜日に。

 今日は配信で約束していた、千鶴お姉ちゃんとのコラボ配信且つ、お泊まり。

 お姉ちゃん以外の年上のお姉さんとお泊まりというシチュエーションに、すっごくドキドキしてます。


 お姉ちゃんからは、


「自己防衛、ちゃんとね?」


 と、護身術の教本を渡されながら言われました。

 お姉ちゃん……。


 あと、トワッターで、


 神薙みたま/らいばーほーむ三期生✓ @mitama_kannnagi 9月30日

 #Vtuber

 #告知

 今日は、ふゆりおねぇたまとオフコラボ配信をするよ!

 メインの配信をした後も、お泊まり配信をするから見てくれると嬉しいなっ!


 ○219 ↺1.5万 ♡3.7万 5万


 という呟きをしたら、そこにいっぱいコメントが付きました。

 中身は……。


『防犯ブザー持ってってね!』

『警察を呼ぶ準備はしておくんだよ!』

『食われないでね!』

『ロリコンに気を付けろよ!』


 などなど、なんと言いますか……その、防犯ちゃんとしてね、というような内容のメッセージで溢れていました。

 千鶴お姉ちゃん、信用されてないなぁ……!

 そんなに危ない人じゃないとは思うんだけど。


「それじゃあ、お姉ちゃん、行ってくるね」

「はいはい。気を付けてね? 色々と」

「うん! 行って来まーす!」

「行ってらっしゃい!」


 お姉ちゃんに見送られつつ、僕はお家を出ました。


 まず最初に向かうのは美月駅。

 千鶴お姉ちゃん、僕のお家の場所は知っているけど、僕は千鶴お姉ちゃんの住んでいる場所を知りません。

 それに、配信場所は千鶴お姉ちゃんのお家になるんだから、当然そっちへ行かなきゃいけないわけで……。


 最初は、僕のお家に迎えに行く! って言ってたんだけど、さすがに申し訳ないから、僕が来咲駅の方に行くって言ったんだけど……最終的には、美月駅前に集合となりました。


 なんでも……


『少しでも長く一緒にいたいんですよぉ~っ!』


 だそうです。


 嬉しいような、気恥ずかしいような……。

 というわけで、僕は一日分のお泊まりセットを持って駅前に到着。

 予定している時間よりも三十分ほど早く着いちゃったけど……うん、大丈夫のはず。


 ちなみに、今の時間は夕方の五時半です。

 一応お昼から行くというのもあったんだけど、準備とか他にも色々あったみたいで……。

 そういうわけで、夕方からとなりました。


「はふぅ……んん~~っ! この体になってから、重さを感じなくなってありがたいです……」


 そう言いながら、自分が座っているすぐ横に買い物袋を置きました。

 これは今日の夜ご飯で、千鶴お姉ちゃんに作ってあげる予定の物です。

 まだ内緒だけど。


「ん~、まだ暑いなぁ……」


 九月ももう残り僅かで、十月に差し掛かっているけど、まだ少し暑い。

 最近は残暑の期間が長くなって、嫌になっちゃいます。

 夕方の時間帯辺りから少しは涼しくなってくるけど、それでも温いしね……。


「あ、椎菜ちゃ~ん!」


 ふと、声が聞こえて来て、声がした方を見れば、そこにはいつもの柔らかい笑みを浮かべた千鶴お姉ちゃんが手を振っていました。

 僕は笑顔を浮かべると、荷物を持って、とてて! と千鶴お姉ちゃんのもとへ。


「こんばんはっ! 千鶴お姉ちゃん!」

「はい、こんばんはですよぉ~!」


 今日の千鶴お姉ちゃんは、シャツにカーディガン、ジーンズと言った、どこか大人な雰囲気の服装でした。

 なんだか新鮮。


「あらぁ~? そちらの袋はなんでしょうかぁ~?」

「あ、これは夜ご飯の材料だよっ!」

「……え!? つ、作ってくれるんですかぁ~!?」

「うん! 千鶴お姉ちゃんのお家にお邪魔するんだから、これくらいは! それに、千鶴お姉ちゃん、美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるの!」


 それを言うなら、寧々お姉ちゃんたちもだけどね。

 けど、作り甲斐があるのは事実なわけで……。


「あぁ~っ! 私、もう死んでもいいですぅ~~っ!」

「ふあ!? なんで!?」

「お、幼妻すぎますよぉ~……!」

「お、幼妻って……僕、まだ付き合ってる人もいないし、結婚もしてませんよ……?」


 あと僕、年齢的には幼妻じゃないと思います……。


「え、じゃあ私と結婚しますかぁ~?」

「し、ししし、しませんよ!?」

「うふふぅ~、残念ですぅ~……(あらぁ~? そう言えば、できない、ではないんですねぇ~? ……もしかしてぇ~……)」


 あれ? 何か考え込んでる……?

 どうしたんだろう?


「さてぇ~! それじゃあ早速私の家に行きましょうかぁ~!」

「あ、うん!」


 立ち話もそこそこに、僕と千鶴お姉ちゃんは、電車に乗って来咲市へ向かいました。



「ここが私の家ですよぉ~」


 そう言いながら紹介したのはマンションでした。

 ただ、その……なんだろう、すっごく高そうな場所……!(金銭的に)

 どう見てもセキュリティが厳重だし、チラッと見えるエントランスもなんと言いますか、ソファーやテーブルがいくつも置かれていて、こう、談笑が出来そうというか……え、ここに……?


「あ、あの、本当にここ、なの……?」


 どう見ても、お金持ちな人たちが住んでそうな、綺麗マンション。

 周囲はお洒落な街路があって、緑も豊か。

 気後れしちゃうよぉ……!


「そうですよぉ~? もともとしているお仕事で稼いだお金で住んでいる、という感じですねぇ~」

「そ、そう、なんだね……あ、あの、これ、入っても、だ、大丈夫、なの?」

「問題ありませんよぉ~。私と一緒なら~! あ、今後来る時は、私を呼び出してもらえれば、すぐに入れますからねぇ~」

「あ、うん。わかりました」


 ……同じ三期生同士、どうあっても付き合うことになるし、僕自身も千鶴お姉ちゃんだけじゃなくて、みんなと一緒に頑張りたいとは思うけど……それでも、ここに来ることだけは、慣れそうにないです……。



 マンションに入ってすぐ、オートロックの扉に出迎えられましたが、手慣れた操作で開錠すると、僕は千鶴お姉ちゃんと一緒に中へ。


 途中すれ違うここの住人さんらしき人達は、どことなくお金持ち感があって、思わず千鶴お姉ちゃんのカーディガンの袖を掴んで、縮こまってしまいます……。


 ただ、すれ違う人たちからはなぜか、その、高そうなお菓子を渡されましたけど……美味しかったです。

 そうして、お菓子を貰ったり、撫でられたりしてるうちに、千鶴お姉ちゃんのお家に到着。


「お、お邪魔しますっ!」

「はい、いらっしゃいですよぉ~」


 緊張でガチガチになりながら中に入ると、ふわり、とお花のいい匂いがしました。

 なんだろう、すごく落ち着く感じ。


「ふわわ、なんだかすっごくお洒落……!?」

「そうですかぁ~? ありがとうございますぅ~」


 内装を褒めると、千鶴お姉ちゃんはにこりと微笑んでそう言いました。

 実際中はすごくお洒落でした。

 なんと言いますか、大人な雰囲気があるというか……なんて言えばいいんだろう?

 僕、あんまり語彙力がないからどういえばいいのか……!

 ただ、リビングは広くて、テレビもおっきいです。

 しかも、壁に埋め込まれてるタイプ!

 すごい! 初めて見た!


「ソファー、すっごくふかふか……!」

「うふふぅ~、それ気に入ってるんですよねぇ~」


 ふっかふかなソファーに座ると思わず声が出てしまったけど、それに対して千鶴お姉ちゃんが柔らかくそう言って来ました。

 なんだか、千鶴お姉ちゃん、今日すっごく嬉しそう。


「あ、そうだ! キッチンをお借りしても?」

「もちろんですよぉ~! あ、ちなみに、夜ご飯は何を作ってもらえるのでしょうかぁ~?」

「はい! せっかくなので、ローストビーフを!」

「あらあらぁ~! ローストビーフですかぁ~! いいですねぇ~、大好きですよぉ~」

「えへへっ、じゃあ、頑張って作るので、待っててくださいね!」


 楽しみにしている千鶴お姉ちゃんにそう言って、僕はいそいそ、とお料理を始めました。



 それから、二人で仲良く夜ご飯を食べて(千鶴お姉ちゃん、泣きながら食べてたけど……)、配信が始まるまでの間は談笑をしていました。

 そうして、配信が始まる一時間ほど前になり。


「あ、あの、千鶴お姉ちゃん。ASMR配信って、その……えと……え、演技をしなくちゃいけない……んだよね……?」

「そうですねぇ~。その時の台本や中身にもよりますけどぉ~……概ねはその認識で大丈夫ですよぉ~。世の中には、それを自然体でやっている人もいますけどねぇ~」

「そ、そう、なんだ……!」


 すごいなぁ、そう言う人たちって……。

 僕、演技なんてほとんどしたことがないから心配だよぉ……。


「ち。ちなみに、えと、気を付けることとか……」

「ん~……椎菜ちゃん自身、声がかなりいいので、棒読みにならないように、自然にやればいいですよぉ~。多少のミスは、私でカバーしますからねぇ~」

「ほ、本当……?」

「はい、全力カバー、任せてくださいねぇ~」


 そう言って笑う千鶴お姉ちゃんは、すっごく頼りがいがあるように見えました。

 すごく、気が楽になります。


「あ、これが台本ですねぇ~。動きについても書かれていますので、その都度動いていただければぁ~」

「ぶ、ぶっつけ、なの?」

「椎菜ちゃんの場合は、あまり練習しない方が受けそうだなぁ~、と思いましてぇ~」

「そ、そうなんだ……」


 それはそれで心配になんだけど……けど、自然体……。

 パラパラ、と台本を流し読みしてみる。


 シチュエーションは……んと、添い寝? かな……?

 姉妹に添い寝されている、そんな感じで、千鶴お姉ちゃんは包容力のあるお姉さんキャラで、僕はふんわりとした雰囲気の妹……よくわからないけど、うーんと……柔らかい感じで言えばいい、のかな……?


 うん、頑張ってみよう……!


「安心してくださいねぇ~。基本、私の方でリードしますからぁ~」

「助かります!」

「いえいえぇ~。それでは、そろそろ準備をしましょうかぁ~」

「うん!」


 初めてのASMR配信、頑張らないと!


======================================

 はい、本編です!

 昨日まで投稿されていた、例の記念話の続きは、今日の午後か、明日辺りには出します! というか、本編をいい加減出さないとなぁ、と思ってたのでねぇ!

 あと、少しの間配信系の話が増えると思います。多分。

 学園祭が長かったからね……。

 とは言っても、修学旅行の話もやる予定なので、どうなるかはわからんけども。

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