#32 お化け屋敷、怖がり椎菜

「お待たせっ!」


 お店を出て、きょろきょろと辺りを見回すと、すごくわかりやすい所にみんながいました。

 よく見れば、お姉ちゃんも合流しているみたいでした。

 みんな美人さんだから、周囲からちらちら見られていたけど、特に気にした風はありません。


「あっ、椎菜ちゃん! お疲れ様!」

「わぷっ! お、お姉ちゃん、いきなり抱き着かないでぇ……」


 僕を認識するなり、お姉ちゃんが抱き着いて来た。

 抱き着かれるのは嫌いじゃないけど、ちょっと恥ずかしいんだよね……。


「ごめんごめん。それにしても……メイド服なんだね?」

「き、着替えなくよかったのかしらっ?」

「えへへ、どうせならこのまま回ろうかなぁって。着ていたらちょっと楽しくなっちゃって」


 一応、制服でいようかなぁって考えたけど、折角の学園祭だし、この方がいいと思って。


「あー、わかる! わかるぞ! こう、お祭りだからこそ着る衣装は脱ぎたくなくなるよね! 私もここに通ってた時はそうだったし!」

「ん、醍醐味。私も当時はコスプレしたし」

「うふふぅ~、私は眺める側でしたねぇ~」

「わ、私も、こ、コスプレしてた、けど……」

「私は適当に遊んだっけ」

「ま、まあお姉ちゃんはね……」


 当時のお姉ちゃん、ちょっと環境に問題があったし、ね……。


「それで、まずはどこ行くどこ行く!?」

「ん、お化け屋敷とか。たしか、外に本格的なお化け屋敷があるらしい」

「あ、それ多分、合同のお化け屋敷かな?」

「あらぁ~、合同なんてあるんですねぇ~?」

「うん。なんでも、お互いのクラスが良ければ大丈夫! って言う感じなの。だから多分、そのクラスじゃないかなぁ」


 外に割と立派な建物があって、そこが多分お化け屋敷だと思う。

 途中、他のクラスのお友達からそこに行ったっていうお話を聞いていて、すっごく怖かったみたい。

 個人的に、お化けは苦手だけど、ちょっと気になる。


「へぇ~、気になるし、あたしは行ってみたい、かも。あ、あなたちが嫌って言うならいい、けど」

「いやいや、面白そうだし、行ってみよう! 私、気になるし!」

「ん、学園祭のお化け屋敷は定番。行っておかないと」

「いいですねぇ~。とても、とてもぉ~~~」

「……なんか、千鶴ちゃんの言葉から不穏な何かを感じるけど?」

「うふふぅ~、気のせいですよぉ~、愛菜さん~」


 お姉ちゃん、千鶴お姉ちゃんに警戒してる、のかな?

 どうしてだろう?


「ともあれ、早速行こう!」


 まずはということで、お化け屋敷に行くことになりました。



「わぁ、結構並んでるね~」


 目的のお化け屋敷にやって来ると、そこには行列が出来ていました。

 かなり人気らしくて、いろんな人がいました。

 カップルさんや兄弟、お友達同士、親子、先生、などなど、本当にたくさんの人が。

 ちょっぴり待つのが大変そうだなぁ、なんて思いながらも、最後尾に並ぶ。


「し、椎菜さんって、お化け屋敷は得意、なのっ? べ、別に心配なわけじゃないけどっ」

「んーと、得意じゃない、かなぁ……」


 えへへ、と苦笑いを浮かべながらそう答える。


「椎菜ちゃん、昔からお化けが苦手だからねぇ。怖くて眠れない時は、よくお姉ちゃんと一緒に寝たよねー」

「あ、あはは……」


 あの時はよくお姉ちゃんに一緒に寝てもらった物です……。


「前のホラゲーの時、気絶しちゃってたもんねぇ。あれは心配だったぞ」

「ですねぇ~。でも、苦手なのによくやりましたよねぇ~」

「アンケートだったから……」


 もうやりたくないけどね……。

 でも、ホラーゲームは人気なジャンルだから、いつかまたやりそう。

 うぅ、その時は絶対にコラボにしてもらおう……。


「そ、それなら、無理して行く必要はないわよっ?」

「ううん、大丈夫っ! 折角みんなが来てくれたし、今年だけだもんっ! 今年の学園祭は。だから、みんなと一緒に行きたい!」

「「「「ぐはっ……!」」」」

「あ、相変わらず、火力が高いぞ、椎菜ちゃん……」

「……一種の生体兵器」

「私、既に心臓が半分以上持っていかれている気がしますよぉ~。あ、川が見えますねぇ~」

「千鶴さん、それ半分死んでるから」

「みんなどうしたの?」

「い、いえっ、何でもないから気にしないでっ。ほ、発作みたいなものだからっ!」

「それ大丈夫じゃないと思うよ!?」


 発作って、どう聞いても全然大丈夫に見えないし、気にしない方が無理だと思うんだけど!?


「ん、本当に大丈夫」

「藍華ちゃんの言う通りですよぉ~」

「そ、それならいいけど……あの、無理しないでね……?」

「「「「大丈夫!」」」」


 口を揃えて言うならいいけど……。

 と、そうして談笑しつつ順番待ちをしていると、僕たちの番が巡ってきました。


「いらっしゃいませ! 六名様でしょうか!」

「はい!」

「それでは、1200円になります!」

「ちょうどです!」

「はい、確認致しました! それでは、楽しんでいってください! いってらっしゃーい!」


 受付役の人に笑顔と共に見送られて、僕たちは中へ。


 灯りがほとんどない、薄暗い建物の中を進んで行く。

 コンセプトは……廃墟っぽい?

 かなりデザインが良くて、すごく雰囲気が出ています。


 正直、もう怖いです……。


「椎菜ちゃん、怖かったらいつでもお姉ちゃんに抱き着いてもいいからね? あ、手繋ぐ? それともおんぶする? あ、抱っこの方がいい?」

「お、お姉ちゃん、さすがにそこまでしなくても――」


 ガシャーンッ!


「ひぅぅ!?」

「おうふっ!?」


 突然何かが落ちるような大きな音が聞こえて来て、僕は悲鳴を上げながらつい近くにいた寧々お姉ちゃんにくっついてしまいました。


「う、うぅ、な、なになに、なにぃ……?」


 突然の大きな音に怖がってきょろきょろと思わず見回してしまう。


「し、椎菜ちゃんや? どうして私に抱き着くのかな?」

「ふあ!? あ、ご、ごごごごごめんなさい!? あ、あの、えと、や、やっぱり、こ、怖くて……あぅ、ご、ごめんなさい……」

「いや別に気にしてないからね!? というかむしろ役得!」

「や、やくとく……? じゃ、じゃあ、あの、嫌じゃない、の?」

「そりゃもう! というか、私だけじゃなくて、この場にいるみんな同じだと思うぞ」

「そ、そうなの……?」

「私は当然! 可愛い妹のためだよ? 守らないとかお姉ちゃんじゃないやい!」

「ん、いつでもどうぞ。むしろ、バッチコイ」

「うふふぅ~、合法的に抱き着けるチャンスですからねぇ~」

「べ、別に、こ、怖かったらい、いつでも、くっついてもいい、わよっ?」


 と、千鶴お姉ちゃんだけは言っていることがちょっとよくわからなかったけど、みんな嫌じゃないようでほっと一息。


「ありがとう……じゃ、じゃあ、あの、こ、怖かったらくっつく、ね?」

「「「「いつでも!」」」」


 すごくありがたいです……。

 気を取り直してお化け屋敷。

 最初こそいきなり大きな音でびっくりしちゃったけど、ずっと来るって思っていたら多分大丈夫……!

 なんて思っていた僕でしたが……。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

「きゃああぁぁぁっ!」

「んっ、これいい……」


 包帯でぐるぐる巻きにされた人が大きな声と共に出て来て、思いっきり悲鳴を上げてしまい、藍華お姉ちゃんに抱き着いてしまいました……うぅ、温かさがありがたいよぉ……。


「ん、大丈夫?」

「あぅぅ、こ、怖いよぉ~……み、みんなは怖くないの……?」

「怖いと言えば怖いぞ。けど、椎菜ちゃんを見ているとこう、怖さが飛ぶ」

「ん、同感。恐怖は可愛さで消せる」

「うふふぅ~、近くにスタンバイしていようかしらぁ~?」

「べ、別に、抱き着いてほしいわけじゃないけど、ち、近くにいるからねっ?」

「いやぁ、椎菜ちゃんが人気で嬉しいけど……椎菜ちゃんは私の物だからね! まあ、この可愛さは共有したくなるけど! それでも! 私が一番!」


 などなど、本当に怖くなさそうな感じでした。

 お姉ちゃんが通常運転で逆にすごい……。

 で、でも、こ、今度こそ……今度こそ大丈夫なはず……!


「……ぃ」

「ふえ? あの、今何か言ったかな……?」

「いや、私は何も言ってないぞ?」

「ん、私も」

「私もですよぉ~」

「違うわよ?」

「私は基本、椎菜ちゃん相手なら確実に大きな声を出すよ? まあ、他の人でもそうだけど」

「だ、だよね……?」


 今、何か聴こえたような気がしたんだけど……き、気のせい?

 気のせいだよね? そうだよね……?


「はぁ、ふぅ……じゃ、じゃあ先に――」

「許さなぃ……ゆるさないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「ひゃぁあああ!?」

「ふおあぁぁぁぁぁ~~~~~っ!」


 気のせいだと思って気を抜いていたら、今度は暗闇の奥から血だらけで血濡れの鋏を持った女の人が猛ダッシュで目の前にやって来て、そのまま走り去っていきました。


 それがあまりにも怖くて、今度は千鶴お姉ちゃんに抱き着いてしまいました……。

 あぅぅ、千鶴お姉ちゃんに抱き着くと、ちょうど胸が顔の当たりに来るからすっごく申し訳なくなて……けど、怖いし、あぅぅ~~……。


「よしよし~……大丈夫ですよぉ~」


 と、怖がってぷるぷると震える僕を心配してか、千鶴お姉ちゃんが抱き着いたままの僕の頭を優しく撫でてくれました。


「も、もう、だいじょーぶ……」

「そうですかぁ~?」

「う、うん。こ、今度こそは……」


 千鶴お姉ちゃんに撫でられて恐怖心が落ち着いてきて、千鶴お姉ちゃんから離れる。

 大丈夫……さすがにもう慣れたはず……!

 今度こそは、とそう思いながら前へ進んでいくと……


 ギィィィィィィィィィッッッ!


「ひぅ!?」

「おっと」


 突然何かを引きずるような、擦るような、そんな音が聞こえて来て、小さな悲鳴と共に、今度はミレーネお姉ちゃんに抱き着く。


 あぅぅ、なんだろう、これでも高校生の元男なのに、すっごくこう、情けないような……だって、怖いからって女の人に抱き着いているわけだし……うぅ。


「だ、大丈夫よ、椎菜さん。ほら、ね? あたしたちがいるから」

「うぅ……ありがとう……」

「んっ……やっぱり反則な気がするわ……」

「椎菜ちゃん、もうちょっとで終わりみたいだぞ、もうちょっとがんばろ!」

「う、うん……! だ、だよね、が、がんば――」

「アハハハハハハハハハハ――!!」

「ひっ……きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 頑張ると言おうとした瞬間、突然天井から人が逆さづり状態で降りて来て、狂ったような笑いと狂気に染まった顔で現れ、僕は堪えきれずに大きな悲鳴を上げ、お姉ちゃんにしがみつきました。


「おふっ、やっぱりこれよこれ! 椎菜ちゃん、大丈夫?」

「うぅっ、怖いよぉ……もうやだよぉ……ぐすっ……」

「そっかそっか。おんぶする? それとも、お姫様抱っこにする?」

「ぐすっ……おんぶぅ……」

「え、マジで? よーし、お姉ちゃんにまっかせてぇ! よいっしょっと」


 割と限界になってしまった僕は、お姉ちゃんにおんぶしてもらうことに。

 うぅ、怖いよぉ……。


「椎菜ちゃん、マジで軽いなぁ」

「あ、やっぱり軽いんだ」

「ちっちゃいしねぇ。いやぁ、姉の特権っていいね!」

「ん、羨ましい」

「ですねぇ~。私もいつかしてみたいものですよぉ~」

「椎菜ちゃんは上げないからね!」

「つまり、愛菜さんの攻略が必須ってことよね?」

「ふははは! 私を落とせるものなら落としてみなさい小娘どもぉ!」

「愛菜さんとそんなに年は変わらない気がするぞ」


 なんて、みんなが何かを話していたようだったけど、怖がる僕は会話の内容が耳に入ることはありませんでした……。


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 えー、初手から何事もなかったかのように合流している姉と三期生+デレーナですが、実は椎菜が合流すまで、ちょっとありました。閑話という形でいつか書きます!

 内容をチラッというと……例のお泊まりとゲリラ配信の件で、姉がほんのちょっとだけ暴走しました。

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