#37 自由時間、食べ歩きを楽しむ

 そうして、客足が全く途絶えなかったけど、何とか無事に交代の時間に。


「はふぅ……疲れたねぇ……」

「だねー。やー、足が痛いくらい」

「椎菜は平気っぽいがな」

「うーん、病気になってから、身体能力が上がったからかな? 結構頑丈になった感じはあるかも」


 学園祭前日の夜に色々確認した時に薄々思ったんだけど、屋上から飛び降りても、多分怪我はしないと思います。

 痺れはすると思うけど……。

 ただ、あれって意識をすることが前提だから、車に轢かれちゃうような状況になったら多分無理かなぁ。

 一応、平常時も前より頑丈にはなったけど、意識してる時ほどじゃないみたいだし。


 うーん、やっぱり不思議な病気……。


「TS病だっけ? 気になってちょこっと調べてみたけど、あんまり情報ってないんだねぇ。発症した人が相談するためのサイトには行きついたけど」

「あ、なんでも、詳しいことは病院に行かないとわからないんだって。TS病はかなり特殊で、類を見ない物だから、あんまり広まると困るから、って言う理由みたい」

「だろうな。というか、椎菜が暴露したにもかかわらず、さほど騒がれていない辺り、しっかりしてるんだろうな」

「あ、あははは……」


 今にして思えば、かなり問題だったような気がする……あ、気がする、じゃなくて、問題だったよね……今後は気を付けよう……。


「デジタル社会で重要なことを隠すなら、やっぱりアナログなんだろうねぇ」

「そうかも。貰った物は紙の資料だったもん」

「今時珍しいが、その方が確実だろうからな」

「そうだね」


 今も大事に保管してあるその資料には、TS病に関することがたくさん書いてあります。

 注意事項とか、どういう病気なのかとか。

 他にも身体能力についても書かれてたっけ。


 忘れたら困るから、定期的に読むようにしています。

 そうすれば、問題が起こりにくいからね。


「さて、どこから回る? 腹も空いたし、昼ご飯からっていうのもありだが」

「おー、いいねぇ。あ、外の出店行く? なんか、いっぱいあったし!」

「いいね! 僕、たこ焼き食べたい!」

「あるのか、たこ焼き」

「あるみたいだねぇ。少人数での出店だから、かなり色々だし。変わり種だと……ハンバーガーとか海鮮焼き、もつ煮なんかもあるみたいだし」

「学生の学園祭でもつ煮はチャレンジャーだな……」

「お酒が飲みたくなりそうだよね、大人の人」


 学園祭でもつ煮……大学ならまだわからないでもないんだけど。


「しかも、枝豆やアユの塩焼きもあるみたいで、どう見てもお酒を売ってそうなお店になってたけどね」

「本当にチャレンジャーすぎるな……」

「ちなみに、こどもビールを一緒に売ってるみたい」

「それはもう、居酒屋さんじゃないかなぁ……」


 すごいことをする人がいるんだねぇ……。

 でも、ちょっと気になるかも。

 アユの塩焼きもあるみたいだし……。


「気になるから行ってみよ! 塩焼き食べたい!」

「そういや椎菜は川魚が好きだったな。よし、行ってみるか」

「だね!」


 行き先が決まり、三人で外の出店を見て回る。


 昨日はお化け屋敷に一直線だったし、終わった後はそのままミスコンテストの方に出場になっちゃったから、あんまりこの辺りは見れてません。

 どういう感じなのかなぁって思ってきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。


 僕と同じように何かのコスプレをする人や、お化け屋敷の宣伝のためか、ちょっと怖い感じの人もちらほらいたり、出張販売みたいなことをしている人もいたり、色々なクラスの人たちが何らかの工夫をしてるみたい。

 いいよね、こういう雰囲気。


 他には、小さな子供や生徒のお父さんやお母さん、それ以外だとお爺さんやお婆さんもたりして、ここにいる人たちは千差万別。

 けど、みんな楽しそうな表情なのがすごくいいと思います!

 笑顔っていいよね!


 ただ……。


「ね、ねぇ、なんだかすっごく見られてる気がするんだけど……」


 なんだか、注目を集めている気がして、近くにいる麗奈ちゃんの袖をちょいちょいと引っ張りながらこそっと話すように二人に言う。


「メイド服と執事服を着てるからじゃないかなぁ。それに、椎菜ちゃん可愛いし、高宮君はカッコイイし!」

「俺はともかく……まあ、二人はかなり可愛いしな。見られても不思議じゃない。特に椎菜はな」

「そ、そう、かな……? た、多分、髪の毛とか尻尾とか耳が珍しいだけ、じゃないかな……?」


 こんな格好してるの、見渡す限りだと僕くらいだもん……。


「今更なんだけど、元の髪色じゃダメだったの?」

「え、だって今の方が可愛いじゃん?」

「えぇぇ……」

「おかげで、大繫盛だったし! 成功成功!」

「そ、そうかな……みんなも頑張ってたからだと思うけど……」

「椎菜ちゃんって本当にこう、謙虚だよね」

「昔からだな。というか、自分は大したことない、とか本気で思ってるタイプだぞ」

「そうだと思ってるけど……」

「「それはない」」

「ふえぇ……」


 一斉に否定されました。

 そんなことないと思うんだけどなぁ……。


「あ、ねね、あそこのお店じゃない?」

「みたいだな。幸い、大して並んでないみたいだし、早速買うか?」

「うん!」


 と、歩いていると麗奈ちゃんが目的のお店を発見。

 柊君の言う通り、今はそこまで並んでいないようで、早く買えそう!


「すみませーん!」


 とてて! とお店に駆け寄って声をかける。


「って、椎菜早いな……」

「いつの間に」

「椎菜は結構食いしん坊キャラだぞ」

「マジですか。うん、可愛い!」

「いらっしゃい! って、うお!?」

「ふえ? どうかしましたか?」

「あ、い、いや、なんでもねぇ。……なんか、えらく可愛いのが来たなぁ……」

「えーと、アユの塩焼きってありますか?」

「お、好きなのか?」

「大好きです!」

「そうかそうか! いやぁ、試しに出したはいいんだが、どうにもうちの出店は売れ行きが悪くてなぁ。結構美味いのを仕入れてんだけどよー」


 ははは、と苦笑しながらお店事情を話すお兄さん。

 どうやら、あんまり人入りが良くないみたい。


「あ、そうなんですね。それなら、ちょっとでも貢献しますね!」

「はは! そいつは助かるってもんだ! んで、アユの塩焼きだけでいいのか?」

「そうですね……んっと、塩焼き四本と、もつ煮二つください! あ、まとめて注文しちゃったけど、二人はどうするの?」

「いや、その注文で構わない」

「あたしもー! 暑いし、もつ煮はシェアでおっけー!」

「はーい! それじゃあとは、こどもビール三つください!」

「あいよ! 1900円だ!」

「んーっと……はい、丁度ですっ!」


 昨日のミスコンテストの賞品で貰ったフリーパスがあるんだけど、なんだかこのお店では使う気になれなかったので、自腹です。


「毎度! いやぁ、買ってくれてありがとうな!」

「いえいえ! じゃあ、行こ!」

「あぁ」

「うん!」


 買う物を買って、一度どこかで食べるために、飲食スペースになってる場所に移動。

 お昼の時間帯なのに、満席になってなくて驚き。

 そう言えば食べ歩きをしている人が多かったっけ。

 でも、座って食べられるのはありがたいです!


「いただきますっ! はむっ……んん~~~~っ! 美味しい!」


 まずはとアユを一口ぱくり。

 ちょうどいい塩加減だし、皮はパリパリで、身はほくほくしてて美味しいです!

 これなら何本でも行けちゃうなぁ。


「じゃ、俺たちも、いただきます」

「いただきまーす!」

「……ん、この塩焼き普通に美味いな……」

「うんうん! すっごい丁度いい焼き加減! あ、もつ煮も美味しい!」

「ほんと?」

「うん。じゃあ、はい、あーん」


 と、麗奈ちゃんがいたずらっぽく笑いながら、もつを一つ掴むと、僕の前に差し出してきました。

 この時はあんまり周囲に意識が行っていなかったのと、単純に寧々お姉ちゃんたちにされ慣れていたのであっさり食べます。


「はむっ……んっ、本当に美味しい!」

「おおう、椎菜ちゃんなら絶対恥ずかしがると思ったんだけどなぁ」

「いや、案外食事中の椎菜はそっちに集中するぞ。食べ始めや、初対面相手ならなる可能性はあるが……今みたいに食べることに意識を向けてると、こうなる」

「へぇ~~、本当に可愛い生態してるねぇ」


 このもつ煮、すっごく美味しいなぁ……アユの塩焼きも美味しいし、あのお店、個人的には大当たり!

 もっと買えばよかったかなぁ……。


「あ、ワタ美味しい」

「え、椎菜ちゃんワタも食べるの?」

「うん、美味しいよ?」

「変な所で渋いよな、椎菜は」

「そうかな? あむっ……んふふ~、幸せぇ~……」

「「ぐっ……」」


 もう、美味しい物を食べると自然と笑みが零れちゃうよね……。

 はぁ、美味しいです~~……。


「あれ? 二人ともどうしたの?」

「い、いや、なんでもない」

「う、うん、へーきへーき。……椎菜ちゃん、無自覚に殺しに来るなぁ……」

「???」


 ぷるぷる震えている二人だったけど、二人とも大丈夫って言うから多分そうなのかも?

 それにしても美味しいなぁ。


「……なぁ、あの娘、メッチャ美味そうに食ってね?」

「わかる。なんか、見てたら食いたくなってきたんだけど」

「あれ、近くにあったし、行ってみるかー」

「行こう行こう!」


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 あのあと、塩焼きを売っていた屋台は大繫盛しました。

 なんででしょうねぇ!

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