閑話#5-1 らいばーほーむへの取材:上
昨日ちょっとした思い付きと言うか、まあ色々あって突発的に閑話の投稿です! 尚、長かったので二分割し、二話目は18時に投稿します!
それから、このお話は、実は本編より先の時間軸となってます。具体的には、学園祭まで残り一週間を切った辺りですね。なので、ややネタバレ気味になっている個所がありますが気にしないでください。
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らいばーほーむ。
それは、日本にあるVTuber事務所の一つである。
二年以上前、突如として四名の個性的なライバーを世に送り出し、多くのファンを獲得。
後に二期生を募集し、新たなライバーたちもそれぞれに個性があり、やはりファンを獲得していった。
これは、とあるYouTubeチャンネルが、らいばーほーむに密着取材をした時のお話である。
◇
その日、らいばーほーむの社長は、とある一本の電話を受けていた。
「ほう? 我がらいばーほーむの取材をさせてほしいと」
電話の相手は、YouTubeにて、取材系YouTuberという肩書で、多くのYouTuberやVTuber事務所などに取材をし、なるべく内容をカットすることなく、ありのままに近い状態で視聴者たちに届ける、そんな者からの取材交渉の電話だった。
『はい。かねてより取材をさせて頂きたいと思っておりました。ですが、なかなかタイミングが合わなかったのです』
「ふむ、取材、か……条件付きで許可しようではないか」
一瞬考える素振りを見せる社長だったが、すぐににやりと笑うと、条件付きで許可することを告げる。
『ありがとうございます! それで、条件とは?』
「あぁ、まず一つ。取材は本社のみ。そして、二つ。ライバーは映さないようにしてほしいことだ」
『それは、顔にモザイク処理を行ってもダメ、と言う事でしょうか?』
「その通りだ。我が社では基本顔出しはNGでね。まあ、規則ではないが……何分、ライバーたちの表の顔という物がある。何より、中の人バレと言うのは夢を壊しかねない出来事だ。故に、許可はできない、ということだよ」
『では、配信中の状況を廊下で聞くことは可能でしょうか?』
「それは構わないよ。扉を開けない限りはね」
『ありがとうございます!』
「あぁ、それと、日程はいつ頃なんだい?」
『いえ、こちらが取材させていただく側ですので、御社へお任せしたく』
「そうか。では、そうだね……ふむ。明後日は可能だろうか?」
『問題はありません。よろしくお願い致します』
「あぁ、では決まりだ。当日はよろしく頼むよ」
『こちらこそ! それでは、失礼いたします』
「あぁ、失礼する」
そこで通話は終わった。
ふぅ、と社長――
「取材、か。ふふ、これはいい宣伝になるかな? いや、うちのライバーたちは誰もかれもが特徴的だ。常識人枠と言われるあの三人とて、例外ではない」
頭の中に思い浮かべるのは、三名のライバー。
一人は一期生唯一の常識人枠で、所謂姉御、と言われるタイプの春風たつな。
一人は二期生唯一の常識人枠で、ツンデレキャラのデレーナ・ツァンストラ。
一人は三期生唯一の常識人枠であり癒し枠件、らいばーほーむの妹こと、神薙みたま。
この三名である。
一人はまだまだデビューしたての少女だが、なかなかの資質を持っている。
「あーいや、神薙みたまに関しては、常識人枠と言ってもいいかどうか……」
なんせ、あの娘は特殊だからな、と桔梗は苦笑する。
みたまがらいばーほーむ入りをしてから、一ヶ月以上。
現在は学業……というより、学園祭における準備の関係で配信をしていないし、そもそも当人が高校生であるため、他のライバーと比べると、配信は少ない。
が、その持ち前の癒し系な性格と、誰もが聞き惚れてしまうような、天性のロリボイスを持つためか、その人気は日に日に増している。
既に、熱狂的なファンが生まれてさえいる。
とはいえ、それに対して悩みが無いかと言えば嘘になる。
「元々、愛菜から聞いてはいたが、まさかあそこまでの溺愛っぷりとは」
らいばーほーむ一頭がおかしいと言われている天空ひかり。
彼女は自由人であり、魅力的な存在だ。
そんな彼女が溺愛する弟の存在は、彼女の布教によって知っていたし、興味も多分にあった。
だから、三期生の募集では是非、と頼んだが、最初は断られ、残念に思っていた。
……もっとも、その後色々あってオーディションに来ただけでなく、女性になっていたことには驚きだったが。
まあ、実はあの場にいたんだがな、と桔梗は小さく笑みを零す。
そう、実は三期生の二次の面接には、桔梗も面接官として参加していた。
とはいえ、一応社長ではあるし、応募するべく公式サイトへ訪れた者たちは、まず間違いなく社長の顔を見るようになってしまっているため、いらぬ緊張をさせてしまうために、桔梗は変装して面接に臨んでいた。
ちなみに、どの人物かと言えば、『天使すぎる』と言った人である。
「ま、相手はかなり優秀な者たちだし、何も問題はないだろう」
今回、らいばーほーむに取材を申し込んできたのは、『しゅざみた』というチャンネルだ。
内容としては先ほど語ったため割愛する。
元々マスメディアに就職することを目指し、就職をしたチャンネルのリーダーだったが、そこにあったのは腐敗しきったマスゴミと呼ばれるような者たちばかりだった。
これはダメだと思った『しゅざみた』のリーダーは、同僚と先輩にいっそ自分たちでそういうチャンネルをYouTubeに作らないか、と提案し、紆余曲折あって出来上がったものだ。
腐った上司や上層部の人間からの指示はなく、自分たちの好きなように取材して、正確な情報を流せるため、しゅざみたのメンバーたちはそれはもう生き生きと活動していった。
そうして、気が付けばチャンネル登録者は数十万規模となり、どの取材もかなり面白いと評判となった。
一切の情報改竄をしないため、テレビにうんざりしていた者たちからの支持が厚い。
そんな人物たちからの取材であれば、いい宣伝効果が見込めそうだ、と桔梗は思う。
「……まあ、どうせ取材を受けるのは私たち運営側だ。特に気負うことなくやってもらうとしよう。普段通りでね」
そう呟く桔梗は、スタッフたちにその連絡をするべくスマホを取り出した。
◇
二日後。
今日は取材日である。
「初めまして、私がらいばーほーむ社長、雲切桔梗だ。今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ。しゅざみたのリーダーをさせてもらっています、マクトです。よろしくお願いします」
「あぁ、では今日の取材だが、何をする予定なのかな?」
「そうですね。まずは、スタッフのみなさんの普段の様子を取らせていただき、その後マネージャーへのインタビューなどが出来たらと」
「私へのインタビューはいいのか?」
「最後にお願いしたく」
「承知した。では、案内しよう。ついて来てくれ」
桔梗はそう言ってしゅざみたの面々を引き連れて本社の中へ入って行く。
「まずはエントランスだ。目の前に受付がいる。他には何もない。ただのエントランスだ」
「なるほど……」
「正面向かって左手の方のエレベーターに乗るぞ」
そう言って、エレベーターに乗って二階へ。
二階は基本配信部屋が埋まっている。
「このフロアは主に配信をするための部屋が多いな」
「では、ここで初配信やコラボの配信を?」
「そうだな。あとは、自宅での配信が何らかの理由で出来なくなった時や、たまたま私用で本社近くまで来ていた者たちがその場のノリで配信をしに来る時もある」
「結構自由なんですね」
「はは! うちのライバーは自由だよ。むしろ、自由じゃないのは、三人くらいだろう?」
「知っています。春風たつなさんに、デレーナ・ツァンストラさん、神薙みたまさんの三人ですね?」
「そうだ。まあ、この三人もたまに自由な行動をする時があるがな。たしか、つい最近デレーナ・ツァンストラが行ったゲリラコラボ配信は、自由だった。いや、あれは面白かった」
「ありましたね。たしか、デレーナさんのキャラが崩壊した挙句、ママ、と呼んだとか……」
「そうだ。あれは傑作だった。……っと、配信部屋を覗くか?」
「是非」
話している最中、桔梗は配信部屋の中へ案内する。
ガチャリ、と適当な部屋の扉を開け中に入る。
「へぇ、結構シンプルなんですね」
「まあ、そこまで置く物ないからね。ある程度体を動かして問題ない広さにしているんだよ。たまに、踊ってみた系の動画を出すからね」
「あぁ、ありますね。たしか担当は……狼神いくまさんでしたか」
「そうだ。他にも踊れるライバーはいるが、基本は彼女だね」
「なるほどなるほど……」
「よし、次へ行こうか。たしか、これから会議があったはずだ。撮っていくといい」
「ありがとうございます」
次に一行が向かうのは三階の会議室。
三階のフロアは主に運営スタッフの仕事場となっている。
そして今日は、会議が行われる。
「よし、集まってくれたようだね。ではまず、先日説明した通り、今日はしゅざみたの諸君が取材に来ている。とはいえ、我々がすることは変わりない。普段通りに会議をする、それだけだ。では、始めよう」
桔梗のその言葉で会議が始まった。
本日の内容は、まず一期生~三期生の現状報告から入る。
「一期生は相変わらず安定しております……と言いたいところですが、少々問題が起こっておりまして」
「ん? 問題? 彼女らは問題しか起こしていなかった気がするが?」
問題があると言われ、桔梗がきょとんとしながらそう返すと、会議内では小さな笑いが起こる。
尚、会議と銘打ってはいるが、割と和気藹々としていることが多い。
桔梗があまり堅苦しいことを好まないので。
「いえ、なんと言いますか……深刻なわけではないですが、天空ひかりが同期からヘイトを買っています」
(ヘイトって何!?)
と、マクトは思った。
マクトは取材をするに辺り、必ず取材相手の配信や動画は見るようにしている。
基本、全員。
なるべく多くの配信やアーカイブを見たうえで、今回の取材となっているが、それでもまだ理解は完璧ではない。
故に、なぜ同期からヘイトを!? と思っているわけだ。
尚、他のしゅざみたのメンバーの内、何名かは納得した様子である。ファンなのだ。
「あー……もしかしなくても、神薙みたま関連か?」
「その通りです。簡潔に申しますと……『あのシスコンの自慢を止めてくれ! というか、なんか嫉妬で狂いそう!』とのことです」
ヘイトを買っている理由には目星が付いていたが、一応念のため尋ねると、案の定な返答が。
「やはりか……いやまぁ、三期生は久々の後輩だし、二期生からすれば初の後輩。全体的にコラボを希望する声があるそうだが……そう言えば、近々コラボがあったよね? 他のメンバーも」
「はい。現状、深海いるかと春風たつなの二人がコラボで歌配信を。猫夜はつきは魔乃闇リリスとコラボ予定です」
「ふむ……で、現状コラボ予定がないのは彼だけか」
彼とは、宮剣刀で、一期生唯一の男性ライバーだ。
「はい。少し前までは少々心配でしたが、神薙みたまが盛大にバラしましたので、いっそ仕掛けてはどうかと」
「たしかに、ありだろうね。そもそも彼女……あー、いや、彼か? 彼は、自身がTSした人物であり、尚且つ恋愛対象が女性だと公言している。まあ、炎上はしにくいだろうね」
「うちの事務所、あんまりわきませんもんね、ガチ恋勢」
「あぁ。……よし、近々神薙みたまに連絡をしておいてくれ、廿楽」
「わかりました」
「それで、他には?」
「あ、いえ、春風たつなと魔乃闇リリスの両名も神薙みたまとのコラボを切望しています」
「あぁ、そうか、考えてみればそれが原因だったな…………ふぅむ。もういっそ、一期生の集まりの中に、神薙みたまを突っ込んだ方が早くないか?」
そう言えば問題が解決していなかったと頭を悩ませる桔梗だったが、すぐにそんな案を口にした。
全員希望しているなら、もうまとめてやった方が早くない理論だ。
「確かにそうですね。では、その方向で行きますか?」
「あぁ。というか、彼は妹系だ。出来る限りいろんなライバーと組ませたい。というか、あの娘の魅力は単体というより、他の頭のおかしいライバーたちと一緒にいてこそだと思う」
「「「たしかに!」」」
桔梗の言葉に、この場にいるスタッフたちは口を揃えて肯定した。
そう、神薙みたまの社内における評価は、誰かと一緒にいることで魅力が何倍にもなるライバー、である。
単体でも十分魅力的だが、一番魅力的なのは、やはりコラボ回だと、誰もが口を揃えてそう話す。
実際、みたまが参加したコラボ配信はことごとくが伸びに伸びまくっている。
一番いい例は、天空ひかりとのコラボだろうか。
あの配信は界隈では伝説扱いされており、大量の切り抜き動画が出回り……というか、切り抜かれていない場所を探す方が難しいと言われているほどだ。
他にも、三期生のコラボ配信も伸びがいい。
それ故に、神薙みたまの評価はコラボこそが一番輝くと言われている。
「なので、ここは一つ、一期生と二期生両方に出張させようかと思うんだが……どうだろうか?」
「「「異議なし!」」」
「では、そのようにしようか。一期生の方は特にもうないな?」
「はい」
「では、二期生の報告を」
「了解です! えー、二期生は……最近、ツンデレちゃんが壊れてきてます」
「あぁ、あの配信か……まあ、あれはなかなかだったからね。しかし、治っていないのか?」
「治る治らない以前に、ママ欠乏症です」
「あぁ、シスコンと同じ症状だね。それなら、天空ひかりと大差ないし、放置でいいよ」
「了解です!」
(結構酷いこと言ってないかこの人!?)
扱いが適当すぎるし、何よりおかしなワードが出なかったか!? とマクトは心の中でツッコミを入れた。
「他は特にないですかねー」
「わかった。それじゃあ最後、三期生頼むよ」
「はい。そうですね……現状は問題はないですね。強いて言えば、神薙みたまの配信が少ない為、時折催促のようなコメントがあるのですが――」
「彼は高校生だと公言されているが?」
「あ、はい。まあ、中にはそう言う人もいると言いますか……無茶なことを言う人もでてきています。いますが……」
「煮え切らないね。どうしたんだ?」
「あの、特に問題的な発言をしたコメントなんですが……天空ひかりに潰されてます。あと、雪ふゆりやデレーナ・ツァンストラからも」
(潰されてる!? え、どういうこと!?)
「あー……彼女らはファンの間でも『みたまちゃんガチ勢』と言われてるほどだからね……とはいえ、問題に発展していないんだろう?」
「そうですね。炎上もないですし、というより、神薙みたまの性格は心優しく純粋無垢なので、たまにファンも便乗してます。きたねぇもんをみたまちゃんに見せるなぁ! といった感じでしょうか。あ、大半は女性ファンです」
(神薙みたまさんのファンこわっ!?)
マクトは心の底から恐怖を覚えた。
そう、神薙みたまのファンは結構ヤバいのだ。
配信内の様子から、間違いなく性的な方面にものすごい疎く、純粋であるために、いらねぇ知識は与えねぇ! とばかりに行動するのだ。
そのため、キモイ怪文書を発見すればみたま警察に消され、誹謗中傷があればそちらも消され……みたいなことが起こっている。
しかも、消している側の者たちは微妙にネットリテラシーがちゃんとしており、仲間にならないようにと、マイナスな言葉を使わず、ひっそりと一致団結して通報しまくってるのである。
余計に怖いよ。
「まあ、癒しだからな。……では、問題はもうないのか?」
「ないです」
「わかった。では、現状報告は終わりとして……次は、今年のクリスマスの話をしよう。まあ、今年で二回目になるが……リアルイベントのことだ」
「あの、社長」
「ん、なんだ?」
「その話をするのはいいんですが、それは取材中に話してもいいので……?」
と、一人のスタッフが桔梗にそう尋ねる。
それに対して、マクトも果たして聞いてもいいのかどうか迷っていたところだ。
しかし、桔梗はこう話す。
「あぁ、問題はない。というか、うちの事務所で仮にこんなことをします! と言ったところで、それ通りの無難な物に仕上がると思うか? らいばーほーむだぞ?」
「絶対ないですね」
「間違いなく暴走しますねぇ」
「予測不可能な人選ばかりなので無理です」
「だろう? そういうことだ。まあ、それでも今この場で話すことは少ないがね」
桔梗のその宣言通り、この後は軽いリアルイベントの話がされて、会議は終わった。
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