閑話#5-2 らいばーほーむへの取材:下

 そして、インタビューの時間がやって来た。


「えー、では始めたいと思いますが……間宮さんから見た一期生とはどういう人たちでしょうか?」

「頭がおかしい。これに尽きます」


 えー……とマクトは思った。

 初手から強いのが来たなぁ、と。


「そ、それはどういう理由で?」

「ご存知かどうかはわかりませんが、私が担当する一期生は言わば、らいばーほーむの今の形を創った人たちなわけです。ある意味、一期生はその事務所の今後の特色を創り出すと言っていいでしょう」

「たしかに……」

「まあ、我々も……というか、社長の理念の関係で、自由にやらせた結果が今のおかしなライバーばかりが集まってしまった事務所になったわけですが」

「な、なるほど……た、たしかに、個性的な皆様が集まっていますよね」

「ですので、マネージャー側も大変ですよ。特に一期生は。何せ、暴走車と呼ばれる、天空ひかりがいますから」

「なかなかにすごい方ですよね。私も、配信を見させていただいたのですが……なんと形容していいか」


 マクトが予備知識として見た天空ひかりの印象は……よくわからない、だった。


 いや、理解をしようと思えばできるのだろう。

 しかし、何か、こう、なんと形容していいのかわからない、そうなってしまうのだ。

 破天荒、という言葉合うのかもしれない。


「そうですか。まあ、そうでしょう」

「個別ライバーへの想いを頂いてもいいでしょうか?」

「いいですよ。ではまずは、魔乃闇リリスからでしょうか。彼女は……ロールプレイが上手いですね。全体的に」

「ロールプレイ、ですか」

「えぇ。彼女はどんな役でもできる、そんな感じなんです。あのキャラも結構しっくりくる、って言ってるんですよ。のじゃロリ魔王とか最強じゃろ! って」

「それはすごいですね」

「まあ、結局頭はおかしいんですけどね」

「そ、そうなんですか」


 頭がおかしいって、どういう感じなんだろうか、とマクトは思った。

 まだすべてを見ることができているわけではないので、魔乃闇リリスがどんなことをしているのか、マクトはまだ理解できていない。


「次に、宮剣刀ですが……彼は二期生の詩与太暁と関わると壊れますね。いえ、普段も十分壊れてるんですが」

「こ、壊れてる……」

「一番有名なのは、二十四時間ギャルゲー全力朗読配信ですかね。他にも、色々やってますが、アレを超える配信はないでしょう。まだ」

「まだ、なんですね」

「絶対いつか何かやると思ってるので」

「な、なるほど……」

「春風たつなは……常識人ですね。正直、彼女がいなかったら、一期生はツッコミ不在の無法地帯になります。まあ、それはそれで見てみたかったですが」

「え、普通嫌じゃないんですか?」

「なぜです? 頭のおかしい状況を創れると言うのは、ある種の才能ですよ? 見たくなって当然です。というか、らいばーほーむに入社している人は大体そんな人ばかりです」

「そ、そうなんですね……」


 ライバーがライバーなら、会社も会社なのか、とマクトは思った。


「最後に天空ひかりですね。彼女は……正直語れることが多すぎて尺が足りなくなるので一言。頭バーサーカーのドシスコンです」

「あ、ハイ。ありがとうございました」


 多分これ、踏み込んじゃいけない奴かも知れない、そう思ったマクトはそれ以上何も聞かなかった。



 続いて二期生の番に。


「葛城さんから見た、二期生の印象を教えてください」

「あー、動物園?」


 これまた特殊な感想が来たなぁ、とマクトは思った。

 動物園て。


「なぜでしょうか?」

「んー、ツンデレちゃんはツンデレで叫ぶし、暁君は童話の全力朗読をする時があるし、いくまっちはたまになぜかデスメタルを歌い出す時があるし、うさぎちゃんは泣くし……いやー、動物園ですよ」

「えぇぇぇ……」

「あ、さっき個別の話をしたってすれ違いざまに間宮先輩に言われたんですけど……正直、全員に共通するのが、騒がしい、なんですよねー。だから、あまり言うことはないです! あ、それでも私は二期生が大好きですし、私の中では最推しなのでね! 是非とも、ファンがもっと増えてほしい! そう思ってますよー」

「な、なるほど……じゃあ、あの、言いたいことはない感じ、ですか?」

「そうですね! いやもう、私が二期生について語りだすと長いので!」


 と、笑顔でそう話す葛城の言葉を聞いて、マクトは『あ、これマジで言葉通りの奴だ』と察した。


「わ、わかりました。短かったですが、お話を聞かせていただき、ありがとうございました」

「いえいえ。それじゃあ、廿楽さんと変わりますねー」


 そう言い残して、葛城は出て行った。



 次に入ってきたのは三期生担当の廿楽である。


「早速ですが、廿楽さんから見た三期生の印象を教えてください」

「そう、ですね……まだ一月ちょっとしか見ていませんが、なんと言うか……過保護、でしょうか」

「か、過保護?」


(まーた予想外なのが来たぞー?)


 なんかもう、まともな感想は来ないんじゃないか、とマクトは思っている。


「現状、らいばーほーむ内で最年少である神薙みたまに対し、他三名は過保護になっている面があるのです。あー、いえ、三人だけじゃないですね、一期生、二期生全員かも知れません」

「そ、そこまで、なんですか?」

「そこまで、なんです。神薙みたまは、純粋無垢という言葉がぴったりなくらい、本当に純粋なのです。キャラ自体も妹系ですし。おかげで、全員から可愛がられているような状況です」

「な、なるほど……で、では、各ライバーのお話を聞かせて頂いても?」

「猫夜はつきは……脳筋ですね。間違いなく。どんなクソゲーでも、気合と根性があれば乗り切れる! と本気で思っていますし、そもそも、気合と根性でどうにかならない事柄はほとんどない! と信じて憚らないので」

「つ、強いですね」


 男ならわからないでもないけど、女性でそれはなかなかだなぁ、そんな感想を抱く。

 尚、はつきはマジでそう思っており、リアルでもそんな感じである。


「はい、メンタルがすごいですよ。次に、深海いるかは……とりあえず、変声術が凄まじく、あの人なんで声優目指さないの? ってくらい、声がすごいです。あと、結構茶目っ気がありますね」

「たしか、声真似が上手でしたよね?」

「はい。おかげで、オフコラボの時は、笑い死にしかけました」

「わかります……」


 廿楽の発言に、マクトはうんうんと頷きながら同意を示した。

 実はマクトもあの回は見ており、危うく死にかけていた。

 なんだったら、視聴者にもそう言う者たちがでまくったが。


「雪ふゆりは……ロリコンの変態なのでノーコメントで。あ、ASMRはすごいので、是非聴いてみてください」

「あ、ハイ」

「最後ですが、神薙みたまは……とにかく可愛い。これに尽きますね。実際、彼女のおかげで、伸びもいいですし、彼女とコラボしたライバーの登録者数も増えてますし」

「たしかに、あの可愛さは反則ですよね」

「はい。おかげで、やばい人たちが生み出されてしまっているわけで。……まあ、同期にもヤバいのがいますが、あれはもう、論外ですね」

「結構酷いこと言ってません?」

「安心してください。愛があるので」

「そ、そうですか。……えー、はい、ありがとうございました。以上になります」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 何か中途半端ではあるが、三期生のインタビューは終わった。



 そして最後。


「さて、私の番だが……ふむ、何が訊きたい?」

「はい。なぜ、らいばーほーむを創ろうと思ったのか、それを教えていただきたく」

「そうだな……元々興味があった、と言うべきか。別に、今のようならいばーほーむを創る予定はなかったんだ」

「と、言いますと?」

「大抵のVTuber事務所というのは、アイドル売りに近いと思う。しかし、私はそれをまねただけで今後やっていけるだろうか? と、考えたわけだ。もっとも、その後は漠然としていたが」


 そう語る桔梗の表情は、苦笑いを浮かべていた。


 桔梗が今し方話したように、別に今の形を作ろうなどと考えたことはなかった。

 ただなんとなく、アイドル売りに近いような売り方は何か、私には違う、と考えていたために、そっち方面にしなかったのだ。


 そもそも、競争率がクソ高い業界で、さらに競争率の高いジャンルなんて、売れる方が難しいだろう。

 それなら、別側面で行った方がいい、そう考えた。


「では、今の形になったきっかけは?」

「ふむ……まあやはり、今の一期生が入ってきたことだろうね。私は配信を始めようとする彼女たちに言ったことは一言だけだ。『自分の素をさらけ出していい。失敗は考えなくていい』と。その結果が……頭のおかしい事務所、と言われるきっかけだね」

「な、なるほど……」

「ま、こっちとしては順調なようで何よりだがな。おかげで、ようやく三期生を募集することが出来た」

「たしかに、新しく入ってきた三期生も特徴的ですよね」

「あぁ。うちの方針的に、自分の素をさらけ出せない人はやっていけない。変にキャラを作る必要はないのさ。実際、顕著だろう? 天空ひかりや雪ふゆりの二人など特に」

「あー、そうですね……というより、さらけ出し過ぎでは? と思ってしまいますが」

「だろうね。ま、あれが面白いんだ。炎上さえしなければそれでいいよ」

「寛容ですね」

「はは! 私が始めた会社だ。私は今のらいばーほーむが好きだ。ライバーたちが好き勝手して、どんどんとファンを増やしていくような、そんならいばーほーむが。いつかは彼女たちも引退する日が来るだろう。その日まで、私は全力でサポートするつもりだ」


 たしかな意思を感じさせる目で、そう話す桔梗に、マクトはすごい人だ、という感想を抱いた。


 元々らいばーほーむ、最初から売れていたわけではない。

 むしろ、あまりにも特殊すぎるあまり、最初は少しだけのファンしかいなかったとも言える。


 しかし、まあ、なんやかんや、紆余曲折あって今の人気になり、オーディションの際にはかなりの数の応募者が集まって来る。

 現在の形を創ったのは確かに一期生たちなのかもしれないが、それを許容し、全力でサポートするこの人こそが、今の形を創り出すに至ったんだろうな、と。


「ところで、男性ライバーを入れたことについてはどう思っているのですか? 大抵の事務所では女性限定であったり、反対に男性限定であることが多く、らいばーほーむのように男性ライバーを入れた上に、コラボにもGOサインを出していますし」

「あぁ、それか。正直ね、私は男女とかどうでもいいんだよ。たしかに彼ら彼女らはライバーで、人を楽しませるのが目的と言えるだろう。だが、彼女たちとて人間だ。誰と何をするかは彼女たちが決めるのがいい。言い方は悪いかもしれないが、自分たちの思い通りにならないから、解釈違いだから、そんな理由で炎上させる、ネガキャンをする、そんなようなことをするのはファンじゃないだろう? ファンとは、どんな形であれ応援する者のことだ。……もっとも、ライバーに非があった場合は、その限りではないが……」

「ですが、それだけその人にのめり込んでいる、ということでは?」

「あぁ、そうだな。それは重々承知している。だがな……らいばーほーむでガチ恋勢になること自体、何かの間違いだろう。頭おかしいし」

「社長が言っていいんですか、それ?」


 この人、結構明け透けだなぁ、と苦笑する。

 少なくとも自社のライバーたちのことなんだが。


「いいんだ。そもそも、うちの評価は頭がおかしい、これに尽きる。であれば、社長である私が認めないのは違うだろう? 認めてこそ、だ」

「なるほど……」

「ま、こんな所だろう。他に何か訊きたいことは?」

「そうですね……今後の意気込みなどをお聞きできれば」

「意気込み? ふむ、そんなこと考えたことはなかったな……ただ、あれだな。もっと頭のおかしい人材が欲しいし、いつかは四期生の募集をするだろう。まだまだ先の話ではあるが、もし頭のおかしさに自信がある、という人は、四期生募集の際に応募するといい」

「それ、意気込みですか? 宣伝な気が……」

「はは、私にとっては意気込みみたいなものだ」

「そ、そうですか。では……以上となります。ありがとうございました」

「あぁ、こちらこそありがとう」


 そうして、桔梗へのインタビューも終わった。



「今日はありがとうございました」

「いやいい。私たちとしても新鮮な気分だった」

「いえいえ。それでは、念のため完成した動画は一度チェックしてもらいますが、大丈夫でしょうか?」

「問題ないよ。というか、問題の箇所などないだろうし」

「他の会社だったら問題がありそうな発言が飛び交っていた気がしますが」


 苦笑いしながら、桔梗の言葉に反応する。

 まあ、放置とか頭おかしいは、他の会社だったらちょっとアレだったかもしれないが、らいばーほーむなので、で許される辺りよ。


「気にしないでいい。……さて、私はそろそろ次の仕事があるのでね。失礼するよ」

「はい、こちらこそ本当にありがとうございました」

「あぁ、今後の頑張りを楽しみにしているよ」


 そう言って、桔梗は社長室へ戻って行った。



「ふぅ……いやはや、なんとか抑えることが出来た、か」


 と、一人になった部屋の中で、椅子に深くもたれかかるように座りながら、ひとりごちる。


「危うく、私のらいばーほーむへの愛が漏れ出てしまうところだった」


 そう呟く桔梗の表情はどこか恍惚としていた。


「はぁ、はぁ……いやぁ、うちのライバーは最高だ……一人一人が思い思いに配信を行い、ファンを得て、その魅力をいつでも引き出している……はははっ! いやもう、ホント好き超好き、世界一愛していると言っていい!」


 実はと言うかなんと言うか……桔梗はらいばーほーむのライバーたちにたいして、並々ならぬ愛を持っている。


 桔梗にとって、らいばーほーむのライバーたちは、自身の子供同然に考えている。

 むしろ、それだけの愛があるからこそ、頭がおかしい行動をする彼女たちに対して寛容になれているとも言えるが。


「くっ、本当であれば、私の彼女たちへの愛だけで、取材をしたいところだったんだが……致し方なし。いやそもそも、私だけでなく、スタッフたちもだろう。特にマネージャー。彼女らは頑張った。とにかく頑張った……実際インタビュー後など、愛を抑えることにかなり力を擁したようで、ぶっ倒れたからな……」


 そう、実はあの三名、現在は仮眠室で寝ている(半ば死んでるとも言える)ところである。

 自分たちが担当する者たちがあまりにも可愛すぎるし魅力的過ぎた結果、抑えようとすると普通に死ぬのである。

 スペ○ンカーの方がマシではなかろうか。


「まあ、四期生のことも少々言ったし、できることなら取材動画を見て、うちに来てくれる面々が現れると嬉しいんだが」


 外を見ながら、そう呟く桔梗であった。



 ちなみに、この取材動画は普通に大うけした。

 やっぱ会社もちょっとおかしいな、という理由と、結構まじめだったと言う理由で。


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 はい、以上よくわからない閑話でした!

 まあ、たまには真面目なのがあってもいいよねってことです。

 とは言ってもこれ、読者様の案ですが。

 面白そうだったし、社長とか出しとくかー位の気持ちの回なので、正直面白みには欠けるかと思いますが、まあ、うん。すまん。

 次の閑話は多分、他のライバーたちの話しにしようかなって思ってます。

 本編と同時並行で色々書いてるんで。

 あと、次の配信回ですが、土曜日になります。なので、必然的に金曜日が2話か3話投稿になりますね、これ。

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