閑話#4 椎菜と柊の出会い方

 なんかふとした思い付きで書いたら普通に一話分書き上がったので、おまけ投稿です!

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 時間はかなり遡り、椎菜がまだ愛菜と出会っていない、小学一年生の頃。


「椎菜、悪い大人にはついて行っちゃだめだからね? 絶対よ?」

「うんっ! ぼく、だいじょーぶだよっ!」


 にぱっ、と子供らしい明るい笑みと共に椎菜は母親である雪子の注意に答える。

 まだまだ小さいと言うか……同年代に比べてかなり小さい椎菜は、傍から見ると小学一年生どころか、下手すると幼稚園の年長に見えるかもしれないし……なんだったら、可愛い女の子にしか見えない。


「あぁっ……やっぱり天使ね……ともあれ、登校班のみんなとは仲良くすること。学校でもしいじめにあったら、お母さんに言う事! いい?」

「はーいっ!」

「ならよし! それじゃあ、いってらっしゃい!」

「うんっ、いってきます!」


 笑顔でそう言って、椎菜は入学式を抜いた初めての小学校へ向けて歩いて行った。



 学校に到着すると、昨日の入学式で振り分けられたクラスへ向かう。


「おはよ~っ!」


 と、椎菜は明るく元気に挨拶をしながら入る。


「あ、しいなちゃん、おはよー!」

「おはよう!」


 と、クラスの女の子が椎菜に気付くと挨拶を返してくれる。

 尚、椎菜が男であることを知らない生徒は地味に多い。


 というか、見た目が本当に可愛い女の子しか見えないので……。

 そのためか、椎菜を見る男子生徒はぽーっとしている。

 子供ながらに見惚れてしまっているようだ。


 椎菜はにこにことした笑みを浮かべながら、ランドセルをロッカーに入れて、席に座る。

 椎菜の笑顔はとても魅力的であるためか、クラスメートの少年少女たちはつられて笑顔になる。


 そんな椎菜をじっと見ている男子生徒が一人、後に親友となる柊である。

 そんな柊がなぜ椎菜を見ているかと言えば……まぁ、一目惚れである。


 子供には割とありがちかもしれないが、なんとなく好きになる、みたいなあれである。

 じっと見ている柊は、椎菜を見ていたが、ふとなんとなく視線に気が付いた椎菜がそっちに視線を向けると、ふいっと柊は恥ずかしそうに前を向いた。

 こてんと首を傾げる椎菜だったが、その後クラスメートの女の子に話しかけられ、にこにこと嬉しそうに会話を始めた。



 それから少しだけ時間が進み、四月末。


 この頃になって来ると、少しずつ今の生活にも慣れて来て、新一年生たちはそれぞれが地を出し始めて来る。

 当然、仲のいい友達も出来て来て、椎菜や柊も例外ではない。


 椎菜は持ち前の明るく優しい性格からか、男女関係なく仲良くなり、なんだったらクラスメートとは大体友達である。

 反対に、柊は男子生徒と仲が良くなる。

 まあ、当然と言えば当然と言うか……そもそも、椎菜の方がちょっと特殊なのである。


 そんな椎菜と柊は、割と家が近所であったためか、下校班が一緒であり、家に帰る時は同じ道を歩いてたまに会話をする。


「な、なー、しいちゃん」


 と、自身の前を歩く椎菜に、柊が話しかける。

 しいちゃんとは、クラス内における椎菜の愛称である。

 椎菜を男だと知っている人は少ないため、こんなあだ名になっているが……椎菜は特段気にした風はなく、むしろ愛称があることに喜んでいるほどである。


「なーに、しゅーくん」


 突然話しかけられても、椎菜はにこにこと楽しそうな笑みを浮かべながら反応すると、柊はそんな笑顔にドキッとする。


「きょ、きょう、さ、い、いっしょにあそばない……?」


 と、柊は意を決したように遊びに椎菜を誘った。

 顔は赤く、どこか体は震えており、その瞳は期待と不安が入り混じっていた。


 突然遊びに誘われた椎菜と言えば……


「うんっ! いいよー!」


 と、それはもう嬉しそうな笑顔で、承諾した。


 断られるどころか、二つ返事でOKを貰えた柊の方は、ぱぁっ! と輝くような笑顔を見せており、とても嬉しそうだ。


「じゃ、じゃあ、にちょうめこうえんにしゅうごうな!」

「うんっ、わかったよー!」


 というわけで、二人で遊ぶことが決まった。

 この約束から、二人は仲良くなる。



 柊が椎菜を遊びに誘った日から一ヶ月ほど。


 二人はすっかり仲良くなり、学校でも一緒にいる様になったり、放課後も一緒に遊んだりするようになった。

 昼休みには外で追いかけっこをして、休み時間はなんてことない話題で盛り上がって、放課後にはその場にいた学校の同級生と鬼ごっこやかくれんぼをして楽しんだ。

 馬が合うのか、二人はクラスメートから見てもとっても仲良しに見えるほどだ。


 それに、二人は結構クラスでは人気者である。

 椎菜は可愛く、そして誰に対しても柔らかく、優しく接するために、男女問わず人気者。

 柊の方も、運動神経抜群で、しかもカッコいいとあって、こちらも男女問わず人気者。


 強いて言えば、椎菜は男子からの方がやや人気が高く、柊の方は女子の方からの人気が高いかもしれない。


 そんなある日のこと。


「ね、ねー、しいちゃん」

「どうしたのー、しゅーくん」

「おれ、しいちゃんのこと、す、すきなんだ」


 二人で一緒に公園で遊んで、遊具の上で座って休憩していると、ふと柊が椎菜に好きと言って来た。


「ふえ? そーなの?」

「う、うん」


 今でも口癖である、『ふえ』はもう既にこの頃からあり……というか、もっと小さい頃からあったそれを、椎菜は口にしながらこてん、と首を傾げながら聞き返すと、柊は恥ずかしそうにこくりと頷く。


 実は椎菜、幼稚園の頃から普通にこうして『好き』と言われることが多々あったのだ。

 尚、その時の男女比は、4:6である。微妙に女の子の方が多い。

 理由は可愛いからである。


 ……まあ、その肝心の椎菜に好きといった女の子は、椎菜のことを女の子だと思っていたようだが。


 それを知った椎菜の母、雪子は、


『その女の子たち、将来大丈夫かしら……』


 と思ったそうな。


 閑話休題。


 はてさて、突然好きだと言われた椎菜はと言えば、あっ、と色々と思い当たった。

 椎菜は自分が男だとちゃんと認識している。

 過去には男の子から告白もされたことがあり、その大体が、自分のことを女の子だと勘違いしているから、色々と察せるようになっているのである。


 お前本当に小一? と思ってはいけない。

 案外、子供の成長は早いのである。


 と、そんな椎菜だからして、目の前の柊が本気で言っていることは自明の理。

 だからこそ椎菜は、ちょっぴり胸を痛めながら……


「しゅーくん、ぼく、おとこのこだよ?」


 ぽりぽり、と頬を掻きながら自分が男であると柊に告げた。


「……へ?」

「あのね、ようちえんのころからまちがわれるんだけどね、ぼく、おとこのこなの」

「……う、うそだよね?」

「ううん? んっとー……あるもん。しゅーくんにもあるのー」

「……しょ、しょーこは?」

「じゃあ、さわる?」

「……う、うん」


 と、まあ、子供だからこそできる行動と言うか……椎菜はほんのちょっとだけ顔を赤くして、小さく苦笑いを浮かべながら触るかどうか言うと、柊は椎菜が本当に男であるかどうかを知るために触った。


 結果はまぁ……ご想像通りである。


 この時代にはまだ、TS病などという、超特殊な病気は存在しておらず、ましてや実は椎菜が女でした、なんてこともない、正真正銘の男の娘だったのだ。


 なので、その証拠を触った柊と言えば……


「――」


 まさに青天の霹靂であった。


 好きだなぁ、となんとなく思っていた女の子(だと思っていた)が、実は男の子だったとわかり、柊はショックを受け――


「え、えへへ……あの、ごめんね……?」


 苦笑しながら謝る椎菜を見て、なんかどうでもよくなった。


「そ、そっかー、しいちゃん……おとこのこだったんだ」

「う、うん。あの、かくしてなかったんだけど、あの、やだった、かな?」

「ううん、ごめん、おれ、きづかなくて……」

「いいよ~、よくあるもん」


 えへへ、と笑う椎菜に、柊はなんだかちょっとだけもやっとした気持ちを覚えた。

 だったら……と。


「じゃあ、こんどから、おれはしいくんってよぶよ! それなら、しいくんがおとこってわかるよね!」


 柊はそう告げた。

 しいちゃんでは、女の子みたいだ、それならしいくんと呼べばいいんだ! と思い、今度からはそう呼ぶと椎菜に言った。


「――うんっ! ありがとー、しゅーくん!」


 一瞬だけぽかんとした椎菜だったけど、すぐに柊の言葉の意図に気付いて、椎菜は嬉しそうに頷いて、お礼を柊に告げた。


 これが椎菜と柊が親友同士になったきっかけである。



 それから、二人はますます仲良くなる。


 柊が椎菜のことを『しいくん』と呼ぶようになると、クラスメートたちは不思議に思い出す。

 一体どうして君付けなのか、とある時一人の男子が柊に尋ねると、柊は、


『だって、しいくんはおとこのこだから』


 と言い放った。

 それがきっかけで、クラス内は結構な大騒ぎになったが、すぐに鎮静化。


 それを境に、椎菜の男子からの愛称は『しいくん』になった。

 尚、女子からの方は変わらなかった模様。


 よっぽど相性が良かったのか、それともそういう運命的な物でもあったのか、小学校六年間、二人はずっと同じクラスだった。

 その度に二人は喜んだ。


 尚、相変わらずこの二人は人気者なので、同級生たちはクラス分けで一喜一憂する様子が毎年の恒例みたいなもんである。

 その喜び様は、女子の方が凄まじかったが。


 それと、小学三年生くらいになると、二人はバレンタインにチョコレートを貰うようになる。


 小学校は基本お菓子の持ち込みが禁止されているが、二人が通っていた小学校では、バレンタインとホワイトデーに限り、許されていたので、結構小学校にしては緩めである。

 貰ってばかりはダメということで、二人で一緒にお返しのお菓子を作って渡したことも、かなり恒例。

 特に、椎菜のお返しは人気であった。


 それから六年生になると、椎菜に姉が出来る。

 愛菜だ。


「ぼく、お姉ちゃんが出来たよ!」

「そうなのか! よかったなー!」


 なんて、椎菜は姉が出来たことを喜び、柊は椎菜の家が母親と椎菜だけの二人であることを知っていたために、家族が出来てよかったなぁ、と心の底から思い、祝福した。


 尚、この時辺りから、椎菜へガチの恋愛感情を抱く者たちが現れ始め、早くも溺愛しだした弟スキーこと愛菜に、


『椎菜ちゃんを守ってね? 命に代えても』


 と言われている。


 ちなみに、この時の柊曰く、


『死が見えた気がしました』


 だそうだ。


 その時の愛菜は、ガシィッ! と強く柊の両肩を掴み、目が笑ってない笑みで守れと命令してきたのだと。


 ただ、この頃の柊は、既に今みたいに守る方にシフトチェンジしていたので、まあ問題はなく、むしろ利害の一致、みたいなところがあったそうではあるが。


 とまあ、そんなことがあり、中学へ進学。

 やっぱり三年間クラスは一緒。


 中学を卒業して高校生になり、気が付けば……その親友が美少女になっていると言うとんでもない状況に遭遇。


 しかもその美少女は、無自覚に男を堕としまくる。

 いや、男だけじゃない、女も堕としてくる。


(まったく……男の時の仕草を女でやったら、そりゃぁモテるだろうに……)


 などと、椎菜が相変わらず可愛らしい仕草に言動を見せている光景を見ながら、柊は心の中で苦笑交じりにポツリと呟いた。



 高宮柊。

 高校二年生。

 小学校からの幼馴染な男の娘が、ある日突然ロリ巨乳美少女になるという、おまえどこのエロゲの主人公だよ、みたいなポジションになっても、鋼の意思で椎菜に惚れず、愛菜との約束を守り続け、裏で椎菜を守っている、そんな漢である。

 余談だが、柊は年上好きと言うか……実は十歳以上上の女性が好みである。

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