#33 ミスコンと、ちょっと気が動転してる椎菜
そうして、お化け屋敷の出口付近に到着してからお姉ちゃんに降ろしてもらう。
あぅ、今にして思えばかなり恥ずかしい……。
結局、あの後も脅かしポイントがあって、お姉ちゃんにしがみついちゃったし……。
「いやぁ、私のライフが回復した気分だよー。もう大丈夫かな?」
「あぅぅ~~~……」
お化け屋敷を出る時に、それまでちょっと泣いていたからか、目元は多分赤くなっていたと思うし、何よりその……出る時の案内役の人の生暖かい視線が恥ずかしいと言いますか……うぅ。
「まあ、怖がりなのは仕方ないぞ。個性個性!」
「ん、むしろ可愛いから良き」
「怖がりな所も素敵でしたよぉ~。あ、次はどこへ行きますかぁ~?」
「校庭のステージで何かイベントがあるみたいだけど、どう?」
「初日でイベントということは……あ、ミス・ミスターコンテストかな? そう言えば椎菜ちゃんは出るの? 出るなら私、全力で応援するよ? 布教もするし」
「さ、さすがに僕は出ないよ? というより、自分で出ようとしていないし、他者推薦も多分ない――」
『二年一組の桜木椎菜さん、校庭ステージにお越しください』
ないと言い切るよりも早く、突然放送で呼び出しを受けました。
「……えぇ?」
「椎菜ちゃん、多分あれって……」
「違うよ!? 絶対違うからね!? た、多分、委員会のお仕事――」
『繰り返します。二年一組の桜木椎菜さんは、校庭ステージにお越しください』
「椎菜ちゃん、私もここに通ってたしわかるけど、多分、あれはミス・ミスターコンテストの招集だと思うぞ」
「…………」
苦笑い交じりにそう言ってくる寧々お姉ちゃん。
見れば、他のみんなもなんとも言えない表情で僕を見ていますが……うぅ、行かなきゃダメ、だよね……。
はぁ……。
「……ちょっと、行って来ます……」
「「「「「頑張ってね!」」」」」
すごくいい笑顔のみんなに見送られつつ、僕はステージの方へ向かう。
道中、メイド服姿ということもあってか、かなりの視線を貰っていたけど……。
折角だからって言うことで着ているけど、やっぱり変なのかなぁ?
でも、みんな似合ってるって言うし……大丈夫だよね?
なんて、自分の服装が心配になりつつも、ステージに到着。
「あ、あの、さっき放送で呼ばれた桜木椎菜ですけど……」
「おー! あなたが桜木さんですね! お待ちしてましたよ!」
と、僕に話しかけてきたのは、快活な印象を受ける女の人でした。
多分、三年生、かな?
同じフロアで見たことがないし……。
「初めまして! 私は放送部の環と言います!」
「さ、桜木椎菜です。あの、僕が呼ばれた理由って……」
「はい、実はミスコンに桜木さんが他者推薦されていましてね。それで呼び出した次第です」
「誰が!? 一体誰が僕を推薦したんですか!?」
「同じクラスの方……あ、いえ、方々、ですかね? というより、一名を除いてやたら推薦が来ていましたよ?」
「ふえぇぇぇ!?」
なんでそんなことになってるの!?
あと、その一名って多分柊君だよね!? 柊君は僕の味方だったんだねヤッター!(錯乱)
って、そうじゃなくって!
柊君以外って言うことは、間違いなく麗奈ちゃんも混じってるってことだよね!?
なんで!? 本当にどうして!?
「というわけですので、今日は頑張ってくださいね!」
「出るの確定なんですか!?」
「えぇはい。大体、面白がって出場しますね」
この学園の人らしい理由!
「というわけで、出てください」
「え、辞退は……」
「したいですか?」
したいかしたくないかで言えばすっごくしたい。
あんまり目立ちたくはないし、そう言うこと自体をあまり好まないから、できることなら辞退したいけど……さっき、みんなにすっごくいい笑顔で頑張れって言われちゃったし……みんな、どこか期待したような感じだったし、それに、折角来てくれたわけだし……うぅ~~~っ……!
「わ、わかりましたっ! で、でますっ!」
「ありがとうございます! いやぁ、これで大いに盛り上がりそうです」
「あぅぅ~……」
どうしてこうなったんだろう……。
◇
そんなこんなで出場が決まってしまった僕は、ステージの裏で待機。
周囲には僕と同じく、ミスコンテストに出場する人たちがいて、みなさん綺麗だし可愛いしで、なんだか気後れしちゃうよぉ……。
僕、大丈夫? 笑われない……?
た、たしかに、今の姿はちょっとは可愛いとは思ってるけど……それでも、ちょっとだし……うぅ、恥ずかしいよぉっ!
そ、それに、アピールタイムも必要って言ってたし……あ、アピール? アピールって何を言えばいいの!? 何をすればいいの!?
わからないっ、わからないよぉ~~~っ!
僕は一体何をすれば!?
ふ、普段していることは、神薙みたまの皮を被って色々配信をすることだけど……けどあれは、あんまり普段の僕と変わらないような……。
演技をしている部分って、強いて言えば『おにぃたま』『おねぇたま』呼びの部分と、一人称を『わたし』に変えている時くらいだし……。
他にできること……お料理! ……は今この場にはないし……お掃除! ……も意味はないし……できること、できることぉ~~~~っ……あ!
そ、そうだよ、昨日の夜、身体能力を確認したんだし、いっそのことあれで色々やればいいような……? ほ、ほら、ステージも広い方だし、端から端までを使って、すごい動きをすればアピールになるかも……?
……で、でも、そんなことをしたら目立っちゃうし……うぅっ、だ、だけど、僕にできることってそれくらいだし、さすがにモノマネと称して神薙みたまをやっても、知らない人の方が多そうだし……それに、そこからバレちゃうかもしれないと考えると、そんなことはできない……。
や、やっぱり、身体的パフォーマンスの方がいい? その方がいいの!?
……う、うん、そうしよう……それで行こうっ!
せ、折角出場するんだし、そ、それくらいは……!
(ねぇ、あのメイド服の子すっごい可愛くない?)
(わかる。表情がころころ変わっててすっごくいいよね)
(勝てる気しないわー。けど全然悔しくない! 不思議!)
◇
そうしてミスコンテストの前にミスターコンテストが行われて、三年生の人が優勝していました。
あと、優勝すると市内で使えるお食事券と図書カードが貰えるみたいです。結構豪華……。
優勝できるとは思ってないけどお食事券と図書カードはいいかも……お食事券だったら美味しい物がいっぱい食べられそうだし、お姉ちゃんと一緒にどこかへ行くのもいいよね。図書カードなら……お料理の本を買ってレパートリーを増やすのもいいし……なんて、さすがに無理だと思うけど。
……うん、現実逃避は止めよう。
「さて、ラスト! 桜木さん、自己紹介をお願いします!」
僕は今、ステージの上でガッチガチになりながら、自己紹介をするように言われていました。
しかも、最後なんですけど……。
初配信の時も最後だったけど、僕って自己紹介は必ず最後になるような呪いでもかけられてるの……?
ちなみに、僕よりも前の人たちはすっごく生き生きとしていて、心の底から楽しそうな雰囲気でした。
僕には無理だよぉっ!
配信ではネットの向こうだからいいけど、ここはリアルだもん! 違うもん!
で、でも、何も言わないとそれはそれで問題だし……うぅっ、や、やるよっ! 僕っ!
「さ、桜木椎菜でしゅっ! ふえぇぇ、噛んじゃったよぉ~~~っ!」
(((何あれ可愛い……)))
うぅ、なんでこういう時噛んじゃうのぉ……? 僕……恥ずかしいよぉ……。
初配信の時も噛んじゃったし、呆れられちゃったるかなぁ……?
もう、今すぐ逃げ出したいです……。
「……ハッ! つい可愛さにやられてしまいました……えー、はい! それでは続いて軽い質問と行きましょう! 桜木さんのご趣味はなんでしょーか!」
「しゅ、趣味ですか? んっと……お、お料理?」
趣味と言われると、多分お料理くらいだと思う、僕。
お掃除も好きだけど……。
「ほほう! 得意料理はありますか?」
「えーっと、ハンバーグと唐揚げ、です」
「いいですねぇ! お休みの日はどう過ごされていますか?」
「お休みは……んーと、予習復習をして、家事をして……あとは、ゆっくり過ごしてます。本を読んだり、動画を見たり、ですね」
「なるほどなるほど。お出かけ等はしないんですか?」
「基本的にインドアなので……」
というより、最近は配信もやっているから、余計に……。
あんまり家に引き篭もってばかり、っていうのも健康的に良くないことはわかってるんだけど。
「ふむふむ。ちなみに、好きな食べ物はなんでしょうか?」
「えんがわとお稲荷さん?」
「あら渋い。まあでもわかります。美味しいですよねぇ!」
「はい、昔からの好物です!」
「わー、笑顔が眩しぃ……ともあれ、ありがとうございます! では最後に、好きな男性のタイプは?」
「ふえ!? それいるんですか!?」
「いるでしょー。だって、こんなに可愛らしい女の子の好みのタイプとか……知りたいですよねぇ!」
『『『Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!』』』
「ひう!?」
ものすごい声量に驚いて、小さな悲鳴が出てしまいました。
そ、そんなに知りたいの……?
「というわけですので、どうぞ!」
「え、えーっと……その、お、男の子じゃなくて、あの、お、女の子の方が好き、なので……はい……」
「え!? じゃあつまり、百合ですか!? 百合なんですかぁ!?」
「その、あの、えと…………はぃぃ……」
うぅ、なんでだろう、すっごく恥ずかしいよぉ……。
い、一応、配信時にも似たようなことを言ってはいるけど、こういう大勢の前言うのはさすがに……。
「マジで!? あんなに可愛い娘が百合なの!?」
「すっげぇ娘が出て来たなぁオイ」
「すっごい可愛いし、百合っ娘ってとこはすんごい興奮するんだけど……でもなんだろう、なーんか既視感があるような……」
「それな。どっかで見たような感じはするよなー」
「えー、なかなかにぶっ飛んだ情報が出たところで、以上としましょう! 桜木椎菜さん、ありがとうございました! では、一旦ご退場ください!」
「は、はい」
なんとか自己紹介を終えて、ステージ裏に退場。
あぁ~うぅ~~……心臓がバクバクするよぉ……ドッキドキだよぉ……もう帰りたいよぉ……。
……そう言えば、最前列にみんないたけど……どうやってあそこに入ったんだろうなぁ……すっごくいい笑顔で見てたけど……。
いつもみたいに騒がないお姉ちゃんがすっごく珍しかったです。
ただなんと言うか、みんなすっごくハラハラしていたような気が……気のせいかな?
色々と気になることはあるけど、続いてアピールタイムに。
それぞれ得意なことを披露していて、声真似を披露する人や自作してきたお菓子を持ってくる人、中には変わり種で高速暗算を披露する人もいました。
そうこうしている内に僕の番になりました。
「それではラスト! 桜木椎菜さんです! さてさて、桜木さんはどのようなことをしてくれるのか! それで、何をするんでしょうか?」
「あ、は、はい、えと、僕自身あんまりアピールポイントがないと言いますか、あの……な、なので、ちょっとした動きでも見せようかなぁ、なんて……」
「ほほう、動きですか。それは一体どのような?」
「と、とりあえずやってみますので、あの、で、できればちょっとだけ離れていただけると……」
「了解です!」
上手く行くかわからないし、初めてのことをするつもりだから、できるだけ離れてもらって、僕はステージの端の方へ移動し、大きく深呼吸をする。
自分でも何をしようとしているのかある意味ではわかってない状況だけど、それでも出ちゃった以上は頑張りたいしね……。
「すぅー……ふぅー……んっ!」
深呼吸後、僕は力を出すイメージをしました。
そうしないと、身体能力は上がらないからね。
たっ! と駆けだした僕は、つい最近見たアニメの暗殺者さんの動きを真似た。
その辺りで拾ってきた丁度いいサイズの木の棒をナイフに見立てて、逆手持ちしてそれを横薙ぎに振るう動作をする。
その後、手をつかないでする側転? みたいなことをして、くるくると回転を入れながら大きく跳躍。途中逆さまになったけど、アドレナリンが出ているからか、あまり怖くなかったです。
着地すると、今度はバク転を連続でやって、丁度ステージの中央に立ったところで、正面を向く。
最後に、スカートの裾を軽く持ち上げて、カーテシー? をやって、にっこり微笑んで終了。
……何してるんだろうねぇ、僕はぁ!?
「あ、あの、以上です……」
「……」
あ、あれ? な、なんだかみんな固まっちゃったような……。
環先輩もあんぐりとお口を開けて固まっちゃってるし……。
「あ、あの……」
「す……すっごおおおーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!???」
「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
「ふあぁ!?」
突然の歓声にびっくりしてまたしても変な声が……。
で、でも、う、受けた、のかな?
「なんですか今の動き!? え、桜木さんって忍者の末裔か何かですか!?」
「あ、い、いえ、そういうわけじゃない、ですけど……え、えっと、チラッと見たアニメのあの、う、動きを真似ただけで……」
「なんかおかしくないですかそれ!? と、ともかく……ものすごい動きが見れました! いやもう、会場が歓声に次ぐ歓声ですごいことになってますよ!?」
「あ、あはは……」
ここまで受けるとは思いませんでした……。
で、でも、よかったぁ……これで、変な空気になっちゃったらどうしようかと……。
「かっこ可愛いよ~~~! 椎菜ちゃ~~~~ん!」
と、すっごく聞き馴染みのある声が聞こえて来て視線を移せば、そこにはお姉ちゃんがものすごい動きでキャーキャーと僕のことを褒めていました。
見れば、他のみんなも程度の違いはあれ、かなり興奮したような表情で何か言っていました。
ただ、歓声がすごすぎて、お姉ちゃんの声しか聞こえなかったけど……というより、お姉ちゃんの声量がすごい……やっぱり、Vtuberをやってるから……?
僕もいつか、あれくらいになれるのかな?
「マジですげぇ! なんだあの娘!?」
「天使みたいな可愛さに声なのに、あんな動き出来るとかヤバくね!?」
「カッコいいーーー!」
「ギャップ萌えぇ!」
「えー、はい! なんか会場内が大興奮状態になっておりますね! ではでは、これから投票に入りたいと思いますので、桜木さんは一度ステージ裏へ」
「あ、は、はい! そ、それじゃあ、失礼します!」
と、そう言ってからステージ裏に行こうとした時、
「あっ、わ、わわわ……あぅっ!?」
さっきの動きのドキドキが顔を出してきて、力が入らなくなったからか、僕は思いっきり転んでしまいました。
「あぅぅ~~、痛いよぉ……」
痛みを感じつつ、ぶつけた所をさすりながら起き上がる。
「椎菜ちゃん大丈夫!? 痛いよね!? すぐに手当てしないとだよね!」
「ふあ!? お姉ちゃん!? いつの間に!? あ、あの、だ、大丈夫だからね!?」
突然お姉ちゃんが現れて、僕をお姫様抱っこしてきました。
「いやでも転んだし……」
「あれくらい平気だよ!? と、とりあえず、恥ずかしいから降ろしてぇ!」
「いやだって、私の可愛い可愛い椎菜ちゃんが怪我するとか……死にたくなるし」
「重いよ!? し、心配してくれるのは嬉しい、けど……」
「うんうん、メイドバージョンで、尚且つ赤面は最高だね! 可愛い可愛い!」
「ふえ!? あ、あの、こ、ここで褒められるのは、あの、は、恥ずかしい、から……はぅぅぅぅ~~~~っ」
(((可愛すぎじゃない……?)))
結局、お姉ちゃんにお姫様抱っこされながら裏に連れていかれました。
お姉ちゃんがつよつよだよぉ……。
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どうでもいい話ですが、愛菜がハラハラしていたのは、椎菜のスカートの中が見えそうになっていたからです。見てしまった者たちは……まあ、そういうことです。
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