#24 ギリギリな状況と、まさかの遭遇その2

 私はご都合主義だなんだと言われようと後悔はねぇ!

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 というわけで翌日。

 新学期が始まった時並みに行きたくないです……。

 だけど、学園に行かないわけにはいかないわけで……。

 一応、自業自得みたいなものなんだけど……。


「い、行ってきます……!」

「椎菜ちゃん、なんでそんな戦地へ赴く人が覚悟を決めたような顔をしてるの?」

「……ちょ、ちょっとね……」

「そっかー。まあ、何かあったらすぐお姉ちゃんに言うんだよ? いじめなんてことがあった日には……私が潰すから」

「だ、大丈夫っ! しゅ、柊君も色々手助けしてくれるからっ!」

「そう? じゃあいいけど……じゃあ、気を付けてね!」

「うんっ! じゃあ、行ってきます!」


 覚悟を決めて、僕は学園へ登校しました。



 というわけで、学園に到着した僕は、いつものように踏み台を使って下駄箱から上履きを取って、靴を仕舞う。

 学園へ行く途中でも感じたけど、なんだか視線がすごい気がする……。


 多分、僕が神薙みたまなんじゃないか、っていう噂がクラスから学年、学年から学園に行っちゃったのかも……。

 人の口に戸は立てられぬって言うし……。


 少し鬱々とした気持ちで教室に入る。


「おはよ~」

「「「桜木(椎菜ちゃん)!!」」」

「ひああ!?」


 教室に入るなり、クラスのみんなが僕の所にやって来て、どこか興奮した様子で一斉に声をかけて来た。

 あまりにも突然すぎて、びっくりしてしまった。


「椎菜ちゃんって、もしかして神薙みたまちゃんなの!?」

「い、いきなり、な、なに!?」

「最近話題になってる新人VTuberだよ! あれ、椎菜ちゃんなんだよね!?」

「桜木ってTS病だろ? だから、そうじゃないか! って今学園中で噂になってんだよ!」

「どうなのどうなの!?」

「ふあ!? あ、え、えっと、そ、それ、なんだけど……」


 ちらり、と先に来ている柊君を見ると、こくりと頷く。

 う、うん、い、言うよ……!


「か、神薙みたまは、僕、じゃない、よ?」


 言ったっ! ここからはもう、上手く誤魔化して、お祈りタイムっ……!


「えー、うっそだー?」

「声とか激似だよ!?」

「本人以外ありえない! って言われてんぜ?」


 うぐっ、そ、そうだよね……じ、地声で僕やってるから……で、でも! この程度じゃ諦めないよっ!


「あ、あはは、ほ、ほら、一応、あの、声は人によっては作れるし……そ、それに、僕よりも早くTS病になった人がいた、みたいだから……多分、その人、じゃないかな……?」

「うーん……でも、結構珍しい病気なんだよね? ほんとかなぁ」


 僕が吐く嘘に、クラスのみんなは訝しむ。

 僕は内心かなり焦っているし、かなり申し訳なく思ってます……。


 というか、本当にギリギリだよぉ~~っ!

 自分でも無理があるってわかってるもん! でも、なんかこう、あんまりバレたくないもん! 恥ずかしいし!


「あ、あくまでも、珍しいだけで、ぼ、僕が病院に行った時は、短い期間に珍しい、って言われた、から……そ、それに、僕はあんまりそう言う事をするタイプじゃない、でしょ?」


 自分で言う事かな、これ……。

 お、お願いします神様っ!

 この嘘が……この嘘が通用するようにしてくださいっ!

 そうして、酷く長く感じる時間が流れ……


「……言われてみればたしかに」


 ぽつり、と誰かがそう呟くと、それが一気に広がる。


「そういや、桜木ってどっちかと言えばこう、表立って何かをする! ってよりかは、裏方でサポートしてるイメージだな」

「あー、わかる。去年もなんだかんだ、学園祭準備で裏方やってくれてて、すっげえ助かった思い出」

「いくら配信とは言っても、目立つことはしないかー」

「じゃあ、椎菜ちゃんじゃないんだー、残念」


 や、やったっ! 確率に勝った! 勝ったよぉ~~~~っ!!!


「くぅっ、てっきり、クラスメートにVが!? って思ったんだがなー。まあ、現実なんてこんなもんか! いやー、悪かったなー、桜木」

「う、ううん、大丈夫」


 ごめんなさい、本当は中身は僕です……でも、色々とバレちゃったら大変だから……。

 でも、これができるのは今回だけだけど……。


「ごめんねー。あ、お詫びに飴ちゃんを上げよー」

「あ、ありがとう」

「じゃあ私はおせんべいを上げるねー」

「ありがとう……って、なんでおせんべいがあるの?」

「食べたいから」

「そ、そっか」


 チョコレート系のお菓子ならともかく、おせんべいを持ってきてる高校生は初めて見たなぁ……好きだからありがたく貰うけど。

 とにもかくにも、何とか誤魔化せたぁ……。


 柊君の方を見れば、苦笑しながらサムズアップしていました。

 ありがとう、柊君……。



 何とか身バレを乗り切れば、あとは普通に学園を過ごすだけ。

 いつも通りに授業を受けて、いつも通りにお昼休みを過ごして、そして学園祭の準備をして……そんな風に過ごす。


 今週の土曜日から学園に泊まっていいことになっているので、進みはほどほど。

 遅くはないけど、早くもない、ゆる~い感じでやってます。

 僕たちメニュー担当は、調理室を借りて、試作をしています。

 この辺りは申請をすれば、練習用の材料を学園側が用意してくれることになっているので、非常に助かります。

 とはいえ、まだ今日は初日なので、料理が出来る組でお手本を見せて、後日練習することになります。


 そんな学園祭の準備を終えたら、帰宅に。

 今日こそは! と麗奈ちゃんが一緒に帰ろうとしたら……またしても部活の先輩に引きずられて行ってました。


 麗奈ちゃん……。


 今日は月曜日なので、通常よりも一時間早く帰れる日。

 なので、たまには、と美月市の商店街へ足を運ぶ。


 最近はあんまり来れてなかったけど、登校が始まってからちょこちょこ顔を見せて、商店街の人たちに現状を報告。

 かなり驚かれたけど、それでも受け入れてくれました。

 温かいです……。


 ただ、気のせいかもしれないんだけど、おまけしてくれる物が増えた気がしてなりません。

 嬉しいんだけどね……。


 そんな商店街には、一軒の古書店があって、そこのおばあさんとは結構な顔見知りです。

 たまに遊びに行って本を買って行って、世間話をして……そんな風な感じの関係性。

 内装もTHE古書店! みたいな雰囲気ですっごく落ち着くから好き。


 ちょっと前に、お孫さんに店を譲るかもー、って言ってたけど、どうなったのかな?

 まだおばあさんがいたら、色々とお話しないとな~、なんて思いながら古書店へ。


 ガラガラ、と扉を開けると、本の匂いが真っ先に飛び込んでくる。

 人によっては苦手かもしれないけど、僕は本の匂いは落ち着くから好きです。


 基本的に本は紙派で、電子書籍はあんまり好みません。

 読んだって言う気がしないんだよね、あれ……。


「いらっしゃいませ」


 僕が入って来たことを察したのか、若い女の人の声が聞こえて来た。

 あれ? いつものおばあさんじゃない?

 もしかして、前に言っていたお孫さんかな?

 あとでちょっとお話してみようかな。

 適当に本を見て、面白そうと思った本を持って、レジへ。


「お願いしますっ!」


 と、レジに持っていくと、そこにいたのは金髪碧眼の高校生か大学生くらいのお姉さんでした。

 美人さんっていうより、とても可愛い人。

 ハーフっぽい?


「――っ!?」


 と、購入予定の本をお願いしますという声と共に置くと、目の前のお姉さんの顔が強張った。

 どうしたんだろう?


「ね、ねぇっ、あ、あなたっ……い、いえ、や、やっぱり何でもないわっ」

「あ、そ、そうですか? じゃ、じゃあ、お会計をお願いしますっ!」

「え、えぇっ、ちょ、ちょっと待ってね…………この声って、やっぱり……いえでも……」

「あの……?」

「ご、ごめんなさい。一つ、不躾な質問、いいかしらっ?」


 意を決したように、そう訊いてくるお姉さん。


「あ、は、はい、いいですけど……なんでしょうか?」


 一体何だろう? と思いつつも、そう答えると、お姉さんはなぜか深呼吸をし出して……


「すぅー……はぁー……あなたってもしかして、神薙みたまだったりしない?」


 僕に向かって、神薙みたまかどうか訊いて来ました。


「………………ふぇぇ!?」

「その驚き方、やっぱりっ……!」


 一拍遅れて驚いた声を上げると、お姉さんはやっぱり! と大きく目を見開いた。

 え、な、なんで!? なんでまたバレちゃってるの僕!?

 ね、寧々お姉ちゃんの時もそうだったけど……も、もしかして声!? やっぱり、声でバレちゃってるの!?


「あ、あああのあのあのあの、え、えっとわ、わたしは、じゃ、じゃなくて……ぼ、僕は神薙みたまじゃないっ、ですよっ!?」

「いや、その驚き方で誤魔化しは無理があると思うんだけどっ」

「はぅっ!」

「ま、まさか、お、同じ街に住んでいたなんて……!」

「あ、あの……こ、このことは、ひ、秘密にして、ほ、ほしい、ですっ……!」


 完全にバレてしまってる以上、誤魔化せないと悟った僕は、上目遣いになりながらもお姉さんにそうお願いする。

 うぅっ、最悪だよぉ~~~っ……。


「って、あぁ、安心してっ! 別に誰かに言いふらす気もないしっ」

「そ、そうなんですか……?」

「当然っ! というか、あたし、あなたの先輩にあたるもの」

「…………え!?」


 今、さらっととんでもないことを言われなかった!?

 ぼ、僕の先輩……?

 先輩って、学園じゃなさそうだし……もしかして、一期生か二期生の…………あれ? そう言えばこの声って……。


「あ、あの……」

「な、何?」

「も、もしかして、お姉さんって……デレーナ・ツァンストラさん、ですか……?」

「そ、そうよっ! 初めましてね、神薙みたまさんっ!?」


 どうやら、お姉さんはデレーナ・ツァンストラさんだったようです……。

 ……どこかで見た様な展開だなぁ……。



 その後、折角だから上がって行けば? と言われて、お店の奥にお邪魔することに。


「あ、改めまして、あの、か、神薙みたまをやってます、桜木椎菜です……」

「じゃあ、椎菜さんって呼ばせてもらうからっ」

「は、はいっ、えっと、僕は何て呼べば……」

「ミレーネ。四季ミレーネ。それがあたしの名前。本当は、もうちょっと長いんだけど、ミレーネでいいから」

「それじゃあ、ミレーネお姉さんですね!」

「ぬぐっ……!」

「? どうしたんですか?」

「べ、別にっ、お、お姉ちゃんと呼ばれたいだなんて、思ってないからねっ!?」


 あっ、本当にデレーナさんだ。

 話し方ですっごく納得。


 もちろん、疑っていたわけじゃないけど、デレーナさんらしい言葉が飛び出て来て、さらに確信出来ました。

 でも、そう言うってことは……。


「じゃ、じゃあ、ミレーネお姉ちゃんって、呼んだ方がいい、ですか?」

「んぐぅっ……! あ、あなたが呼びたいなら、そ、それでいいと思う、わよっ!?」

「じゃ、じゃあ、ミレーネお姉ちゃんって呼びますねっ!」

「はぅっ! くっ、り、リアルで可愛いって話題には上がってたけど……こ、これは反則でしょっ……!」

「ミレーネお姉ちゃん?」

「あっ、い、いえっ、き、気にしないで。……ふぅ、落ち着いた。それにしても、同じ街だったとは驚きよ」

「そ、それは僕もです。というより、僕このお店にはよく来てたんですけど……」

「そうなの? ……そう言えば、妙に可愛い男の娘がいた気が……って、あれが椎菜ちゃん!?」

「あ、はい、可愛い感じだったら、多分、認めたくないですけど……僕、だと思います……髪がちょっと長かったら尚更に……」


 少しずつ話す声のトーンが落ちていくの実感しながらも、ミレーネお姉ちゃんの言葉を肯定する。

 僕ってやっぱり、可愛い、そんな感想しか抱かれないんだね……。


「ま、まあっ、今は可愛くてもいいじゃないっ? だ、だから、き、気にする必要はない、と思うけどっ?」

「う、うん、そうですよね……と、ところで、ミレーネお姉ちゃんはいくつなんですか?」

「私? 21歳よ」

「え、てっきりもっと下だと……」

「昔から童顔って言われるのよ、あたし」

「そ、そうなんですね」


 てっきり、高校生くらいかと思ってたのに……。

 あ、でも、それを言ったら僕なんてこの見た目で高校生二年生だし……。


「あ、そういえば……」

「な、何?」

「んっと、どこかの配信の時に、えと、コラボしましょう! って言ってたじゃないですか」

「そ、そう言えばそうねっ!? べ、別に、あ、あたしからやりたいって言ったわけじゃない、けどっ?」


 うーん、日常生活でもキャラを貫いている辺り、プロなんだね!

 ……あ、いやでも、考えてみれば、三期生のみんなも大して変わらないような……?

 強いて言えば、寧々お姉ちゃんだけが、ちょっと違う感じ?


「あ、あはは……えっと、あの……ぼ、僕は是非、ミレーネお姉ちゃんとやりたいなぁ、って思ってて……あの、ダメ、ですか……?」

「い、嫌とは言ってないからね!? じゃ、じゃあ、そうね……あ、そ、そう言えば椎菜さんは、ゲリラ配信ってやったことあるの?」

「ゲリラ配信ですか? 僕、基本的に学生なので……」


 高校生だし、そういうことは土日くらいしかできなさそうだよね……平日の夜は予定を入れてるし……。


「そ、そうよねっ! じゃあ折角来たんだし……今からコラボ配信、しないっ?」

「……え」

「何事も経験だからねっ! あ、で、でも、い、嫌なら別に……」

「い、いえ! んと、や、やってみたいですっ!」

「――ッ! そ、そうっ? じゃ、じゃあ、今からマネージャーにちょっと話すから待っててくれる?」

「は、はいっ!」


 そう言うと、ミレーネお姉ちゃんはスマホを取り出して、マネージャーさんに連絡をし始めた。


「もしもし、デレーナです。はい、実はみたまちゃんとばったり出くわしまして……はい、なので、色々話してたら、ゲリラ配信をしよう、ということになったんですが……はい、はい、ありがとうございます! じゃあ、早速トワッターで告知しておきます! では、失礼いたします。……許可は出たわ」

「は、早いですね」


 そんなに長く話してなかったと思うんだけど……。


「まあ、二期生はまだ誰も三期生とコラボしてないから、そこも余計に」

「そ、そうなんですねっ! そ、それで何をするんですか……?」

「ゲリラだし……まあ、いつも通り雑談でいい、と思うけどっ」

「あ、じゃあ、恒例のましゅまろですか?」

「そうね……ま、今から十分後にやるし、その間に来たましゅまろでも返せばいいと思う」

「わかりましたっ! じゃあ、えと、あの……よ、よろしくお願いしますっ!」

「え、えぇっ、こ、こちらこそ、よろしくねっ!」


 そんなこんなで、成り行きでデレーナさんとコラボすることになった。


 ……コラボしすぎじゃない? 僕。


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 はい、ご都合主義大好き人間です。

 だって楽だし。正直この作品は頭を使いたくない! めんどくさいことはしたくない! だからいったんはバレないようにした! それだけぇ! どうせいつかバレるだろうけど! 延命って奴です! 自分でも苦しい言い訳だなぁオイと思ってるけど!

 あ、次は配信回になるので、今日も複数投稿です。

 二話かもしれないし、三話かもしれない。そんな感じです! 時間はいつも通り、15時と18時です!

 さて、二期生の常識人枠とのコラボはどうなりますかねぇ!(すっとぼけ)

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