閑話#7 とあるママの話
ふと、そういやみたまのデザインをしたイラストレーター出してなかったなと思って、思い付きで書き、投稿でーす!
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これは、一人のイラストレーターの話。
「あぁ~~~、なーんかパッとせん……」
どこかのマンションのどこかの一室にて、一人の女性が頭を掻きながら文句でも言うかのように一人ぼやく。
女性の名前は
主な仕事は、ライトノベルの挿絵やギャルゲー(18禁もやる)で、これでもかなりの売れっ子である。
イラストレーターの仕事を始めたのは高校在学中の頃。
趣味でイラストをSNSに上げていたら、気が付くとイラストレーターになっていたのである。
在学中にはかなりの利益を得ていたために、現在は大学には通わず、仕事もイラストレーター一本で食べている状況だ。
ちなみに、小夜はかなりの速筆で知られており、仕事がかなり速い。
そんなわたもちこと小夜は、最近の仕事へのモチベーションが少々下がっている状態であった。
というのも、来る仕事はゲームやラノベイラストで、その内容自体も可愛らしい美少女や妖艶な美女、たまに男キャラなどといった、まあラノベではよく見かけるようなタイプのキャラクターを描いているのだが、そんなことを毎日続けていると、刺激が足りなくなると言うか、マンネリ化してしまうのである。
小夜は基本的に、取材と称してたまに旅行に行ったり、いい感じのモデルはいないかと街を練り歩いては可愛らしい女の子や、カッコいい男を探し歩いたり、たまに都心の方へ赴いて何かネタが転がっていないかと散策したりもする。あとはネットでコスプレイヤーを見たりだろうか。
しかし、それでもいつかは無理が来るもの。
「こう、ビビッ! と来るようなネタはないもんか……くっそう、仕事があるのは嬉しいし楽しい! けど、こうも同じことの繰り返しだとやる気が……はぁ……なーにか面白い仕事が舞い込んでこないもんかなぁ……」
と、PCの灯りだけの部屋の中で叶うはずのないこと願望をついつい零してしまう。
小夜は自分に才能があると思ってはいるが、それでも上には上がいるし、自分自身より上手い人など腐るほどいると思っている。
なんだったら、自分は中の中くらいが関の山ではないか、とも。
……まあ、小夜は少々自己評価が低い所があるためあれだが、実際にはかなりのレベルの持ち主であり、彼女の挿絵目当てで本を買う者も少なくはない。
所謂、パケ買いもしくは、絵師買いである。
小夜の描くキャラクターとは、全体的に可愛らしいキャラが多く、大体はロリ系。
しかし、キャラだけでなくキャラクターを着飾る衣装や、魅力的にするための小物、背景等のレベルも高く、特に和服系が得意であるため、着物を着たキャラや巫女などがかなり人気になりやすい。
本人も自覚があるのか、和服系キャラを好んで描く。
他の衣装も苦手ではないが、和服系に比べると幾分か見劣りしてしまうので、大体は和服だ。
たまに描くのは制服等だろうか。
尚、別にポテンシャルがないわけではなく、単純に和服系ばかり書きまくった結果なので、普通に洋服のポテンシャルも高い。
気が向かないから描かないのである。
「仕事も今は全部片付いちゃってるし……あー、面白い仕事! 面白い仕事が欲しい! こう、うちの最高傑作とも言えるようなキャラが描きてぇです! ……なんて言っても虚しい……」
じたばたともがいてみるが、何も変わらないのがわかり切っているために、この行動が虚しいと思ってしまう。
「はぁ~~……不貞寝しようかな……」
と思っていた時、
ピロン♪
と、通知音が鳴った。
通知音の正体を見ると、正体はSNSのDMであった。
「んん? 仕事かな? はぁ、でも今モチベがない……いやでも、イラストの仕事が無くなったら死ぬ……! とりあえず、中身を見よう」
と、小夜はDMの中身を確認する。
案の定というか、内容は仕事の依頼であった。
それも、VTuberのデザイン。
「ふ~ん? VTuberのデザインねぇ……?」
ハッキリ言って、あんまり気ノリはしていない小夜。
というのも、小夜はあまりVTuberについて詳しくないし、その仕事をやりたいと思ったことがないのである。
理由としては……なんか、よくわからんから、とのこと。
小夜的には、アニメやマンガ、ラノベは大好きだし、自分の描いたキャラクターがアニメで動いているのを見るとめちゃめちゃ興奮するタイプだ。
しかし、VTuberとなると、自分の描いたキャラクターがガワになり、そのキャラクターを演じる中身がいるわけだ。
だが、VTuberの中身は別段プロの声優というわけではなく、言ってしまえば限りなく一般人に近い存在だ。
それも、顔出しをしていないのなら殊更に。
回りくどいようなので、もうドストレートに言ってしまうが……つまるところ、小夜は自分の描いたキャラクターは声優に演じてほしい! プロの声で聴きてぇ! ということである。
もちろん、声のいいVTuberがいるのも知っているし、否定をするつもりはないが、どうも好きになれないのである。
こう、見た目と声のギャップ、激しくね? みたいな。
もっと簡単に言えば、あれである。昔のアニメのリメイクの声優陣が総とっかえ状態で、こう、声がなぁ……みたいな感じである。
あの、聞き慣れないような感じが苦手なのである。
もし、自分の描くキャラクターなら、可愛い声の人やってもらいたい、そんな思いがあるわけで。
「えーっと? 注文は……ふむふむ、妹系で、ケモっ娘で、お狐様……それで、ロリ系、と。ほほう、ロリ系を注文するとは、この会社はわかってるねぇ……って、うちまだ会社がどこか確認してなかったな……どーこだ! と……あ、へぇ~……」
仕事を依頼してきた会社を見て、小夜は笑みを深めた。
会社名は『らいばーほーむ』であった。
VTuberに詳しくない小夜でもその名は何度か聞いたことがあるし、SNSのトレンドにもよく入って来るのを見たことがある。
そして、小夜的にはらいばーほーむは嫌いではない。
大体のVTuberがアイドル売りのような形で売り出しているのに対し、らいばーほーむはひたすらに個性でぶん殴るスタイルだからである。
全体的に尖っており、コラボすればカオス。
VTuber好きたちの評価は『頭のおかしい奴ら』もしくは『天災たちの集い』とか言われている。
他とはまた違った方面のVTuber事務所だが、個人的に小夜が評価しているポイントがある。
一つは先ほど語ったように、アイドル売りをしていないこと。
もう一つは……声である。
あまり声のギャップが、らいばーほーむのライバーたちにはないのだ。
一体なぜだ、と思って小夜自身調べたことがあった。
その結果として、推測ではあるが、一つだけわかったことがある。
それは、それぞれのライバーのイラストレーター、つまるところママだが、このママたちの特色がその声の持ち主に合うように依頼されているのだ、と。
例えば、カッコいいハスキーボイスを出すような人物には、それにちなんだカッコいい系のキャラデザを得意とするイラストレーターに依頼するわけだ。
それが推測だとは言えわかった時、ここは好きになれるな、と小夜は思った。
「で、今回はロリ系で、尚且つ和服を得意とするうちに依頼がー、ってわけね」
ふふ、なるほどなるほど……と、小夜はさらに笑みを深める。
しかし、とそこで一つ疑問が出る。
VTuberに詳しくない小夜ですら、らいばーほーむは頭がおかしい、という情報はある。
そんならいばーほーむにいる女性ライバーの面子と言えば……暴走車、のじゃロリ魔王(ロールプレイガチ勢)、常識人(その一)、ゲーム廃人の気弱うさぎ、常識人(その二で常時ツンデレ)、恋愛ゲー狂いのギャルだったはずである。
その中に、可愛い系はいないわけではないが、癖があるし、何より純粋な可愛さを持ったライバーはいないように思える。
依頼されたキャラクターの他に、今回デビューすることになっているVTuberの依頼内容も付随して書かれているが、それを見てもやはり自分自身に依頼されたVTuberはらいばーほーむにしては異質な気がする、と小夜は頭を捻る。
「ふーむぅ……ま! サンプルボイスを聴けばわかるってもんだよね! どれどれ、声はどんな感じかなー、っと」
と、どこかうっきうきで首にかけていたヘッドホンを頭部にセットし、サンプルボイスを再生すると……
『こ、ここ、こんたまぁっ……! ふえぇ、や、やっぱり恥ずかしいよぉ~~っ……!』
可愛い、としか言いようのないとても甘いロリボイスが再生された。
「――ッッ!!」
その声を聴いた瞬間、小夜は思わず固まった。
そして、まるで雷に打たれたかのような衝撃を小夜は受けた。
「……こ、ここ、この声は……な、なんて、なんて――なんて天使の如きロリボイスぅぅぅぅぅぅぅ!?」
夜であるにもかかわらず、小夜はそんなことを一切気にせずに思わず叫んでいた。
そう、小夜的にこの声の持ち主は自分の描くキャラクターにピッタリな声だと強く想ったのだ。
「ハッ! こうしちゃいられない! この声にぴったり合うデザインを仕上げねばァッ! 意欲が……創作意欲が湧いて来た来た来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
寝ようと思っていた小夜はそんなことどうでもいい! とばかりに、ペンタブを用意し、アプリを開くと、一心不乱にデザインを始めた。
「妹系となると……全体的に小さく、幼い方がいい! ロリだし! あと、お狐様ってことは、巫女服が大前提! 表情は柔和な感じにして……あっ、いっそのこと隠れ巨乳にしてしまえ! ギャップ萌えギャップ萌えェ!」
深夜テンションの如き高揚した気持ちで思ったことを全て口に出しながら、声に合うキャラクターをデザインしていく。
「これでどうだ!? ……くっ! ダメ! これじゃああの声に100%合うデザインじゃない! もっとこう、あの声は天使だった……! 何が、何がダメなのか…………ハッ! 目尻! 目尻か!? じゃあもう少し垂れ目にして……あっ、いい感じ! だけどまだだ、まだ何かが足りないっ……! くっ、ロリ系専門のうちをもってしても、完璧に届かない!? 考えろ、考えるんだよ、わたもちっ……! あっ、装飾! 装飾が足りない! もう少しフリルを足す……? いや、それじゃあ意味がない! お狐様なら、洋風は取り入れないで、和風で勝負! じゃあ、裾をもう少し短くして、反対に上部の裾を伸ばして……イイィィッ! これはすごくイイッ! あと足りないのは……ハッ! もっと丸みが欲しい! じゃあここをこうして……はい可愛いぃッ! あとはあとは――」
と、こうじゃない、こうだ! いやでもこれは、ならこっちで! と、ものすごいテンションでガガガガッ! とモニターに映る電子のキャンパスにあの声に合う理想の狐ロリっ娘を描いていく。
その集中力は凄まじく、目は血走り、アドレナリンがどっばどば出まくりだ。
(飯? 睡眠? トイレ? 知らん! そんなことよりも、一分一秒、いや0.1秒でも速く! この創作意欲を無駄にしたくない! これで死ねるならうちは本望ッッッ!!!)
小夜の心の中はそうなっており、心の底からこのキャラクターを描き切って死ねるなら本望だと思っている。
そんな、命を削ってそうな強行をすること、かれこれ丸一日。
「で、できた……う、うちの、最高傑作の娘っ……!」
満ち足りた様な、やりとげたぜ、みたいな顔をする小夜は、目の前に映る一人の可愛らしい美幼女を見て、得も言われぬ満足感を感じていた。
今までの自分の引き出しやら経験やらを総結集させて描き上げたキャラクターは、凄まじい出来であった。
これならワンチャン天下イケる!? イケちゃう!?
なんて思ってしまっている辺り、相当な自信作のようだ。
「ふぅ……よし、これを納品しよう。昨日の今日だけど……これなら一発合格まちがいなーーし!」
そうして、小夜は完成したデザインをらいばーほーむに送った。
当然と言うか、なんと言うか、小夜が描き切ったデザインは一発で合格を貰ったどころか、最初に提示されていた報酬額よりも多めの額を貰った。
◇
そして、自分の娘――神薙みたまの初配信当日。
『あ、改めまして……こ、こんたま~っ! 一人前の神様になるために人間さんたちの世界にやってきましたっ! 神薙みたまだよ~っ! おにぃたま、おねぇたま、よろしくお願いしまひゅっ――ふえぇぇぇんっ! 噛んじゃったよぉ~~~っ!』
初手の噛み芸を聴いた小夜は……
「う、うちの娘、可愛すぎん……? ガクッ……」
無事に死亡しました――……。
◇
その後、熱狂的なみたまファンとなり、みたま警察の先駆け(どっかの姉とは別口で)みたいな存在になったり、トワッターで呟く内容がみたまのことばかりだったり、いつでも依頼が来てもいいようにと、大量の新衣装案を描きまくったりと、立派なみたま信者となったそうな。
尚、配信の時は視聴用のアカウントで視聴しているが、毎回上限額を送っており、いつかはわたもち名義のアカウントで投げたいと思っている。
なぜしないのか……その理由は、ママって呼ばれた日には死ぬな、と思っているためである。
そんな小夜は、今日も今日とて仕事をしつつ、激烈にみたまを推しまくる。
◇
四月一日小夜、19歳、職業イラストレーター。
自分の娘である神薙みたまに色々と(いい意味で)狂わされ、後に――……。
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