#29 メイド衣装と、前日に眠れなくなる椎菜

 先に言っておきます!

 この作品はファンタジーだから! 突然生えてきた設定じゃないから!

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「あぅぅ~~っ……は、恥ずかしいよぉ~~~……」


 数分後、僕は女の子たちにメイド服を着せられていました……。

 シンプルなデザインのメイド服で、なんというか、確かに可愛らしいけど……正直なところ、気恥ずかしさの方が勝ってます……。

 頭にはホワイトブリムと呼ばれるカチューシャも着けていて、その、すっごくメイドさんです……。


 そして、そんな状態で衝立の外、つまりクラス内にいるわけで……うぅ、なんだかよくわからないけど、すっごく恥ずかしぃ……。


「「「……」」」

「あ、あの、み、みんな……? な、なんで誰も何も言わないの……?」


 メイド服を着て出たら出たで、何も言われなくて、僕は困惑する。

 も、もしかして似合ってない!? 似合ってないよねぇ!?

 だ、だって僕ちっちゃいもん……ちっちゃいから似合わないよね……。

 なんて思っていると……


「「「きゃーーーーーーー!」」」

「「「うおおぉぉぉぉぉぉ!」」」

「ふあぁぁ!?」


 突然悲鳴と雄叫びがクラス内に響き渡りました。

 思わずびっくりしてしまい、素っ頓狂な声が出ちゃった……。


「待って待って!? え、何あれあたし天才!? 天才だよねヤッター!!!」

「あぁぁあっ、か、可愛すぎて目がッ、目が潰れちゃうゥゥ~~っ!」

「そうか、天使はここにいたんだね……」

「う、うっわ、何あの破壊力……あれで元男とか信じらんねぇよ……」

「わかるー……すっげぇ、こう、世話されたい欲求がッ……!」

「「「わかる!」」」


 などなど、いろいろ言われているようだけど……い、一応、好意的、なんだよ、ね……?


「なんというか、随分と似合ってるな、椎菜」

「あ、あはは……ほ、本当に似合ってる、のかなぁ、これ」

「似合ってるぞ。そうだなぁ……愛菜さんが見たら、多分卒倒するレベル。まあ、いつもだろうし、安心だろう」

「卒倒は安心できないよ!?」


 さすがのお姉ちゃんでも! ……あ、で、でも、お姉ちゃん、確か前に……


『もし私が今の夢を語るとすれば……椎菜ちゃんのメイド服姿が超みたい。というか、メイド服だけじゃなくて、ゴスロリとかも見たい……あぁっ! 夢、叶えッ……!』


 って一人で言ってた気がする……。

 そ、それを思い返すと、多分、ダメそう……?


 ……お姉ちゃん、当日大丈夫かなぁ。


「ねね! 椎菜ちゃん、写真撮っていい!?」

「ふえ!? 写真!?」

「そう写真! もう記録に残したいくらい可愛いし! ダメ?」


 と、麗奈ちゃんが写真を撮りたいと言って来た。

 可愛いからって言う理由だけど……


「あ、あの、ぼ、僕なんかを撮っても、面白くない、と思う、けど……」


 そもそも、何がいいんだろう……?


「いやいやいやいや! 今の椎菜ちゃん、テレビに出てもおかしくないくらい超可愛いからね!?」

「ふえ!?」

「そうそう! というか、椎菜ちゃんレベルに可愛い娘とか、ぜんっぜん見たことないって! だから自信もって!」

「ふあぁ!?」

「中身も良くて容姿もいい時点で、椎菜ちゃんはパーフェクトなの! ってか、今すぐモデルに応募したいくらいだし。していい?」

「それはやめてぇ!?」


 さすがにモデルさんはできないよぉっ!

 第一、今だって学園に通って、家事をして、お勉強をして、VTuberをして、っていう生活なのに、そこにモデルさんも入って来ちゃったらパンクしちゃう!


「ともかく、おねがーい! 椎菜ちゃんの写真、欲しいの! ね? ね!?」

「あぅぅ~~っ……い、一枚だけ、だょ……?」


 恥ずかしがりながらも、一枚だけなら……とちょっとだけ上目遣い気味になりながらそう言うと、


「「「ぐはぁっ!」」」


 なぜかみんなが後ろにふっ飛んじゃいました。

 なんで!?


「どうしたの!?」

「め、メイド服を着て、は、恥じらいは、さ、さすがにむ、り……ガクッ」

「あぁ、もう死んでもいい……」

「来世はメイド服になりたいです……」

「そうか、天国は身近にあったんだなぁ……」

「何を言っているの!? 何を言っているの!? あっ、床で寝ると風邪を引いちゃうから起きてーーーーっ!」


(((注意するとこ、そこなんだ……)))


 この後、なぜか写真撮影会みたいになりました――……。



 そうして、遂に学園祭前日に。


 今日は一日、お店の最終チェックを行いました。

 メニューがちゃんとできているかどうかとか、内装の椅子やテーブルに不備が無いかとか、あとは食材の量とか、他にも色々なことを確認している内に時間があっという間に過ぎ、夜の時間に。


 今日もいつも通りにお料理を振舞いました。

 ただ、本番前日だったので、せっかくだから、とカツサンドを作ったら、みんながすごいことになっていました。

 イメージとしては……んっと、お姉ちゃんが僕の手作りケーキを食べた時のような反応と言うか……そんな感じ?


 ちなみに、それがどういう状態かと言うと……


『なにぃ!? 椎菜ちゃんのお手製ケーキぃぃ!? イイィィィヤッッッフウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』


 という感じです。


 喜んでもらえて嬉しいんだけど、ちょっと大げさで恥ずかしい……。

 そうして、明日に備えて早く寝よう! ってなって、みんな眠りに就いたんだけど……


「んぅぅ……眠れない……」


 眠れませんでした。

 去年もそうだったんだけど、次の日が本番だと思っちゃうと、ついつい興奮して眠れなくなっちゃうタイプなので……。


「……うん、ちょっとだけ、校舎の中を歩こう」


 そう決めると、僕は眠っていた場所(机をくっつけて毛布を敷いた簡易ベッド)から降りると、そーっと教室を出る。


 教室の外は真っ暗……というより、校舎内は真っ暗で何も見えない。

 だから、持って来たスマホでライトを点けて、とてとてと夜の校舎内を歩く。


「なんだか不思議な感じ……」


 夜の校舎内はすごく不思議な感じでした。

 灯りはついてなくて、チラッと教室の中を覗けば、ぐっすり眠っている人たちがいて……ちょっと前まで、ざわざわ、わいわい、と騒がしかった校舎内が、今はしん――……としている。


 そんな非日常感がなんだかドキドキして、わくわくする。

 ……まあ、非日常感なら、VTuberの活動でいっぱい感じているけどね。


 とっ、とっ、という僕の軽い足音だけが鳴っていて、聴こえるのは虫の声くらい。

 あと、たまにいびきとかも。


 廊下は飾りがたくさん施されていて、ところどころには各クラスのチラシやポスター、なんかが貼られていて、広い空間には、少しだけ大きなパネルに、個人や数人単位のお店や、部活動での出し物についてのチラシが貼られていて、なんだか見ていて楽しい。


 明るい時とは違う、夜の雰囲気がどこか、別の世界みたいにいるような錯覚に陥る。

 月の光が差し込む場所だけが明るくて、なんだか優しい。


 窓に寄りかかって外を見たい、なんて思ったんだけど……


「むむむ~~~っ……はぁ……うぅ、届かない……」


 体が小さくなっているので、寄りかかることが出来ませんでした……残念です……。


「……ちょっと、外にも行ってみようかなぁ」


 なんて、そう思った僕はこっそり校舎を出る。

 月明りで照らされた校庭は、大きな建物(生徒が作った物です)が設置されていたり、何かのステージが設置されていたりしたけど、そんな不思議な状況でもどこか幻想的に見えました。


 そこでふと、気になったことが。


「そう言えば今の僕って、どういうことが出来るんだろう……?」


 TS病を発症させちゃったあの日、病院で軽く体力テストのようなことをしたけど、お医者さんからは、『本気でやらないでほしい』と言われて、いつもより気持ち半分くらいの力でやって、前の体よりもいい記録を出せていたんだけど……考えてみたら、身体能力の向上って言っても、どこまで上がったのかは知らない。


 それに、お医者さんが言うには、『意識しない限りは、今までよりも少しだけ身体能力が高いだけで済む。まぁ、今から100%の力で動く、などと思わない限りは大丈夫さ。ふふ、安心したまえ』らしいです。

 興奮して眠れないし……うん、ちょっとだけ試してみよう。


「じゃあまずは軽く走って――」


 少しだけ前傾姿勢になって、だっ! と前に出していた足に力を入れた瞬間、ぎゅんっ! とすごいスピードが出て、意識が置き去りにされた。


「ふえ!? あ、わ、わわわっ!」


 自分でもびっくりするくらいのスピードが出て、つんのめって転びそうになる。

 けど、なんとなく、両手で地面に手を着いてハンドスプリングの要領で体を動かすと、ぽーん! と体が大きく跳び上がりました。


「うわわっ!? ととと……」


 一瞬びっくりはしたけど、すぐにすたっ! と地面に着地。ちょっとだけたたらを踏んじゃったけど。


「はふぅ……びっくりしたぁ……」


 自分でもびっくりするくらいのスピードが出た上に、ハンドスプリングをして、心臓はばっくばく。

 思った以上に身体能力が向上しているみたいでした。


 考えてみれば、男の時に持ち運ぶのに苦労していた物が、今の体になってからはあんまり苦じゃなかったし……TS病って結構すごい……?


「んっと、次は思いっきりジャンプしてみようかな……?」


 走り出す時であんなにスピードが出てたんだから、きっとジャンプ力もすごいのかも!


 ……なんて、あはは、さすがにないよね。

 でも、念のため……と、膝を曲げて思いっきり跳んでみたら……


「ふあ!?」


 すごく跳び上がりました。

 具体的に言うと……んっと、校舎の二階と三階の間くらい……?

 え、結構跳んじゃった!?


 って!


「あ、あわわわっ! お、落ちる~~~っ!」


 跳んだ時の体が下に引っ張られるような感覚とは反対に、浮遊感に包まれて思わずぎゅっ! と目を瞑って落下するのを待っていると……すたっ! と、なんだか軽い音が聞こえて来て、浮遊感は消えていました。


「ふえ……? あ、あれ? 痛く、ない……?」


 結構な高さから落ちてきたのに、痛みや衝撃が無くて、なんだかびっくり……。


「か、かなり高くなってたんだ、これ……」


 あ、でも、人によってはもっとすごい人もいるって言っていたような……?

 中には、力仕事でかなりの力を発揮してる人もいる! って言ってたっけ。

 たしかに、僕ですらこれなんだから、すごい人はもっとすごいのかも。


「けど、意識をしなければ問題はない、んだよね?」


 と、今度は意識しないでさっきと同じようにジャンプしてみる。

 結果はいつも通りのジャンプ力でした。


 特に高く跳び上がることも無くて、前の体よりも高くなるかなぁ、くらい。

 一応、他にも調べてみよう。



 と、そうして一人夜の学校で身体能力がどれくらいなのかなぁ、ということを調べた結果、なんと言うか……かなり人間離れしていることがわかりました。

 跳躍力もそうだし、脚力や腕力もかなり上がっていたし。


 多分だけど、スポーツ選手になっても、普通に一部は世界一位になれちゃいそうなくらいだと思います。

 なる気はないけど……。


 ただこれ、かなり目立っちゃいそうだよね……。

 ……意識をしなければ力は出ないし……それに、多分使うことはないと思うし。


「ふあぁ~~~……んんぅ、ようやく眠くなってきた……ちょっとだけ汗をかいちゃったし……シャワーを浴びてから寝よう……」


 ようやく眠気が来た僕は、シャワーを浴びて、髪の毛を乾かして(麗奈ちゃんが絶対にやるようにって言ってきました)、そうしてぐっすりと眠りました。


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 はい、人外になっていた椎菜でしたー。

 というかまぁ、なんでこうなってるかの設定はちゃんと存在していますが……本編には関係ないので語りません! 別にテロリスト相手に突撃かまそうとか考えてないし。

 それに、椎菜自身が望まないし……多分、高い身体能力を使うの、一回くらいですよ。いつ使うのかは……まあ、お楽しみに。尚、割と早い模様。

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