#41 打ち上げ、尊死多数

「こんばんは~」

「おーっす」

「やっほー」


 ちりんちりん、という扉のベルと共に挨拶をしながら店内に入ると、そこにはクラスのみんなが既にいました。

 あれ、全員いる!?


「俺たち、遅刻したわけじゃないよな?」

「みんな早くない?」

「いやいや、三人が一番学園祭で貢献してくれたんでね! ほら、主役は遅れて来るって言うでしょ? そゆこと!」

「しゅ、主役って……」


 佐々木さんが主役って言って来て、苦笑い。

 そう言うのじゃないと思うんだけどなぁ……。


「にしても……え、椎菜ちゃん可愛いね!」

「ふあ!?」

「普通に私服のセンスいいなぁおい」

「大人っぽい服装でいいよね!」

「わかるぅ! 女の子になりたてなのに、あんなに可愛いセンス持ってるとか最高です!」


 などなど、かなり今の服装を褒められました。


「あ、あはは、これ僕が選んだお洋服じゃないよ?」

「え、そうなん?」

「うん。えっと、知り合い……お友達のお姉さんに選んでもらったお洋服なの」

「へぇ! じゃあ、その人はセンスあるってことか!」

「まあ、椎菜ちゃんの場合、何でも似合いそうだけどね!」

「むしろ、似合わない服を探す方が難しいだろうな、椎菜は」


 佐々木さんの言葉に対して、麗奈ちゃんと柊君がそう言って来ました。


「さ、さすがに似合わないお洋服はいっぱいあると思うけど……」


 スーツとか。

 というより、カッコいい系のお洋服は似合わないと思います、僕。

 男の時からずっと可愛い系ばかりだった気がするし……もしくはシンプル。


「どうだろ。……っと、入り口で話してても仕方ないし、早く打ち上げ始めよう!」

「そうだな!」

「いやー、早く食いたいぜ」

「お肉! お肉!」

「お三方は飲み物は?」

「俺は……あー、烏龍茶」

「あたし、ジンジャーエール!」

「僕、オレンジジュース」


(((可愛いな……)))


 あれ、今一瞬、みんなが同じことを考えてた気がする……。

 気のせいかな?

 ともあれ、注文した飲み物はすぐに出されて、みんなグラスを持ちました。


「じゃあ、椎菜ちゃん、音頭どうぞ」

「僕なの!? 柊君とか麗奈ちゃんでもいいよね!?」

「いや、俺は椎菜でいいと思うぞ」

「あたしもー」

「ってか、今回一番頑張ったの桜木だろ」

「初日とか、当番じゃないのにメッチャ頑張って作ってたし」

「二日目も動き回ってたしねー」

「ふえぇぇ……」


 僕が音頭取るの……?

 断りたいけど……みんなすっごく期待したような目で僕を見て来るし……うぅ~~~っ!


「じゃ、じゃあ、あの……が、学園祭、お疲れ様でしたっ! かんぴゃいっ! あぅっ……!」

「「「かんぴゃーい!」」」

「ふああぁぁ!? そこは真似しないでぇぇ~~~~~っっ!」


 乾杯というはずが、僕が噛んでしまった言葉で乾杯されてしまいました……。

 みんな酷いっ!



 それから焼肉が始まり……。


「はいどうぞ~」

「あ、こっちも焼けてるよ~」

「サラダも取り分けるからいつでも言ってね~」


 お肉やサラダを食べつつ、なんとなくほしそうにしている人たちにお肉を載せたり、サラダを取り分けたりしていました。

 性分なんです。


「なんか、マジで桜木がおかん属性なんだが」

「わかる。しかも、絶妙なタイミングで載せて来るのがすげぇ」

「あ、サラダ欲しいなぁと思ったらにこっとした笑みと共に持ってくるの、天使すぎん?」

「しかもあれ、ちゃんと自分も食べながらだからな……さすがだわー」


 やっぱり、こういうのは好きです。

 元々、誰かのために何かをしてあげる、そんな行為が好きで、裏方とか大好きです。

 だからこういう焼肉とお鍋の時とかは、ついついお世話をしてしまうと言いますか……。


「相変わらずだな、椎菜は」

「椎菜ちゃん、ちゃんと食べてる?」

「食べてるよ~」

「そっかそっかー。あ、椎菜ちゃん、このお肉美味しいよ? 食べる?」

「食べるー!」

「んぐふっ……んんっ! じゃ、じゃあ、はい、あーん」

「あむっ……あ、ほんとだ、美味しい!」


 麗奈ちゃんに食べさせてもらったお肉は、すごく美味しかったです。

 白モツかな、これ。


「じゃあ、次はこれねー。はい、あーん」

「あむっ! んっ、これも美味しい!」

「でしょでしょー。椎菜ちゃん、食べっぷりがいいねー」

「美味しい物は大好きだよ~」


 元々、食べること自体好きだもん。

 でも、本当に美味しいなぁ~。


「ねぇ、椎菜ちゃん、メッチャ可愛くない……?」

「すっごい幸せそう、だよね?」

「むむむ、麗奈が羨ましい……!」

「もしかして、あーんしたら必ず食べてくれるのかな?」

「試す?」

「「「試そう」」」

「んむんむ」


 もぐもぐ、と麗奈ちゃんに差し出されたお肉を食べていると、不意にクラスの女の子たちがやってきました。

 なんだろう?


「椎菜ちゃん、はいあーん」


 こてんと首をかしげていると、佐々木さんが目の前にちょうどよく焼かれたお肉を差し出してきました。

 突然出されて、どうすればいいのか困ったけど……。


「あむ! 美味しい!」


 ……お肉の誘惑には逆らえませんっ……!


「あ、食べた!」

「椎菜ちゃん椎菜ちゃん! はい、あーん!」

「あむっ! これも美味しいです!」

「じゃあ次こっち!」

「あむっ!」

「これもこれもー!」


 と、気が付けば、女の子のみんなにお肉や野菜を食べさせてもらっていました。

 どういう状況? と思わないでもないけど、美味しい物がたくさん食べられるのならそれでいいです!


「なんか、餌付けみたいだな……」

「けどよ、すっげえ微笑ましくね?」

「それな。見ろよ、桜木の顔、すんげぇ幸せそうだぜ? 可愛すぎんだろ」

「あれが元男とか、今じゃ信じらんねぇよなぁ」

「つーか、女子の方もやたら生き生きしてんのがおもろい」

「羨ましい云々以前に、百合百合な光景をありがとうございますって言いたいわ」

「百合を肴に食う焼肉マジサイコー」

「「「同感」」」

「お前ら……」



「はふぅ~~、ちょっと休憩」


 いっぱい食べさせてもらいつつ、僕もお肉や海鮮系の物を焼きつつ、みんなに配っていると、大分お腹いっぱいになってきたので、食休み。


 みんなはもっと食べさせたそうにしていたけど、さすがにね……。

 それに僕ばかり食べるのは申し訳ないもん。


 食休みに入った僕は、人がいないところにこっそり移動して、飲み物をちびちびと飲みながらとても楽しそうに騒ぐクラスのみんなを見ていました。


「満足したのか?」


 と、一人でいる僕の所に、柊君がやって来て、そう尋ねてきました。


「ん~、そうだね~。もうちょっと食べたいなぁって思うけど、さすがに食べ過ぎるとお腹壊しちゃうかもしれないし、一旦は打ち止め」

「そうか」

「いや~、食べた食べた! 満腹~」


 今度は麗奈ちゃんが満足そうな笑顔と共に、お腹をさすりながらこっちに。


「麗奈ちゃんはもういいの?」

「かなり食べたよー!」

「そっか。くっ、ん~~~っ! ふぅ……ちょっとだけ眠い……」


 欠伸が出そうになったので、大きな声が出ないように嚙み殺す。

 ん~、昨日は夜更かししちゃったし眠い……。


「なんだ、寝不足か?」

「夜更かしは美容の大敵だよ? 椎菜ちゃん」

「あ、あはは……昨日、お姉ちゃんの帰りを待ってたので……」

「昨日は遅かったのか」

「うん。納期が近い~~~! って嘆いてました。けど、なんとかギリギリで終わらせたって」

「へぇ~。そう言えば、愛菜さんって何のお仕事をしてるの? 普段」

「デザイナーさんだよ」

「え、すごいね?」

「お姉ちゃん、すっごく絵が上手で、何でも描けるの! キャラクターとか、マスコットとか、背景とか! 割とオールラウンダーみたいなの」

「へぇ~~! 多彩なんだね! しかも、色々と面白い人だし!」

「まあ、あの人はなんかもう、天が二物も三物も与えた様な人だしな……」

「そうかもね~」


 実際、お姉ちゃんはかなり多彩だし、やれることは多いです。

 すごく優しくて、美人さんで、イラストが描けて、VTuberをしていて、それがすごく人気で……あれ? こうして考えると、お姉ちゃんってかなりすごいよね?

 お姉ちゃんみたいな人を、才能の塊って言うのかな?


「しっかし、あっちは元気だな」

「そうだね~。高校生だもん。騒ぎたくなるよ」

「椎菜ちゃんも高校生だよね? なら、一緒に騒ぐ?」

「僕は眺める方が好きなので」


 騒がしいのは嫌いじゃないけど、どちらかと言えばこう、周りで見ている方が好きなタイプです。

 楽しそうに何かをする人たちを見る、それが一番です。


「朝霧こそ、向こうで騒がなくていいのか? 朝霧も騒がしいことが好きだろ?」

「いやー、それはそうなんだけどねー。ほら、あたしも椎菜ちゃんの秘密を知っちゃったし? なら、なるべく一緒に行動を! ってね」


 ぱちっ、とウィンクをしながらそう言ってくる麗奈ちゃんに、なんだか胸がじんわりと温かくなりました。

 優しい……。

「ありがとう、麗奈ちゃん」

「いいっていいってー。あ、明日は椎菜ちゃん、あれあるんだよね?」

「うん、あるよ~」

「あたし、絶対見るからね!」

「嬉しいけど、なんだか気恥ずかしい……」

「まあ、知り合いにあれを見られるのはなぁ……」

「まあね……」


 特に、仲のいい二人に見られることが一番恥ずかしいまであります。

 だって、『おにぃたま』とか『おねぇたま』とか言うんだよ? 恥ずかしいよね……。

 だいぶ慣れてきちゃったけど……。


「まあ、俺たちに限った話じゃないが、クラスのほとんどは見てるらしいがな」

「そんなに見てるんだ……」

「椎菜ちゃん、人気者だねぇ」

「あ、あははは……」


 なんだか複雑……。

 けど、クラスのほとんどが見てるんだ……もしかして、身バレしかけた時に詰め寄ってきた人みんな見てた感じかな?

 だとしたら、世の中って狭い……。


「……話は変わるが、向こうは何してるんだ? さっきから」

「んー、一発芸大会らしいよ? モノマネでもいいし、アカペラで歌うでもいいし、何でもあり! ちなみに、あたしはもう既にやってきました」

「何したんだ?」

「ヤンバルクイナのモノマネ」

「「んぐふっ……!」」


 まさかのモノマネの内容が飛び出してきて、思わず噴き出してしまいました。

 なんで、そんなにピンポイントなのっ……!

 ず、ずるいよっ、麗奈ちゃん……!


「結構受けました」

「だからさっき大爆笑が起こってたのか」

「す、すごいね……」

「ちなみに、高宮君と椎菜ちゃんは何か持ちネタとかあるの?」

「ないな。生まれてこの方、一発芸なんてものをしたことがない」

「僕は……そもそも、あれが一発芸みたいなものなので……」

「「あぁ~~」」


 あれとは、もちろん神薙みたまのことです。


 あれって、僕にとっては一発芸に近くて、演技をしてるわけじゃないけど、なんだろう、スイッチ? みたいなものがあって、配信中はなるべく神薙みたまだと思い込むようにしているわけで……自然体でやってはいるけど、そういう切り替えをしています。


 そうしないと、本当に普段の僕と同じになっちゃうからね……。

 まあ、ほとんど同じと言われたらそうなんだけど……。


「高宮君はともかくとして、椎菜ちゃんはやってほしいってせがまれそうだけどね」

「あ、あはは、さすがにない、と思いたいけど……」


 メイド服の時のような前例があるからなぁ……。

 否定しきれないです……。


「でも、椎菜ちゃんが一発芸したら、みんな気絶しそうだよね」

「その光景が目に浮かぶな……」

「酷くない!? 二人とも!」


 なんでそうなるの!?

 た、たしかに、お姉ちゃんと千鶴お姉ちゃんは気絶したことはあるけど!

 け、けど、クラスのみんなはそうなってないもん!


「と、ともかく、僕に声がかかることは――」

「椎菜ちゃん、一発芸頼んだ!」

「……」

「「見事なフラグ回収……」」

「やめてっ、そんな目で僕を見ないでぇっ……!」


 生暖かい目で見られるのはすっごくいたたまれないんだからぁっ……!


「というわけで、ささこっちへ!」

「ふぇぇぇ! やりたくないよぉ~~~~~っ!」


 僕のそんな叫びも空しく、佐々木さんに引きずられるようにしてクラスのみんながいる場所に連れてかれました……。


「というわけで、次は椎菜ちゃんです」

「い、一発芸って言われても、持ちネタはないよ……?」

「大丈夫、桜木ならなんとかなる!」

「どういう理屈で!?」


 僕ならなんとかなるの意味が分からないです!


「なんでもいいから! アニメのキャラのモノマネでもいいし」

「あぅぅ、そんなこと急に言われても……」


 アニメは見ないわけじゃないけど、そこまでだし……。

 モノマネ……モノマネ……自分のモノマネはさすがにあれだし……。


「じゃ、じゃあ、何かやってほしいものがあったらやる、感じでいい……?」

「もちろん! じゃあ……これで」


 僕の提案に、佐々木さんがどこか楽し気にしんがら、スマホの画面を見せてきました。

 そこには、文字が書かれており、注釈がありました。

 え、これを言うの……?

 け、けど、これを言わないと解放されなさそうだし……あぅぅぅ~~~~っ!


「え、えと、あの…………おにぃちゃん、おねぇちゃん、だぁ~いすき♥ ……だよ?」


 すごく甘えた妹のような感じで、と書かれていたので、試しにやってみたら。


「「「スゥ――……」」」


 みんな、安らかな笑みで立ったまま気絶しました。

 なんで!?


「あれ!? ど、どうしたのみんな!? しゅ、柊君! 麗奈ちゃん! みんなが気絶しちゃったぁ!?」

「いやまあ、なぜあれを言わせたのかはなんとなくわかるが……まあ、ほっといてもすぐ起きるから問題ないだろ」

「そういう問題!?」

「ご、ごめん、あたしもちょっと飛びかけた……」

「麗奈ちゃん!? すっごくがくがくしてるよ!? 大丈夫!?」

「へ、へへへ、可愛さの爆弾が、あ、あたし襲って来たぜ……」


 よくわからないことを言ってる麗奈ちゃんは、テーブルに手をついてようやく立ってる、そんな感じで、すごくがくがくと震えていました。


「と、というか、高宮君、よく平気だね……」

「いやまぁ、最初は多少のダメージはあったが、案外慣れるらしい」

「さ、さすが幼馴染……!」

「あの、この状況をどうすればいいのかな、僕……」

「さっきも言ったが放置でいいぞ。どうせ、少ししたら起きるだろ」

「柊君、地味に酷くないかな」

「そんなもんだよ、案外」

「柊君が嫌な人に……!」

「いやそこまでじゃないからな!?」


 この後、みんなは無事におきましたが、どこかほけーっとしていましたが、時間も時間だったので、解散になりました。

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