閑話#6 一年前の話+α

 これは、昨年の話と+α。



【百合園千鶴の場合】


 その日、後の雪ふゆりこと、百合園千鶴は自身が住む街に隣接する、美月市に足を延ばしていた。

 理由は特にないが、もし理由を上げるとするのならば、ちょっとしたリフレッシュだろうか。


 仕事の関係で、少々人間関係に疲れることもあるが、それでもお金のためだと割り切って仕事をしている面もあるし、なんだかんだやりがい自体もあるにはある。

 人には決して言えないような仕事だが。


 そんな千鶴は、実はあまり男性が得意ではない。

 むしろ、苦手の部類に入る。

 別に嫌悪感があるとか、殺意が湧くとか、男性恐怖症だとか、男嫌いだとか、そんなわけじゃないが、苦手なのだ。


 千鶴はその容姿からかなりモテて来た。

 見た目は誰もが目を引くような、美しい女性と形容できるような、そんな容姿で、スタイルも抜群。

 それ故に、下心がある状態で近づいてくる男性が多く、過去にそういった人物たちに何度も会って来た。


 とはいえ、千鶴自身もそうじゃない人たちがいることもちゃんと理解しているので、男嫌いにまでは至っていない。まあ、若干入っているかもしれないが……特に下心が無ければ千鶴は気にしないのである。

 だが、街を歩く度に自信の体、特に胸に行く視線は嫌いである。


 尚、同性は別に気にしない。

 異性はこう、性的な目で見られるのが嫌だと思っている。


 そんな千鶴は、ロリコンである。

 いや、ここまでふゆりの行動を見て来たのならばわかるだろうか、彼女は筋金入りのロリコンだ。


 その理由はまあ、男性が苦手であることに起因するにはするが、そうなってしまったことの理由は別にある。


 それは八年前に起こった。


 千鶴は同年代に比べると、発育が良かったため、かなりの視線を集めていた。

 当時の千鶴は14歳だったため、それはもう思春期真っただ中で、その視線の意味もなんとなくで理解していた。

 だからこそ、気持ち悪いとも思ったし、嫌だなぁとも思った。


 しかも、中学二年生ともなると、ようやく大人に近づいていくような年齢とも言えるが、まだまだ子供の精神構造だ。

 それ故、男子のセクハラじみた言葉を言われることがあり、これがきっかけで男性が苦手になり、同時に同性の方にやや恋愛感情が出始めるようになる。


 とはいっても、同年代に好きな人がいたこともないし、自分の好みもなんだかふわっとしていたのでわからなかった。


 そんなある時、たまたま遠出したいということで、自転車に乗って美月市まで行ったことがあった。

 少し疲れて公園で一休みしようと、ベンチで休憩していると、ふと公園で遊んでいた二人の子供に目が行って、思わず目を見開いた。


 どちらも同年代からモテそうな外見をしていて、一人はカッコいいという感想を抱いたが、もう一人の方は可愛い……! そう、心の底から思うほどに可愛らしい少女であった。


 少し長めの黒髪のショートカットに、くりくりと愛嬌のある瞳に、愛くるしい笑顔を浮かべる小さな少女。


(か、可愛いですぅ~っ……!)


 と、思わず千鶴はその少女を無意識にじっと見つめてしまっていた。

 自分の顔が熱くなり、胸がドキドキしている。

 自分でも初めての感覚に、戸惑う。


 話しかけようかなぁ、と思ったり、思わなかったり、かと思えばやっぱり、なんて考えたり、一人悶々としていた。


 ……まあ結局のところ、見ず知らずの子供に話しかけるとか不審者だよね、と思った千鶴はバレないようにちらちらと見ながら、その日は家に帰った。


 と、これが千鶴がロリコンになった理由である。


 あの後、千鶴は学校で嫌なことがあると、たまに美月市に足を運んで、その少女が遊んでいるところを見ることで癒されていた。


 だが、決して話しかけはしない。

 そこだけはまだまともだったのである。

 まあ、後々結構ヤバいがそれはそれ。


 そうして今日は、なんとなく数年ぶり……というわけではないが、なんとなくで美月市にやって来ていた。

 相変わらずロリコンだし、むしろ年月が拗らせにいった感じはあるが。


 街中を歩いていると、ふと、とある人物が目に入った。


(え、天使……?)


 少し先の方に、思わずそう思ってしまうほどに、とても可愛らしい少女がいた。

 黒髪ショートカットで、にこにこと自然な笑みを浮かべてながら歩く、そんな少女が。

 一目惚れとでも言うべきか、次の瞬間、千鶴の体は自然と動き……


「あらぁ~? そこの可愛らしいお嬢さん、よければ一緒にお茶しませんかぁ~?」


 そう、少女に話しかけていた。


「……ふえ!? あ、あの、ぼ、僕、ですか?」


 突然話しかけられた少女は、一瞬自分のことだとは思わず周囲をきょろきょろしていたが、その相手が自分だとわかると少女は妙に可愛らしい驚き方をしていた。


「はいぃ~、そうですよぉ~」

「あ、あの、え、えと……」


 にっこりと微笑みながら話しかけて来る千鶴に、少女は顔を真っ赤にしながらしどろもどろになる。

 そんな姿がさらに愛らしく、そして声もとても可愛らしいとあって、千鶴は内心大歓喜である。

 身長は自分の方が高いし、どう見ても自分より年下……年齢はわからないが。


「そ、その、あの、えっと……ご、ごご、ごめんなさいっ! す、すごく、う、嬉しくはある、んですけど……あの、えと、は、恥ずかしくて……」


 と、顔を真っ赤にしてあわあわしながらも、そう真っ直ぐ伝えて来る少女に、千鶴はきゅんとするも、少しして我に返る。


「い、いえいぇ~、お気になさらずぅ~。それでは私は失礼しますねぇ~」

「は、はいっ! あの、えと……その、失礼します……」


 少女はとても恥ずかしそうに、且つ、どこか申し訳なさそうにしながら少女は去っていった。


 さて、フラれてしまった千鶴はと言えば、別段がっかりした風でもなく、むしろ、ナンパしてしまったことに対して申し訳なく思っていた。

 特に、社交辞令だろうが、嬉しいと言わせてしまったことについても。


「すごく可愛らしい娘でしたねぇ~……」


 そう呟いた後、ふふ、と少しだけ苦笑いを零す千鶴。


 あんなに可愛らしい娘と会えたし、もしかしたら、何かいいことがあるかも、なんてポジティブに考える千鶴は、少女が去っていた方向の反対へと歩き出した。


 後々、出会った少女とは少々特殊な形で出会うことになり、それはもう本気で狙いに行くことになる。



【琴石寧々の場合】


 その日、後の猫夜はつきこと、琴石寧々は今年卒業したばかりの母校、姫月学園の学園祭に足を運んでいた。


「数ヵ月前だけど、すっごく懐かしく感じるなぁ」


 楽しそうに周囲を見回しながら、そう独り言を零す。


 卒業してから六ヶ月以上経ち、その間は大学で新しい友人関係を築いたり、新しい授業で悪戦苦闘したり、ちょっとだけサークルに入っては辞めたり、そんな感じのキャンパスライフを送っていたからか、寧々としては懐かしさを強く感じていた。


 たまに、仲良くしていた後輩や、たまたま遊びに来ていた同級生と再会したりと、歩くだけでもかなり楽しい。


 そうして歩いていると、見覚えのあるというか、一人の教師とばったり出くわす。


「ん? 琴石か?」

「あ、田崎先生! お久しぶりです!」


 出くわした相手は、高校時代、一年生時に担任をし、二年生と三年生でも、体育の授業を受け持っていた、田崎茉莉であった。


「あぁ、久しぶりだな。どうだ、大学は。上手くやれてるか?」


 久しぶりに会った教え子に、茉莉はどこか嬉しそうに話題を振る。


「問題ないです! 毎日楽しいですよ」

「そうか、それならよかったよ。ま、お前は明るく元気で、社交性がある。新しい環境の人間関係に馴染むのは早いだろうな」

「あははー、慣れっこですから!」

「ま、お前の今までなら自然とそうなるか」


 ふっと、小さく笑みを浮かべてそう返す茉莉。


 実は、寧々の家は転勤族だったりする。


 下手すると一年に一回は転勤し、引っ越ししてしまうため、友達が出来てもすぐに離れざるを得なくなってしまい、転校する度に新しい人間関係を構築しなければならなかった。


 人によっては、その様な境遇では変に拗らせてしまい、友達なんていらない、という孤高な存在になってしまう可能性があるが、寧々は底抜けに明るく、むしろ新しい環境に行くことはなんだかんだ好きだった。


 とはいえ、さすがに両親も何も思わなかったわけではなく、いっそのこと、高校入学を機に一人暮らしをしないかと話を持ち掛けたのだ。


 最初こそ、ついて行くと言っていたが、両親としてはやはり長い付き合いの友人を作ってほしいし、何より最初から最後まで同じ学校に通わせてあげたいと思っていたので、なんとか寧々を説得し、姫月学園に入学させ、一人暮らしを始めさせたのだ。


 そのため、寧々は物怖じとは無縁な性格をしており、結果的にどんな人とも仲良くなれるような、そんな人物に成長。


 とはいえ、人間なのでどうしても反りが合わない人とも出会うが、そう言った人たちとは仕方がないと割り切って、極力関わらないようにしている。

 無理に仲良くなろうとは思わないのである。


 尚、元々人気者になりやすい気質だったからか、過去に友達になってきた者たちのほとんどとは未だに連絡を取り合っており、大学生になった今は夏休みに会ったりもしているなど、なんかもう、ものすごい陽キャである。


「先生って今年もどこかのクラスを受け持ってるんですか?」

「あぁ、今年は一年の一クラスを担当してるよ」

「へぇ! 一年生! 私の時と同じですね!」

「まあな」

「どうですどうです? 面白い子とかいますか?」

「面白いってお前なぁ……あー、でも、一人いるな」

「え、どんな人ですか!?」

「そうだな……まぁ、美少女みたいな男子?」

「なんですかそれ」


 どんな人なのかなぁと思ったら、予想外の方向の言葉が返って来て、思わずきょとんとする寧々。

 さすがに、美少女みたいな男子は予想できない。


「いやなんというか、生まれて来る性別を間違えた様な生徒がいる。ま、性格はいいし、今回の一日準備期間中なんざ、クラスメートに朝食と夕食を振舞っていたからな、毎日」

「え、毎日ですか!? 一日だけとかじゃなくて!?」

「あぁ。なんでも、料理が好きらしい。で、折角だからって言って、クラス全員にな」

「何それすごい……」

「ちなみに、私も食べたが、かなり美味かったな」

「へぇ~~! いいですね~!」

「役得ってもんだ」

「そうですかぁ。……それで、先生のクラスって今年は何を? 料理を振舞ってたから、喫茶店とか!?」

「いや、お化け屋敷だな」

「へ? お化け屋敷?」

「あぁ、お化け屋敷。ちなみに、女性人気が高い」

「なんで!?」


 お化け屋敷なのに、女性人気が高いとはどういうことか、と寧々は驚く。

 どちらかと言えば女性人気ではなく、こう、カップル的な人気がありそうなのになぁ、と首を傾げる。


「行ってみればわかる。どうせ、私のクラスに行くつもりだったんだろう?」

「それはもう! 恩師ですから!」

「ははっ! そうか。……さて、少し話し過ぎたか。それじゃあ、私はそろそろ行くよ。楽しめよー」

「はーい!」


 そこで茉莉とは別れ、早速とばかりに茉莉が受け持つクラスのお化け屋敷へ。

 話していた場所からはそう遠くない位置だったが、目的のクラスの前には目に見てわかるほどの行列が出来ていた。

 そのほとんどが女性のようである。

 男性もいるが、どちらかというと女性の方が多い。


「ありゃー、結構並んでるなぁ。ま、いっか! 私もならぼーっと」


 待つのも苦じゃないし、と少しうきうきとした気分で最後尾に並ぶ。

 案外早く順番は回って来て、寧々は早速中へ入る。


 中は病院を模しているようで、なかなかに作り込まれていて、寧々は内心感心する。


 特にミッションなどのような謎解きはなく、ひたすら進む、シンプルなタイプのようだ。

 途中、病院内で行われていた非人道的な実験の被害者という体の脅かし役が出て来て、思わずびくっとしたり、小さな悲鳴が出たりしてしまう。


 しかし、ここまでは割と完成度の高いお化け屋敷程度だが、どうして女性人気が高いのかまではわからなかった。


 そうして三分の二を進み終え、最後の方になった時だった。


「わ、わ~~~~っ!」


 と、どこかお化け屋敷に似つかわしくない、随分と可愛らしい声をしたナース服の女子生徒が現れた。

 その女子生徒を見た瞬間、


「え、可愛いっ!?」


 と、思わず少し大き目の声で言ってしまう。


「ふあ!?」

「おー、よしよし、可愛いね~」


 驚く女子生徒をよそに、気が付けば寧々は目の前の女子生徒の頭を撫でていた。

 ふわふわでサラサラな髪の毛の感触に、内心羨ましがっていたが。


「ふえぇ~~~っ、あ、あのあの、な、撫でないでくだしゃい~~~っ!」

「ふへへぇ~~~、本当に可愛いねぇ~! なんだか撫でる手が止まらないよ~」


 噛みながらやめてほしいと言って来る女子生徒が可愛すぎるあまり、寧々はさらに女子生徒の頭を撫で続け、それを三分ほどしたところでようやく満足したのか、手を止めた。


「おっと、ごめんね、可愛くてつい」

「あぅぅ~~~……僕、お化けなのに……」


 と、どこかしょんぼりとしながら、女子生徒は引っ込んでいった。


『うぅ、ダメだったよ柊君……』

『今回は随分長かったな、撫でられる時間』

『だってぇぇ~~っ!』


 という声が裏から聞こえてきたが、寧々は素でも可愛い、と思いながら満足そうにお化け屋敷を出て、女性人気が高い理由に納得したのだった。


 後に、この女子生徒……に見えた男子生徒とは、なかなかに特殊な形で再会するが、寧々はあれが椎菜だったとは気付いていない。



【+αの話……というか、設定】


『TS病』

 TS病とは、ある日突然突如として発生した発生原因、治療方法など、一切不明の病気である。

 発症させてしまうと、男性であれば女性に、女性であれば男性に変化し、副次効果として身体能力の大幅な向上が見られる。

 しかし、世間一般に広く知られているわけではなく、意図的にこの病は公表されない。

 仮に発症させてしまった場合は、インターネットにて『性別が変わってしまった場合』や『朝起きたら女の子(もしくは女、男・男の子)に』などの形で入力すると、最上部に政府が開設した発症者専用のサイトが現れ、そこにある電話番号にかけることで、検査を受けることが出来る。

 発症後、発症者は検査を受け、診断書や特殊な書類を貰い、市役所にて戸籍変更手続きを行う。

 この時、性別の欄は男であれば女に、女であれば男へと変更となる。

 そして、この病になった者は、結婚する場合、性別の縛りが存在せず、肉体的同性同士での結婚が認められている。

 これは、肉体的には性別が変わっても、精神までは変わらないため、結婚をしたがらない者がほとんどであることに対する救済措置のようなものである。

 尚、発症者には特殊な国民証が交付され、三年間は毎月一定の額が支給されるようになっているなど、保護は手厚く、同時に大きな病気になった場合も、かなり安い金額で治療を受けることが出来る。

 現状、世界に300人以下しかおらず、かなり珍しい病気だが、別に病気自体は秘匿されなければいけない病ではなく、単純に、混乱を生まないために隠されているだけなので、広まっても大した問題はない。

 人間関係がえらいことになってしまった場合は、上記のサイトにある電話番号にかけることで、引っ越しをすることも可能である。


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 えー、いるかは別の機会で書こうかなぁって思います。というか、二人で結構文字数行ってたし。

 最後のTS病については、まあ、ちょっとツッコミ? というか、疑問が飛んで来たので、それに対する回答ですね。まあ、気にする必要はないです!

 18時に掲示板回を突っ込んでおきます!

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