#34 ミスコンの結果と、大忙しなお店

 それから三十分ほど投票と集計が行われ、出場者の人たちはみんなステージ上にいました。


 うぅ、恥ずかしいし緊張する……さ、さすがに優勝はないと思うし、だ、大丈夫……これ以上は目立たない……目立たないっ……!

 というより目立ちたくない……もう目立っちゃってると思うけどっ!


 だって、ステージ裏ですっごく見られてたもん! そわそわされてたもん! 見られてた僕もそわそわしてたもんっ!


 うぅ、やっぱりあれは失敗だったかなぁ……。

 と、ともあれ、早く終わってほしい……。


「はい! ではでは! 集計結果が出ましたので、早速発表といきましょうか!」


 来た……!


「姫月学園第14代ミス姫月に選ばれたのは――」


 環先輩がそう言ったところで、ドラムロールが流れ出す。

 うぅ、すっごくドキドキするよぉ……で、でも、大丈夫なはず……!

 絶対に選ばれない、よね? ね!?

 じゃん、とドラムロールが終わり……


「――二年一組、桜木椎菜さんでーす! おめでとうございまーす!」


 僕の名前が告げられました。


 ……ふえぇぇ。


「桜木椎菜さん、前にどうぞ!」

「うぅ……」


 なんで優勝しちゃうのぉ……?

 自業自得かもしれないけど……それでも、なんでぇ……。

 この場からいなくなりたい気持ちを押さえつけながら、前に出て来る。


「おめでとうございます、桜木さん! 優勝したお気持ちをどうぞ!」

「ふえ!? お、お気持ちと言われても、あの…………えと………………恥ずかしいです……」

「ぶふっ」

「ふえぇ!? どうして笑うんですかぁ!?」


 正直に言ったら、笑われました……。


「い、いやだって、は、初めてですよっ……優勝してそんな感想を言った人っ!」

「あうっ」

「まあ、桜木さんって出たくない感出してましたしね。ちなみに、なんで出場してくれたんですか?」

「あ、そ、それは……」


 出場した理由を聞かれて、言葉に詰まる。


 すっごく言うのが恥ずかしい理由なんだけど……で、でも、もう既に色々恥ずかしい状況になっちゃってるし、一つ増えても大丈夫なんじゃないかなぁ、なんて思っちゃうんだけど……。


 ……ここまで来たらお話しようかなぁ……。


「じ、実は、その、今日僕のお姉ちゃんやお友達のお姉さんたちが来てくれていて、あの、すごく応援されまして……だ、だから、あの、折角来てくれた、から……が、頑張ろうかなって……えへへ……」

「「「ごふっ……!」」」

「ふああ!? ど、どうしたんですかぁ!?」


 突然環先輩だけじゃなくて、会場の人たちが胸を抑えだしました。

 よくわからない状況に、一人困惑していると、ふと最前列にいるみんなはどうなんだろう……? と思ってそっちを見てみると、


「「「「「( ˘ω˘)スヤァ……」」」」」


 みんな安らかな顔で固まっていました。

 なんでぇ……?


「ま、まさか、特大のはにかみ爆弾をくらうとは……と、ともあれ! こちら、優勝賞品です! お受け取りください!」

「あ、ありがとうございます……」

「内容としましては、お食事券が二万円分と図書カードが一万円分、それから今日明日の学園祭で使えるフリーパスとなっています」

「豪華すぎませんか!?」

「いえ、ミスターコンテストの優勝賞品も同じですが?」

「ふえぇぇ……」


 突然三万分の賞品を貰っても困惑するんだけど……。


 ……まあ、それを言ってしまったら、毎月二十万円貰ってるんだけどね……怖くて使ってないけど……。

 というより、支援金を受け取る専用の口座があるんだけど、あまりにも恐ろしいから、その口座のカードと通帳は金庫に入れてます。そのためだけに金庫を買いました。怖いし……。


「最後に、何か一言お願いします!」

「え、えっと……に、二年一組で執事・メイド喫茶をしていますので、是非来てみてくださいっ! 甘い物もありますので、おやつにどうぞ!」

「とのことでした! あ、ちなみにですが、レシピは全て桜木さん監修で、運がいいと桜木さんが作った物が提供されるそうです! 尚、勤務中に限る」

「その情報っているんですか!?」

「いります!」

「オイ聞いたか? あの娘が作る飯が食えるかもしれないんだってよ!」

「私行ったけど、みんなレベル高かったよ? カッコイイ男の子もいたし、可愛い娘もいたし!」

「行ってみようかな……」

「味も良かったしもう一回行こ!」

「甘い物!」


 などなど、会場内では行こうと思っている人がかなりいるみたい。

 ……これ、かなり忙しくなっちゃうような……う、うん、大丈夫だよね!


 頑張って、未来の僕!



 ミス・ミスターコンテストが終わった後、みんなと合流……したんだけど、お姉ちゃんと千鶴お姉ちゃんの二人がその……いい笑顔をしたまま動かなくなっちゃったので、みんなが看病? というより、見ておくからって言って休憩所に行っちゃいました。


 僕の方は一度お店に戻った方がいいかなぁと思って、お店に戻ると……


「えぇぇ……」


 そこには謎の大行列がありました。

 あれってもしかして……そういうこと、だよね……?


「椎菜! ちょうどよかった! 手伝ってくれ!」

「柊君、これってまさか……」

「そのまさかだ! なんでも、ミスコンで優勝したメイド服の女の子の宣伝で来たって言うんだよ」

「ふえぇ!? や、やっぱり全員そうなの!?」

「あぁ! 正直休憩中で悪いんだが、手伝ってくれ! 料理担当がパンクしそうになってる!」

「そ、それは大変だね! すぐに行きます!」


 事情を知った僕は大急ぎでクラスに戻りました。


「大丈夫!?」

「「「桜木(椎菜ちゃん)助けて(くれ)!!」」」


 教室に戻るなり、大丈夫かどうか確認すると、お料理をしてくれていたみんなが助けを求めてきました。かなり切羽詰まった様子で。

 さ、さすがにこれはちょっと……。


「うんっ! 今そっちに行くっ!」


 学園祭を見て回ってる余裕なんてないよね!

 僕は大急ぎでお料理の方に入る。

 そこではてんてこ舞いになりながら、注文された物を作っているみんなの姿がありました。

 これはどう見ても手が足りてないよね……。


「んーっと、じゃあ、ささっとやっちゃおっか!」

「「「お願いします!」」」

「注文はどれくらいあるの?」

「オムライスが三つ、パスタが五つ、パンケーキ四つ、ポテトサラダとフライが六つ! あと、ドリンク系もいっぱい!」

「そ、そんなに入っちゃったんだ……なるほど。でも、それくらいならなんとかなるよ」

「「「なるの!?」」」

「うん。キッチンでアルバイトをしていた時はもっと大変だったし。これくらいなら」


 それに、普段からお料理をする関係上、慣れてもいるしね。

 とにかく、大急ぎでやらないと! だよね!



「オムライスがあと三十秒くらいで出来上がるからお皿お願い!」

「あいよ!」

「パスタはもう出来てるからだれか盛り付けてくれると嬉しいな!」

「任せて!」

「あ、パンケーキはお皿に乗せたから、あとはソースとかお願い!」

「了解!」

「ポテト持って行っていいよ! あ、サラダもOK!」

「「大至急!」」


 作り始めてからは手を止めることなく注文された物を作っていきます。


 もういっそのこと、一人で作った方が早いのでは? という考えになり、現在は僕一人でキッチンを回している状況です。

 とは言っても、あくまで調理を僕がしているだけで、盛り付けや準備は分担です。


 そこまではできません……できないことはないのかもしれないけど。


 作っては持って行って、注文されては作って、また出して……この流れを何度も何度も繰り返していきます。


「なんか、すげぇ混んでるから出て来るのが遅いのかって思ってたけど、クッソ早くね?」

「わかる。というか、チラッと見えるキッチンの裏で、例のメイド服のメッチャ可愛い娘が物凄い勢いで作ってるのが見えたんだが?」

「あれでJKってマジ?」

「すげぇなぁ……」

「このお店、全部の料理美味しくない?」

「わかるぅ……パンケーキとかふんわりしてて美味しいし、かけてあるソースも甘酸っぱくて美味しい!」

「しかも可愛いメイドさんやカッコいい執事がいるのもすっごいポイント高い!」

「いいお店! 明日も来よう!」


 作る合間にちらっと外を見てみると、そこではお客さんたちが色々と楽しそうにお話していたり、美味しそうにご飯を食べる姿見えたりしました。

 とりあえず、何も問題はないようで何よりです。


 と、そんな風にみんなで頑張っていると、


『ご来場の皆様、本日は姫月学園学園祭にお越しいただき、ありがとうございました。只今の時刻を持ちまして、一日目が終了となりますので、ご退場いただきますよう、お願いいたします。お忘れ物等ございませんよう、お気をつけてお帰りくださいませ。尚、明日も学園祭はありますので、是非是非、ご来場くだされば幸いです。本日は、ありがとうございました!』


 一日目の終了を告げる放送が流れ、学園祭一日目が終わりました。

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