#25 ミスった姉と、本格的学園祭準備
前回に書いたように、この回からしばらく学園祭の話に入ります。配信回はかなりお待ちいただくかと思いますが許してくだせぇ。その代わり、閑話にて配信系の話をぶち込めたらなぁと思います。
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「……なんか、ごめん」
「あ、あはは、だ、大丈夫ですよ」
配信終了後、ミレーネお姉ちゃんがどよ~んとしながら、僕に謝ってきました。
多分、ママ呼びのこととかなんだろうけど……よっぽど疲れてるんだろうなぁ、って思うと何も言えないし、そもそも非難する気もない。
すごいと思ってるしね、ミレーネお姉ちゃんのこと。
「はぁ……なんかもう、疲れちゃってね……」
「た、大変そう、ですもんね、ミレーネお姉ちゃん……」
「ほんとにね……ごめん、少しだけ膝枕してもらってもいい……?」
「いいですよ。どうぞ~」
にこにこと笑みを浮かべながらそう言うと、ミレーネお姉ちゃんが再び太股に頭を乗せて寝転んだ。
うん、やっぱり膝枕は好きかも……。
「年下の女の子に甘えるとか、情けない話よね、ほんと……」
ぽつり、とそう呟くミレーネお姉ちゃん。
結構気にしてるみたい。
「はぁ……」
「あの、僕は別に情けないとは思いませんよ……?」
「……え?」
「だって、あの、ミレーネお姉ちゃんは二期生のみなさんを引っ張って行ってますし、大変なはずなのに、頑張ってます。すごく尊敬してるんです、僕」
僕はらいばーほーむを好んで見てるけど、そこまでって言うほど深く見ているわけじゃない。
だけど、いつもミレーネお姉ちゃんが頑張っているのは知っているし、尊敬している。
「え、あ、え?」
「それに、時には誰かに甘えないと壊れちゃいます。それがたまたま僕だっただけですよ」
「し、椎菜さん……」
「だから、僕ならいくらでも甘えて大丈夫です! なんて、えへへ……んっと、生意気でしたね」
「い、いえ、本当に嬉しいわ……じゃあ、もうちょっとだけ……」
「はいっ! 気がすむまでどうぞ~」
にこにことそう言うと、ミレーネお姉ちゃんは小さく笑いました。
大人って大変なんだなぁ……。
◇
予定外の配信だったけど、かなり楽しく終えることが出来ました。
古書店を出てお家に帰ると、お姉ちゃんが椅子に座ってPCをいじっていました。
「ただいまー」
「あ、お帰り椎菜ちゃん! 随分遅かったね? 何かあったの?」
「あ、うん。ちょっとゲリラコラボしてて……」
「へぇ~、そっかそっか~………………ゲリラコラボ!?」
「ふあぁ!?」
にこにこ顔だったお姉ちゃんだったけど、少しすると目を大きく開いて勢いよくこっちを見てきました。
び、びっくりした。
「え、ちょ、ちょっと待って!? ゲリラコラボ!? ナンデ!? い、いや、それ以前に、この私がみ、見逃したと言うのかッ……! 椎菜ちゃんの配信を……!? な、なんたることだっ……こ、この私が……この私がアァァァァァァァァァァッッ!」
「お、お姉ちゃん落ち着いてぇ!?」
「ハッ! ご、ごめん椎菜ちゃん。ちょっと信じられない事態だったから……」
「配信を見逃したのって、そこまでなの……?」
「私はみたまちゃんの配信はどんな時だろうと、確実に! 絶対に! 全て見ると決めているの! だから、今回は屈辱が過ぎる! それで! 一体誰とコラボしたの!?」
「え、えっと、デレーナお姉ちゃん……」
「え、ツンデレちゃん!? ツンデレちゃんとしたの!? え、なんで!? なんでそうなったの!?」
僕がデレーナお姉ちゃんとコラボしたことを話すと、お姉ちゃんはすっごく驚いた。
あれ、もしかして知らなかったのかな……?
「いや、あの、商店街に古書店があるんだけど……」
「あるね」
「あそこで、デレーナお姉ちゃんとばったり会って……」
「……え、マジで!?」
「う、うん。それで、デレーナお姉ちゃんが僕って気づいて、僕もちょっとしてデレーナお姉ちゃんだって気付いて……それで、どこかの配信でいつかコラボしましょう、って言ってたことを思い出して、いつやるかのお話をしていたら、ゲリラコラボに……」
「さ、さすが椎菜ちゃん……まさか、三連続オフコラボをしてくるなんて……あー、でも、そっかー……二期生は予想外だった……。それに、ツンデレちゃんの告知も、誰が来るか書いてなかったし……くそぅ……リアタイができなかった……」
そう言うお姉ちゃんは、すごく悔しそうでした。
そ、そんなに見たかったのかな……?
「はぁ、仕方ない。あとでアーカイブを見ることにするよ」
「な、なんか、ごめんね……?」
「いいよいいよー。こればっかりは、私が油断していたことが原因だし」
あはは、と苦笑するお姉ちゃん。
うーん、今度からは教えた方がいいのかなぁ……。
「んー、お腹空いたねぇ。椎菜ちゃん夜ご飯どうするの?」
「んーと……一応材料があるし……うーん……」
そう言えば、何も考えてなかったなぁ……。
本当なら、古書店に寄って、お家に帰ったら夜ご飯の準備をして……って感じだったし……うーん。
「迷ってる感じ?」
「うん、迷ってる感じです」
「そっかそっか! なら、たまには出前でもどうどう?」
「あ、いいねっ!」
「よし! それじゃ、何にするかだけど……やっぱり出前と来ればー?」
「「ピザ!」」
二人揃って同じ食べ物を言って、ふふっと笑い合う。
「じゃあ、決まり! 何する何する?」
「んーっとね、四種類の!」
「了解! んじゃあ、あとは……定番のマルゲリータにでもしておこっか! あと何かいる?」
「照り焼きチキン!」
照り焼きチキンのピザは大好きです。
鶏肉のお料理だったら、チキン南蛮が一番好きです。
「はい了解! じゃあ注文! 今から三十分後に届くよー」
「うんっ! じゃあ、今のうちにお洗濯してくるよ」
時間がまだあると言うことで、溜まっているお洗濯を済ませることに。
こまめにやらないと、着る物が無くなっちゃうからね。
「はいはーい。あ、私も何かする?」
「ううん、お姉ちゃんは座ってていいよ~」
「そう?」
「うん! 家事は普段からやってるから、特にやることもないからね~。それじゃあ、お洗濯してきまーす」
「はいはーい」
さて、お洗濯お洗濯~♪
その後は二人で美味しくピザを食べて、お風呂に入って、ちょっとだけ配信のお話をしてその日は就寝となりました。
◇
それから時間がちょっと経って、週末に。
本当は今週中も配信をする予定ではあったんだけど、なんと言いますか……結構学園祭の準備の方が忙しくなってしまったと言うか……うん、できなかったです。
それに関することはトワッターの方で説明済みで、結構嫌なこと言われるかなぁ、なんて心配していたけど、視聴者さんたちは温かい人たちばかりで、むしろ全力で楽しんできて、というようなメッセージを数多く貰いました。
そして、今日は土曜日だけど、今日から学園に泊まっての準備が始まるため、たくさんの生徒が学園に来ています。
元々、それまでも結構準備を進めてきてはいたけど、ほとんどがお店の小物だったり、部品だったりして、まだまだやることはたくさん。
僕たち調理担当はメニューの改良やお料理の練習がメインだったから、お店作りのみんなに比べたら遥かに楽と言えば楽なんだけどね。
と、そんなこんなで土曜日のお昼過ぎ。
この準備は、強制参加、というわけじゃないんだけど、大体の人たちは参加しています。
だって、楽しいからね。
そんな僕は今、学園内をちょっとだけ麗奈ちゃんと一緒に見て回っていました。
「おっ、椎菜ちゃんあれ見てあれ! すごくない?」
「わっ、あれなんだろう?」
麗奈ちゃんと一緒に回っている途中、一ヵ所を指さしながら楽しそうに言って来て、言われたところを見るとよくわからないけど、なにか人が入れそうなくらい大きな器? のようなものが置かれたクラスがありました。
「あ、そう言えば、友達のクラスがコーヒーカップやる! って言ってたなぁ」
「え、コーヒーカップ?」
学園祭でコーヒーカップという、なかなか聞かない組み合わせの単語に、頭に疑問符が浮かぶ。
「うん。コーヒーカップ。なんでも、とあるゲームをやっていた時に、学園祭でコーヒーカップをやってるクラスのシーンがあって、なら現実でやろうぜ! ってなったみたい」
「何それすごい……」
ゲームでやってたからやる! って言う理由は何と言うか、この学園の生徒らしいかも。
それに、学生だからこそできる行動力、って感じがするよね。
「あはは、すごいよねぇ。ゲームからネタを引っ張って来た挙句、それを通しちゃうんだもん。あ、回すのは人力らしいよ?」
「そ、そこはアナログなんだ」
でも、それはそれで面白そう。
当日、覗いてみようかな?
「そう言えば、椎菜ちゃんは当日誰か招待してたりするの?」
「あ、うん。お姉ちゃんと――」
そこまで言ってはたと気付く。
そう言えば寧々お姉ちゃんたちのこと、どう説明すればいいんだろう……?
お友達……ではあるとは思うんだけど、ちょっと違うような気がするし……うーん、とりあえず、お姉ちゃんのお知合い、ということにすればいいかな? 間違ってはいないと思うし。
「お姉ちゃんのお知合いの人が来るよ~」
「へぇ、そっかそっか! あたしは家族全員来るーって言ってた。家族の前でメイド服は恥ずかしいよねぇ」
「あ、あははは……僕なんて、元男なのにね……」
「いやいや、椎菜ちゃんは椎菜君の頃から可愛かったから、違和感はないよ!」
「なんだろう、褒められてる気がしないよ……」
「褒めてる褒めてる! でも、すごい活気だよねー。やっぱり、学園祭はこうでなくちゃね!」
「うん、そうだね~」
なんて二人で言い合いながら周囲を見回す。
校舎内ではそこかしこで大きな声が飛び交っていて、他にも釘を打つ音や、鋸で材木を切る音、他にも様々な音が聞こえて来て、お祭りの準備を感じさせてくる。
校舎の外からも声は聞こえて来ていて、お友達同士や部員同士で出店を準備する人たちも多くいて、かなり活気がある。
中には、かなり気合を入れているみたいで、かなりすごい物が出来上がりそうな予感がするクラスや出店がありました。
「あーでも、あと一週間かぁ。きっとあっという間だよね」
「そうだね。楽しいことはあっという間だから、気が付いたら当日に~、なんてことになってるかもしれないね?」
「正直、学園祭みたいなお祭りって、準備が一番楽しいよね」
「あ、それはわかるかも。なんというか、裏でいっぱい苦労して楽しいことをしてる! って感じがしていいよね!」
「そうそう! 失敗しても成功しても、結局何やっても楽しいんだからずるいよねぇ、準備期間って」
「ふふっ、そうだね」
二人して他愛のない話をして笑い合う。
やっぱり、こういう非日常感はいいよね……。
「あ、そうだ。椎菜ちゃんは学園に寝泊まりするんだよね?」
「うん、そのつもり。ギリギリまでメニューのアレンジをしておきたいし、何より……」
「何より?」
「今年もあれをやろうかなー、って」
「あれ? ……あぁ、あれ! え、今年もやってくれるの?」
「うん。去年好評だったし、それに、人数もそこまで苦じゃないから!」
「へぇ~、なんかすごい争奪戦になりそ。あ、予約していい?」
「残念ながら、当店では予約注文は受け付けておりませんっ! なーんて、えへへ」
「ぬぐふっ……!」
「麗奈ちゃん?」
「な、なんでもない……ぐぬぬぅ、やはりはにかみ顔が強すぎる……」
顔を赤くしながらぶつぶつ言ってるけど、どうしたんだろう?
でも、なんでもないって言ってるし大丈夫かな?
「にしても、椎菜ちゃんってほんっとこう、世話焼きタイプだよねぇ」
「そうかな? ……そうかも」
「あ、そこは認めるんだ」
「うーん、昔からお姉ちゃんのお世話をしてたから?」
「へぇ~、お姉さん、結構だらしない感じ?」
「だらしない……かなぁ。でも、家事は苦手かな? 大体僕がやってたし……あ、でも、僕が好きでやってることだからね? 別に問題じゃないよ?」
「家事好きなんだ?」
「うんっ! 楽しいよ?」
「高校生で、家事が楽しい! って言えるのってなかなかに珍しいよね、それ」
あはは、と苦笑い交じりにそう言って来る麗奈ちゃん。
そうかなぁ?
「ちなみに、何作るの?」
「うーん、そこはお楽しみ、かな」
「そっかー。うん、楽しみにしてる! あ、それって一人で作るの?」
「さすがに、自己満足だからね~。みんなは巻き込まないで、一人でやるよ?」
「それ、大変じゃないの?」
「うーん、少なくとも飲食店でアルバイトをしてた時に比べると結構楽だよ? のんびり気楽にできるから」
「へぇ~、そっかそっか。なんだかすごいねぇ」
「あはは、慣れれば誰でもできるよ~」
実際、僕だって昔からやって来たからできるようになったことでもあるから。
「いやぁ、さすがに同年代で椎菜ちゃんレベルって多分、料理学校に行ってる人じゃないかなぁ。あとは、実家が料理屋とか」
「僕なんてまだまだだよ~。もっと作れるレパートリーも増やしたいし、もっと美味しく作りたいなぁ、って思ってるから」
「……将来、椎菜ちゃんと結婚する人は幸せだろうねぇ」
「ふあ!? け、結婚!?」
「うん、結婚。だって、椎菜ちゃんもいつかするよね?」
「い、いや、あの、えと……ぼ、僕はちょっと特殊、だから……あ、諦めてるかなぁ、なんて……えへへ……」
現状、結婚するかしないかで言われると……ちょっと複雑、だしね……。
一応、TS病の特例として、女の人と結婚できるようにはなっているけど、それでも相手の人次第だもん……。
男の人と結婚する気はないから、正直できないだろうなぁ、なんて思っちゃってるし。
「TS病だもんねー。やっぱり複雑そう」
「そうだね……だから、多分結婚しないんじゃないかなぁ」
「まあいいんじゃないかな? どうせ、今は税金税金! って感じで、結婚してもメリットはないもん」
「麗奈ちゃん、結構達観してる?」
「いやいやー、無能な政治家よりも、高校生の方がまだマシなことを考えるってだけだよー」
「あ、あはは……」
なかなかの毒舌を吐く麗奈ちゃんに苦笑するのでした。
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