#36 学園祭二日目と、昨日とは違う衣装

 学園祭二日目の朝。


「「「お願いしますっ!!!」」」

「あ、あの……これは、その、どういうこと、なのかな……?」


 昨日と同じように朝起きて、朝ご飯を作って、みんなで食べて、そろそろ着替えを、と思った時、突然みんな(柊君を除く)がなぜか土下座してお願いをしてきました。


 どうして土下座……?


「今日はこちらのメイド服を着ていただきたくっ……!」


 そう言って僕に差し出してきたのは麗奈ちゃん。

 その両手には綺麗に畳まれたメイド服と……耳? 尻尾? あと、これはウィッグ? あの、すっごく見覚えのある耳と尻尾に、見たことのある髪色な気がするんだけど……。


「麗奈ちゃん、あの、これってもしかして……」

「この耳と尻尾付きのメイド服を着てくださいお願いしますっ!」

「えぇぇぇ……」

「まあ、なんだ……椎菜、多分だが、着ないとこの状況は収まらないと思うぞ」

「えぇぇ……ち、ちなみに、昨日のメイド服は……?」

「衛生的観点からクリーニングです」

「そこはまともなんだね!? え、じゃあもしかして、最初からこれを見越して微妙に違う二着目を用意してたの!?」

「「「Yes!」」」

「えぇぇぇぇ……」


 まあ、うん、そもそも二日間も学園祭があって、特殊な衣装を着る以上、二日目はどうするんだろうなぁって思ってはいたけど……まさか別の物を作るが回答とは思わないよぉ……。

 てっきり同じものを作るのかと思ってたんだけど……。


「というわけで……お願いしますっっ!」


 また強く懇願されちゃった……。

 で、でも、まあ、うん……。


「いい、けど……」

「「「よっしゃ!」」」

「と、とりあえず着替えてみるけど、笑わないでよ……?」

「全然! ささ! 着替えどうぞ!」

「う、うん……」


 着替えを受け取って、簡易更衣室になっている衝立の向こうに入って着替えを行う。


 メイド服自体は昨日とほとんど同じだけど……なんでだろう、耳と尻尾が付いただけで昨日より恥ずかしく感じるような……?


 で、でも、神薙みたまも狐耳に尻尾が生えた姿だし、ほとんど同じ……いや絶対違うよね? 神薙みたまはVtuberとしての姿だし、リアルの姿じゃないし……で、でも、あそこまでお願いされちゃうと断るのも申し訳ないもんね。


 それに、もう作っちゃったわけで……。

 うん、大丈夫……みんな笑わないって言ってくれてたし……!


「問題は頭だけど……ウィッグの付け方は…………あ、三つ編みを作って髪の毛をまとめるんだ」


 スマホでウィッグの付け方を見ながら、ウィッグを付ける。

 そう言えば帽子? みたいなものがあったけど、なるほど、髪の毛をこの中でまとめればいいんだね。

 でも僕、髪の毛すごく長いけど……。


「まあでも、やってみればわかる、かな? まずは三つ編み……」


 地道に、三つ編みを左右で作っていく。

 前に趣味でやったミサンガづくりがここで生きるとは思わなかったなぁ。


 髪の毛が長いからちょっと時間はかかったけど、何とか無事に三つ編みが完成。

 それをぐるっと頭に巻いて、ヘアピンで止めて……最期に帽子? ネット? を被れば完成。


 うーん……ちょっと重いと言うか、暑い気がするけど……まあでも、大丈夫かな?


「それで、これをこう……」


 最後に普段の僕の髪と同じ長さのウィッグを頭にかぶって完了。

 あとは、ホワイトブリムと狐耳が一体化したような特殊(?)なカチューシャを頭に乗せて完了。

 尻尾の方はメイド服にくっついてる感じみたいなので、大丈夫、と。


 ……これ、似合ってる? そもそも僕、ハーフでもないよ? 純日本人だけど、銀髪って似合うのかな……?


 と、とりあえず、出てみるけど……。


「あ、あのー、これ、本当に似合ってる、のかなぁ……?」

「「「―――!?」」」

「あ、あの……」

「「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

「ぴゃっ!?」


 衝立から出て来ると、なぜかクラスのみんな(柊君は除く)が雄叫びを上げだしました。

 あと、中にはなぜか号泣してる人もいるんだけど……あの、どういうこと……?


「ありがとうっ、ありがとうっっ……!」

「俺もう、死んでもいい……」

「生まれて来てくれてありがとうッ……!」

「そこまでなの!?」

「あたしの目に狂いはなかった! 本当は、カラコンを入れてもらおうかとも考えたんだけど」

「さ、さすがにコンタクトはちょっと……その、こ、怖い、し……」


 口元を隠しながら恥ずかしがりながらそう言うと、


「「「ぐふっ!」」」


 なぜかみんなが倒れそうになりました。


「ふえぇ!? なんでぇ!?」


 僕、みんながよくわからないよ……。


「や、やはり、萌えは人を殺す……!」

「俺、今年ほどこのクラスで良かったと思ったことねぇよ」

「来年も同じがいいなぁっ……!」

「あの、大丈夫、なの……?」


 色々と心配になるんだけど……これ、本当に大丈夫なのかな? 僕、何も悪いことしてないよね? 大丈夫だよね!?


「椎菜、安心しろ。こいつらのこれはただの発作だ」

「それ昨日も言ってなかったかな!? 発作ってこんなに多いの!?」

「あぁ……日本人には多い物だ。安心しろ。椎菜にこの発作はない。反対に、発作を引き起こす側ではあるが……」

「安心できないよ!? それ、すごく安心できないよぉ!?」


 柊君もよくわからないよぉ!

 僕は一体何をどうすればいいの!? わからないっ、わからないよぉ~~~っ!



 あの後、麗奈ちゃんたちに昨日と同じように写真をせがまれました。

 熱意がすごかったので、苦笑しながらいいよと言うと、すごくいい笑顔でみんなが並びだしたのは、すごく複雑でした。


 と、そんなちょっとした騒ぎがありつつも、二日目が始まる時間になりました。


『おっはようございまーす! 昨日の疲れは取れました? 私は取れておりません! 二日目のこの挨拶を考えるのがめんど――んんっ! 大変だったのでねぇ! おかげでやや寝不足! しかーし! この眠気など、このテンションさえあればなんとかなるなる! っと、私のどうでもいい語りはいいとして……さて! 今日は姫月学園学園祭二日目! 最終日です! 三年生にとっては最後の! 一年生にとっては、初めての! 二年生は……まあ、うん、来年が最後! そうは言っても、祭りは祭り! 悔いの無いよう、全身全霊で楽しんでください! あ、そう言えばみなさん、二年一組の執事・メイド喫茶行きました? いやぁ、ほんともう最高でしたよね! 超可愛いロリっ娘メイドや、イケメンな執事! しかも、料理のレベルも高く、運が良ければ、ロリメイドの手料理も食べられるとのこと! あ、私は引きました。最高でしたねぇ! ……おやおやぁ? なんだか、男子の怨嗟の声が聞こえてきますが……まあ頑張ってェ! と、ちょっとした宣伝もほどほどに……それでは、姫月学園学園祭二日目! 開幕でーーーーす!』

『『『Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!』』』


 二日目も、すごくテンションの高い放送で始まりました。


 というか……


「変な宣伝されてないかなぁ!?」


 どう考えてもあれ、僕のことだよね!? だって、該当するの僕くらいだもん!

 超可愛いかはさておき、環先輩変なこと言わないでぇ!


「あー、こりゃ、朝から大変かもなぁ……」

「だねー。いやぁ、まさか昨日のあれでこうなるとは」

「それもあるかもしれんが……なんか、SNSでも少し話が出回ってるらしい。さすがに、写真は出ていないが、この店のことがやたら好評みたいだ」

「うち、結構イベントには力入れてるもんね。さすがに写真は無いのはありがたいけど……椎菜ちゃんはできる限り映らないようにしないと、だよね?」

「まぁ、俺たちも出回ったらまずいと言えばまずいが、椎菜の場合はもっとまずい。もし身バレなんてことになったら、特定される恐れがあるからな。……まあ、あの人の姉がその辺敏感だから、何とかなるだろうが……」

「たしかに、あのお姉さんは強かったねぇ……椎菜ちゃんのためならなんでもしそうだもん」

「しそう、じゃない。する、だな」

「うわぁ……椎菜ちゃんすごい人に好かれちゃってるんだねぇ……」

「……そうだな」



 色々と言いたいことがある放送が終わってから僅か数分して。


「お帰りなさいませっ、お姉様方っ!」


 早速お客さんが来ました。

 最初に来たのは大学生くらいのお姉さんたちでした。

 にこっと笑顔と共に、接客をする。


「きゃーーーー! 何この娘! メッチャ可愛いーーーー!」

「銀髪! 狐耳! 尻尾! メイド服! 萌えの大渋滞じゃん! 可愛すぎぃ!」

「君、昨日のミスコンで優勝した娘だよね!?」


 どこか興奮した様子で、詰め寄られました。


 ち、近いよぉ~~~~っ!


「ふえ!? あ、あの、えと、は、はい、そ、そうです……」

「反応も可愛いっ! すっごい、こんな娘がいたなんて……!」

「ちなみにその髪の毛って地毛? ウィッグ?」

「うぃ、ウィッグです」

「そっかー! うんうん、なんかすっごい自然な感じ!」

「あ、ありがとうございましゅっ……あぅ」

「「「キャ―――!」」」


 うぅ、恥ずかしい……。

 こんなに褒められるのはなんだか慣れてないから……。

 あぅぅ、年上のお姉さんってみんなこうなのかなぁ……?


「と、とりあえず、お、お席にご案内しますっ! こ、こちらへどうぞ!」

「「「はーい!」」」


 恥ずかしがりつつ、お姉さんたちを適当な席に案内。


「こちらメニューになりますっ! お決まりになりましたら、お声がけください!」


 ぺこり、と小さく一礼してから離れると、再びお客さんが。

 今度は男の人たちみたい。

 大学生……かな?


「お帰りなさいませ! お兄様方っ!」

「「「ごはぁっ!?」」」

「ど、どうかなさいましたかぁ!?」


 突然吐血したんだけど!?

 なんで!?


「こ、これが、噂になってるロリメイドか……」

「あかん、お兄様呼びはあかん……知ってても回避できん……」

「というか、なんで銀髪で、狐耳で、尻尾なんだよ……反則だろ……」

「あ、あの、だ、大丈夫、ですか……?」

「「「ハッ! だ、大丈夫っす!」」」

「そ、そうですか? よかったです……では、お席へご案内しますっ! こちらへどうぞっ!」


 大丈夫という事ならいいけど、ちょっと心配……。

 でも、僕が接客する人の大半が血反吐を吐いていたような……?

 ちょっと慣れて来てる自分がいるけど……。


「こちらがメニューになりますっ! お決まりになりましたら、お声がけください!」

「「「うっす!」」」


 一組のお客さんたちを案内したかと思えば、また新しいお客さんたちが来て、接客をして、案内をしたと思えば、また接客を、そんな風に繰り返していく。


 朝なのにもう忙しい……。

 けど、すっごく楽しい。


 昨日と今日しかできない、限定のイベントだから、やっぱり楽しいよね。

 たくさんの人の笑顔が見られることもすごくいいしね!


「キッチンのみんなは大丈夫?」

「いやぁ、嬉しい悲鳴状態!」

「キッツイ! けど、むっちゃ楽しい!」

「料理すんのいいな! 俺、家でもしようかなって思ってるわ」

「そっか! きつくなったら言ってね? いつでも変わるよ!」

「大丈夫! というか、椎菜ちゃん、昨日は当番でもないのにずっとやってくれてたんだし、これくらいこっちでどうにかしますとも!」

「いいの? でも、無理はしないでね?」


 平気というみんなに、僕は心配しながらそう声をかける。


「むしろ、接客して、料理して、って感じの椎菜ちゃんの方が心配なんだけど」

「あー、わかる。昨日とか普通に調理してんのに、時たま接客もしてたもんなぁ。あれ、おかしくね?」

「そ、そうかな? 普通、だと思うけど……」

「「「あれが普通はない」」」

「そ、そうなん、だね?」


 普通じゃないんだ、昨日のって。


 でも、普通にお料理をして、少しだけ時間が出来たら接客もして、戻って来たら下準備をしてできた物をお皿に盛って、って言うことの繰り返しだけなんだけど……。


 去年働いていたアルバイト先では、基本はキッチンがメインだったけど、人手が足りなかった時は一応ホールの方もやってはいたけど……慣れると大変じゃなかったし……やっぱり慣れかな?


 わからない……。


「そういうことだから! 椎菜ちゃんは接客メイン! まあ、本当にヤバかったら言うから! 大丈夫!」

「うん、わかったよ。じゃあ、お願いね!」

「「「まっかせて!」」」


 キッチンは任せてホールへ移動。


「柊君、大丈夫?」

「慣れない接客に難儀してるよ。ま、楽しいがな」

「そっか。あ、今日は一緒に回ろうね」

「あぁ、約束だしな。朝霧の方も、昨日のうちに部活の方には絶対に明日は参加しないって言ってあるそうだ。何が何でも一緒に回るってさ」

「あ、あはは、そこまでしたんだ」


 けど、麗奈ちゃんって何部なんだろう?

 そう言えば何の部活に入ってるのか知らない……。


「んー? あたしの話しかな、お二人さーん!」

「あ、麗奈ちゃん。んっと、この後一緒に回ろうねーってお話」

「あたしも行くからね! 仲間はずれにしないでね!」

「あはは、もちろん! 楽しみにしてるから、頑張って乗り切っちゃおうね!」

「おうともさ!」


 いい笑顔で返す麗奈ちゃんは、すごく頼もしく見えました。

 あと、可愛いです。


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 麗奈が用意した物はたまたまです。偶然銀髪のウィッグを用意して、偶然耳付きホワイトブリムを用意し、偶然尻尾付きの衣装を用意しました。

 理由は……直感で似合いそうと思ったから。

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