#40 翌日、打ち上げへ
「ふぅ~~……楽しかったぁ……」
久しぶりの配信を終えたボクは、ぎし、と椅子に深くもたれかかりました。
口元には自然と笑みが浮かんで、胸はぽかぽかと温かい。
二週間もしていなかったけど、なんだかんだで僕は配信が好きみたいです。
みんな、温かい人ばかりだし、すごく楽しい。
「でも、次のコラボする人ってどんな人なんだろうなぁ……」
未だに情報はないし、マネージャーさんも秘密状態。
謎です……。
「でも、悪い人じゃない、よね?」
楽しみではある反面、どういう人なのかさっぱりわからなくて、ちょっぴり不安になる。
今までコラボして来た人たちは、少なからず配信で人となりを見られたからよかったけど、今回はどういう人かわからないから心配になるわけで……。
うーん……。
「まあでも、大丈夫だよね?」
もし、悪い人ならマネージャーさんも受けてほしいなんて言わないもんね!
うん、僕はマネージャーさんを信じよう!
「ふあぁ~~……んんぅ、眠くなってきちゃったなぁ……」
寝ようかとも思ったけど、お姉ちゃんがまだ帰ってきてないので、寝ることを躊躇ってしまう。
一人は可哀そうだし……みたいな。
「明日の打ち上げは夜からだし……うん、たまには夜更かしもいいかな?」
普段は十時には寝る僕だけど、次の日がお休みで、お姉ちゃんがまだお仕事で帰ってこない時は夜更かしをすることにしています。
だって、お家に帰って来て誰もいないことは寂しいもん。
……実際のところ、お姉ちゃんとお父さんができるまでは、一人でお家にいることが多かったからね。
あの頃は寂しかったものです。
とは言っても、お母さんは僕のためにいっぱい働いてくれていたし、柊君がいてくれたから、すごく精神的に助かってたけど。
柊君、昔から一緒にいてくれたからね。
やっぱり親友です!
「けど柊君、将来恋人さんできるのかなぁ……」
10歳以上年上の人が好き! って前に言ってたけど……でも、柊君カッコいいもんね、うん、きっといい人と巡り合えるよね!
「とりあえず、お姉ちゃんを待とうかなぁ」
そう決めた僕は、お部屋を出てリビングへ移動しました。
この後、ふらふらとした足取りで帰って来たお姉ちゃんを出迎えると、すぐにいつものお姉ちゃんに戻って、嬉しそうに僕の作った夜ご飯を食べてくれました。
疲れていたはずなのに、すごいなぁ、お姉ちゃん。
◇
翌日。
今日は学園祭の打ち上げの日。
時間は夜の19時からで、場所は美月市でもかなり人気の焼肉屋さんです。
場所はちょっとだけ遠いけど、普段学園に向かう道の延長線上にあるので、そこまでじゃないです。
それに、今の体は疲れにくいので!
「それじゃあお姉ちゃん、行ってくるね!」
「はいはーい! 何かあったら私に連絡してね! 何でもいいよ! 寂しいとか、会いたいとか、帰りたいとか!」
「あはは、さすがにそう言う事じゃ言わないよ~。だけど、ありがとう、お姉ちゃん!」
「いいってことよー。じゃ、楽しんできてねー」
「うん! いってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」
お姉ちゃんにそう言ってからは、僕はお家を出ました。
「待ってたぞ、椎菜」
「やっほー! 椎菜ちゃーん!」
「あれ? 二人とも、迎えに来てくれたの?」
うきうきとした足取りで玄関を出ると、そこには柊君と麗奈ちゃんの二人がいました。
どうやら、待ってくれてたみたいだけど……。
「まあな」
「だって、夜だよ? 椎菜ちゃんすっごく可愛いんだから、誘拐されちゃうかもしれないもん! だったら、複数人で! って高宮君と話したの」
「な、なるほど……たしかに僕、ちっちゃいもんね。子供と間違われちゃいそう」
「高校生は広義的に見ても子供だろ」
「うん。椎菜ちゃんの場合は、そこに輪をかけて幼いから余計に子供だよね。胸は子供じゃないけど」
「そこは言わなくてもいいと思うなぁ!?」
未だに気にしてるもん! このおっきい胸!
うぅ、なんで僕こんなになっちゃったんだろう……ちっちゃくていいのに……。
「それにしても……ふむふむ、椎菜ちゃん、私服のセンスいいね?」
「そ、そうかな? でもこれ、僕が買ったんじゃなくて、別の人に選んだものでして……」
「もしかして、配信後に買いに行ったっていうあれか?」
「あぁ! たしか、コラボした後にみんなで買い物をしに行ったー! ってやつ? へぇ~! けど、ふむふむ、可愛いね!」
「え、えへへ、ありがとう」
可愛いと褒められるのも少し離れて来て、嬉しいと思えるようにはなったけど、それでもなんだか気恥ずかしい。
ちなみに、今日の僕の服装は藍華お姉ちゃんが選んでくれた服装で、襟付きシャツとキュロットスカートです。
あ、リボンも着けてます!
「なんと言うか、大人っぽく見えるよねぇ」
「そうだな。ただ、椎菜の場合……」
「???」
「子供が背伸びしました感があるがな……」
「柊君!?」
普通にひどいことを言われたよ!?
こ、子供が背伸び……!
「高宮君、椎菜ちゃん相手だと、結構ずばずば言うよね?」
「付き合いが長いからな」
「僕としては、ずばっと言ってくれるから嬉しいよ~。やっぱり、付き合いが長いからこそだもん」
「なるほどねぇ~。ともあれ、話すのはこの辺りにして、お店に行こっか!」
「だな」
「うん!」
というわけで、三人で目的地のお店まで歩いていく。
夏至はとっくに過ぎているので、少しずつ暗くなるのが早くなっていっている影響で、ちょっとだけ暗い。
場所がちょっとだけ遠いけど、お話をしながらの移動だったので、全然苦じゃなかったです。
それに、いつもなら柊君だけだけど、今回は麗奈ちゃんもいるからすっごく楽しいし嬉しい。
ちなみに、道中は昨日の配信でのことを話してました。
もちろん、バレないように濁しつつの会話だったけど、二人は僕が神薙みたまだと知っている事と、視聴者さんらしいので、問題はないわけで。
「ところで柊君、昨日コメントしたかな?」
「……まあ、な。なんか、すごい同情されてたな、俺」
「あ、やっぱり。もしかして、そういう人の一人や二人いるだろ、みたいなコメント?」
「……正解」
「あぁ、そう言えばいたねぇ。あたしも見てたけど、あれ高宮君だったんだ! というか……え、高宮君の恋愛的嗜好あれなの!?」
「まあなぁ」
麗奈ちゃんの驚きながらの言葉に、柊君は苦笑い交じりに肯定しました。
「ちなみに、なんで?」
「なんで、って言われてもな……あー、んー……俺の初恋って、椎菜なんだが」
「ちょっと待って? その時点で既に面白いよ?」
「あ、あはは……」
今思い返してみても、小さい頃って本当に男の子からの告白も多かったからね……。
女の子からも告白はされていたけど……普通とは違うような感じだったし。
「まあ、その初恋は椎菜が男だと暴露したことで終わったが、その後だな。まあ、よくあるだろ? 学校に美人な先生がいて、なんとなく好きになる、みたいなこと」
「あー、わかるー。じゃあ、高宮君も?」
「まあな。で、ちょうどその人が当時の俺の年齢よりも10歳以上離れていたわけだ。そこから、そういう感じになったんだろうな、なんとなくで」
「はぇ~、なるほどねぇ。ちなみに、許容ラインとかあるの?」
「許容か? そうだな……理想は10歳くらいだが、-5歳差くらいまでならまあなんとか? プラスなら、2,3歳くらいだな」
「へぇ~、結構広いね? でも、いつか理想の人と出会うと良いね!」
「それはそうなんだが……俺としては、椎菜に先に恋人が出来てほしい所だ」
「どうして僕!?」
突然矛先がこちらに向いてきて、思わずちょっとだけ大きな声を上げてしまいました。
どうして、と思っている僕に向かって、柊君ははぁ、と溜息を吐いてから話し始めました。
「椎菜は誰かしらがついていないと心配になるくらいに純粋だし、騙されやすい。だからこそ、椎菜を支えてくれるような恋人が現れてくれない限り、俺が恋人を作ることはないだろう」
「酷い!?」
「あー、なんかわかる」
「麗奈ちゃんまで!?」
そんなに僕って心配になるの……?
なんだか悲しい……。
「そもそもなんだけどさ、椎菜ちゃんって恋人が欲しい! って思うの?」
「うんと……人並みくらい?」
すごく欲しいかと聞かれるとそうでもないけど、反対にいらないのかと聞かれると欲しいかなぁ、本当にそれくらいの考え。
いつかはできたらいいなぁ、とは思います。
「そういや、椎菜は年上、同い年、年下、どれが好みなんだ? 聞いたことなくてな」
「あー、それあたしも気になる! ねね、教えて教えて!」
「う~ん……年上、かなぁ……」
少しだけ考えこんでから、僕は年上と答えました。
「ほほう、その心は?」
「そもそも僕、年下の人に年下だと思われるし……」
「「あ」」
「同い年の人も年下だと思って来るし……」
「「あぁ……」」
「だ、だったらもう、最初から年上の人がいいかなぁ、なんて……」
毎回訂正するのも大変だし、実際それが理由でちょっとだけギクシャクしたこともあったから、それ以来年上の人がいいなぁ、と思うようになりました。
それに……。
「それにね、お姉ちゃんがいるでしょ? 僕」
「そうだな」
「うんうん」
「僕、お姉ちゃんみたいに甘やかしくれるとすっごくいいなぁ、って。あ、養ってほしいとかって意味じゃなくて、こう、プライベートで甘やかしてほしいなぁって……えへへ……」
「「あー……なるほどなぁ(ねぇ)」」
お姉ちゃん、よくお膝の上に乗せたり、頭をなでなでしてくる時があるけど、実はあれすっごく好きなんです……。
だからかなぁ、年上の人に惹かれやすいと言うか……ね?
「そう考えたら椎菜って、今は選り取り見取りじゃないか?」
「ふえ? どういうこと?」
「いや、お前仕事の同期と先輩、全員年上だろ」
「あぁ、そう言えば椎菜ちゃんだけだっけ、高校生」
「というか、未成年は椎菜だけ、だな」
「あはは、さすがに恋愛感情を僕に持つことはないんじゃないかなぁ。ほら、いくら僕がちょっと前まで男だったとは言っても、みんなは最初から女の人だったんだもん。恋愛的に好きになることはないと思うよ?」
そもそも、同性同士ってなかなかいないもんね。
探せば見つかるとは思うけど、それでも普通に恋愛したいと思う人の方が多いと思うし、それにみんなだってさすがに僕みたいに元男で、ちっちゃい女の子を好きにならないと思うもん。
もちろん、らいばーほーむの人たちが好みじゃないか、と言われると、うん……その、はい、好み寄りです……だ、だって、みんな綺麗な年上のお姉さん、って感じなんだもん……ドキドキしちゃいます……。
「……俺としては、明らかに三期は堕ちてるとは思うがなぁ」
「あたし、二期の常識人は堕ちてると思います」
「ふえ? 何か言った?」
「「いやなんでもないです」」
「それならいいけど。……あ、二人とも、もしかしてあのお店かな?」
なんでもないのならいいかなぁ、と思うことにして前を向くと、そこには目的地らしきお店が。
僕は二人にそこを指し示しながら尋ねると、二人は笑みを浮かべながらこくりと頷きました。
「そうだな。さっさと行くか」
「だね! あー、お腹空いたー!」
「僕も~」
夜ご飯がいつもよりいいお店の焼肉屋さんということで、朝ご飯とお昼ご飯は少し控えたからね! いっぱい食べるよ~!
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はい、ちょい前に言った通り、本日から私の新しいお仕事が始まるため、週一投稿に切り替わります。ただ、現状確実に一週間に一回できるかは不明なので……その辺りはご容赦頂ければ幸いです。
一応、書き上がってる部分は出す予定です。明日明後日は行けるかと。
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